「うーん、星にまつわるドロップアイテムか~……。ボクも地上に来たのは最近だけれど、そう言ったのは聞いたことが無いね」
帰宅した日の昼食前。そうか……。と、腕を組んだタカヒロは残念そうに溜息をつき、無茶なことを聞いたと詫びを入れる。
その顔つきこそいつも通りながらも、落胆の色は伺える。答えられなかったことを詫びるヘスティアも「ヘファイストスの方が詳しいんじゃないか」という内容の事を口にしており、やはり振出しに戻った格好だ。
タカヒロがヘスティアに質問をした理由として、彼女もまたオリンポス神話において登場している為。何かヒントでも掴めればと思い、とにかく聞いてみようと思い立ったわけだ。
12人の神が登場するオリンポス神話においては、ヘスティアの代わりにディオニュソスを入れるパターンも知られている。どちらが正解となればオーソドックスには前者ながらも、そもそもにおいてヘスティアがディオニュソスに12神の地位を譲ったとされていることが要因だ。
ということで、タカヒロの中においては“お気楽神”……最近はそうでもなく、どことなく真面目な女神臭が漂っている紐神も、立派な12神の一人である。常に笑顔で家の中心にある暖かい炉の様な振舞いは、最近一際強くなったように感じ取れる。
ちなみに、タカヒロが取得できる星座においては当該12神のうち誰一人として出てこないのだが、これはケアンの地における神話が星座となっているため仕方がない。どちらが上だの下だのということはないが、思考回路のヤバさで言えば、ギリシャ神話を上回る神がゴロゴロいる点は事実だろう。
基本として味方となる神の恩恵が多い星座の恩恵だが、敵となる神の星座もチラホラと存在する。敵対する勢力の信仰力もあるために仕方のない事であり、ギリシャ神話におけるタナトスと似たようなレヴナントという死の神も居るなど、所々で似たような存在もある程だ。
「……ねぇ、タカヒロ君。ヘファイストスに依頼している防具って、祈祷恩恵のスキルに関係しているのかい?」
「完成した場合は、そうなるな。非常に重要となるであろう防具なのだが作成の難易度が高いらしく、ヘファイストスですら苦戦している」
「よっぽどだね……。ところで、ずっと気になっていたんだけれど、それってどんなスキルなんだい?もちろん、口にしたくないなら黙っててもらって問題ないぜ!」
あくまでポジティブに、元気よく彼女は問いを投げる。それに対し、タカヒロは「主神に隠し事は無い」との出だしで、己が取得した、星座を構成する星々の加護を受けられるという盛大な内容を、正直に口にした。
シンプルな回答ながら、とある臓器がキュッと軽く締め付けられる感覚をヘスティアは受けている。初めてベルを眷属にした時のような、しかしその時の位置より少し下にある漢字一文字の臓器がそうなる感覚は、決して気持ちが良いモノではない。
ゴクリと、唾を飲み込む。口の中が乾き始めているが、そんなことは二の次だ。
聞いちゃいけないという直感が全力で警告を鳴らすも、そこは“暇だから”という理由で地に降りてきた神である。謎を目の前に、答えを知らずにスルーという選択は、本能が許さないようだ。
「……ち、ちなみになんだけれど、どんな加護を受けているんだい?」
「加護か恩恵かとなると、言葉としてはどちらなのか難しいところがあるが、星座の個数で言えば合計で12個、星々の数で言えば55個の加護がある。君に倣って神を表現する星座から受けているモノで言うならば、
嘘発見器・ヘスティア、発動。結果は驚きの白さであり、本日の朝食における献立を口にするような気軽さで語られる嘘偽りのない現実に、彼女の胃が悲鳴を上げ始めた。胃液が煮え滾っているように感じるのは、恐らく彼女の気のせいではないだろう。
天界のタペストリーを作った建築神や大地の古代神メンヒルは100歩譲ってさておくとしても、天界でも原初の光と言われている最上級のエリア。そこに住まう原初の神の一人、エンピリオンが授けた加護など前代未聞にも程がある。その名を聞くだけで、彼に道を空ける神も居るかもしれない程だ。
