その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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 ご愛読を頂いている皆様、恐れ入ります。

 この度採取しておりましたアンケートについて、曖昧な文言があった点を謝罪いたします。
つきましては、再度アンケートを取らせていただきたく設置いたしました。

度重なり申し訳ございませんが、ご協力いただきたくよろしくお願いいたします。


27話 リヴェリア先生

「うううううう……」

 

 

 唸れ轟け、山吹色のポニーテール――――

 そんな文言がピッタリなこの状況、別に何かしらの格闘技が開催されているわけではない。サウザンド・エルフの二つ名で呼ばれている少女、なお見た目だけではなく実年齢も15歳と本当に少女であるレフィーヤは、唸っていた。

 

 

 ヘスティア・ファミリアに所属する白髪の二人がロキ・ファミリアに訪れてから早10日。タカヒロは、レフィーヤと一緒にリヴェリアからの教導を受けている。基礎的な知識は既にあったため、まさかのレフィーヤより少し下の議題からスタートしている点が彼女の中では大きな問題となっていた。

 

 

「ふふふ。タカヒロさん、この問題がわかりますか!?」

「ん。……ああ、――――だろう?」

「……はぇ?」

 

 

 最初の1日目において、序盤は先輩面して腰に手を当て可愛らしくドヤっていた少女、レフィーヤ・ウィリディス。しかしながら相手が持つ知識量を知ると可愛らしく首を傾げ、そんな余裕もどこへやら。

 5日目の本日に行われた試験結果で既に並ばれている現状にアセアセしており、出だしのように大きく唸っていたのである。アイズを名前で呼ぶ同年代な白兎の出現も要因であり、猶更の事、心に余裕を持たせたかったのだが、結果はご覧の通りであった。

 

 

 そんなロキ・ファミリアにおいて、ワイシャツと適当なズボンを履いているオールバックの白髪をしたヒューマンが認知されるのも早かった。もっとも、遠征帰りの打ち上げの際にベートが殴り掛かり、逆に吹き飛ばした男であるために、その点で言えばロキ・ファミリアにおける認知度は非常に高いものがある。口には出さないが、ほぼ全員が当該人物であることを認知している状況だ。

 また、初日からアイズやリヴェリアが案内を担当し、食事中にはフィンやアイズも声を掛ける程にロキ・ファミリアの幹部と親しげにしていたために注目具合は一入だ。食事中に来た者がフィンならばティオネ、アイズならばベートとレフィーヤがあからさまに殺気を向けているが、本人は平然とした様子を貫いているのだから傍から見れば摩訶不思議な光景である。

 

 同ファミリアのエルフがハンカチを噛みながら彼を睨むように羨む光景も、最早日常と言ったところ。リヴェリア、レフィーヤと共に食事を取っている時などは、その惨状が輪をかけて酷い始末だ。それに気づいているリヴェリアが、のちに雷を落とすところまでが新たなセオリーとなりつつある。

 

 しかし、だからと言って暴言の類を吐き捨てる者は居なかった。最初のうちは数名程が陰で囁いていたものの、2日もすれば静かなものである。

 当たり前のように黄昏の館の食堂で昼食を取る彼だが、隅っこに陣取り自分から他の者へと絡むことは無い。その傍らには、常に教材が開かれている。決して同胞も口は出せないがエルフ基準においても“鬼”と言える程に厳しいリヴェリアの講義に対し、この青年は至極真面目に向き合っているのだ。

 

 

「ロキ・ファミリアの幹部である彼女が有象無象を相手に作れる時間には限度がある。教導に割いてくれる時間を無駄にしたくないだけだ」

 

 

 それが、興味本位から彼に声を掛けた団員が耳にした言葉だ。どうやら彼が読んでいる内容は復習ではなく予習の類であると知り、声を掛けた団員は青ざめて、あの地獄の教導に巻き込まれないようにそそくさと退散している。現にアイズを除いて、考えるより身体が先に動くような人物は彼に近寄ることすらしていない。

 リヴェリアが行う教導が量も質も並大抵でないことは、経験してきた本人たちが知っている。そこにレフィーヤが「なんであのヒューマンは私の数倍の量をこなせるんですか」と肩を落としながら愚痴ったために、貶す気持ちは消え失せていた。己があのヒューマンの真似をできるかとなれば、誰もが黙って首を横に振るだろう。

