その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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ロキ・ファミリアのレベル1って何人ぐらい居るんでしょうね。
設定を見逃していたらすみません。



29話 冒険者パーティー

「今回からしばらく、ヘスティア・ファミリアに所属しているレベル1冒険者、ベル・クラネルと行動を共にする。これは主神ロキ様や団長の決定であり、指示でもあるわ」

 

 

 故に、仲間と思って行動するように。

 

 そう締めくくられ威勢良く返事が行われるのは、ダンジョン1階層にある正規ルートから外れた行き止まり。他の冒険者の邪魔にならないよう、ロキ・ファミリアにおける駆け出し冒険者のパーティー行動訓練が幕を開けた。

 特に説明も無いのだが、ベルは「宜しくお願い致します」とだけ挨拶をして見学の立場で後方についている。彼自身は全く感じていないものの、緊張からかゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてくる。

 

 ソロとは違い、自分の失敗1つで仲間に多大な迷惑がかかるのだ。だからこそ全員の気合と覚悟は普段以上に高いものとなっており、同時に緊張感も芽生えているのである。

 ベルがダンジョンに潜る時のタカヒロと同じように、引率の先輩冒険者。今回はレベル2の女性剣士である彼女は、よほどの危機とならない限りは何もしない。基本として、駆け出しの当事者達で解決するのがルールである。

 

 現在のロキ・ファミリアにおけるレベル1は6人であり、内訳は盾持ち1人、剣士2人、サポーター2人、魔導士1人。今回はベルも居るのでレベル1は合わせて7人となり、引率も含めると合計8人のパーティーだ。

 バランスが前衛寄りとなっている点はさておき、8人中、男は3人。残り5人が美少女であるが、これは主神ロキの趣味なので仕方がない。例によって、全員が入団時にロキからセクハラを受けるところまでがセオリーとなっている。

 

 もっともそんなところを全く気にする余裕の無いベルは、必死にパーティー行動の基礎中の基礎を学んでいる。6人の動きを広く見て、このタイミングではこれが重要なのだなと、相変わらずの凄まじい速度でイロハを吸収していった。

 真剣な表情に、引率の先輩冒険者の表情も満足気。最初は「他のファミリアなんか」と文句を口にしていたことは認めるものの、少年が見せる礼儀の良さと素直さ、そして何より小動物的かわいさとのギャップに陥落してしまっている。

 

 

 そんなパーティー行動が始まった日、タカヒロがレフィーヤと共に講義を受け始めてから11日目。朝早くから行われているためにアイズとの鍛錬は無いが、パーティー行動は今回で5度目となっており、現在は9階層。ベルもいくらか慣れたものだ。

 そのためにいくらかの疑問も芽生えており、後ろで引率の者に質問を飛ばしている程である。ついこの間レベル3になる条件の1つ、つまりアビリティ数値のどれかがDランクとなったらしい引率の少女は、可愛らしく鼻を高くして答えていた。

 

 明確にしていないとはいえ、自分のアビリティランクをバラしちゃっていいのかと彼女に愛想笑いを飛ばしつつ。自分なら、今の場面だと……こう動くかな。

 そんな考えを巡らせ、何を考えているのかと引率者に聞かれた際はその考えを答えて逆に感心されるなど、中々に株価は上がっている。一歩引いた位置に居るとはいえ、場を広く見ていることが一目瞭然の答えだ。

 

 ――――ゾクリ。

 

 直後に嫌な気配を背中に感じ、少年は直感的に振り返る。横に居た引率の女性剣士も釣られて後ろを見るが、ダンジョン特有の闇へと続く道が広がるだけ。

 何も臭わず、何も感じず、何も見えない。後ろから何かに見られているような気配は、ただの気のせいだったのだろうか。

 

 ならば、目の前のパーティー行動を見て勉強しなければ。少年が元の方向へ振り返ろうとしたタイミングと、引率の者が目を見開き、剣を抜いて後方へと駆け出したのは全く同じタイミングであった。

 

 

 パーティーが最後の一匹を倒した直後、2つの悲鳴が木霊する。何者かによって吹き飛ばされた女性剣士をベルが抱き留め、そのままパーティーが戦っていた地点にまで吹き飛ばされたのだ。

