その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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Act.8:Gods and Spirits(神々と精霊達)
Act.8-1:アイズ・ヴァレンシュタインを探しにダンジョン24階層へ向かえ


50話 娘を探しに

――――記してきた物語に、新たなページが追加されようとしている。

 

――――君の前に現れた謎めいた人物は、自らを特使と名乗り、君を新たな世界へと(いざな)うだろう。

 

――――神と精霊の隠された真実、そして……もうひとつの現実を、知っているか?

 

――――過去に栄華を誇りながら、滅亡と共に忘れ去られた神が力を強め、今も世界に破滅を招こうとしているのだ。

 

――――そして、その悪行を止める為に。その地で、君の助力を必要としている者達が居る。

 

――――ケアンの地を救った英雄、我が名を語るに値する者よ。戦うべき時は今である。

 

――――君が望むものを得るために。遠く離れたオラリオの地で、新たなる冒険を始めよう。

 

 

 

 

「……ぃ、おい。大丈夫か?」

 

 

 時は1日前に遡り、そろそろ日光が夕日へとジョブチェンジしようかという時間帯。リヴェリアが目を離していた数分間、いつのまにかタカヒロは、勉強用の机に突っ伏していたらしい。

 僅かに目を開いて髪の毛をかき上げる様相は、さながら寝坊した時に見せる、少し慌てた対応の様。非常に珍しいどころか初めて見せる様相に、心配を見せるリヴェリアながらも、思わず軽く苦笑した対応をしてしまう。

 

 

「君が転寝(うたたね)とは、まさかと思ったぞ。軽くうなされていたが、疲れから嫌な夢でも見たか?」

「……変な、夢だった」

「……そうか。無理はするなよ」

 

 

 頭の中に語り掛けるような、それこそナレーションのような語り部。かつてデビルズクロッシングにおいて、どこぞの太陽神(原初の神コルヴァーク)を叩き潰す旅に出る前に聞いたものと似ているが、それとは別件と捉えて良いだろう。

 神々の鉄砲玉にされ、そんな神々の尻拭いをした懐かしい記憶。ことを成したあとは、目標を貫通した鉄砲玉の進路が己に向かないようにするためか随分とチヤホヤされたものだが、露骨過ぎるために一蹴したことも、また昔の記憶だ。

 

 とはいえ今現在においては、青年にとって関係のない話。コルヴァークの討伐によってケアンの地における神々のパワーバランスは保たれた為に危機は去っており、あとは苦労人枠の“魔神ドリーグ”が何とかしてくれていることだろう。

 ペチッと可愛らしく両頬を叩いたタカヒロは、休憩終了と言わんばかりに、書類の山に目を通し始めた。そしてしばらくすると、陽気なノックの音が響いたのである。

 

====

 

 

「まーた変なのが来おった……」

 

 

 時は更に数時間前。太陽もしっかりと仕事をしている、昼下がりも過ぎた頃。明らかな作り笑いを浮かべる“変なの”、しかしながら神である“ディオニュソス”が、ロキ・ファミリアのホームへとやってきた。門番に呼ばれて出てきたロキが口にしたのが、先の一文である。

 

 パッと見は、上品さと優雅さを持ち合わせた優男。ややウェーブのかかったブロンドの髪先と相まって、その様相に拍車が掛かっている。

 実のところは、わざと少しだけ気高く振舞い王子のような様相を見せている。それ故に女性からの人気は高く、何かと有名な神の一人だ。

 

 右手をヒラヒラとさせており、外面は非常にフレンドリー。しかしながら“神は誰もが信用ならない”という言葉が持論であるロキは、彼を全面的には信用していない。

 とはいえ、お土産と言わんばかりにディオニュソスがチラつかせる葡萄酒が視界に入れば話は別だ。文句を垂れつつホイホイと招き入れてしまうのが、悪戯の神が見せる特徴である。

 

 

「気になる情報を仕入れてきたんだ、どこかでゆっくり腰を下ろして話さないか?ああ、そこのテラス席なんかが丁度良さそうだな~」

「ここは黄昏の館やから当然やろ……ま、とりあえず座りや」

 

 

 二人は黄昏の館の庭にあった椅子に腰かけ、テーブルに二人分のお茶を運ばせる。実はベルやオッタルがランクアップした“神の集い”において気に掛ける情報を交換していた数名は、何か情報があったらロキのところへ持ってくると口約束を交わしていたのである。

