その迷宮にハクスラ民は何を求めるか   作:乗っ取られ

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盆明けと共に残業ラッシュやめて…


84話 誰かのために強くなれ

 落ち着いたリヴェリアが名残惜しそうにリフトに入るのを見送った青年は、一度リフトを閉じると己の仕事を遂行する。途中で見つけた武器を拾いながら、60階層への入口へと歩みを進めていた。

 60階層への入り口へとたどり着き、前回更に下へと降りて行った時と同じく、足元から伝わる冷ややかな空気を感じている。吹き荒れるブリザードの中で時間にして10分ほど、大まかにマップを開拓して追撃者が居ないことを確認すると、リフトを開いて50階層へと戻ることとした。

 

 なお、本人曰く「何もしていない」と語るその状況。しかしながら遺灰の山がそこかしこで築かれているのは日常茶飯事なので、気にしてはならない光景だろう。

 

 

 50階層に存在するリフトポイントはロキ・ファミリアのベースキャンプから離れたところに出るため、先に戻った全員も含めて200メートルほどの距離を歩くことになる。リフトを閉じ盾を仕舞った彼がベースキャンプへと辿り着いたタイミングでは騒動も落ち着いており、ロキ・ファミリアの面々は作業をしながら青年へと視線を向けている状況だ。

 その先で、大きめの岩に腰かける弟子の姿を捉える。目線の先はアイズ・ヴァレンシュタインが居るらしきテントに向いており、無事とは分かっていても、不安げな表情を隠しきれていない。

 

 よほど集中していたのか、タカヒロが横に来るまで接近に気づいていなかった様子だ。口には出さないが、「不安か?」と口元の仕草で問いているタカヒロに対し、ベルは「バレました?」と言わんばかりに苦笑で返した。

 その後、タカヒロから右手の甲が出され、次いで少年の左手の甲。二つの篭手が合わされ、カツンと軽く音を出す。片やフードで口元しか見えないが互いの表情は一戦を終えた戦士の力強さを見せており、同時に達成感が現れている。

 

 

「突撃の際もそうでしたが、本当に、ロキ・ファミリアの団員が見せる連携は凄いですね……。こうして見ていても、各々の役割をしっかりとこなしています」

「そうだな……。たとえそれが命を懸けた実戦でなかったとしても、仲間のために、自分の戦う理由を持っている」

 

 

 ソロで生きてきた男の目からしても、容易に分かることだった。真剣さは気迫となって拠点一帯に現れており、誰一人として死なせないとせん覚悟が溢れている。

 タカヒロが「命を懸けた実戦ではないが」と表現したように、これはモンスターとやり合う死闘ではなくロキ・ファミリアを支える者達の戦いだ。眉間に力を入れて目にするに値する光景を、師弟揃って観察している。

 

 

「師匠……」

「……どうした」

 

 

 突然と呟くように、正面を見据えたままベルが口を開く。様相こそ幼げが残るながらも据わった雄の表情に、タカヒロが横眼を向けた。

 

 

「この戦いで、確信しました。僕は、アイズ・ヴァレンシュタインのための英雄になりたい。だから、強くなりたいです」

 

 

 最初は、己が避ける一方だったミノタウロスを瞬殺した姿に焦がれただけだったのかもしれない。しかしひょんなことから距離が詰まって共に過ごすうちに、明確な好意が芽生えているのは明らかだ。

 

 幼少の頃から穴が開く程に読み返し何度も夢見た存在、数多の物語に登場する大英雄“傭兵王ヴァルトシュテイン”とは違うけれど。彼女のための英雄になれれば素敵だなと、少年は想いと共に決意を表す。

 それは青年が口にするところの、心中の正義に掲げる“戦う理由”に他ならない。ただ強くなりたいという漠然とした気持ちとは一線を画す明確な目標は、少年を更なる高みへと押し上げることになるだろう。

 

 とここで、アイズ・ヴァレンシュタインとヴァルトシュテインの名前が似ていることに気が付いたベル・クラネル。しかし偶然だろうと、特に疑問に思う事はしなかった。

 

 

「……そうか。それはベル君が抱く、大切な戦う理由だ。また一つ成長したな」

「……ありがとうございます。ですが、すみません、突然こんなこと」

「気にするな。だがその想いが本物だと言うならば、何があろうとも貫き通せよ」

「はい、師匠」

 

 

 そう言葉を残し、タカヒロは右手をベルの頭に置いている。どこか少し荒く、しかし成長を褒めるようにかき回される髪の感触は、ベルにとって心地よいものだった。

 

 

「……自分も、かの猛者のような戦いができればな」

「猛者……レベル8の、オッタルさんですか?」

「ああ、そうだ」

 

 

 ワケ有り気な一文だったが、それ以降は続かない。弟子に習ってタカヒロも岩に登って座っていると、体中に包帯を巻いたフィンが背筋を伸ばしてやってくる。雑談ではないなと感じた青年はベルを促して岩から降り、師弟は彼に向き合った。

 男三人が示す立ち振る舞いに、普段の気軽さはどこにもない。それぞれの戦う理由を持った戦士が場に並び、最初にフィンが口を開いた。

 

 

「……この度は」

「団長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 ビクッとしてそちらを見るベルと首だけ向けるタカヒロの先には、こちらもそこかしこに包帯を巻いた暴走特急アマゾネス。名称を付けるならば、“姉御”ならぬ“姉号”あたりが妥当だろう。

 聞こえていなかったのか団長の一言目を遮りドドドドドと土煙を上げてやってくるその身体を止めようと妹のティオナは必死にしがみついているが、ブレーキ力が足りていない。そこでフィンは、ブレーキ代わりの魔法の言葉を口にする。