 剣は折れ、肩口からパックリと傷が開き大量に出血している状況である。条件反射に所持していたポーションを振りかけて応急処置としたものの、すぐさま地上へ帰って本格的な手当てが必要な傷だと一目でわかる。

 

 そこでようやく、彼女が何に吹き飛ばされたのかが気になった。レベル3になる条件の片方を満たす程の者が相手にならない相手など、9階層には――――

 

 ――――ドクン。

 

 その思考に、己の鼓動が強い音で反論する。半月も経たない前に、到底ながら忘れられない出来事があっただろうと、思い出せと、血圧を高めて脳に対し活を入れる。

 剣姫、アイズ・ヴァレンシュタインとの運命的な出会い。階層こそ半分ほど違えど、上層と呼ばれるそこで彼女と出会う前に居た、本来は居ないはずのモンスターが脳裏に浮かぶ。

 

 カランという甲高い音と共に一本の角の先が転がり、闇の一歩手前にある薄明りに身躯が浮かび上がる。“赤い”毛を纏い、どこかの冒険者から奪ったのか刃零れた大剣を持ち、一歩ずつ前へと迫るその図体は決して忘れることのないモンスター。

 

 

「ミノ、タウロス……」

 

 

 高ぶる興奮から身体が熱くなっているのか、相手の鼻息が見えた気がした。

 しかし、そんなことを考えている余裕はない。すぐに行動を起こさなければならないことは明白であり、少年は目に力を入れて左右を見る。動ける者、共にダンジョンへと潜っている7人の様子はどうだろうか。

 

 負傷――――重症である引率者を除いて損傷無し。

 戦意――――全員喪失、目は見開かれ明らかに足が竦んでいる。

 位置――――相手の間合いの範囲外。そして自分たちの後ろが地上へと続くルート、偶然だが運が良い。

 

 ならば、パーティーはどちらの行動を取るべきか。

 

 対峙――――否。レベル3手前の者が敗れたのだ。死人の一人二人が出る程度で済むはずがない。

 逃走――――否。追いつかれ、全滅。足の遅い者から大剣の餌食となるだろう。

 

 自分が今まさに学んでいたセオリーなど、話にならない。教科書通りに処理して良い相手ではないことは明白である。

 ならば、どうするか。少しだけ考え、少年が出した答えは単純だった。

 

 

「リーダー……。アレは僕が引きつけます。引率者と皆を連れて、真っ直ぐ地上へ」

「なっ……無茶だ、ミノタウロスを相手にレベル1が」

「では、ここで纏めて死にますか?」

 

 

 このようなイレギュラー時におけるパーティー行動など、ほんの僅かも分からない。よしんば分かったとしても、足が竦んだままの集団では殺されるのを待つだけだ。

 何にせよ、時間がない。ミノタウロスに応戦した引率者、先ほどまで自分の疑問に笑顔で問いかけてくれた女性剣士は息も弱く、手持ちのポーションを振りかけたものの重症には変わりない。

 

 そもそもにおいて。身を挺して自分達を守ろうとしてくれた女性を見殺しにするなど、己を育ててくれた祖父の教えに反することだ。

 

 他人に言えば、バカバカしいと笑われるだろう。くだらないと罵られるかもしれない。しかしそれが、他ならぬ祖父が残してくれた道標だ。

 そして、師匠が教えてくれたこと。もう亡くなってしまった祖父は、己の記憶にしか生きていない。故に“おじいちゃん”の姿を記せるのは、外でもないベル・クラネルただ一人。

 

 何より、憧れを叶えるために誓った心が敗走と全滅の結果を許さない。真の英雄がこの程度の逆境で怯むことはあり得ず、絶望的な顔を向けてくるリーダーを背中越しに一度だけ見て、少年は声を発した。

 

 

「行けえええええええ!!」

 

 

 目を見開き放たれる少年の咆哮が、一帯に響く。引率者を抱える集団は振り返ることなく駆け上がり、その足音も消えてゆく。

 かと言って、少年とて振り返って確認する余裕はない。相手は“赤い”毛を持つミノタウロス。

 

 通常ならば濃い茶色系、強化種は赤色の毛であるその存在。前者ならばレベル2の初頭で戦う相手、後者ならばレベル2の後半だ。だというのに、先ほどはレベル2後半の引率者が一撃で粉砕されている。

