その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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Act.8:Gods and Spirits(神々と精霊達)
Act.8-1:アイズ・ヴァレンシュタインを探しに24階層へ向かえ
Act.8-2:【New】とある神の使者と会って会話せよ


54話 闇からの手招き

「……用事を思い出した。ベル君、すまないが先に戻ってくれ」

「あ、はい、分かりました」

 

 

 24階層の一件があった翌日。オラリオが赤く染まる、夕焼けも終わろうかという時間帯。

 やがて辺り一帯は闇に包まれ、天空には星々が輝くだろう。今日はベルとアイズとの鍛錬はなく、昼過ぎからモンスター相手の実践訓練に付き合っていたタカヒロだが、それも無事に終了し、今は二人でホームへと足を向けていたところである。

 

 大通り沿いにある数々の店舗は活気に包まれ、朝昼とはまた違った姿を浮かべている。ダンジョンで背負った緊張を解すかのように、冒険者は各々の店でジュースやエールを煽り、美味い(さかな)にありつくのだ。

 豪華さの優劣こそあれど、基本としては冒険者のレベル、ファミリアの規模など関係なく似たようなものである。それが、オラリオにおける日常的な光景だ。

 

 もっとも、ヘスティア・ファミリアにおいては滅多に発生しない光景だ。基本として朝晩の食事は3人揃って取っており、此度もまた、タカヒロが教会に帰るまで待たれることになるだろう。

 そう言えば今日の夕飯はベル君が担当だったなと呑気に考え、ついでに後ろから追ってくる気配に対応する。どうやら夜襲の類ではないようだが、人気のない場所へと移動し、タカヒロは声を発した。

 

 

「先ほどから何用だ、つけているのは分かっている」

「……看破されていたか、お見逸れする」

 

 

 振り返った5メートルほど先にある何もない闇の中から、フワリと浮かび上がるようにして漆黒のローブと銀のガントレットを纏った姿が出現する。非常に細身であるが背丈で言えばタカヒロよりも高く、ローブにあるフードは己の物よりも目深で表情は全くうかがえない。

 ボイスチェンジャー越しかのような機械的な声は、非常に特徴的と言って良いだろう。背丈から判断すると男のようにも見えるが性別は不明であり、存在自体が闇のようだ。

 

 先ほどの距離を空けたまま、2名は正面を向いて対峙する。表情は全く読み取れず、何を考えているかも不明ながら、今のところ殺気の類は向けられていない。

 しかし、視線を交わした時間も僅か数秒。てっきり暗殺者かと思ったものの、少し懐かしさを抱きつつ、タカヒロは相手の種族を見破ることとなった。

 

 

「……驚いたな。アサシンの(たぐい)かと思ったが、アンデッドが何用だ」

「なにゅぃっ!?」

 

 

 想定外にも程があったのか、ローブの人物は思いっきり発音を噛んでいる。拍子抜けが過ぎたタカヒロは、何も言い返せずフードの下で無言を決め込んでいた。

 

 

「……」

「……もう一度、いいだろうか?」

「驚いたな、アンデッドが何用だ」

「何っ!?」

 

 

 リテイクの要望が通って、無事にシリアスさんがお帰りなさい。経過はどうあれ、かつて相手にしてきた敵の一部と似たものを感じたタカヒロは、相手の正体を一瞬にして見抜いていたわけだ。

 人前に姿を現すことのないローブの人物ながらも、その容姿は己がアンデッドであることを隠すため。その下は俗に言う“ガイコツ”であり、初見ではモンスターと見間違えられても不思議ではないだろう。

 

 その者、名は“フェルズ”と口にしており、とある神の“特使”のような存在であることを伝えている。タカヒロと同じく冒険者では無く、外観と同じようにオラリオの陰で生きる者。

 陰と言っても、オラリオに危害を加えているわけではないらしい。現段階で信用はないだろうが、信じてくれとの言葉を残している。まずは、軽い自己紹介から入るようだ。

 

 

「ほう、魔術師(メイジ)ときたか」

「ああ。とは言っても、大した者ではないのだがね。アイズ・ヴァレンシュタインへ24階層への依頼を出した者、と告げれば分かるだろうか?」

 

 

