その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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60話 戦いと祈願

 怪物の宴(モンスターパーティー)と向き合う、パーティー一同の後ろ側。離れた位置で、戦う彼等を見守っている者がいる。

 

 同胞たちの戦いを見ていたい、でも後ろから放たれる妙な気配を感じて気が休まらない。そして無情にも、そんな男には助けを求めるところが無い。

 そんな葛藤を抱いている小さなアラフォー、フィン・ディムナ。どうしたものかと、視線が右に左に泳いでいる。そうしているうちに、少し先で壁に寄りかかっている青年が一か所を指さしていることに気が付いた。

 

 腕を組んだまま手首だけのスナップながらも、1つの個所を指さしている。そしてフィンが気づいたことを確認すると、その指先は、上方向へと変わることとなった。

 最初に指さされた箇所にフィンが首を向けると、そこに居たのは縄でグルグル巻きにされた三人衆。そして、それらの上方向ということは――――

 

 

「あ、そ、そうだティオネ。そこの3人を、ロキ・ファミリアまで連行してくれないかな。僕たってのお願いだ」

「っ――――お、任せください!!」

 

 

 野太い悲鳴と共に、凄まじい速度で引きずられながら三人衆は闇の奥へと消えてゆく。身体から延ばされたロープを引っ張られているだけなので、地上に着くころにはボロボロになっているだろう。

 また1つ、これで小さな借りができてしまったことになる。とはいえ心の荷が下りた彼は、ヒントをくれた青年とは場所こそ異なるながらも、怪物の宴(モンスターパーティー)へと挑まんとするファミリアと同胞を見つめていた。

 

 違う場所から一帯を見ているタカヒロは完全に蚊帳の外となっているものの、此度において“全部ひとりで片付けるぶっ壊れ”は確かに邪魔なだけだろう。相手を評価できる弟子を見つめて、確かな成長を噛み締めるのであった。

 もっとも、そんな彼に気づき心配できるのも、また一流のサポーター。リリルカはタカヒロをチラリと見ると、ベルに対して問題が無いのかと口にする。

 

 

「……ところでベル様。タカヒロ様は、参加されなくて宜しいのでしょうか」

「あー……師匠が戦うと、全部ひとりで片付けちゃうんだよね。だから、今回のパーティー行動には向いてないんじゃないかな……」

「へ?」

「……ベル君よ、反抗期か。耳が痛いぞ」

 

 

 そんなこんなで予想外のダメージを貰ったウォーロードはさておき、やっぱり我慢できなくなったアイズと、先ほどまでの寒気を振り払うためにフィンまでが手加減して参加することとなる。もっとも場が台無しになることはなく、わざと窮地を作ったりしているものの、これ程の者と共に戦える冒険者達は気持ちが高ぶって仕方ない。

 いくら手加減しているとはいえ、戦いの根底は変わらない。集団でもって互いをカバーし合い、試練が見えれば少しだけ無茶をして。パーティーは、文字通りの一致団結となってモンスターに挑むのだ。

 

 そして、忙しさと共に2-3分が経過する。状況としては、あまり宜しくはないようだ。

 

 

「うーん、囲まれたか。ちょっと手加減しすぎたか?」

「でも、レベル1って、こんなものじゃ……」

「そうだね、加減具合は問題無いと思うよ」

「はは、ありがとうござ――――って、へ!?ディムナさん!?」

「は!?」

「はは、そう驚かないでもらえると助かるな。僕も、同じ理由で閉じ込められてしまったよ」

 

 

 パルゥムの姉弟は、どうやら前線の維持を指示したところ囲まれてしまったらしい。もう一人だけ巻き込まれた人物が居たようでポットが後ろを向くと、まさかの大御所が居たわけだ。

 なお、そこに居る理由は二人と同じである。ここにきて初めての指示ミスであり、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるパーティーリーダーだが、落ち込んでいる暇はない。

 

 

「指示が遅れました今助けます、防御に徹してください!盾1枚上がってこい、左方を切り崩して突破するぞ!クラネルさんも力を貸してくれ!」

「応!!」

「わかりました!」

「リーダー!サポーターは遠距離武器で支援できます、使ってください!」

「了解したリリルカさん、準備を頼む!右辺は防御に徹してくれ!」

 