 少年が考えつくパターンの中で最悪は、強化種の更に上。一度だけとはいえノーマルの攻撃を知っている少年だが、先に見た一撃がそれを遥かに上回っていたことは明白だ。

 

 どうするべきか。自分に今何ができるのかと、ベル・クラネルは自問自答を繰り返す。そのなかで本当に皆は走り去ったのかと不安を感じ、瞬時に一度だけ振り向いた。

 

 向き直った目の前に、相手の大剣が現れる。振り返ったことが失策だったと感じたのは、その一撃をまともにナイフで受けた時だった。

 

 

「うがああああッ!」

 

 

 鍛えているとはいえ華奢な身体は容易にして宙を舞い、ダンジョンの壁に背中から叩きつけられる。肺の空気は、痛みを耐えようとする獣のような呻き声とともに押し出され、あまりの苦痛で視界がチカチカと点滅した。

 

 直撃する寸前、直感的に一歩だけ行えたバックステップによっていくらかの威力は流すことができた。だというのに受けた衝撃の強さは、相手が持ち得る力の強さを物語っている。

 何度も感じていたが、明らかに前回に対峙したミノタウロスよりも力が上だ。レベル2の冒険者が持つ平均的な力など知らない少年だが、生半可な防御では容易く突破されてしまう事は、ダメージと引き換えによくわかった。

 

 相手の姿が視界に映る。通常のモンスターと比べて向上している点は、素早さにおいても例外ではない。追撃を叩き込むために距離を詰め、己の無防備な姿に向けて無慈悲に大剣を振り下ろす姿がハッキリと見えた。

 

 

 刃零れた大剣が、ダンジョンの壁と床を粉砕する。人の顔ほどある岩が蹴飛ばされた小石のように舞い散り、バラバラと砕ける音が洞窟に木霊した。

 

 

 倒した。決着はついた。降り下ろした一撃は、狂いなく“壁や床ではない何か”に命中した感触を残している。

 故に、与えたダメージ量としては十二分。己を鍛えた謎の猪人を倒せるには程遠いが、華奢な見た目の冒険者が相手ならば十二分に事足りる。

 

 

『ヴ、モォ……』

 

 

 だというのに牛の戦士は、土煙の中に居るその存在に困惑する。壁に背を向けナイフを構える少年の姿がいまだ健在なのは、己の目が見せる錯覚だろうか。

 

 そう。ミノタウロスが抱いた手応えは、レベル1の少年が持っているはずのない小手先の技術。完璧な受け流しによって、威力の大半を殺されていなければの話である。

 

 相手からしてみれば確かな感触を残すようにも調整されている点が、どこかの青年が教えた技術における嫌らしい特徴だ。時たま彼が見せる捻くれた性格を表すかのような高等技術は、現にミノタウロスに対して壮大な思い違いを与えている。

 そして現在における少年は先の吹き飛ばしで大きなダメージを負ったものの、まさに鍛錬通りの状況下において防御行動を実行することができている。むしろ、死にかける寸前の痛みを感じる程度にまでは到達していないと分かる、こちらのほうが良心的と言えるだろう。

 

 

 互いに対峙したまま、時が流れる。少年からすれば少しでも体力を回復し、相手の攻撃からのカウンターを狙っている戦法だ。

 一方のミノタウロスからすれば、今の受け流しを見て相手を警戒してしまっている。そのような内容は、“鍛錬”においても学ぶことが無かった内容だからだ。

 

 そうしているうちに、複数の速い足音が近づいてくる。もしかしたら、先に逃がした仲間が戻ってきたのかもしれない。こんな正規ルートから外れた場所に駆け足で来るなんて、それこそ鍛錬を知っているロキ・ファミリアの者だけだ。

 ならば、そちらにコレの気を向けることは許されない。焦がれた声が微かに聞こえた気がしたが、耳を傾けている余裕はない。少年は、目の前に立ち塞がる格上の脅威に立ち向かった。

 

====

 

 

「えへへ。だって冒険者になって一ヶ月目でシルバーバックをソロで撃破したんでしょ?アイズは兎みたいな子だって言うし、気になるじゃん」

「けっ。どうせそこらへんの雑魚と同じだろ」

「そう言いつつ自分も付いて来てるじゃん。このいけず~」

「んだとこのバカゾネス!!」

 

