その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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連載は終わったけれど新規9点複数、10点評価を3つも頂いたら投稿にて御礼申し上げるのは必然。
ケアンの古事記にもそう書かれているってウォードン先生が言ってた。

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Act.8:Gods and Spirits(神々と精霊達)
Act.8-1:アイズ・ヴァレンシュタインを探しに24階層へ向かえ
Act.8-2:とある神の使者と会って会話せよ
Act.8-3:【New】とある神と会話し、力を貸せ



装備キチ Vs 紐神、ファイツッ!


62話 古代神との会遇

 オラリオ西部にある、廃教会。地下室がヘスティア・ファミリアのホームとなっており、零細ファミリアながらも立派な活動拠点である。

 利用しているのは主神も含めてファミリアに所属する3人だけであり、来客の1つも実績がない程だ。しかしながら、本日は第一号となる者が訪れている。約束の時間よりもかなり早い。

 

 本来ならば黄昏の館に居る時間帯だが、事前に受けた連絡の内容では、具体的な話は本日行われる模様。実は黒衣の魔術師とエンカウントした日に、別件の理由もあってリヴェリアから受ける教導も10日間の中止を申し入れており、不測の事態に備えていたのである。最後に会ったのが例のサーキュレーターの一件であるために、もう既に3日が経過している状況だ。

 廃教会へと訪れているのは、タカヒロがアンデッドである正体を見破った相手、黒衣の魔術師である名をフェルズ。相変わらず闇に溶けるようなローブは怪しさ満点でボイスチェンジャーのような声であるものの、中の人の性格は陽気なところがあるのか、そこそこ話が弾んでいる。

 

 

「アンデッドとなると、食事も取らんのか?」

「はは、そうだね。咀嚼はできるが、それだけだ」

 

 

 ヘスティアはアルバイトがあるために、戻ってくるまでにはもう暫くかかるだろう。24階層での情報共有も終わったために、互いに他愛もない話で盛り上がっている。

 フェルズとしても、こうして生身の人間と世間話をするのは久々だ。己の正体がアンデッドだとバレてしまっているために気負うことも無く、文字通り肩の力を抜いて話せる相手であることに間違いは無いだろう。

 

 一方のタカヒロとしては、フェルズがどのようにして不死になったかが気になっているようだ。そこでフェルズは、信用を得ることと相手の反応が気になり、正直な内容を口にする。

 もともと不老不死の実験のようなことを自らの身体で行っており、とあるタイミングで成功を収める。しかしながら結果としては魂が不変となっただけであり、肉体は普通に老朽化し朽ちたのだ。

 

 少し軽い口調で重い内容を話し、相手の様相を窺う。しかし笑いもせず、かと言って恐れることも、気味悪がる反応も返ってこない。相も変わらず、仏頂面と言っていいだろう。

 予想外の対応であるために、何故かと今度はフェルズが逆に問う。すると、これまた予想だにしていない言葉が返ってきた。

 

 

「実は、似たような……御伽話を知っている」

「似たような、御伽話……?」

 

 

 そう口にしたタカヒロは、インベントリから一冊のジャーナルを取り出してフェルズに手渡す。ボロボロとまではいかないが、くたびれたような薄めの一冊の本。

 とあるページから読んでみろというタカヒロの声を受け、フェルズは状態が良くない本のページを捲った。そこに、驚愕の内容が記載されていると知る由もなく。

 

==(ケアンの地における古い話)==

 

 繁栄を極めた大国“アーコヴィア”。その国王が自らの意志で王位を捨てるという、奇妙な時代に起こった内容。当時のアーコヴィアにおいてはあり得ないことであり、相当の論争を呼んだものだ。

 第三王朝のローワン王は、狂気に襲われていたと記されている。付近に蔓延(はびこ)っていた野蛮な種族との戦闘に勝利し戻るや否や、“モグドロゲン”と呼んだ年老いた旅人との幸運な出会いについて熱弁を振るったのだ。

 