 

 もっとも、現段階では学校の授業のような体系である上に、彼も独学ながら基礎的な知識は持っているので比較的容易いものがある。実践ならばどうするかと考えれば何とかなり、時折程度に首をかしげる問題が出てくるが、それも更なる応用の類で何とかなる範囲であった。

 

 

「……つまらん」

 

 

 10日目の朝食後、まだ授業が開始する前の時間帯。厳しさ一入ながらも尊敬する師が呟いた言葉に、朝練とばかりに問題と格闘していたレフィーヤの手が止まった。恐る恐る顔を向けてみると、口をへの字に曲げて可愛らしく“おこ”である。

 小さな勇気をもって何かあったのかと聞いてみると、前日の午後に青年が受けたテストがほぼほぼ満点だったという内容だ。大きなミスの1つでもあればそこから反撃のチャンスが生まれると考えていた彼女だが、残念ながらそうはいかない模様である。

 

 あまり小さなミスで叱りつければ、他ならぬ己の弟子に流れ弾が被弾することは避けられない。ひねくれている彼は、それによって出来る隙を見逃すような人物ではないのは明らかだ。

 問題や内容の要点は、必ずと言って良いほどに的確に押さえている。こうなるから危険になる、そうなってしまうから対処しなければならない、など、とりわけ危険事項に対する把握力は、あのリヴェリアも目を見張るものがあったのだ。

 

 

 そんなことを考えていると、扉が軽くノックされる。いつもながら相変わらず時間ピッタリであり、初回に随分と早く着いたことがますます謎に思える程だ。理由としてはベルがダンジョンで使う消耗品の調達が思ったよりも早く終了したために初日だけ早くなったのだが、その点については蛇足である。

 彼女が返事をするとガチャリとドアが開き、見慣れたぶっきらぼうな表情から「失礼する」との言葉が聞こえてくる。既に始めていたレフィーヤを見た彼に本人が敵意むき出しの視線を飛ばしているが、これも最近では見慣れた光景だ。いくらか気づいているリヴェリアも、とくに注意をすることもない。

 

 彼が優秀である結果として、引きずられるように彼女の成績も伸びているのである。レフィーヤが勝手にライバル心を抱いているだけというのが実情だが、それでも良い影響を与えていることは事実であった。

 決して弟子の前で口には出せないが、書面上では過去一番に出来の良い生徒というのがタカヒロに対するリヴェリアの評価である。学者でもやっていたのかというぐらいに呑み込みが早く、己が開催している教導を卒業することもそう遠くは無いだろう。

 

 もっとも、この点はゲームにおける要注意モンスターやマップの特徴を覚えるのが早いのと似たようなものである。1から100まで覚えるのではなく要点を中心に覚えているからこそ、要点が出やすいテストでも、ほぼほぼ満点の結果が出せるのだ。

 

 

(ううううう。リヴェリア様ったら、またあのヒューマンに付きっ切りで……あ、あ、あんなに近くで!!)

 

 

 そんな真相はさておき、何より、己の指導に対して過去一番に真面目に向き合ってくれている姿勢が彼女としてはとても嬉しいのである。悩んでいるのか唸ることはあれど、どうしてこうなるのかなどを逆に聞いてくる積極的な姿に彼女も熱が入るというものだ。

 そのせいでレフィーヤが問題集を解いている横でマンツーマン指導となっていることがかなりの頻度で発生しており、その姿を見た彼女にも熱が入って先ほどの伸びとなっている。己の師に認めて欲しいという彼女の欲求や、少し手を伸ばせば触れ合えそうになっている距離感も、1つの燃料となっている。

 

 

「――――であるから、魔導士は詠唱が完了して更に魔法の名前を唱えることで初めて攻撃が可能となる。逆に言えば、詠唱が中断されれば大きな隙や魔力が暴走し危険を伴うというわけだ。それを防ぐために行われる、移動や回避行動と同時に詠唱を行う意味の言葉は覚えているな?」