 

 バベルの塔の一階、ダンジョン入り口。ダンジョンへと続いている螺旋階段へと繋がる通路に、陽気な声が木霊する。ロキ・ファミリアの第一級冒険者達が、駆け出しパーティーの見学へと赴いていた。

 前方では取っ組み合い寸前の様相となっているが、後ろは真逆となっており穏やかである。そんな対照的な同じ集団を見たグループは、自然と視界を後ろに奪われている。

 

 

 ロキ・ファミリアにおける黄金と翡翠。この言葉で、どの人物のペアを指しているか分かる者が非常に多い程、その二人は有名だ。共に繊細かつ神とも勝負できる程に高い美貌を持つその姿は、多くの視線を引き付けて止まないのがセオリーである。

 しかし、その1つ後ろ。団長であるフィン・ディムナの横を歩くフード姿のトゲトゲの鎧を見れば、「あんな奴居たっけか?」との内容を口にするだろう。それが、ほぼ全員の感想だ。

 

 

 2つの意味でザワザワと騒がしくなる場だが、そこに悲鳴が混じることとなる。それに気づいたロキ・ファミリアの一行が悲鳴の上がった前方を注視すると、同じファミリアの者が血相を変えて走ってきている。

 確かあれは、今日のパーティー行動のリーダーだ。そう判断したフィンだが、直後に抱えられている血まみれの女性を見て誰よりも早く駆け出した。明らかに今日の引率者であり、瀕死の重傷を負っている。

 

 ガチガチと歯を鳴らすリーダーに聞けば、9階層で赤い毛を持つミノタウロスに襲われたとのこと。明らかにイレギュラーと分かるその状況に、ロキ・ファミリアだけではなく、近くに居た冒険者全員の顔が強張った。

 むしろ、よく逃げて来たなと一行を褒めたいほどである。いくら敗走とはいえ、9階層で活動するレベル1がミノタウロスから逃げ切るだけでも中々の偉業と言える内容だ。

 

 しかし数秒後。アイズは、一人足りないことに気づいて声を上げる。己のファミリアにこそ居ないものの、最もよく知る白髪を持つ華奢な少年の姿がどこにもない。

 

 

「っ、ベルは!?」

「お、俺達を庇って一人で」

「それを先に言え!!!場所は!」

 

 

 珍しく声を荒げ血相を変えたフィン、アイズ、ベートの3名が詳細な場所を耳にすると、カタパルトから飛び立つ戦闘機のように駆けてゆく。既に青年の姿がなかったことに気づいたリヴェリアとレフィーヤ、ティオナも、少し遅れながらも9階層へと駆け出した。

 階層を進むごとに、血の気の引いた顔をした駆け出しの冒険者たちが上へ上へと逃げてくる。何度も後ろを振り返る彼等は、絶望的な暴力が追ってきていないことを確かめるかのようだ。その光景に、フィンは、かつて自分達がやってしまった事の重大さを再認識することとなる。

 

 集団は瞬く間に8階層を突破し、9階層へと突入する。もう正規ルートから外れた所へ行くことはなくなった階層のために団員から聞き出したエリアを絞り込むのに少し時間がかかったが、幸いにも方向は分かりやすかった。

 鳴り響く咆哮は、間違いなくミノタウロスによるものだ。確かな印が木霊する方へ、ロキ・ファミリアの第一級冒険者たちは足を進め駆け抜ける。

 

 

「っ、やはり遅かったか……!」

「チッ、雑魚がツッパリやがって……!」

「ベル……!」

 

 

 少年の冒険は、証人の目の前で繰り広げられることとなる。アイズを筆頭に道化のファミリアの救援部隊が到着したのは、ベル・クラネルが再び駆け出した数秒後であった。




本篇:通常ミノ(記憶が曖昧ですが)
本篇漫画:通常ミノ(カラーページでは少なくとも黒毛orこげ茶毛)
外伝漫画:通常ミノ?(↑とトーンは同じ模様)
アニメ1話:茶毛
アニメ8話:明らかな赤ミノ

ミノの強化種って赤毛でよかったでしたっけ?不安になってきた…

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