 諸事情があるような口調を見せるフェルズだが、タカヒロはさして気にも留めていない。諸事情があるのは彼も同じであるために、ハイエルフのリヴェリアに見せる対応のように、己に対して不都合がなければ特に気にしない傾向がある。

 それはさておくとしても何用だと問いを投げる青年に対し、フェルズは24階層での戦いを見ていたと正直に告げている。その戦いを直に見て、こうして接触を図ってきたと言う内容だ。

 

 今までにおいていくらかの有力な冒険者を見てきたフェルズからすれば、タカヒロは“新たな可能性”らしい。一方で突然と湧き出てきた存在であるために、警戒しているのも事実のようだ。

 もっとも、その内容は事実であるものの、青年の問いに対する回答にはなっていない。未だ名乗らず「用件を言え」と据わった声で返すフードの人物に対し、はぐらかさない方が良いと判断したフェルズは内容を口にした。

 

 

「私は、とある神の下で動いていてね。オラリオの崩壊という言葉、24階層において耳にしたかな?」

「ああ、闇派閥とか言う組織……待て、今確か闇から出てきただろう」

「……なるほど、しかし早合点だ。だからと言って一緒にされては困る。しかし不思議だな、オラリオにおいては有名な闇派閥を知らぬような口調をなさる」

 

 

 知らぬのも当然である。タカヒロがオラリオに来て、まだ二か月も経っていない。

 闇派閥そのものは数年前に壊滅状態へと追い込まれているために、今のオラリオにおいてはあまり名前を聞かぬのだ。しかしながら当時はかなりの勢力を誇っていたために、少し昔からいる冒険者ならば、逆に知らない者は居ない程。

 

 ここから何が読み取れるかと言うと、フードの青年は圧倒的な強さを誇っているが、オラリオに来てからの履歴は非常に浅いと言うことだ。フェルズはその点が引っ掛かっており、先ほどの語尾を口にしたのである。

 とはいえ、相手の男は正直なのか「2か月ほど前に来たばかりだ」と口にする。相手が何者かを探る己の推察が伝わっていないのかと考えるフェルズだが、言いたいことはしっかりと伝わっているのが現状だ。

 

 

「つまるところ、自分を怪しんでいるというわけか?」

「む、待って欲しい。貴公についての点も気にはなっているが、敵対するつもりはない」

 

 

 そうか。と、味の無くなったガムを吐き捨てるように呟き、タカヒロは全く興味が無さそうに呟いた。断面積の割に顔が見えないローブに興味が湧いたために「できれば敵であってほしいなー」と本音が芽生えている、装備キチの悪い癖である。

 

 

「そして先に言っておこう。不死のアンデッドである私は、“死にたくても死ねなくて”な」

「不安に思うことはない、神の加護を得たアンデッドを殺すことなど慣れたものだ」

「なんだと……!?」

「早い話だ、貴様自身で試してみるか?」

 

 

 フェルズに対し、タカヒロは珍しく挑発を投げる。いつかMI目当てで獣の神(モグドロゲン)を煽って攻撃を仕掛けさせた時と同じなのだが、フェルズ相手には通用しないようだ。

 実のところは言葉の捉え方の違いであり、タカヒロが言う“神の加護を得たアンデッド”とは、単純にケアンの地におけるアンデッド。フェルズはそれを“神の恩恵を得たアンデッド”と捉えており、己がかつて恩恵の所持者だったことを見抜かれていると思っている。

 

 その点はさておくとして、不死である己を殺すなど、逆に方法が気になって仕方がない。実のところは青年が普通に殴れば普通に死ぬのだが、まさか相手が、邪な者を払う神であるエンピリオンの加護を得た者などとは思っても居ないだろう。

 そして、青年の戦いを目にしたことのあるフェルズは相手の実力を知っている。魔術師では明らかに分が悪い近接タイプであり、あれ程迄の耐久の高さでは、どれほどダメージを加えられるかも不明な程だ。フェルズ自身も大きく出ることができないとは想像していたが、これで決定した格好である。

 

 あまりにも続く驚愕の大きさに、かきたくてもかけない汗が背筋を伝うかのような感触に見舞われる。周囲の温度が冷えているかのような錯覚も現れており、今すぐここから立ち去りたい心境だ。

 それでも、そうするわけにはいかないのが実情だ。今現在においては、目の前の人物と協力関係になることが、フェルズが所属するグループの目標である。

 