ましてやそこの青年は、他ならぬ彼女自身の恩恵を受けてファミリアに所属しているのだ。
火を見るよりも明らかだろう、考えるだけでも恐ろしいものがある。少し前に自分自身のことを「一般人」と言っていた青年だが、やはりヘスティア的には、いったいどこが一般人なのかと小一時間ほど問い詰めたい。
「きょ、今日は何だか物凄く暑くないかな!?」
「そうか?昨日よりは随分と涼しいだろう。む。顔色が悪いが、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だよ!」
体温は急上昇する一方、顔面は青くなっていたらしい。ということで、胃酸をぶちまけないうちに話を逸らした。己の臓器は未だに悲鳴を上げ続けるが、何も聞かなかったと暗示をかけて黙らせる。
見なかったことにしたレベル数値のインパクトなど、一瞬にして消し飛んでしまうぐらいの内容。レベル100というヤバイ森の中に隠されていたアブナイ樹木を見つけてしまったかの如く、全身から冷や汗が止まらない。
何事もなかったかのようにお茶に手を付ける当該人物は、変わらず仏頂面で全く気にも留めていない様相。いつかステイタスが判明した時もそうだったが、そう在って当然と言いたげな表情だ。
話の逸らしついでに、ヘスティアが先程の防具について何か突破口があるのかと聞いてみると、呑気な顔も一転。真剣な顔つきになり、ある程度わかりやすい言葉での説明文が出てきている。
明確な打開策こそ見当もついていないが、それでも口調には力がこもる。その様子を、ヘスティアが、子を見守るような優しい顔で聞いている格好だ。
やがてタカヒロも、その視線に気づくこととなる。どうかしたかと尋ねると、彼女が優しい口調で言葉を発した。
「……変わったね、タカヒロ君。少し前とは比べ物にならないぐらい、生き生きとしているぜ」
「変わったと言えば君も随分と様変わりしたが……傍から見ても、分かるものか?」
それに対し、ヘスティアは「当然だよ」と、元気よく、明るく答えている。答えを授けてくれたのが誰かは分からないものの、その人も答えも大切にしなければいけないという内容は、暖かさを与える炉の女神らしい発言だ。
そう言われると、青年の脳裏に一人の人物の顔が浮かび上がる。ヒューマンではなくエルフであるものの、最近は随分と距離が近くなった、己に答えを授けてくれた一人の女性だ。
「……そうだな。その者が持つ思いやりと目を配る心に、助けられた格好だ」
====
「……で、情報を集めにロキ・ファミリアの図書館に来たというわけか」
「ああ。ヘスティアの伝手で神ヘファイストスにも聞いてみたが、わからないとのことでな。そしてフィン・ディムナから許可は得ている、疚しい事はないぞ」
お昼時も過ぎた頃。場所は変わって、ロキ・ファミリアの資料室というよりは図書館のようなエリア。ファミリアの者ならば、いつでも好きな書物を閲覧できる場所である。
ヘスティアに伝えた真実は口にしていないながらも“エンチャントアイテムを作る為の素材調査”程度の説明をフィンに行うと、「どうぞご自由に使ってくれ」と気前のいい言葉が返された。どうやら、以前に招待した際に交えた一戦の借りらしい。
しかしながら“ご自由に”とはならず、ヘスティアとの会話でも登場したリヴェリアが付いてきている格好だ。ゴッソリと書物を積み上げているタカヒロの向かいに座り、本を読むというよりは資料を漁っている青年の姿を眺めている。
「むしろ、なぜ君がここに来ている。ロキ・ファミリアの副団長ともなれば、決して暇ではないだろう」
「なに。私の教導を大切と口にしながらも、更に優先する内容が如何なるものかと、少し気になっているだけだ」
どう見ても少しどころではなく、明らかにガッツリと気にしている様相。このハイエルフ、出来の良い教え子が初めて
