その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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本日は2話投稿となっております


31話 似て非なる者

「お、おい!あいつ自殺か!?」

 

 

 時は、ロキ・ファミリアの重傷者が地上へと生還しフィンが報告を受けた直後に遡る。

 

 バベルの塔、ダンジョン1階層へ続く螺旋階段のある深い穴の入り口。一人の男が、階段を使わずに飛び降りた。その内心、9階層でミノタウロスと戦っているという弟子の勝利を見届けたいが故のショートカットである。

 着地時に発生する床の亀裂とガチャリとした鎧の音、そこからの衝撃波はその青年が着る鎧の重厚さを感じさせる。しかし誰一人として、その姿を見た者はいなかった。

 

 “堕ちし王の意思”。着地と同時に使用したこの突進スキルにより、姿は遥か先に移動している。初速から既に最高速に達しているこのスキルは特別なコンポーネントをメダルに装着すると使用可能になるものであり、非常に使い勝手の良いアクティブスキルだ。

 地を駆ける足は瞬く間に7階層を抜け、8階層へ。弟子が対峙しているらしいミノタウロスは、リヴェリアの講義で学んだ情報によれば大振りの天然武器を使う相手であり、弟子が持つ実力ならばカウンターを狙える相性の良い敵である。

 

 強化種となればノーマルよりも力は上だろうが、そもそもノーマルを相手にしても腕力の差は歴然だ。その差が少し開いたところで、青年が教えた技術にとっては誤差程度のことである。

 相手がレベル2や3の冒険者ならば話は別だが、相手がモンスターならば特別気にすることは無い。油断しなければどう頑張っても負ける理由が思い浮かばず、戦いとなれば常に全力を示す弟子に限ってそんなことはないだろうと、ウォーロードは勝利を確信しながらダンジョンを降りていく。

 

 

「っ!?」

 

 

 9階層へと突入して、すぐのタイミング。正規ルートから外れたところへ行く道より、突然の襲撃を受けた。一撃が己に達するまでの時間はコンマ数秒もない僅かなれど、青年は相手を広く見て情報をかき集める。

 

 相手。大柄の人型、パワーファイターが1名。

 得物。大きなコモン等級の両手剣、刃渡り1メートルと少し。

 威力。かなり高いが物理攻撃。加えてノーマル難易度のボス級一歩手前、当てるつもりは無いようだが直撃しても問題ではない。

 角度、狙い位置。わざと回避させるためのタイミング、しかし戦いを知らぬ素人ではない。直撃まではコンマ3秒、防ぐか弾くか――――

 

 否、不意打ちに対して青年が行う返答はただ1つ。生憎とトグルスキルも含めてほとんどが無効化中であるために本来の威力とは程遠い突進術だが、相手の技の威力からするに、試すならば十二分な一撃だ。

 

 

「ぬぅっ!?」

 

 

 2メートルを超える屈強な猪人の身体は宙を舞い、忘れかけていた苦痛を得て顔が歪む。予想よりも遥かに強大な一撃を受けた腕は一瞬にして痺れ、思わず剣を落としてしまった。

 

 一方の青年はかつてのカフェでの読書を思い出し、相手の身体的特徴からオラリオにおける唯一のレベル7、最強と謳われる“猛者オッタル”であると判断。モンスターと冒険者を間違えることなど在り得なく、故意による攻撃だと判断した。

 オッタルはバックパックから別の剣を出すも、相手の突進は止まらない。正規ルートから外れた9階層の小部屋において、互いに想定外であった小競り合いが始まった。

 

====

 

 

「……第一段階は合格か」

 

 

 ダンジョン9階層、正規ルートから外れた小部屋を視界に捉えられる一角。仲間を逃がし単身でミノタウロスと対峙した白髪の少年の姿を見て、大柄な猪人は腕を組みつつ呟いた。

 もっとも、今までミノタウロスを“育ててきた”彼にとって、そうでなくては始まらないというものだ。少年の冒険する姿が見たいという己の主神の望みを叶えるため、彼はここ数日をダンジョンで過ごしていたのである。

 