 紅茶に口をつけつつ、ディオニュソスは持ってきた情報を口にする。内容としては単純ながらも、確かにロキが知らなかった内容だ。

 

 

「ふーん。モンスターの大量発生に、ギルドの妙な動き、な……」

「ああ。そしてあまり知られていないが、今もこうして発生している」

「ほう?」

 

 

 その話に、ロキはピクリと反応した。間接的に「それはどこだ」と聞きた気な目線と気配を受け、ディオニュソスは返答を行う。

 

 

「24階層、聞いたことないかい?」

「……いつからや」

 

 

 ディオニュソスによると、2週間ほど前から発生しているらしい。しかしながらロキですら知らなかった内容であり、先ほどの反応はそれによるものである。

 24階層という中層の一番奥で起こった事象。正規ルート上に大量のモンスターが溢れており、既に被害が出ていると言うことだ。

 

 しかしディオニュソス曰く、冒険者ギルドが当該の情報を制限し、事件そのものを揉み消そうとしているのではないか、と口にする。確かにロキですら知らなかったとなれば、相当に厳しい情報規制が敷かれていることは確かだろう。

 

 

「……で。自分は結局、うちに何をさせたいんや?」

「はは、厳しいね。前回情報を交わした時、何か情報が分かったら伝えると言ったじゃないか。そっちも地下水道の件で忙しいだろうしね、他意は無いよ」

 

 

 話は核心に迫り、ロキは細い目を開いて相手を睨む。しかしながら乾いた笑いで流されてしまい、しばらくは互いに無言の時間が続くこととなる。

 同時に、「勘の良い奴め」と、ロキは内心で悪態をついた。何故ディオニュソスが地下水道調査の件を知っているのかは彼女も分からないが、とにかく、己が出せる答えに変わりはない。

 

 

「せやから、ウチんとこの子は今出払っとる。24階層なんて――――んあ?」

 

 

 ポトンという音を立てて、ロキの真横に何かが落ちたのはそのタイミングであった。随分と軽い音であり、恐らくは小指一本で持ち上げられる重さの程度だろう。

 相手から視線を切ってそちらに顔を向けると、あったのは丸められた1枚の羊皮紙。丁寧にリボンで括られ纏められており、太陽の反対側を見上げれば、連絡に使われる鳥がソコソコの高度を旋回している。ぱっと見だが、恐らくは誰かの使い魔だろう。

 

 

「伝書か。中身は、なんなのだい?」

「どうせ大した用やないやろ、あとで読むわ。ちゅーわけや。ウチんところはマトモに動ける子が残っとらんから、その問題はギルドに任せるとするわ」

 

 

 会談は終了し、数分後。場所は変わって、ロキの私室。やけにディオニュソスの引き下がりが素直だったなと思い返しつつ、扉を閉めて鍵をかける。

 酒の空瓶が目立つながらも、ある程度は片付いている個性的な部屋だ。執務“机”に腰掛けて先ほどの羊皮紙に目を通した彼女は、盛大な溜息を吐くこととなる。

 

 

「アイズたんが24階層の食糧庫に行きおった……」

 

 

――――これ以上ないジャストなタイミングで24階層、しかも食糧庫!流石は皆、いやウチのアイドル、アイズたんやでー!

 

 などという脳天気な感想が芽生えるはずもなく、ロキは私室で頭を抱えて天を仰いだ。ある意味において、ものの見事に期待を裏切らない天然少女には、掛ける言葉も見つかりそうにない。

 筆跡は間違いなくアイズのものであり、間違いはない。念押しのためか、読み書きできる者は神を除いてオラリオにおいても両手で数える程度しか居ない神聖文字(ヒエログリフ)で書かれた文面も交ざっているために、まず間違いは無いだろう。

 

 内容は、冒険者クエストを受けて、協力者と合流して24階層の食糧庫へと向かう内容。最後に「心配しないでください」との記載が付け加えられているが、するなと言う方に無理がある。

 かつてアイズが見せていた幼い頃の状況はロキも知っているために、むしろ不安しか生まれない。部屋の中をウロウロとしながら、此度の問題を考えつつ、何かできないかと頭を働かせている。

 

 今年度における怪物祭の時に現れた、花のモンスター。その一件と、此度の異常事態は関係があるものだと、推察に優れ天界のトリックスターの異名を持つ彼女は先ほどから結論付けている。きな臭い一件の為に、援軍を向かわせたいところだ。