 

 そこでフェルズは、持っている情報を口にする。相手は聞く様相を見せており、これで少しは関心が引けるかと、続けざまに内容を口にしていた。

 

 怪物祭での一件、エルフ3人を襲った花のモンスター。明らかにオラリオの秩序を乱す存在であり、異常事態と言える現象。

 事実、フェルズが確認しただけでも7体。ロキ・ファミリアによればそれ以上の花のモンスターが、オラリオの地下水道で確認・討伐されている。

 

 そして、モンスターに寄生し変異させる、謎に満ちた宝玉の存在。ダンジョンにおけるモンスターの、上位種となる存在の証明。

 50階層における他のモンスターを襲う、極彩色のモンスター。24階層における食糧庫の異変。

 

 これらについて、「どこぞの神が気まぐれで起こした一件」という枠に収まりきらない。というのが、フェルズが下している判断のようだ。

 

 最も気にしているのが、いつのまにかオラリオの地下に居た花のモンスターの存在である。モンスターを閉じ込めるという目的で作られたはずのオラリオにおいて、それは異常事態に他ならない。

 ダンジョンとの唯一の接続地点であるバベルの塔はギルドによって管理されており、あんなところから運び出せるとは考えにくいだろう。ならばと他のルートを考えても、隠せるような大きさではないために思い浮かばないのが実情だ。

 

 

「……素人考えだが、ダンジョンにおける通路というのは未だ詳細が分かっていないと記憶している。見落としているだけで、どこかと繋がっているのではないか?」

「だとしても、少なくとも接続先がオラリオとは考えにくい。ダンジョンの封印と言う使命を帯びたこの街は、しっかりと管理されている」

「と思っているのは、モンスターを封じてきた功績によって蒙昧となっている貴様等だけかもしれんぞ」

「……なるほど、一理ある」

 

 

 イレギュラーが発生している状況において、推測で動くのは自殺行為だ。フェルズはそのことを意識させられて思い返し、フードに隠れた相手の顔を見据えている。

 

 

「回りくどくなったが、結論を話す。オラリオの崩壊を目論む者がいる。そしてダンジョンにおける我々の知らない所で、何かが起こっている。報酬は十二分に支払うことを約束しよう。貴公に、調査の協力を頼みたい」

「ほぅ、我々の知らないダンジョンときたか。さも“ダンジョンの何たるかを知っている”ような言い回しではないか」

「……」

 

 

 迂闊だったかと、フェルズは無言を決め込んでいる。もっとも、ここにきて「知らない」などと(しら)を切れば決裂は免れないために、事実は口にはできないが、ニュアンスだけは伝えるようだ。

 

 

「ダンジョン最下層の攻略。三大クエストの陰に隠れがちだが、それを成し遂げることが、ここオラリオで冒険者として活動している人々にとっては使命とも言えるだろう」

「……ダンジョンの最下層、そこに何があると言う」

「結ばれた誓約……そして、決着だ」

 

 

 その返答。タカヒロはつまるところ、少なくとも目の前のアンデッドは内容を知っていると判断した。その誓約が自分とは関係なく、誰と誰の間で結ばれたかは明らかにされていないが、ワケありということだろう。

 

 

 ――――君の前に現れた謎めいた人物は、自らを特使と名乗り、君を新たな世界へと(いざな)うだろう。

 ――――遥か昔に栄華を誇りながら、滅亡と共に忘れ去られた神が力を強め、今も世界に破滅を招こうとしているのだ。

 ――――そして、その悪行を止める為に。その地で、君の助力を必要としている者達が居る。

 

 

 夢に出てきた、お告げのような内容。どこかで聞いたことのあるフレーズながらも、内容としては、この魔術師(メイジ)との接触から始まる物語であることは伺える。ここにきて、24階層でオリヴァスが口走っていたことが理解できた。

 

――――ならば自分がオラリオに来たのは、この野望を阻止するためか。

 

 そうなのかと心境において問いを投げるも、かつてやるべき事を示してくれたクエスト画面は無言を決め込んでいる。存在する全てを解決したが故に随分と前から真っ新な状態ながら、此度においても変化がなかった。

 故に、決定するのは青年自身となる。オラリオの破壊を目論むと主張する“闇派閥”に対してどのように向かうかは、己の選択に委ねられていた。

 