 結果として少年がミノタウロスと戦うとなれば、残りの不安は横槍の類である。一緒に居たと思われるパーティーが上層へと駆け抜けていったために、オッタルは参戦者を足止めすべく、1つ上の8階層へとつながるエリアにスタンバイした。

 狙いはもちろん、9階層のバトルフィールドへと向かう者。もしロキ・ファミリアのレベル6辺りが群れて来ようものなら話は別だが、その他ならば複数が相手でも足止めできる。

 

 

 少年が見せた気迫からすれば、すぐさま死ぬことは無いだろう。「冒険する姿を見たい」に加えて「殺すな」と指示が出ている以上、足止めの牽制を入れたのちは、すぐさまあの場所に戻らなければならない。

 鎧の音と共に、足音が響いてくる。まず最初に来た、見慣れぬ鎧の騎士を足止めしようと剣を振るった。

 

 それがどうだ。相手の突進術によるノックバックで通路の1つにまで吹き飛ばされ、続けざまの攻撃も後ろに流すしか選択肢がない。大男とて自負するつもりはないが、猛者ともあろうものが、である。

 相手の武器は2枚の盾、面貌を知らぬ特徴的な戦士である。当然と言えばそうなるが、その者は明確な敵意をもって、足止めを試みた相手を睨んでいた。

 

 

「……フレイヤ・ファミリアの猛者と見る。9階層という上層にミノタウロスが居るのは知っていると言いたげなツラをしているが、如何なる正義をもって場を守る」

「我が主神の御意志だ。何人たりとも、あの少年の戦いの場に踏み入ることは許可できぬ」

 

 

 己の主から与えられた命令。ベル・クラネルとミノタウロスの強化種との戦いを、何人にも邪魔させない。それを忠実に守るべく戦う理由とし、猛者オッタルはその剣を振るっているのだ。

 その理由が周囲に与える影響はどうあれ、対峙するウォーロードにとっても相手の剣は大義である。ならば傍観者として赴いた彼としては、戦う理由に劣るのは明白だ。

 

 

「……そうか、貴様が剣を振るう理由は理解した。目的が傍観であるこちらが戦う理由に劣るのは明白だ、ならば足を止めることになるだろう」

 

 

 言葉を待たず猛者は一撃を縦に振るい、相手をここに引きつけるために攻撃を仕掛けている。威力こそ全力なれど攻撃の始動から太刀筋までが非常にわかりやすく、わざと行われていることは明白だ。

 理由としては、相手に回避する選択肢を与えるため。オッタルとしてもここで相手を殺すことは望んでおらず、足止めという目的を忠実に果たすために動いている。

 

 しかし予想に反して回避は行われず、衝突した金属音が鳴り響く。命中個所はフードの男の左肩ショルダーガード部分、クリティカルヒットと言って良いほどの精度をもって命中した。

 常人ならば、左腕が肩から分断され跡形もなくなるほどの一撃。レベル6とて後衛ならば、同様の結果となるだろう。レベル7、それもアビリティ数値が999に迫る彼の一撃は、それほどまでに強力なのだ。

 

 

「強者共が夢となり、ようやく最強と謳われる哀れな猪人……精良ながらも錆び付いたその剣で、本懐を果たせるならばの話だが」

 

 

 語るは言葉ではなく、打ち鳴らす幾万の剣戟。

 

 世の中にはそんな言い回しがあるが、まさに最初の攻防と今回が該当する。ウォーロードは再び一撃を受け、猪人が発する嘆きのような叫びを聞き取った。

 錆付いていると男に指摘された際、猛者の顔が一瞬だが確かに歪んだのはタカヒロの気のせいではない。その者からすれば、志にできていた、己も目を背けていた急所を突かれたような気分である。

 

 フードの男が先程まで見せていた、不動の姿勢はどこへやら。一撃を受け、やっと2枚の盾を構える出で立ちに、猛者と謳われる彼の身体から一瞬にして嫌な汗が噴き出している。

 男が纏う雰囲気は先ほどまでと明らかに違っており、明らかに己が喧嘩を売って良い範囲を超えている。むしろアレを相手にして、なぜ自分が生きながらえているかが分からない。

 

 直後に目は自然と見開き、心は全速力で撤退しろと早鐘のように警告を続けている。アレが加減というものを見失えば猛者程度は一溜りもないと、他ならぬ自分自身が告げている。

