その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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52話 温度差のある戦い

「――――え?」

 

 

 攻撃を行った仮面の男は、情けないと表現できる声を出す。突如として現れた一枚の盾が視界を埋め尽くしている点については、大した問題では無いだろう。

 問題なのは自分自身の身体であり、右腕が“存在しない”。肩の付け根から文字通りに消し飛んでおり、ならば下に落ちたのかと本能的に視線を向けるも、落ちているようには見られない。

 

 ――――報復ダメージ。近接攻撃でタカヒロを攻撃した際、攻撃者に例外なく発生する特殊なダメージ。これから逃れる術があるとすれば遠距離攻撃に徹するか、完全に被ダメージをゼロにする魔法やスキルを発動しておく必要がある。

 青年が持つ報復によるダメージ属性は物理攻撃であり、例えばフルアーマーのような“装甲”で減衰出来るものでもない。故にダメージは、此度の仮面の男が相手ならば減衰無しで到達する。

 

 

 部位破壊のシステムなどタカヒロも初体験ながらも、「部位破壊、そういうのもあるのか」と呑気に考えつつ半ば強制的に納得する。そう言えば星座の恩恵を無効化したままだったなと気づくも特に何もしない青年は、目前にある脅威を何とも思っていない状況だ。フードの下の表情は、相変わらずの仏頂面である。

 それでも2枚の盾がある上でトグルバフの幾つかが有効化されている状況は、いつかベートが吹っ飛んだ時とは比較にならない。カウンターストライクこそ発動しなかったが、仮面の男は吹き飛んだ腕を認識した途端に身体中に重い衝撃が伸し掛かる一方で、何をされたのかが分からずにいた。

 

 光景を見ていたリヴェリアは、以前にアイズが口にしていた「盾を攻撃したモンスターが吹き飛ぶ」という文言を目にして納得する。いくらか見たまますぎないかとアイズにツッコミを入れたことのある彼女ながらも、確かにその表現しか思い浮かばない光景だ。そうなる原理など、全くもって想像すらできない。

 事実、それが報復ダメージと呼ばれる代物のために間違いではない。見たまま、感じ取ったままを己の答えとしていたが故に、アイズは正解を引き当てていたのだ。

 

 

「貴、様!カハッ!?」

 

 

 続けざまに、タカヒロが持つ盾による一撃が見舞われる。アスフィに対して見せた程の耐久を保持しているために油断していたオリヴァスながらも、受けた一撃の大きさに目を見開き、五臓六腑が悲鳴を上げていることが確かに分かった。

 身体に響くかつてない衝撃、先ほどの女性冒険者とは比べ物にならないほどの一撃の被弾。文字通りの比較にならぬダメージを叩き込まれており、殴打を受ける場所が左手、左足と順番が進むたびに、骨が砕け抉れる音が身体に響き耳をつんざく。これが部位破壊の確認という名のお試し攻撃と知れば、怒りから頭に湯気が昇ることだろう。

 

 先ほどオリヴァスに一撃を見舞おうと掛かったアスフィは、あの一撃一撃が持ち得る威力を瞬時に理解する。己とてレベル4、そして武器も一流だったと言うのに僅かにも通らなかった相手に対してコレ程となると、もし自分が受ければ一撃で真っ二つになるかスクラップになってしまうだろうと想像して冷汗が流れた。

 僅か1秒間に放たれた一撃一撃で手足は抉れ、もはや本来の機能を成していない。むしろ痛みを発する分、邪魔なものとも言えるだろう。最後には2秒だけ待ってから腹部へと蹴りが入り、押し出された空気によって開いた口から唾液が飛び散り、身体をくの字にしながら後方へと吹き飛ばされ、首が前につんのめる。

 

 

「“ウィン・フィンブルヴェトル”!」

 

 

 蹴りの一撃が僅かに待たれたのは、彼女の詠唱が終わるタイミングに合わせるため。かつて一度だけながらも見たことのあるタカヒロは、魔力の膨れ上がり方から、終わるタイミングを把握していたのだ。

 蹴りが入った瞬間にリヴェリアの詠唱が完了し、これまた怪物祭の時に見せた氷属性の範囲魔法が放たれた。蹴りの反動を使って飛び退いたタカヒロの先にある一帯を氷漬けにしてしまい、殺伐とした状況ながらも、氷塊の反射する光が輝かしく敷き詰められている。

 

 そのような美しさの中にある、1つの醜態。手足を砕かれ氷漬けにされた仮面の男は上半身と頭のみが表に出ており、もはや動くことは叶わない。

 

 最初は「あの仮面どうやってくっついてるんだろ」と興味を持っていたタカヒロながらも、己のフードも似たようなものだったことを思い出して興味を失う。モノ自体もコモン級の仮面であるために、今やただのガラクタの認識だ。