「聞いたかな?助けが来るまで、僕達は防御に徹しようじゃないか」

「は、はい!」

「わ、わかりました!」

 

 

 敵に囲まれつつ、背中を合わせる3人のパルゥム。とはいえ、己の後ろから聞こえてくる落ち着いた声と確かな存在感は、その種族ならば問答無用で緊張感を抱いてしまうものだ。

 やがて3人は駆け出し、レベル1程度の戦闘能力で防御に徹する光景を披露しているものの、どうにも加減が難しい。今までできていた事が崩れかけてしまう程に、パルゥムにとってフィン・ディムナとは偉大な存在なのである。

 

 

「お、おおおい姉貴!?俺達、あのフィン・ディムナと一緒に戦ってるぞ!?」

「ど、どどどうってことないわよポック!落ち着いて!」

「はわわわわ、緊張しすぎて詠唱ができません!」

「なんでメリルにまで飛び火してんだよ!こっちにぶっ放すのはやめてくれよ!?」

 

 

 被打とならぬように敵の攻撃を防ぐだけなのだが、想定外の状況を目の当たりにして、思考回路はオーバーヒートして暴走中。ポックの言う通り何故だかメリルにまで飛び火しているものの、それでも破綻は見られない。

 基礎がしっかりしているからこそ、少しのイレギュラー程度では破綻することなく通じるのだ。絶対的な動きこそレベル1程度ながらも、動きの質を見れば、その者が持ち得る実力は分かってしまう。

 

 そして、左辺へと突撃した二人も上がってきた。アタッカーはベルであり、後方では、サポーター部隊が支援攻撃の用意を整えている。

 

 

「クラネルさん、これはどうやって切り抜ける!」

「左の二体を防いで時間を稼いでください、右は僕が!」

「任せろ、ツォラ!クロッゾさんの防具の耐久性ナメんなよ!?」

 

 

 盾と防具を使って力任せにガードするだけながらも、それは一流の防具を身に着けているための使い方。のっぴきならない状況では、正しい使い方とも言えるだろう。

 それでも攻撃を受ける対象は盾を優先としており、アーマーへ受ける攻撃は、可能な範囲で弱いものを選んでいる。まだまだ技術面では未熟ながらも、やがて、それぞれの使い方をマスターしていくことだろう。

 

 

「リーダー、左辺の半分削りました!」

「サポーターとアーチャー、飛び道具で彼等を援護!」

「はい!」

「今だ、崩れたところから双方突っ切れ!!」

 

 

 そしてロキ・ファミリアのリーダーは見事な陣形を作り込み、内と外から前衛による攻撃が加えられる。結果として無事に3人のパルゥムを救出することとなり、陣形は開始と似た状態に戻された。

 同時に魔導士の詠唱が完了し、タイミングは完璧と言って良いだろう。そこからは一転して撲滅の指示となっており、3人のサポーターもフル稼働で仕事中。

 

 ポーションの配布や敵の死体の移動、戻ってきた前衛の手当てもある。そして同時に後方警戒なども必要で、表情は険しく、やることは過去一番に山積みだ。

 だというのに過去一番にやりがいを感じており、思考回路をフル回転させて最適な行動を考え抜く。仲間のためにできることが何かあるはずだと、各々は、種族や性別・年齢の垣根を越えて団結するのだ。

 

 

 各々の戦いをする4人のパルゥムを優しく見守る勇者(ブレイバー)は、己が知らなかった、これ程の同胞と引き合わせてくれたタカヒロに感謝した。落ちぶれたなどと書かれる己の種族だが、この4人を見れば、誰もが否定するだろう。

 将来を担ってくれる確かな若者達であり、期待の眼差しも向けてしまう。そんな彼等の道標にならねばと力を入れ過ぎて一時的に無双してしまい、プンスカとしたアイズに物言いたげな目を向けられて縮こまっているのはご愛敬だ。

 

 結果としてリリルカは、ロキ・ファミリアのパーティーが見せる動きについていけた。支援攻撃からその提案など、まさに水を得た魚と言えるような活躍ぶり。これで独学というのだから、フィンや引率者の女性も思わず唸るほどのものがある。