 とはいえ、今現在は街で発生したそのモンスターの調査で、大多数を地下水道の調査に向かわせている最中。そのために即席の稼働戦力、かつ24階層のイレギュラー、それも非情にきなくさい案件に対処できるとなると――――

 

 

「今残っとるので、動けそうなのは……うん?せや、丁度ええわ!」

 

 

 ニンマリと怪しい笑顔を作り、ロキは1つの部屋へと小走りで移動する。表情を見た周囲は「また何か悪だくみか」と一発で正解を読み取るも、巻き込まれないように口に出すことは無かった。

 やってきたのは、とある人物の執務室。スケジュール通りならば、目的の人物は二人とも在室しているはずであるために、ほぼ密室という事で内容の伝達にも丁度いい。ドアの前に立つと、彼女らしく陽気なノックの音を響かせる。

 

 

「入るで、リヴェリアー、タカヒロはーん」

「なんだ?ロキ」

 

 

 リヴェリアとは違って声には出さないものの、タカヒロもまた「なんだ?」と言いたげに顔を向ける。相も変わらず陽気なその姿は、本来の目的から興味を切り替えさせるには十分だ。

 二人してペンを置き、言葉を待つ。妙にシンクロしている光景を目にして思わず吹き出しそうになるロキながらも、話をはぐらかせるものかと表情に力を入れた。

 

 そして口に出される、24階層のイレギュラーと、“例の宝玉”に関する僅かな情報。その単語を聞いて眉間に力を入れるリヴェリアと、一方で何のことか見当もつかずにタカヒロは疑問符を浮かべている。

 宝玉については、かつて青年を探す過程において18階層で遭遇した代物との説明がなされている。当事者の一人であるリヴェリアは、その時の状況を、ある程度簡潔に口にした。

 

 赤髪のテイマー、雄たけびを上げる謎の宝玉。宝玉の中身は何かしらの生物であり、モンスターに寄生すると他のモンスターを取り込み、どこぞの青年が対峙した50階層のモンスターへと変貌したのだ。当時はロキ・ファミリアの主力が万全の状態で結集していたために圧倒することができており、タカヒロが口にした鱗粉による攻撃は行われていない。その為に、青年が口にした芋虫の親玉とは別物と捉えてしまっていた過去がある。

 それにしても、相手を乗っ取った上で狂暴化させ、戦闘能力を限界まで引き出す。「まるでイセリアルだな」と口にしたいその宝玉の事象を聞き、先ほどの夢で過去を思い出したこともあって、青年の口から溜め息が漏れた。

 

 

「ロキ。此度にアイズが向かった、24階層の食糧庫というのも……」

「せや。直感やけどウチはまず間違いなく、関係あると思うとる。ごっつ、きな臭い感じもあってな。せやから二人に、アイズたんを追って欲しいんや」

 

 

 実のところ、そろそろ青年の実力を公に見たいというロキの目的も含まれている。鋭い視線を受けて「これ見抜かれとるかなー」と内心で焦るロキだが、今更あとには引けないだろう。

 もっとも、青年は決定権をリヴェリアに委ねるようだ。此度の教導を開催しているのは彼女であるために、己では返事をできないと言葉を向けている。

 

 

「……わかった、私は問題無い。タカヒロ、君はどうだ」

 

 

 果たして、彼ならば断らないと考えたか。前衛である青年の返答を耳にする前に、リヴェリアは承知の答えを返している。

 いくらレベル6とは言え、後衛、更には防衛手段に乏しい魔導士一人に行かせて何かあれば取り返しがつかないだろう。果たしてそのように考えたかは定かではないが、タカヒロもまた同様の答えを返すこととなる。

 

 

「そうか、では自分も付き合おう。しかし、装備一式は取りに戻りたい」

「当然だ。では、今から準備をしてくれ。ロキ、アイズが24階層へ向かった時間は?」

 

 

 書物に書かれていた時間から、リヴェリアはアイズが24階層へと到達する予想時刻を算出する。アイズ個人ならば20階層まで日帰りで赴くことが出来るために、“迷宮の楽園(アンダーリゾート)”、安全階層(セーフティゾーン)である18階層に存在する“リヴィラの街”にて一泊するだろうと結論付けた。

 となれば、最適な出発時刻は今すぐとなり、リヴィラの街で追いつくのがセオリーだろう。とはいっても担当の二人は全くもって準備を行っていないために、今すぐ出撃という事も行えない。