そんな物言いたげな表情と心が体勢にも表れているのか、彼女は行儀悪く右ひじをつき、軽く頬を支えている。やや前のめりなその姿勢は、執務室どころか、とあるかつての従者相手を除いて他人の前では絶対に見せない格好だ。
「……君は、自分のための勉学となると、そのような顔をするのだな」
「ん……?」
そう言われ、タカヒロは本に向かって下げていた顔をあげる。傍から見れば、ややムスーっとした表情のリヴェリアが、物言いたげな目線を向けていた。
「かつてない程の集中力だ。私が実施していた教導では、その顔を見たことがない」
「本当に興味がある事に対して力が入ることは仕方がない上に、その内容は間違いだ。君が教鞭を執る内容も集中して聞いているぞ。事実、自分のためにも色々と役に立っている」
タカヒロ曰く、リヴェリアがマンツーマンで行ってくれる際の授業は教本を読むよりも数倍も役立つとの回答だ。大きな理由としては、いつかロキ・ファミリアの謝罪の場で口にしていたが、上辺だけの教本とは違い、しっかりと現場からの目線が入っているが故。
そして、貶すわけではないと前置きを入れ、年輪を重ねているが故に踏んできた場数が違い、後衛の立場や仲間を思いやる目線における意見もまた貴重と口にする。常に一人で戦ってきた己では絶対に分からない視点であることも付け加えられており、妙に筋の通った中身となっていた。
ということで、まさに彼女をベタ褒めする内容である。相変わらず表情1つ変えずに口に出される内容は思ったことを羅列しているだけであるものの、それでも相手の心をくすぐってしまう内容なのだから質が悪い。
「……く、口達者に褒めても、何も出ないぞ」
「面白いことを言う。思った事実を言っているだけだ、何も求めてはいない」
「……やはり君は、思ったことを口に出す癖を気を付けた方が良い」
「そうか、気を付けよう」
リヴェリア・リヨス・アールヴ。未だかつて年齢で小ばかにされたことは多々あれど、こうして真っ向からソレを褒められることなど初めての経験である。己の教導でも見せない顔をする彼に対し拗ねた感情で小突いてみたら、逃走・回避不可能なカウンターストライクが飛んできた状況だ。報復ウォーロードよろしく、与ダメと被ダメが一致していない。
先程の不貞腐れ顔はどこへやら、一転して照れ隠しの表情が顔を出す。右肘を軸に顔を右斜めに背けており、それでも、物言いたげな半目の視線は、本を読み漁るタカヒロの面構えへと向けられている。
そして本に目を向けたまま青年が口にした反省文は、どう聞いても上辺だけの内容だ。相手の忠告もなんのその。“右の耳から左の耳”とは、まさにこの様な者のことを指すのだろう。
事実、それ以上はなにも思っていないのか口に出す素振りもない。青年が本の内容に夢中であり、一寸たりとも視線を飛ばさないのが彼女にとっての救いである。どう頑張っても、相手からの視線はマトモに受けられそうにないのが現状だ。
コホンと軽く咳払いし、リヴェリアはいつもの規律正しい表情と姿勢に戻っている。やや頬が紅潮している気がするが、誤差程度のものだろう。
しかしやがて、やや勢いよく席を立つ。「帰る」とだけ言葉を残し、何度か背中越しに振り返りながら、彼女は図書室から姿を消すのであった。
紐神、最もヤベー事実を知る の巻。
以下、43話に出てきたケアンの神様紹介。
クロス無しのため、名前だけで本編には出てきません。
■
レヴナントは、死と苦悩を表す神。
その死の如き凝視から逃れ得る者は、神々にすらいないと言われている。
■
ターゴは職人と建築家の守護者であり、今すべての星が置かれている天界のタペストリーを作ったと信じられている神である。
■
大地の神メンヒルは、確乎たるケアンの守護者である。
彼は、家を守ることに熱心な人々と豊作を願う農民の両方から、等しく祈りを捧げられる。
■
神の中で最も偉大なエンピリオンは、世界の光であり全ケアンの守護者である。
太陽が毎日人類を歓迎するのは、彼の慈悲であり戒めによるものである。