 老人は、アーコヴィアがすぐにでも衰弱し、アーコヴィアそのものが崩壊するという予言を口にしている。彼は王に、称号・富と決別するよう懇願した。

 ローワンはその言葉に従おうとし、権力掌握の好機と見たアーコヴィア貴族の貪欲な長たちは当然ながら王を支持する。女王は王の前で涙を流して、再考するよう嘆願した。

 

 だが、ローワンの決意は固かった。 王はモグドロゲンの言う通りに王位を捨て、貧民となんら変わらない暮らしに戻ったのだ。

 

 その決定的な日から、6週間が経った頃。ローワンは王ではなくなり、また女王は自室で亡くなり、結果として玉座は空となった。

 王を失った悲しみのあまりに亡くなったのだと噂されているが、真相は不明。もっと、闇に葬られた他の原因があるのではないかとも書かれている。

 

 空位となった王座を巡って貴族たちの間で口論が起き、宮廷は混沌に陥った。なんせ、明確な王位継承権が無いのだから無理もない。

 果てしなき言い争いの中で、とある者が、少数により政治が行われる寡頭制(かとうせい)の施行を呼びかけたのである。神の力を借りて、“とある儀式”を遂行するために。

 

 

 それから、しばらくの日が過ぎた。

 

 

 筆を執る者の部屋の下、一階の中庭では鉄同士が穿たれる音が響いている。そこら中から女性の金切り声や子供の悲鳴が響き渡るが、何を言っているかは全くもって聞き取れない。

 寡頭制の支配者となっていた者たちによって住民達が洗脳され、未だ二ヵ月。用意された大儀式が始まってから、それぐらいの時間しか経っていない。

 

 その儀式の意図は、住民に不死をもたらしてアーコヴィアの偉大さを永続させるというものだった。

 もっともこの書物を残した者はそれが言わば“出まかせ”だと思っていたようだが、儀式は悲劇的にも成功を収めてしまう。

 

 事実、アーコヴィアの人々は“とある状態”を維持したまま不死を得たのだが、それは見るも無残なものである。よくある若い美貌を再び得て不死になるなど、都合の良いものは一切ない。

 身体は未だに時間による損傷・劣化が進んでおり、あまつさえ死そのものも迎えるのだ。だというのに魂はその腐敗した身体に囚われたままとなり、永遠にこの土地に縛られるのである。

 

 生きているかのように活動し続け、動くことも話すこともできる。彼等からすれば、まだ普通に生きていたときの人間とほとんど同じ。しかしどういうわけか活力は低下し、生き生きとした思考もできなくなる。

 更に恐ろしいのは、儀式以降に生まれた赤子の噂であった。人間とは程遠い奇形であり、暗く不気味な羽根を身に付けた醜怪なモンスターだというのだから無理もない。

 

 腐り果てた元人間だった肉はすでに腐敗し、やがて跡形もなく消えていく。各々は魂が青い形となりかつての姿を形成し、永遠にアーコヴィアの偉大さを象徴するのだ。

 この書物を書き残している者の建物がある中庭では、戦い泣き叫ぶ騒音が続いている。戦っている者たちは、どのような致命的手段でも死ぬ事ができぬゆえ、この騒音はまだずっと続くことになるだろうと記されている。

 

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「……」

 

 

 そのジャーナルを読んだフェルズは、まったくもって言葉が見つからない。御伽話と仮定して読み進めたものの、あまりにも己の過去と似すぎている。

 それが国家規模で行われたなどと、想像するだけで寒気が走り吐き気を催すというものだ。儀式を行えるほどの魔術師の技量にも感心してしまう点が職業病ながらも、基本として痛ましい感情が芽生えてくる。

 

 最後に書き残された、“ずっと続く光景”。それが終わらぬ永久を指示していることは容易に想像ができるものであり、今も繰り広げられているのかと考えると、悲しみと気の毒さが浮かんでくる。

 しかしこれが物語だというのなら、結末が気になるというものだ。続きがあるのかとフェルズが問うと、タカヒロは回答を口にする。

 

 