 

 目的地は分かっているために、しっかり睡眠をとったうえで日の出前に出発することで話が付いた。アイズの手紙によると合流者も居るために、合流側にフレイヤ・ファミリアでも出てこない限りは、一人で進むよりも時間はかかるはずだ。

 

 

「それにしてもタカヒロはん、意外とアッサリしとるな。あんまり面倒ごとには絡まんように見えたせいか、何かと理由つけて断られると思っとったんやが」

「不本意ながら、神々の使い走りとなるのは慣れている。精々、矛先が自分自身に向かぬよう気を付けておけ」

 

 

 妙な言葉を残してヘスティア・ファミリアへと帰る青年ながらも、魂を見るに、口にしたことは嘘ではないらしい。意味が理解できないロキながらも、とりあえずは目論見通りとなったために結果オーライの状況だ。

 彼の戦闘能力を見るという本音をリヴェリアに伝えると、「やっぱりか」と呆れた表情で回答を示される。書類を片付けた彼女も準備を行うために、倉庫や自室など、必要ヶ所を回ることとなり、一日は過ぎてゆく。

 

 

 

 

 翌朝、日の出前であり空もまだ薄暗い時間帯。この時間帯においては冒険者の数も極僅かであり、目的の相手を探すにもお誂え向きというわけだ。夜明け前特有のややヒンヤリとした空気が、オラリオを包み込んでいる。

 先に到着していたのはタカヒロであり、噴水脇のベンチに腰掛け腕を組んで待っている状況だ。薄暗い上に元々フードで顔が見えないこともあり、傍から見れば座ったまま寝ているようにも見えるだろう。

 

 

「遅くなった、待たせたか?」

 

 

 そこに玲瓏な声が響き、間違えることなく耳にした青年は、鎧が鳴る音と共にゆっくりと立ち上がる。フード越しに顔が彼女の方を向き、「大差ない」との言葉を返した。

 青年がいつものフルアーマーなのと同じく、リヴェリアもまた、いつもの魔導服に見慣れた杖。しかし同時に、別の事柄にも気づくこととなる。

 

 

「……ん?背中に見慣れぬ得物があると思ったが、弓を使うのか」

「ああ。いざという時は、魔法よりも即座に使える。なんせ君と二人だけだ、何かと小回りは利いた方が良いだろう」

 

 

 杖を身体に立てかけて背負った弓を掲げるリヴェリアだが、その姿は様になっている。魔導士ではなくアーチャーと言われたとしても、先入観を抱かなければ違和感がない程だ。

 

 

「何を掲げようとも構わんが、実戦で使えるのか?」

「ふふ、侮るなよ?」

「……なるほど。魔法では詠唱中に喉を狙われるために、今度こそ背中からグサリと」

「……違う。それは忘れろ」

 

 

 弓術に関して若干のドヤ顔を見せたと思ったリヴェリアだが、例によって青年の煽りで物言いたげな目線に戻っている。先の声でリヴェリアに気づいた一般エルフの視線を受けながら、二人はバベルの塔へと入ってゆくのであった。

 ダンジョンへと降りる階段を下りきってからは、まさにランニングの光景だ。襲い掛かってくるモンスターすらも9割以上を無視し、次々に階層を突破する。大人数での遠征では、絶対にありえない光景だ。

 

――――大群が来ている。怪物の宴(モンスターパーティー)か。

 

 15階層の中盤。リヴェリアの目に映る、少し先の視界を埋め尽くす圧倒的物量のモンスター。流石のレベル6である彼女とて、歩みを止めて対抗しなければ何かしらの損傷を負う事になるだろう。

 しかし前を走る青年は速度を緩めることなく、真っ向から、押し寄せる波に対して突撃した。さながら彼女を守る騎士の如く、迫る脅威に対しては全く臆することなく立ち向かうのだ。

 

 王の為に、そこに一本の道が造られる。突進スキルによって波が一直線に分断された光景は、青年の放った突進術が持ち得る威力を否が応でも見せつけている状態だ。

 ただの一撃でモンスターは恐れ戦き、道幅は更に広がっている。悠々と走り進むリヴェリアを背中越しに見る青年ながらも、彼女が追ってきていることを確認して、再び先を駆けだした。

 

 ひとまずの目標は、18階層にある安全地帯(セーフゾーン)、リヴィラの街。かつてケアンの地を駆け抜けた一人の戦士は、未だ止まるところを知らずにいる。




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