 

 しかし、主神の願いを果たすために引く道はあり得ない。届かぬ相手に刃を向ける覚悟を決め、オッタルは己の二つ名に恥じぬ猛攻を開始した。

 

 

「ハアッ!!」

「……」

 

 

 むやみやたらに体力の高いモンスターこそおれど、全力で打ち合ったことなど猛者にとって何時ぶりだろうか。己の一撃をコレほどまでに見事に防ぎきる名も知らぬ目の前の男は、自分の一撃を的確に防いで応えてくる。

 いや、それも少し違う。明らかに格上の戦士に対し全身全霊で挑んだことなど、オッタルにとって忘れかけていた感覚だ。なぜ今の己が加減無しの装備ではないのかと、自分自身を呪ったほどである。

 

 今の猛者が持つ戦う理由はベル・クラネルと己が育てたミノタウロスとの決闘を、何人たりとも邪魔させないこと。その根底にあるのは、美の女神であるフレイヤの望みを叶えること。

 主神フレイヤの寵愛を求め、その存在と望みを守り切る。彼だけが持つ戦う理由とは言えないのだが、それでも彼にとっては明確な目標だ。たとえ好敵手や道標が現れずとも、己が進むべき道は確かにある。

 

 

 ……はずだった。

 

 

 いつからだろうか。己がオラリオ最強と呼ばれ、49階層へソロで到達・帰還に成功し、猛者の二つ名を授かって早数年。

 

 その猪人に明確な目標はあれど、コレと確立された道標は残されていなかった。好敵手が居るわけでもなく、目標が居るわけでもなく。

 しいて言うならば、己と同じファミリアに後ろから狙われる程度である。それでも主神に見放されぬよう、武芸しか取り柄の無い男はその道を究める他に道がない。

 

 故に負けるわけにはいかず、鍛錬こそは絶やさなかった。かつてオラリオ全盛期に居たとされるレベル9、また、かつての英雄のような力を身に着けるため、死の瀬戸際で足掻いたことも数知れず。

 されど虚しいものである。己を狙う者に対し一対多数でも余裕をもって勝利できる程の実力を、存分に発揮できる相手はいなかった。試せる相手が居なかった。僅かながらも徐々に錆びついていく己の志を理解しながらも、それでも主神を想うという戦う理由を正義に掲げ、我武者羅に剣を振るい続けてきた。

 

 だからこそ、かつての2大ファミリアで名を馳せた者には及ばずとも。かつての大英雄とはかけ離れても、そこに猛者という男が居る。

 レベル7、かつアビリティ数値の大半が999目前という数値は、彼が積み上げてきた努力を嘘偽りなく示している。故にオラリオ最強と呼ばれている、名実共に紛れもない強者の形だ。

 

 

 それが、目の前の男を相手に現状はどうだ。心境にいくらかの驕りがあったことは、一撃を見舞った後に猛者自身も認めている。

 それでも己が放つ全力の一撃を受け、微動だにせず立ち塞がる強靭な大地がそこにある。まるで、雲の上まで聳えたつ山々そのものを相手しているような感覚に襲われる。レベル1の駆け出しが猛者に一撃を加えた時の力差よりも遥かに大きな、それほどまでの地力の差が確かにあった。

 

 猛者は己を象徴するスキルを使用していないが、それは使用したところで敵わぬと分かっているから。ならば獣化し理性を無くす選択はあり得なく、目の前の男が見せる高みにある戦術を。かつての強者に対し己が焦がれた、屈強かつ狡猾な戦士としての姿を忘れぬよう目に焼き付ける。

 

 最初に命中した左肩への一撃がまさに相手を象徴するものであり、傍から見ればマトモに受けた一撃を耐えた構図。しかし、オッタルから見れば別物だ。強靭な体格と狡猾さ、そして防御能力があるからこその、感想を言うならば“バケモノ”と言わんばかりのいなし方。

 決して真正面からぶつかって刃を止めたわけではない。左肩にかかるショルダーガード、その下にあると思われるアーマーの肩部分。これらと左肩にかかる荷重移動だけでもって、猛者による振り下ろしを無効化したのだ。

 