「どこからかやってきた部外者が、片っ端から全部殺して無事に解放。ある意味では、ハッピーエンドだ」

「まさか……」

 

 

 不死であるアンデッドを殺すことができる。そう発言した先日の光景が脳裏に浮かび、この者が先ほどの言葉にあった“部外者”なのかとフェルズは考えた。

 

 

「ごめんよ、少し遅くなった!」

 

 

 そんな考えを断ち切るように、屋外から陽気な声が響いてくる。バタンと扉を開いた後に、そう言えば一応お客様的な人が来ていることを思い出していそいそとしている。

 

 今回フェルズがヘスティア・ファミリアのホームへと訪れた目的は、二人を己の主に会わせること。更にまとめると、タカヒロという戦力を使わせてもらうための、お話し合いというワケだ。

 もっとも、内容次第では断ってやろうとヘスティアは意気込んでいる。傍目には“怪しい”以外の感情が生まれないフェルズの様相がその気持ちに拍車を掛けてしまっているが、一般的にも正論であるために仕方がない。

 

 

「えーっと、フェルズ君、だったよね。今日は、これからどうするんだい?」

「私が案内をさせて頂くのだが……10秒ほど目を閉じて頂く。秘密の通路を使うのでね、少し煙幕を失礼するよ」

 

 

 作られた暗闇から解放された数秒後、二人とフェルズが居たのは、ひんやりとした冷気が漂う石造りの通路。辺りは一寸先も見えぬほどに薄暗く、段差があればつまづいてしまうだろう。

 何か手品でも使ったのかと問いを投げるヘスティアだが、フェルズは「魔道具と抜け道」とだけ答えている。己が使うリフトと似たような転移装置であると認識したタカヒロだが、特に問題はなさそうであるために口を閉ざしたままだ。

 

 狭い通路を歩く3人だが、オラリオの街とは違い、恐ろしいほどにまで繋ぎ目が存在しない。恐らくはオラリオにおいても知っている者がほとんどいないと考えているヘスティアは、うっすらと光沢を帯びる幾何学模様が刻まれた通路を進んでいる。

 すぐ後ろにはタカヒロが続いており、万が一の際には動くことになるだろう。ともあれ通路が無限に続くことも無く、やがて行き止まりへと到達した。

 

 

「ヒラケゴマ」

「……」

「……」

 

 

 随分と懐かしすぎるフレーズを耳にして片眉を歪めるタカヒロだが、出所を探るのはナンセンスだろうと無言を決め込んだ。まさか中に“盗賊が隠した宝物”が入っているわけではないだろうなと期待半分で警戒しながら、フェルズのあとに続いている。

 そしてヘスティアも、今のフレーズが分かっているようだ。互いに声に出すようなことはしていないが、数秒前まではシリアスな状況だったために、なんとも複雑な気持ちとなっている。

 

 そんな二人はさておき、ゆっくりと扉らしき物体が左右に動く。磨かれた石に反射した光が仄かに照らす薄闇が支配する広い空間は、僅かな階段があるものの、奥の壁端が見えない程だ。

 床に敷き詰められているのは、通路と同じ石板。埃っぽさはなけれど薄明りに照らされる壁や天井は、さながら古代の遺跡と表現して過言は無い。上へと続く階段が見られる点から、ここが地下であることは想像に容易いものだ。

 

 そんな施設、僅かな階段を上った広間の中心。唯一の光源となっている四(きょ)の巨大な松明が添えられた祭壇にある巨大な石の玉座に、目的の人物は鎮座していた。

 身長は恐らく2メートル以上、体格も覇気も立派なものがある。纏っているローブのフードから覗く髭は白く長く、見た目は還暦のある老人と言ったところ。ぴくりとも身じろぎを見せないが、確かな存在感を示している。

 

 

「ウラノス……!」

「……久しいな、ヘスティア。しかし、そこのお主は、まさか……」

 

 

 フェルズに導かれるように祭壇の正面へと移動した二人のうち、互いに蒼い瞳を交わせ、ヘスティアが思わず言葉を発していた。その名前を聞き、タカヒロも相手の神を知ることとなる。