 つまりは、敵に対する延命処置の選択肢が薄くなる。とはいえ折角だから剥いでみるかということで、仮面はタカヒロの一撃によって呆気なく粉砕され、正体が白日のもとに晒されることとなった。

 

 

「馬鹿な!?」

「オリヴァス・アクト……!?」

 

 

 ヘルメス・ファミリアの面々が驚愕の表情を浮かべ、リヴェリアもまた類似した様相を見せている。数年前、オラリオにおいて傍若無人の限りを尽くしていた“闇派閥”、その幹部の一人。

 27階層の悪夢と呼ばれる、モンスターの大量発生の首謀者。その騒動に巻き込まれ死亡したとされていたのだが、どういうわけか、こうして今も生きているのだ。なお、今まさに全力で冷汗を垂れ流して死にかけているのはお笑い種であるだろう。

 

 驚愕の表情を浮かべる横で「誰それ」と言いたげにしている青年を見つけ、リヴェリアは、それらの内容を簡潔に口にする。一応は耳に入れるタカヒロだが、過去に起こった事の大きさを分かっていないために、頭の片隅に入れておく程度の情報であった。

 そのために、「アイズ君はどこだ」と話の矛先を変えている。ヘルメス・ファミリアもまたアイズがやってくるはずだと叫ぶものの、オリヴァスは息を荒げながら、それは在り得ないと口にする。

 

 

「剣姫は、来ない……。やってくるのは、ソレを倒した者だ。命が惜しくば、お前の後ろに居る者達を見捨てて逃げておけ。そいつらの顔が、ここら地面一帯に飛び散るのを見るのは嫌だろう」

「ほう。まるで自分が、ここ24階層で偶然出会ったパーティーを気に掛けるようなことを口にするではないか」

 

 

――――気にしていなかったんですか!?

 

 割と真面目にショックを受けるアスフィ一行だが、残念ながら今の発言は非常に捻くれている。末尾に(攻撃)こそ無いものの、ケアン流儀における回答の1つだ。

 本当に気にしていなければ、先の助太刀はあり得ない。それが分かっているリヴェリアは「相変わらず捻くれているな」と少しだけ苦笑しつつ、本音は皆を守るように立ち回っていた、優しい彼の性格を再び感じ取っている。

 

 しかし、それも数秒。回復魔法もポーションも使用していないのに“生える”様相を見せているオリヴァスの右手を目にし、全員が驚愕の表情を浮かべることとなる。右肩がボコボコと音を立てて膨張している光景は、中々にグロテスクなものだ。

 約一名ほど驚愕ではなく疑問符を浮かべているのだが、それもまた数秒だけ。直感から氷漬けとなっているオリヴァスの胸部の氷を砕くと、抉れた胸部に、通常の人間には在り得ないモノが存在しており、一帯が驚愕に包まれる。

 

 

「胸部に、魔石……!?あ、あなた、何者なのです!」

「私は人とモンスター、2つの力を兼ね備えた至高の存在なのだよ……!」

 

 

 それも通常の魔石ではなく、極彩色。52階層で遭遇した芋虫、怪物祭で遭遇した花のモンスターと同じ色だと気づいたリヴェリアは、かつて27階層で起こった大惨事が関係しているのかと考え眉間に力を入れている。冷静ながらも状況が呑み込めず、何とかして把握しようとしているのだ。

 一方のタカヒロは、表情、姿勢共に僅かな変化も見られず、とりあえず相手の言葉を耳にしている程度。かつて似たような状況を何度か経験しているために、人間とモンスターとの融合品を目にしても、特に不思議に思わず直立不動で気楽なモノだ。

 

 ケアンの地においてイセリアルの(イーサー)クリスタルを身体に埋め込み遊んで(強がって)いた、どこぞのオッサン達(ウォードンとクロンリー)。そんな彼等も似たようなことを口にしていたと思い浮かべるタカヒロとしては、このような存在も慣れたものなのである。

 そして、さっさと殺すことは容易いながらも、その一撃が向けられることは保留されている。元気が戻ってきたのか、ぴーちくぱーちく五月蝿いものの喋り続けるならば情報源になるということで、オリヴァスは存命している格好だ。オリヴァスがこの期に及んで「TruePoweeeer!!」とでも叫びだしたら、間違いなく最大威力で“堕ちし王の意志”が叩き込まれていることだろう。

 

 

「人とモンスターの雑種(ハイブリッド)だと!?さっき“俺のようにしてやろう”と言ったのは、そういうことか!貴様、なぜそんな身体になった!」

「私は第二の命を貰ったのだ、他ならぬ“彼女”に!この“食人花(ヴィオラス)”も、あのレヴィスも、全ては“彼女”を起源とする者!そしてここが、その“工場(プラント)”というわけさ!そして――――」