 流石に全部が全部合格点、それこそ完璧ということはない。それでも引率の者はシッカリと問題点を伝えており、改善できるアドバイスを与えている。これ程の大規模パーティーを経験することができて、ベルもまた、新たな経験を積むこととなった。

 

 ともあれ、いつまでも戦っていたい気持ちは皆同じ。各々が様々な理由で最初から飛ばし加減で戦っており、体力の限界は早く訪れることだろう。これ以上は危険が伴うために、ここで引率の者から帰還の指示が出されることとなった。

 パーティー行動は破綻の欠片も見せずに終了しており、3人のサポーターによりドロップアイテムは全てが回収され、稼ぎも上々。各々が握手やハイタッチを行うなど、“楽しさ”を思い思いに示している。ヘルメス・ファミリアの3人は非常に緊張した面持ちでフィンに握手やサインを求めるなど、まさに様々な様相だ。

 

 

「リリルカさん、あんたは……お、おい?」

「リリ……?」

「あれ……。私、なんで、なんで……」

 

 

 その興奮も、一段落が過ぎた時。少女の頬を伝う涙に、周囲の者が気が付いた。

 

 

 嫌だと言わんばかりに、駄々を捏ねる子供のように心が叫ぶ。望んだこの時間が何時までも続いて欲しく、終わって欲しくない。

 自己中心的な意見であることは分かっている。自立したつもりだったが、子供のように、思いついた事しか口にして居ないことは分かっている。

 

 それでもきっと、こんな気持ちは二度とない。こんな、体も心も小さな自分を包んでくれたのは、この人達が初めてだった。

 今までのパーティーでは知ることのなかった新しい感情、サポーターとして認めてくれた人たちから、離れたくない。つらく、悲しい日々に戻りたくないと言う感情は、湧き出て当然のモノである。

 

 

 子供のように泣きじゃくるリリルカを落ち着かせようとする、ベルとヴェルフの一方。タカヒロは、ベルから聞いた内容と自身の考えをフィンに対して伝えている。守銭奴の如きソーマ・ファミリアの団長のもとで弱き者が蔑まれる状況は、フィンにとって怒りが芽生えるものだ。

 心ない者からは“ヒューマンの劣化”とまで言われる程に不遇である、同じパルゥムの種族。説明された程の処遇を受けているというならば、その種族の英雄にとって見過ごせる状況ではなかった。

 

 

「……酷い話だね、わかった。さっきの一件もあるからね、僕からロキにも掛け合ってみるよ」

「感謝する。此度の参加と言い、手を煩わせてすまないな」

「ソーマ・ファミリアと喧嘩する理由はこっちにあるけど、今回、ロキ・ファミリアには直接の被害は出ていないからね。少しは借りを返させて欲しいから、任せておいてよ」

 

 

 その言葉と挨拶を残し、ロキ・ファミリアとヘルメス・ファミリアの面々は地上へと戻っていった。こののちに、ロキ・ファミリアとソーマ・ファミリアとの間で“オハナシアイ”が行われることとなるだろう。

 

 リリルカも泣き止み、粗相を見せたことを3人に詫びる。そして、弱々しい声がダンジョンに反響した。

 

 

「どうして……皆様は、私にここまで優しくして頂けるのでしょうか」

 

 

 ベルとしては、かつての自分がしてもらったこと。迷っていた時に手を引いてもらったことを、してあげたかった。有能なサポーターを見放せなかったという点もあるが、割合としては前者が大半を占めている。

 タカヒロとしては、ベルが何とかしてほしいと懇願したために、その願いに応えた迄。リリルカと会うことも2度目であり、仕事ができるサポーターという評価ながらも、相手の事はほとんど知らない。

 

 己の過去と相手の善意を並べてしまい、申し訳なく思ったリリルカは、言い訳をするならば“仕方がなかった”とはいえ、己が今までに犯した罪を告白した。同じファミリアの団員に献上する資金を稼ぐために、どうしても足りない分は、シーフと呼ばれる窃盗行為を行って命を繋いできたとの内容だ。

 あの時、二人と出会った10日前についても同様である。タカヒロが眺めていたナイフを狙って声をかけたと、包み隠さずに話している。

 

――――ああ、だからか。

 

 ナイフが狙われていたことを認識したタカヒロは、己の直感が、あれほどの嫌悪感を示したワケを理解した。狙われていたのが装備だとわかったため、あの感情も仕方がないと納得する。

