その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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昨日は七夕でしたね。

なので先のような内容にしてみたのですが、気づきましたでしょうか?
ベル君がオラリオに来たのが4月後半だとすると、この小説内部でも7月初旬ぐらいかもしれません。

本来ならば出会う日ですが、少しだけとはいえ離れている織姫と彦星をイメージして。
つまりヒロインは――――


不明!!(鋼の意思)


いや、うん。ここまできて違ってたらブクマ10000件ぐらい消えそう()
とりあえず、今は装備パートです。


64話 単純思考

「謝らなくちゃいけないわ、ごめんなさい。何回も試したのだけれど、結局、依頼の物は作れなかったわ」

「……そ、そうか」

 

 

――――ガーン、だな。

 

 依頼してからの5日目で聞かされた現状で、薄っすらと想像はしていたものの。それが、青年の抱いた率直な感想だ。

 約束の日、開店直前にヘファイストス・ファミリアへと赴いた青年なものの、待ち受けていた現実は非情である。話を聞くに、どうにもタカヒロが求める防具のベースすらもクリアできていないらしい。自腹で素材を購入して何度も試した彼女だが、結果は変わらずと言った内容だ。

 

 Affix、つまりエンチャントについてもいくらか試したが、増強剤についてはガントレット側の品質が低すぎて試せておらず、その他のAffixも一通り見たタカヒロだが、求めるものには程遠い。具体的な例を挙げると物理耐性や装甲強化などはあるが、僅か3%程度の上昇値である。

 そのような試作品を10品目ほどを拝見した程度だが、エンチャントについても希望には遠い結果である。エンチャントについては強力さを追求すると3つ程度が限界らしいが、素材による影響が多いとのことであり、その点、余計に難易度が高いらしい。この点は、青年とヴェルフがベルのために作ったアミュレットと似たような内容だ。

 

 エンチャントの類は全く付与していない状態の物も出されたのだが、確かにヘファイストスが言うことも理解できる。持ち込んだドロップアイテムとヘファイストスが用意した超一級品の金属で造られたそれらは、基本としてオリジナルよりも装甲値が低すぎるのだ。

 故に、もし有用なエンチャントがついたとしても大手を振っては喜べない。そして妥協無しを掲げるヘファイストスからしても、オリジナルよりも低い性能で満足することなど在り得ないことである。

 

 

「持ち込んだアイテムに、不備でもあったのか?」

「金属と、貴方がくれたアイテム類は問題ないのよ。エンチャントしようとしている内容に、ドロップアイテムが圧倒的に負けているだけ。一応、私が知っている中で最高級の防具に使えるドロップアイテムがどこかに無いか探しているけれど……有る無しの返事だけでも、来月までかかるわね」

 

 

 来月、と聞いて、そこの男が待てるわけがない。煮込み雑炊を待つどこぞのリーマンのように、彼の気持ちは“オブ ザ オリンポス”のAffixがついた未知のガントレットに対する欲求で埋まっている。別の物に興味が湧くことなど有り得ない。

 ならばと、何が必要かを考える。金属、あり。増強剤、あり。どのような過程で使うかは分からないがドロップアイテム、品質不足。となれば――――

 

――――つまり、更に下層で取得できる防具に使えそうなドロップ品。それさえあれば、良いワケだ。

 

 強く興味があることとなると思考回路が短縮してしまう報復ウォーロードが辿り着いた答えが、ソレだった。

 

====

 

 

「ハァッ!」

 

 

 ダンジョン、52階層。振りかざされる双剣の片方が、デフォルミス・スパイダーの攻撃を防ぐとともに、その身体を一太刀で切り裂いた。続けざまに現れたモンスターと、長身とガタイの良い一人の猪人が対峙して間合いを取る。

 レベル8となった彼、猛者オッタルからすれば、この階層のモンスターなど敵ではない。あくまでも倒し方や防ぎ方、つまるところ技術の向上を目標としている。58階層からの攻撃にも注意を払わなければならないこのエリアは、基礎的な鍛錬に打って付けと判断し、フレイヤの許可を貰って、二日前から籠っているのだ。

 

 ――――ゾクリ。

 

 新たに現れた敵を目の前にしているというのに、背中が嫌と言う程に震え上がる。敵の後方から発せられる圧倒的な気配に、対峙していたモンスターも後方へと振り向いて最大限の警戒を見せているほどだ。

 52階層で感じる気配ではない。そして49階層の階層主が発するものといえど、この足元にも及ばない。まさかイレギュラーの類かと考え、オッタルは目を見開きつつスキルを使う用意をし――――

 

 

「おや?誰かと思えば久しいな、猛者オッタル」

「……あ、ああ。御仁だったか」

 

 

 どこかで見た二枚の盾を持つ戦士が、モンスターを轢き殺しながらやってきた。相変わらずフードで表情は見えないが、少し急いでいるように見て取れる。

 しかし、状況は止まらない。飛び退いたオッタルの忠告虚しく、58階層から行われる火球攻撃は、突っ立ったままの青年に直撃することとなり――――

 