 

 

 随分と長く続いた会話を要約すると、中央の柱に纏わりついているのは“巨大花(ヴィスクム)”であり、食人花(ヴィオラス)の生みの親。モンスターの食事処であるココは栽培プラントであり、深層のモンスターを地上へと運び出す中継地点というわけさ!との内容らしい。

 氷漬けじゃなければ少しは格好つくんだけどなー。と内心で呟く相変わらず脳天気極まりない約一名は、彼女って誰だろうと考えながらも、事の大きさを分かっていない。目を見開く周囲との大差が激しいが、心の声も出ていない上に、フードによって見えないためにセーフだろう。

 

 かつて太古の時代に地上へと進出したモンスターは、体内の魔石を劣化させることで繁殖することが知られている。そのために現在はコボルトよりも弱いものがほとんどであり、神の恩恵を貰っていない駆除業者でも倒せるモンスターが居る程だ。

 しかし、今ここに居る食人花(ヴィオラス)は違う。かつての歴史において人類共通の敵とされ、数多の英雄が、世界を守るために散っていった頃のモンスターだ。それが地上へと出れば、世界は地獄へと変わると言って過言は無いだろう。

 

 

「何故です……何故、そのようなことを!」

「簡単な話さ。7年前にも似たようなことがあっただろう、迷宮都市(オラリオ)を滅ぼす為だ」

 

 

 強張った表情を見せるアスフィの問いに対し、オリヴァスは真の目的を回答する。すると、事情を知っている者の目が見開いた。

 7年前、暗黒期と呼ばれる闇の時期。闇派閥が勢力を強め、オラリオのそこかしこで闘争が行われていた戦乱期。数多もの神が天へと送還され、闇派閥と冒険者の全面戦争が行われた時期である。

 

 その目的は今と同じであり、比較的平和だった1000年の歴史に終止符を打つため。バベルの塔というダンジョンの蓋を解放し、ダンジョンのモンスターを地上へと進出させること。それによって、死の世界の再来を招くこと。

 人類とモンスターによって繰り広げられる、戦乱の世。それが再来しようとしていることを知り、そうはいっても事情を知らず置いてけぼりを食らっている約一名を除いて、全員が驚きの表情を隠せない。

 

 空に焦がれ、空を見たいという“彼女”の願いに応える為に、オリヴァスは尽力しているらしい。それを成就するための行動の1つが、この24階層で起こっていることなのだろう。

 邪魔な都市を滅ぼし、愚かな人類と無能でロクでもない神々に代わって君臨するべきは“彼女”なのだと、声高に叫ぶ。その者に選ばれたらしい自分だけが彼女の願いに応えることができるのだと、まるで信者のようなことを口にしている。

 

 

「貴様、さっきからワケのわからんことを!」

「妄想をほざくな!」

「いや待て。無能とまではいかないが、神々がロクなものではないという点は否定できない」

 

 

 怒りを見せる者に対して青年が投げた言葉に、全員が耳を傾けた。確かに無能とまではいかずとも、ヘルメス・ファミリアとリヴェリアは各々の主神の顔を思い浮かべ、なるほどと納得しかけてしまう。

 

 いや、問題はそうじゃなくて。一行はそのように結論付けて考えを振り払うものの、今の一言で怒りの糸は途切れている。おおよそ平常心に戻ったと言っていいだろう。

 あのタイミングで口を開いたとなれば、何かを目的とした発言であることは明らかだ。そのように考えるリヴェリアだが、その答えもすぐに分かることとなる。

 

 平常心を取り戻し、戦いに備えることが先の発言の目的だ。奥から大量の食人花(ヴィオラス)が現れると、捨て身の特攻を見せ、オリヴァスを氷漬けから解放し連れ去ったのだ。

 第二ラウンド開幕と言いたげなドヤ顔を見せるオリヴァスと特攻を仕掛ける気配を隠さない残りの死兵、一方で野望を阻止せんと必死の様相を見せるヘルメス・ファミリア。そこに加わる2名と共に、24階層での戦いは決着を迎えようとしている。

 

 

「――――構えろ、食人花(ヴィオラス)

「総員構えてください、来ます!」

 

 




オリジナルでも耐久が高いのと、星座のスキルは見られたらマズいために無効化されていたので即死には至りませんでした。

今後のお話で必要な内容だったので、ある意味では背景パートですね。
けっきょく背景を理解しきれていない主人公ですが、次回、オリジナルな戦闘がメインで決着となります。


■乗っ取られ語録
・可愛いご婦人(なお実は)の脳味噌が地面いっぱいに飛び散るのは望まないだろう?300鉄片を寄越せ。という脅しに対して
 ⇒まるで私が路上で偶然出会った者のことを、気に掛けるみたいなことを言うじゃないか、死ね!(攻撃)
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