 出てくる敵が己の実力を試すのに相応しいかは分からないが、新たな冒険における先々にて棒立ちで終わったことなど、今に始まったことではない。とりあえず話程度は聞いてやるかと思うも、気になるところが1つある。

 

 

「一応確認するが、報酬とは何になる」

「成功となれば弾もう。希望があり、こちらが用意できる物ならば用意させて頂く。これは一例だが、希少な素材、多大な金貨、宝石、“目もくらむような装備”。種類は異なるが、第一級冒険者が得るような物すらも凌ぐ報酬を約束する」

「装備で」

 

 

 先ほどの葛藤はどこへやら、即答であった。

 

 

「……なるほど、承知した」

「二言は無いな?」

「あ、ああ」

 

 

 タカヒロ、このやりとりで受諾を決意。ヘスティアへの相談も必要かとは思っているが、報酬の中にあった1つの項目により、やる気は急上昇の真っ最中だ。

 内容は2つ。オラリオの水面下で暗躍する者の討伐と、ダンジョン内部のイレギュラーの対応。どちらも、普通に考えれば決して簡単ではない内容だ。

 

 とはいえ、無茶な要求など慣れたものである。かつての地において最初に受けたクエストが「なまくらの剣と盾をやる。単身でゾンビ共の墓に乗り込んでボスを殺してこい」という内容だっただけに、それから比べれば随分と生易しい。

 

 

「強靭な戦士よ、協力に感謝する。後日、君の主神と共に、会って頂きたい人物の下へ案内させて頂く。連絡は追って必ず」

「そうか、いいだろう」

 

 

 話を終えた双方は共に踵を返し、片方は闇へと消えてゆく。新たな展開を見せる物語がどう動くかは、それこそ神々にも分からない。

 




ソロでの無茶振りクエストはGrimDawnの日常。


■前話まで戦闘パートだったけど、タカヒロは受けたダメージをどうやって回復してるの?
 ⇒16話後書きより、突っ立っていると毎秒385.93のヘルスを回復する。この数値は全ヘルスの1.99%であり、活力による影響は考えないものとした場合、51秒待てば自然に全回復。
  +下記参照。(%表記の場合は最大ヘルスに対する割合)

■装備キチが使用できる回復スキルについて(トグルバフに付属する回復を除く)

スキルリチャージ時間:発動してから再使用可能になるまでの時間:スキル名
 ⇒基本効果

A、15秒:22秒:レジリエンス
 ⇒ヘルスが66%を下回った時に自動発動。5(装備メダルの効果で+2秒間)秒間、治癒能力向上+31%、物理耐性+11%、最大全体性+5%。

B、20秒:30秒:メンヒルの意思
 ⇒ヘルスが33%を下回った時に自動発動。47%のヘルスを即時回復し、更に10秒間で(装備キチの場合)10%程のヘルスを回復する。

C、24秒:34秒:オーバーガード
 ⇒10秒間、ヘルス再生量増加+95%。また、装備メダル“イクリックス スケイル”の効果により、発動時に12%のヘルスを即時回復する。

D、3.2秒:3.2秒:?????の祝福
 ⇒約12%のヘルスを即時回復する。攻撃時33%の確率で発動する、とある星座の恩恵。

E、12秒:12秒:????????
 ⇒約14%のヘルスを即時回復し、ヘルス回復の基礎値+180/s、ヘルス再生効果+60%が8秒間継続。とある星座の恩恵で被打時25%の確率で発動する“半径15mの味方に効果がある範囲スキル”、その他、説明文において強力な効能有り。

F、12秒:12秒:ケアン産ポーション
 ⇒約30%のヘルスを即時回復し、更に最大ヘルスの25%を持続的に回復する。ベル君が気絶した時に使用した代物。

G:装備効果により、攻撃ダメージの9%をヘルスに変換できる。回復量は敵が持っている“ライフ吸収耐性”に左右されるが、“治癒効果向上”(トグルバフにより常に+33%、最大50%程)の効果を受ける。


まとめ:
 ヘルスが33%を下回った際、BとFの2種類だけで30秒おきに77%のヘルスを一瞬で回復できる。つまり自然回復を無視しても30秒おきに全回復。
 本作においては、今のところGの影響で被ダメ分を全回復している感じですね。

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