「一昨日の夕方に習ったものだな。集中力と魔力の扱いに対するしなやかさが要される難易度の高い技術、並行詠唱というやつか」

「うむ、その通りだ。発展知識として、並行詠唱を取得するには――――」

 

 

 魔導士ならば当たり前なこの知識も、意外とレベル2でも知らない者が多いというのが現状である。もっとも覚えることが多すぎる上に日々の生活費を稼ぐために、専門外のことに手を伸ばす余裕がないというのが実情だ。

 そんなセオリーを無視して専門外である魔導士の知識に手を伸ばしているこの青年。ベルが魔法を取得していたことを知ったためにアドバイスできればと知識を身に付けているのだが、スキル欄に詠唱の文言が書かれていないために詠唱不要で並行詠唱も意味がないと気づくのはもう少し先の話である。

 

 

 専門知識ということでリヴェリアはいつにも増して熱が入っており、時間は飛ぶようにして過ぎていった。すっかり昼の時間となっており、リヴェリアの「昼休憩にするぞ」という言葉を聞いてレフィーヤは突っ伏した。知恵熱か、頭から湯気が出ているように見えている。

 同時に軽く溜息をつくもののタカヒロはいつもの調子であり、相変らず予習のための教材を手に持つ光景に教育者の顔も微かに緩む。あまり気合を入れすぎて倒れられるのも問題だが、彼程の者ならば自己管理ぐらいはできるだろうと評価してしまうのが彼女においても不思議な点だ。

 

 

 しかし同時に、初日から感じていた、とあることが引っ掛かっている。都合よく午後からレフィーヤが席を外したために、彼女は教導を中止してタカヒロに声をかけた。

 

 

「少し、勉学以外の話をしよう。君が私の教導に対して熱心に応じてくれているのは嬉しく感じている。正直なところ、態度と結果の双方において今までで一番の生徒と言っていいだろう」

 

 

 その言葉に少しだけ目を開いて驚いたのは、他ならぬ青年である。テストでほぼ満点を取っても「私の教導があるのだから当然だ」と言いたげな顔をしてきた彼女が、こうも素直に褒めてくるなど今までにもないことだ。

 

 

「しかし、そこまでして熱を入れる理由が君自身のためでないと思うのは、単なる私の思い過ごしだろうか」

 

 

 直後、言葉と共に、宝石と見間違うかのような翡翠の瞳が彼を貫く。「だろうか」という疑問形を表向きにして「そうなのだろう」と問い詰める鋭い瞳は、同じファミリアの同胞を心配する瞳とよく似ている。

 その視線に、青年は仏頂面な表情のまま「そういうわけではない」とだけ回答して視線を逸らした。見せる対応が言訳であることと勉強の目的が弟子のためという点は、彼に対する教導の始まった経緯を知っているリヴェリアならば容易に感じ取れることである。

 

 そして青年が口にした答えとしては、ほぼほぼ正解であると本人が言っているようなものである。元々ひねくれた対応を見せることのある彼ならば、そう答えても不思議ではない回答であった。

 

 

「52階層で初めて君と出会ってから、勝手ながらファミリアとして調べさせてもらった。君ほどの実力ならば、過去に有名になっていてもおかしくはない。しかし当時において知る者は誰も居らず、ギルドに問い合わせても名前すら掴めなかった。つまり、今も昔も名声が無いということになる」

 

 

 となれば、冒険者登録をしていないと考えるのが妥当な線だ。そう締めくくった彼女だが、大抵の者が行き着く考えである事も妥当だろう。

 強くなるためにはダンジョンに潜るか強者による鍛錬が必要であるが、どちらにせよ先の登録を行うことがセオリーだ。仮に後者だけを実施したとしても、良くて精々レベル2になれるというのが関の山なのである。

 

 故に、冒険者登録を行わないというのは、通常ならば在り得ない行為である。ダンジョンに潜る者のほとんどが、富や名声を求めて潜っている。つまりは、己が有名になるということが目標だ。

 冒険者が名声を求めるうえで顕著なのが“2つ名”の存在だろう。レベル2となった際に初めて神から貰えるモノであり、どんな名を貰えるのかと一喜一憂しているのが冒険者達の現状だ。

 

 冒険者として登録もせず、かと言って何かしらの大きな成果を上げるために過ごしているわけでもない。オラリオにおいて武器を取る者としては、彼は異端と言っても良いだろう。