 ギリシア神話に登場する原初の神の一人であり、天空を司る神。天の対義語が地だと言うならば、ガイアやメンヒルと対を成す神である。落ち着きのあり重厚な声は、他に何もない玉座の部屋に響いていた。

 

 

「……いや、驚いた。まさか、原初の光であるエンピリオンの化身に(まみ)えることになるとはな」

 

 

 ウォーロードを構成する2つのジョブのうち、その片方。オースキーパーと呼ばれる存在は聖なる墓の守護者であり、エンピリオンという天の意思の忠実な執行者にして信仰に篤き番人である。もっともエンピリオンが何かしらの要求をしたことは過去になく、無理難題となれば一瞬にして敵と化すことになるだろう。

 そして鍛錬を積んだオースキーパーとなれば、まさにエンピリオンの名に相応しい化身の如き権能を発揮するのだ。ケアンの地を支配せんとする(よこしま)な者・神の全てを屠ってきた彼がどれ程の鍛錬を積み如何程のレベルにいるかとなれば、説明するまでも無いだろう。

 

 ほぅ。と返事を行い、タカヒロはフードを外す。ウォーロードを構成する片方のクラス、オースキーパーである己は間違いなくエンピリオンの化身であるが、初見で見抜かれたのは初めてだ。

 漆黒の鋭い瞳がウラノスを捉え、ウラノスもまた瞳に力を入れて見返している。そしてその横に居るヘスティアはタカヒロに顔を向け、己が知っている事実と少し違う内容を耳にし、目と口を大きく開いて早速胃が痛くなっている。

 

 

「へっ!?化身!?タカヒロ君、エンピリオンからは加護を貰っているだけじゃないのかい!?」

「自分がエンピリオンを崇拝しているワケではないのだが、似たような力は短時間だけ使えるかな」

 

 

 ――――アクティブスキル、“アセンション”。

 熟考を通してウォーロードは身の内に神の存在(エンピリオン)を宿し、神が持つ真の力の一端を発揮する。

 

 

 それを発動したことにより、神二人の目は最大に見開いた。確かに今のタカヒロの中には神と同じ力が感じられており、まさに化身の名にふさわしい存在である。蛇足だが、一般的にアルカナムと呼ばれているモノとはまた違った力だ。

 本人の言葉通りに持続時間は10秒と短いながらも、様々な効果を発揮させる非常に強力なアクティブスキル。攻守を兼ね備えた主力スキルの1つであり、上限いっぱいにまでスキルレベルが割り振られている。

 

 ちなみにヘスティアが言っている“加護”とは星座による恩恵のことであり、“エンピリオンの光”のことだ。最終段階にあるこちらのスキルはディフェンシブな内容となっており、全くの別物である。

 ともあれ、森の中に隠されたヤベー木を新たに見つけてしまったヘスティアは、さっそく冷や汗が止まらない。己の眷属が神の領域に片足を突っ込んでいることをまざまざと見せつけられ、胃液がグツグツと煮えたぎっているのがハッキリと分かった。

 

 

「話が逸れたな。自分の能力はさておき、本題に入ってくれ」

「さ、さらっと流す前に胃薬を貰えないかな……」

「なんだ、常備していないのか」

「持病が無い限りは常備するような薬じゃないだろ!」

 

 

 コミカルな雰囲気になりつつあるなか、フェルズは咳払いでもって意識を逸らす。その流れで腹を抑えるヘスティアにポーションを渡すと、彼女は一気に飲み干した。胃潰瘍程度は治るかもしれない。

 

 そして、ウラノスという神についての内容がフェルズの口から語られる。来客2人は立ったままながらも、その内容に聞き入っていた。

 “古代”と“現代”という2つの時代の転換期、その節目に、他の神々と共にこのオラリオの地へ降り立った。ダンジョンの大穴から溢れるモンスターの封じ込めに尽力し、恩恵を与えた子供たちと共に、今の迷宮都市オラリオを築き上げた最古の神。