 

 

 しかしながら、もしも己がリリルカと同じ状況だったならば。そう考えると、似たことをやってしまっていたのではないかと思えてしまう。

 善だの悪だの言えるのは、明日を生きることが出来るから。明日すらも生きることが出来るかどうか分からぬ者に、そのような綺麗事を考えている暇はない。弱肉強食の概念が通じるオラリオならば、猶更のことである。

 

 通常において、人を裁くのは法となる。しかし今の場合、人が人を裁こうとしている。

 故に、直接的な被害者ではない二人には、リリルカ・アーデを裁けない。善ではないと言い切れるが、それを悪であるとは言えないのがタカヒロの持論である。

 

 

 それでも、彼女は罪を償いたがっている。せめてもの罪滅ぼしということで、今の装備はバッグに至るまで全てを売り払い、何かしらの施設に匿名で寄付することで決定された。

 替わりの装備は、今から集められる分から借りて揃える流れ。流石に服までということはないが、文字通りの裸一貫から、リリルカ・アーデは再スタートをすることとなる。

 

 今の彼女からすれば、生き残るためとはいえ働いてしまった罪を滅ぼすために、むしろ率先してやりたかった内容。それで肩の荷を少しでも下ろすことができればと、ベルもその考えに賛成していた。

 しかしながら、ソーマ・ファミリアを脱退しなければ根本的な問題の解決にならないことは明白だ。とはいえ、そう簡単に脱退できるものでもないらしい。

 

 

「い、1000万ヴァリス……ホントか、リリ助」

「はい……」

 

 

 彼女を心配するベルの言葉で、ソーマ・ファミリアから脱退するには1000万ヴァリスの大金が必要との情報がタカヒロとヴェルフにもたらされた。あまり信憑性が湧かない程の大金で驚くヴェルフながらも、彼女曰く事実のようである。

 そして、抜けた後にどうするかが重要だろう。勢いだけで行動を起こしては、良い結末を迎えることは難しくなる。

 

 タカヒロがその点を聞いてみれば、先のようなことを考えておきながらわがまま・無礼極まりないと前置きして、ヘスティア・ファミリアに入りたいとの内容だ。この度、自分に道を教えてくれたベル、その主神、そしてファミリアのために活躍したいと、頭を下げながらもハッキリと述べている。

 その気持ちが嘘か本当かは、ヘスティアならば読み取れる。故にタカヒロとしてはベルの気持ち次第と捉えているが、少年も「師匠と神様がお許しになるなら」と、リリルカを擁護する発言だ。ヘスティアが口にした通り、優しさの塊という表現は間違っていないだろう。

 

 そして此度は、ベルの決定を支持するというのが青年の選択である。故に「二度目は火炙りだ」との言葉でリリルカに釘を刺し、強い意志の篭った瞳で見返す彼女を受け入れることとなる。

 とはいえ、事前条件となる1000万ヴァリスは必要不可欠。決して安くはない金額であるためにベルもヴェルフもどうにかすることはできないが、どうやら、そこの青年には考えがあるようだ。

 

 

「ならばリリルカ君。これからドロップ品の在庫補充に向かおうと思っているのだが、自分の狩りを手伝うか?分け前は払おう」

「よ、宜しいのですか!?」

「だったら俺も付き合いますよ、タカヒロさん!」

「1000万ヴァリスだろう、そのぐらいなら短時間で何とかなる。では、4人で“少し深く潜ろう”か」

「はい!」

 

 

――――短“時間”?少し深く潜る?

 

 

「あっ」

 

 

 いつかどこかで聞いた、その一節を耳にして。3人の中で唯一、ベル・クラネルは“何か”を察したようだ。

 




・原作→冒険者を恨んで窃盗
・本作→どうしても足りない時に窃盗
 少し意味が違っております。

 そして、24階層でパルゥム3人にスポットを当てた理由の答えでした。フィンとの繋がりも含めて、この“IF”をやってみたかったのです。
 漫画版で報われなかった姉弟も報われて、イイハナシダナーで終わろうと……

 思ったんですがねぇ……なんだか、やらないといけない気がして。


 次回、リリルカパートの最終話です。
 コミカルさーん、出番ですよー()

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