 ――――スキル名、“メンヒルの防壁”。メンヒルは、まさに大地の如き頑強さで信者を祝福する古代神である。

 

 名前の通り強靭な防御能力を付与する最高ランクのトグルスキルであり、通常のビルドならば装備効果と合わせてレベル16付近で止まるところを最大レベルの22に高められた彼のビルドにおいて、被ダメージの20%を吸収する効果を持つ。その他、物理ダメージ付与、治癒能力向上、報復ダメージ倍率の増加など、まさに報復型ウォーロードを象徴する、そのスキル。

 相手に合わせている現在の戦闘においては、星座や報復関連こそ機能していない。それでも、彼の組み上げたビルドが持つ、神の一撃にも平然と耐える驚異的な耐久性の片鱗は健在だ。

 

 そこから始まったのは、名も知らぬ戦士による一方的な反撃。攻撃の回数こそ猛者の方が圧倒的なれど、負っているダメージ量は雲泥の差。いかに猛者が強力なれど、通じない相手への攻撃は全て隙と同じである。

 わざと相手の攻撃を受け流してからカウンターのような一撃を見舞うウォーロードは、力ではなく技術の差を。まだ相手が強くなれる道を、明確に示しているように見て取れる。

 

 

 青年にとって、ベルにミノタウロスをぶつけたこの男の所詮は大したことではない。殺すことは容易なれど、かつて己も迷子になっていた故に、どちらかと言えば手を差し伸べてやりたい感情が顔を出す。

 猪人がやっていることは、ベル・クラネルや一般の冒険者にとって非常に危険極まりない行為であることに間違いはない。一方で、レベル1にミノタウロスの強化種をぶつけるなどという行為が知れれば、どれだけの罵倒を浴びせられるかは、他でもないオッタル自身が分かっている。

 

 

 たとえ結果として、己がいかなる評価を受けようとも。主神を想う心を貫き通した武人だからこそ全うした、戦う理由。

 

 

 対峙する青年は少し前の己と似た者が居たと思いきや、持ち得る志の高さに感心した。ダンジョンで装備が落ちないと嘆いていた自分自身とは違い、この男は我武者羅ながらも正義を掲げ、戦う理由を手放さず、その下に剣を振るっていたのである。

 ただ、受け止めてくれる相手が居なかっただけ。ならば今の己に出来るのは、手を差し伸べて、オッタルという武人の本懐が息を吹き返すための手助けをすることだけだ。

 

 長年晒された孤高の雨はその心と闘争心を錆び付かせてしまっているが、憑き物が落ちればどうなるか。

 ベル・クラネルのように、その原石は光を宿し。神々の期待に応え、英雄を夢見る者の道標となることは明白である。

 

 

「オオオオオオオオ!!!」

「――――戦う理由を手放すなよ。自分もまた道半ばだが、頂点は遠く遥か先だぞ?」

 

 

 これ以上ないほどに咆哮し放たれる、猛者による全力の一撃。ウォーロードの鎧には当たれど微かにも届かず、無情にも発動する“カウンターストライク”。

 酒場においてベートに対し発動した時とは違い、報復ダメージはなけれど、いくらかのトグルスキルと2枚の盾がある現状では威力の差は歴然だ。ダンジョンの壁に叩きつけられた猛者の体力は今度こそ残っておらず、目の前の相手が呟いた言葉と共に、その意識を沈めるのであった。

 




・メンヒルの防壁(レベル22):トグルバフ
大地の神、メンヒルに叫び求める。メンヒルは、まさに大地の頑強さで信者を祝福する古代神である。
*装備に盾を要求する
+20% ダメージ吸収
+77 物理ダメージ
+75% 気絶時間
+150 ヘルス再生/s
+20% 治癒効果向上
+45% ヘルス減少耐性
+210% 全報復ダメージ

====

If分岐ルート(過去にご感想で頂いたネタ)
1:序盤の着地時に報復ダメージ発生
2:当該部分フロア崩壊
3:Nextフロア着地時に報復ダメージ発生
4:当該部分フロア崩壊
5:ジャガーノート参上
6:3~5無限ループ

…各階層にジャガノが沸いたら27階層の悪夢どころじゃない大惨事になりますね(汗)
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