 

 ギルドを己の派閥とし、都市とダンジョンの管理に専念している。それを示すべく、また他のファミリアとは絶対の中立を示すため、ギルドで働く者には己の恩恵を与えていない。

 そしてウラノスがこの祭壇で行っているのは、“祈祷”だ。ギルド本部の最奥にある間であり、他の神が使用すれば天界へ強制送還となる神威(しんい)とはまた違う。強大な神威でもってダンジョンを抑え込み、モンスターが地上へ進出しようとしている動きを抑えているのだ。

 

 それらの説明がフェルズからなされ、どうやら信頼を得ようとして情報を開示していることはヘスティア・ファミリアの二人も読み取れている。地上に降りたのは最近であるヘスティアも、ここ1000年ほどの事情を掻い摘んで知った格好となった。

 続いてフェルズが、先日タカヒロに伝えたオラリオの危機を今一度説明し、ウラノスが肯定する。ヘスティアは神であるためにフェルズが嘘を言っていないことは分かっており、事の大きさを理解して額に汗を浮かべた。

 

 

「もう察しているだろうヘスティア。オラリオに迫る危機を覆すために、彼が持つ強大な力を借りたいのだ」

 

 

 神々は下界に過度の干渉をしないと全員が誓った、1000年前。故に、身体能力的には凡人もしくはそれ以下である神達では、今の問題は解決できない。

 また、ヘスティアは善神と呼ばれる部類の神だ。それこそ神々の都合で、己の可愛い眷属が危険に晒され振り回されることを良くは思わない。故に親しい仲であるウラノスに対しても、鋭い視線を向けている。

 

 

「そこを推して、この通りだ」

 

 

 座ったままながらも、ウラノスは微かに頭を下げた。フェルズも同様のことを行っており、タカヒロとしてはヘスティア次第で協力する旨を話している。

 ヘスティアとしても、そこまでされては無下にすることは行いたくない。ヘスティア・ファミリアとしての協力の約束ではなく、タカヒロが首を突っ込むことに関して承諾した返答を行うこととなる。

 

 

「本人次第だけれど、分かったよ。当たり前だけど、依頼内容を遂行するかどうかの決定権はタカヒロ君にあって、ちゃんと見返りがあるんだろうね?」

「もちろんだとも。報酬は相応のもの、御仁は装備を希望している。その他に希望することがあれば、我々もできる限り応えるつもりだ」

「ふーん。でもフェルズ君、知ってるかい?タカヒロ君が希望している装備のレベルって、ヘファイストスですら何日もかかって未だ完成形も見えていない程の難易度なんだぜ?」

 

 

 えっ。と言わんかの如く上半身を前のめりにし、フェルズはヘスティアに目をやった。それが本当ならば色々と問題であり、ヘスティアは「知らないぞ~」と言いたげな表情を見せている。

 正直なところ、金にモノを言わせて素材を用意。タカヒロが要望するものを、ヘファイストスかゴブニュ辺りに強制ミッションとして依頼すれば収まるものと考えていた。しかし、先の話が本当ならば、突破口など在りはしない。

 

――――二言は無いと口にしたよな?

――――それでも取り消させて!

 

 そんなことを目線で言い合うような顔の動きを見せる二人のうち、フェルズは「だったら装備以外の何かで!」と身振り手振りで交渉中。すると手刀で己の首をトントンとするタカヒロが断固拒否の姿勢を崩さないために、交渉は席に着く前から決裂している。

 

 両手で頭を抱え悶絶しているフェルズの横で、ウラノスはタカヒロに対して質問中。まずは“極彩色の魔石”を見たことがあるかと聞いており、青年は見たことがないと答えを返した。

 ウラノスの指示で正気に戻り“極彩色の魔石”を取り出したフェルズは、タカヒロとヘスティアにその魔石を見せている。ヘスティアもまた首を傾げており、こんなのは見たことがないと答えている。

 

 

「見事に極彩色、だが……」

「タカヒロ君、どうしたんだい?」

 

 