 

「気にするな、大したことは無い。では、先に行くぞ」

 

 

 まるで、何事もなかったかのようにその言葉だけ残し、謎の戦士は58階層へと続く竪穴へと消えてゆく。直後、イル・ワイヴァーンの悲鳴が数々聞こえているのだが、オッタルにはその穴を覗き込む勇気は持ち合わせていなかった。

 かつての狡猾さなどどこにもない、圧倒的な力量(ゴリ押し)。本来ならば自分もあのように屠られたのかと考えると、猶更の事、あの時の戦いに感謝しなければならない気持ちが芽生えてくる。

 

 

「狡猾さで負け、力量の差もまた歴然……どちらにせよ、俺もまだまだか。しかし――――」

 

 

 追う背中は、ひどく遠い。それにしても遠すぎはしないかと思うも、それでも己が道を走ることには変わらない。

 主神フレイヤのために、強くなる。明確な戦う理由を抱いている猪人は、鍛錬を再開した。

 

 しかし先程の発言のうち、1つの事実が気になって仕方がない。フレイヤすらも見たことのない爽やかな表情で、青年が降りていった穴へと顔を向ける。

 

 

「俺程度の者の名を、二つ名も含めて覚えていてくれたのか……!」

 

 

 猛者オッタル。あまりの嬉しさに【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】が発現――――は、しなかった。しかしながら気分はウキウキであり、気合を入れ直して鍛錬へと戻っている。

 実のところタカヒロが名前を憶えていた理由として、猛者が掲げていた戦う理由に感心しているのだ。相手こそ主神でなけれど、そう在れれば素敵だなと、秘かに焦がれていたりする。

 

====

 

 黒い鎧の塊が、薄暗いダンジョンの58階層を疾走する。ガーディアンこそ召喚していないが全ての装備効果と星座の恩恵を有効化しているその姿は、かつて幾たびの地獄(ケアンの地)を駆け抜けた姿の再現だ。

 

 コモン級のモンスターが近接技において青年を攻撃しただけで、モンスター側が即死する理不尽さ。轢き殺されるとは、文字通りの表現である。

 50階層から出撃したその青年が目指す場所は、遥かなる下層エリア。そこへ辿り着くために59階層へと突入した際、広い空間のド真ん中にある、天井まで聳えんばかりの巨大な植物に目がいった。

 

 しかしウォーロード、これをスルー。58階層も59階層も大して変わらんだろうと言う考えが根底であり、どう見ても重装備用の防具の素材を落とすとは思えないために眼中から外れている。

 結果としては、いくらかの芋虫が轢き殺された程度。関係ないモンスターはスルーして目的地に向かうという、ハクスラ民のお約束を無意識に実行してしまっている。

 

 

 60階層から先は数えていない。正確には数えられないと言った方が正しく、ダンジョンについては相変わらずの素人である彼にとっては、そこが階層が切り替わったのか単なる下り坂なのか、全くもって理解できないでいた。

 流石に60階層より下の内容については、リヴェリアの授業において出てこなかったことも要因の1つだろう。途中、何やら精霊らしい姿も把握したものの59階層と同じように防具の素材とは程遠いために、相変わらず何もなかったかのように眼中にしていない。

 

 時たま明らかに地形が変わったところなどは、一階層降りたのだな程度の把握は可能である。もっともプラス1階層という程度の情報であり、今居る階層を教えろと言われても無言を決め込むのが関の山である。

 潜るにつれてモンスターの強さが増していっているが、青年からしてみれば誤差程度で大して問題ではない。更に強く、さらに多くの敵に囲まれることなど日常茶飯事であったかつての世界と比べれば、余裕にも程があると言ったものだ。

 

 

『■■■――――!』

 

 

 狭い洞窟に時折響き渡るは、そんな青年に喧嘩を吹っ掛けるべく拳を振り上げたモンスターの雄叫びだ。侵入者に対して容赦なく行われる攻撃行動は、どの階層でも同じである。

 しかし、被ダメージによる悲鳴の類は一切無い。そんなものをあげる前に四散か飛び上がって絶命しているために、当然のことである。

 

 日帰りということで一種のタイムアタックと化しているこの状況において、ひたすらに下へ下へと進んでいる。有象無象の群れはやはり多量が向かってくるが、その程度でウォーロードが止まることなど在り得ない。

 報復ダメージはもとより、モンスターを倒す際のセオリー、魔石がある位置を正確に穿つ殴打の一撃は、立ち塞がるモンスターをなぎ倒し灰の山を築くには十分に威力がある。微塵も速度を落とすことなく疾走するその姿は、さながら向かうところ敵なしの戦車と言ったところだろう。時たま少し迷っているのは、恐らく人間アピールに違いない。

 

 そんなことを続けているうちに、未だかつてない広大さを誇る広場のような場所へと辿り着く。まるで何者かが来るのを待っていたかのように、中央に、そのモンスターは君臨していた。

 

 