 そのわりには52階層へ辿り着ける事や、アイズの手刀を受けて微動だにしないなど強靭な強さを持っている。他のファミリアということと今までの不始末から聞きたくても詳細を聞けなかったロキ・ファミリアだが、ここにきて彼女が1つのメスを入れることとなった。

 

 いかに強靭とはいえど、戦闘に関して素人ならば52階層へは辿り着けない。恐らくは卓越しているのだろう戦闘技術をどこで学んだのか、隠さずに問いを投げていた。

 

 

「……オラリオに来る以前は、戦いに明け暮れていた。やっていたことは、ここのダンジョンで冒険者がやっている事とさほど変わりない。その頃は、明確な目標もあったんだ」

 

 

 悲哀さが滲むような言い回しをしているが、根底はただの装備キチ……オブラートに包むならば装備コレクターである。もしオラリオのダンジョンでも装備がドロップするようになるならば、リヴェリアが抱いている心配もどこ吹く風と言った結果になるだろう。

 もっとも彼が口にしていることも、間違いではなく確かに事実である。其の理由こそが、かつて彼が抱いていた戦う理由に他ならない。

 

 そしてリヴェリアは、最後の文面から彼が戦う理由を見失っているのだと断定した。この辺りの理解力の高さは、ロキ・ファミリアの母親(ママ)と言われる所以だろう。

 ならば、どのような言葉を掛けるべきか。少し考えて、己もその理由を知りたいと思っていたこともあり、とある内容の言葉を口にする。

 

 

「ではなぜ、52階層や怪物祭において、関係のない私達を守ってくれたのだ」

 

 

――――だってエルフを見捨てるわけにはいかないじゃん。

 

 正直なところ、当時は真面目にそう思っていた彼である。もちろんこの本音も口には出せず、もし追われている者・襲われていた者にエルフが居なければ、あのような対応を取らなかったかもしれないと思うと、自分でも溜息が出てしまいそうになるほどの単純すぎる理由であった。

 

 

 しかし同時に、その“単純すぎる”と思った理由こそが、戦う理由なのではないかとハッとする。

 

 

 ボスが相手だろうが、ネメシスが相手だろうが、セレスチャルが相手だろうが。いかに強靭で巨大な相手だろうとソロで戦いソロで地獄を駆け抜け生きてきた上に、根底として装備のために戦っていた彼にとって、誰かのために武器を取るなど全くもって無かったことだ。

 灯台下暗しとは、よく言ったものである。今まで目にしてこなかったモノであったために気づくことなく、加えて足元にあった小さな輝き故にその理由を見落としていただけの話だったのだ。

 

 装備を集めるついでに、崩壊寸前の世界を救ったように。エルフを守るという目標の過程において、武器を取る。

 難しいことは何もなく、それが当時における彼にとっての戦う理由。ウォーロードが武器を取る際に己の心中に掲げる、紛れもない正義だったのである。

 

 流石にかつての様にまでは無理とはいえ、更には内容的にどうにも胸を張って言えないとはいえ、これで彼はまた立ち上がることができるのだ。戦いを強いられる者と書いてウォーロードと読む存在にとっては、目の前の彼女が大きな光に見えている。

 答えの1つを授けてくれた相手に対して照れ隠しが働き決して口には出せないが、心の中では笑みを向けて礼を述べ。進むべき道にかかっていた霧が少し晴れた彼は視線を戻し、翡翠の瞳と向き合った。

 

 

「タカヒロ、生き物は理由なしに戦いを選ばない。具体的に何かと言う所までは私も分からないが、君の中に戦う理由は必ずある。古いものでも、再び手に取れば輝くこともあるだろう。それを見失わないで欲しい」

 

 

 心配してくれているからこその先ほどからの言葉というのは、彼も痛いほどに分かっている。むしろ優しさが痛すぎて、ジワリジワリと傷口を抉りかけている。

 戦う理由を見失っていた根底は、墓の下に持って行くしかあるまいと覚悟を決め。心配から掛けてくれている言葉なのだと分かりつつ、母性に満ちた、包容力のある言葉を身に染み渡らせるのであった。

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