 一方のタカヒロは、何か引っ掛かることがあるらしい。本人としても理由は分からないが、魔石を見つめたまま言葉を発することなく静止している。

 赤、桃、紫、青、朱、茶。おおかたこれらの色合いで構成された、まさに極彩色と呼べる魔石に違いない。結局のところ答えは出なかったようで、魔石をフェルズに返していた。

 

 続いてウラノスは、別の質問を投げている。24階層において魔石を埋め込まれた人間と言うイレギュラーが登場した際に、青年は唯一、気にも留めない反応を示していた。その点についての内容である。

 理由を聞かれたタカヒロは正直に答えており、かつて、とある地方で見たことのある光景を口にした。

 

 此度の案件とは少し異なるが、とある(イーサー)クリスタルを身体に埋め込み、クリスタルに宿る力でもって身体を強制的に強化させる手法。それこそ、神の恩恵に匹敵する程の強化内容だ。

 その手法を少し変えて、クリスタルを埋め込んだ人物を“操る”ことも目にしている。オラリオにおいては、極彩色の魔石がそのような使い方へと発展しないか気にしているというのがタカヒロの現在の心境である。

 

 驚愕と言って過言のない内容を耳にして、魔術師であるフェルズも先ほどの悩みを忘れて聞き入っていた。ウラノスやヘスティアはまさかの事態に驚愕の表情を浮かべており、そうなることは絶対に阻止しなければならないと言わんばかりに眉間に力を入れている。

 

 

 一方の青年からしても、そんな二人の反応は、いい意味で疑問に思ってしまうモノがある。かつて会ったことのある神々が相手ではどうにも思わなかったが、こうも人間臭い神々を見ていると肩入れしたくなるというのが実情だ。

 GrimDawnの根底を解決した己が、今度はGrimDawnの発生を阻止するべく神々と会うことになったと考えれば、不思議と因果があるようにも思えてしまう。何かと愛着が湧いてきたオラリオだけに、見捨てる選択肢が生まれることは無いだろう。

 

 

 こうして、オラリオに迫る水面下の危機に対し、対抗策もまた水面下で動くこととなる。胃を守るようにして腹部を抱えるヘスティアと共に、タカヒロは教会へと帰還した。

 相手が持ち得る勢力の全体像はいまだ見えないが、それは相手からしても同様だ。ここだけを見れば、お互いにイーブンな状況下であると言えるだろう。




ジャーナルの内容は、かなり噛み砕いて文言を変えておりますがゲーム通りの内容です。

■魔石について
 アニメ版だと“ティオネが芋虫から採取した魔石=茶色の中に緑色の光沢”となっていましたが、“極彩色(=鮮やかな色を何色も使ってあること。または、けばけばしい色)”という表現には程遠かったので、参考にはしませんでした。
 原作で明らかになっていない部分なので独自解釈のオリジナル路線です。そろそろ外伝13巻が出るらしいので矛盾する部分も出てくるかもしれませんが、ご了承くださいませ。



■DLC:FG導入時に選択可能なマスタリー
OathKeeper(オースキーパー)
 メンヒル寺院の出身か魔神たちに魂を差し出した者かに関わらず、すべてのオースキーパーは、怯み無き忠誠と熱狂的な激怒という二つの共通点を持っている。
 オースキーパーは、聖なる墓の守護者であり、天の意思の忠実な執行者にして信仰に篤き番人である。
 彼らは、ただ盾や神の力の後ろに隠れているだけではない。オースキーパーにとって、それらは恥ずべき者の血を流し、正義の怒りを導く武器なのである。

■アクティブスキル:アセンション(レベル15)
・深い熟考と固い信仰を通して、オースキーパーは身の内に、一瞬とはいえ神の存在を経験することができる。この導光は、試練の時に慰めを、神の真の力の一端を提供する。
78 エナジーコスト
24秒 スキルリチャージ
10秒 持続時間
+7% 攻撃能力
+166 ダメージ吸収
+446 火炎報復
+202%全ダメージ
+202%全報復ダメージ

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