 大きさは、頭から尻尾の付け根までゆうに50メートル。一種の鉱石とも見える、黒光りしたつやのある鱗に包まれたその姿は、紛れもなくドラゴンの類である。

 全身が真っ黒と表現して過言は無いだろう。いつかの本で読んだものとは違って隻眼ではなさそうだが、直感的に黒竜と呼んで差し支えのない様相を見せている。それよりも彼としては、その“等級”が気になった。

 

 

「ほぅ、ネメシスの分類か」

 

 

 ネメシス、日本語訳で復讐者と呼ばれるその存在。ボス級よりも強く、ほぼほぼセレスチャル専用カテゴリとなるスーパーボス級よりは弱いカテゴリに位置するモノだ。

 目の前の存在のカテゴライズはビーストのようであり、その点については想定通り。そしてビーストのネメシスは強いと言うのがセオリーであるために、このモンスターについても期待してしまっている青年である。

 

 ケアンの地においては様々な怪物を相手にしてきたが、ドラゴンを相手にしたことはない。精々、以前にダンジョンで屠ったカドモスやイル・ワイバーン、ヴァルガング・ドラゴン程度が関の山だ。

 

 その時のヴァルガング・ドラゴン宜しく、挨拶代わりに黒竜から咆哮が放たれた。開かれた大きな口からは、業火と呼んで差し支えない攻撃が青年に襲い掛かる。同時に前足が振り上げられ、爪による一撃が飛来する。

 基本としてブレスと呼ばれる、その魔法攻撃。ヴァルガング・ドラゴンと似た、しかし威力は魔導士が放つ大魔法ですら比較にならない程に強力な一撃が複数。全てを焼き尽くしダンジョンを破壊する攻撃は、コンマ数秒と経たずに青年へと直撃した。

 

 辺り一帯を地獄の業火に包み込み、視界を遮る程の煙が立ち込める。攻撃による爆発の余波は未だ続いており、残りやすい音については鼓膜を破らんとばかりに響いている。

 この階層に迷い込んだ、いかなるモンスターをも一撃で葬り去ったその攻撃。結果としては、文字通り火を見るよりも明らかで――――

 

 

 晴れる煙の中に人間が仁王立ちしているのは、己の目の錯覚ではないはずだ。間違いなく全力で放ったブレスによる連続攻撃だったというのに、傷1つ負っていない様相を見せている。

 

 

 続けざまに青年の口元がニヤリと歪んだのは、相手がノーマル環境のネメシスと比べて圧倒的な強さを見せたため。エリート環境に匹敵するその敵は、久方ぶりに少しだけ歯ごたえがあるというものだ。

 もっとも別の理由が圧倒的に上回っており、ノーマル環境の1つ上であるエリート、最高難易度のアルティメット環境で出てくる敵は、ノーマル環境と比べてドロップするアイテムが全く違う。装備の直ドロップこそ無いだろうが何かしら期待できるのではないかと、彼のやる気スイッチがONのままで固定されてしまっているのだ。そんなスイッチはOFFにしようにも、ONの反対側もONとなっているので不可能だろう。下手をすれば、反対側はTurbo(ターボ)になっているかもしれない。

 

 

 攻撃が通じないという恐怖を振り払うように、ドラゴンが再び吠えあがる。目の前に現れた訳の分からない生命を抹殺するべく、効かぬと把握したはずの魔法攻撃を再開する。

 この男を相手に物理による近接攻撃は悪手であると、最初の一撃で察していた。ドラゴンの己ですら内臓を抉り取られるかのように感じる程に強烈な物理報復ダメージは、二度と受けて良いモノではない。

 

 直感的に魔法攻撃に切り替えてみれば、そのダメージは無くなった。全力の一撃ですら大して効かぬことは先の一撃で分かっているが、それでも物理攻撃に戻す選択肢だけはあり得ない。

 魔法攻撃3回のうち1回ほどに強烈なカウンター攻撃こそ貰っているが、基本として体力の差は歴然だろう。この程度のダメージ交換ならば、己のライフが削られる前に倒しきれる。

 

 ――――そう判断した事こそが、黒いドラゴンが抱いた、小さな敗因の1つである。

 

 あと何度、魔法による砲撃を与えれば、この人間は倒れるのか。マインドの消費を無視して、どれほど高威力の魔法を無詠唱レベルで連続して放とうが、相手の様相に変化はない。

 モンスターながらに冗談としか思えない目の前の状況だが、直面していることもまた事実。みるみるうちに減らされる己の体力もまた、何とかして対処しなければならないことは間違いない。

 

 ならばと、ダメージの割合を反射できる魔法を使用してみる。皮肉なことに己の魔法攻撃よりもダメージは与えられているように見えるが、結果としては同様だ。驚愕の表情で相手を視界に捉え、1つの真実に辿り着く。

 この人間は、絶対に倒れない。黒いドラゴンのモンスターは、死の間際になってようやく、その揺るがぬ事実に気づくことになり――――

 




 パチン   __ノ\
  Turbo |  ノ\| ON
       ̄ ̄ ̄

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