 

 

「ティオネが無事だったのは嬉しいけど、今ちょっと立て込んでてね。ティオネも疲れたろう、死んじゃったら困るから向こうでゆっくり休んでいるんだ」

「っ――――!団長からOKの返事が聞けるまで、私は死ねませんから――――!!」

 

 

 白髪の師弟コンビは、ドップラー効果付きの後ろ姿に顔を向けている。持ち込んだポーションが効いたのか元々の回復効果が高いのか、そこらへんの雑魚との戦闘では問題がないレベルにまで回復しているのには何よりだ。

 もっとも、その感想は第三者だからこそ生まれる代物。走り去る姿が小さくなって消えていくと、フィンは大きなため息をこぼすのであった。

 

 

「……すまないね。彼女、ティオネはいつもこうなんだ」

「ははは……」

「……重い愛、というやつか。溜息が出る程の気持ちは汲める、同情はしておこう」

「……重ね重ね、申し訳ない」

 

 

 じゃ、仕切り直して。と口にし、フィンは再び二人に向き直った。ベルとタカヒロも、再び背筋を伸ばしている。

 

 

「この度は、ヘスティア・ファミリアの助力に感謝する。本当に……本当に、助かった」

「自分達は同盟関係である上に、困った時には助け合うと言うのが冒険者のセオリーだろう。気にすることは無いと言いたいが……その小さな身体に秘める、誰よりも気高き勇気が許さないと言うなら貸しにしておく」

「っ――――」

 

 

 相手の青年が口にするだろうことはある程度は読めていたつもりだったが、まったくもって過信だったと己を恥じた。

 

 付け足された予想外の言葉。あれ程の戦いを見せる者に己が誇る譲れない1つを認められ、フィン・ディムナの中にある炎が焚きつけられる。全力で戦った直後の満身創痍だというのに、なぜ彼の言葉は、これほどまでに強い戦意を湧き立たせるのだろうか。

 目の前の戦士はまるで優れた自制心と戦場戦術の知識を持ち合わせ、激戦にうってつけのリーダーであるかのような雰囲気を見せている。仲間の能力を、まさしく最大に発揮させるよう奮い立たせるような発言だ。彼の傍に立つならば安息を得るとともに、あの時のベル・クラネルのように、勇気ある行動を起こすよう掻き立てられることは間違いない。

 

 そんなやり取りを見て憧れるのは、少年もまた同様。彼からすれば互いに雲の上である二人が交わす戦士の誇りに満ちたやり取りは、耳にするだけで興奮を覚えると言うものだ。

 いつか自分もああ成らんと幾たびの覚悟を抱き、何度目にしようとも憧れるものがある。やはり己の師は自分が目指す道標なのだと、会話の場面とて魅せてしまう戦士二人の姿を目に焼き付けていた。

 

 

「で、どうする。撤退の用意が終われば、地上へと戻るリフトも開けるが」

「……いや、このまま自力で地上へ戻るよ。僕達は、まだまだと言うことがよくわかった。楽ばかりはしていられない」

「そうか。では、自分とベル君はこれで……ああ忘れるところだった、窃盗にならないうちに返さねば」

 

 

 そう言うと、タカヒロはインベントリから二本の槍を取り出した。突如として出現したものながら明らかにフィンが投擲した己の槍であり、一本は折れているもののもう片方は十分に使用できる。60階層へと向かった彼が、偶然にも見つけた代物だ。

 再度お礼の言葉を述べるフィンに対してタカヒロはアイズの剣も取り出し、これはベルに渡している。返してきなと声を掛けると、少年は畏まってアイズのテントへと走っていき――――

 

 

「着替え中の札が貼ってあるでしょおおおおおおお!!!」

 

 

 ラッキースケベと表現するには無理がある覗き未遂をかまして、入り口に居た団員に怒られ平謝りしていた。直感的に兎が何かしたことを察知した山吹色の高性能パッシブレーダー(レフィーヤ・ウィリディス)は馳せ参じようとするも、治療担当に抑え込まれて動けない。

 まさか確認を取らずに女性のいるテント内部へ突撃しないだろうなと不安を覚えていたタカヒロだが、ベル・クラネルは期待を裏切らない模様。見事、不安が的中してしまった格好である。

 

 

「……ロキ・ファミリアの団長、フィン・ディムナよ。早速だが、先ほどの貸しを返して貰って良いだろうか」

「ははは、まさかその程度で。これは暫く、返せそうにないものだよ」

 

 

 溜息を隠せなかった青年に、フィンは気さくな表情で返していた。

 しかし、青年が見せる様相も一度だけ。タカヒロはいつも通りの表情に戻ると、先ほどの戦闘について質問を投げることとなる。

 

 

「ところで、敵が使った魔法の詠唱なのだが――――」

 

 

====

 

 

「起きてますか、アイズさん」

「っ、ベル……」

 

 

 ひょっこりと顔を出した少年は表情を崩しているものの、すぐさま苦笑してつい先ほどの失態を謝った。実のところ着替えはとっくに終わっていたものの、つられてアイズの顔にも微笑みが浮かんでいる。

 そしてデスペレートを見せて簡易的な机の上に置き、そのままアイズの枕元に正座して声を掛ける。互いの無事を喜ぶように拳を合わせると、アイズは今まで言うタイミングのなかった感謝の言葉を口にした。

 

 

「ベル、助けてくれてありがとう……。あの時のベル、すごく……かっこよかったよ」

「っ……!」

 

 

 出会って数秒で突然と繰り出される右ストレートを予知できずに顔面に受ける少年だが、先の覚悟もあって、心の内ではそれはもうアルミラージ(白い兎のモンスター)によるエレクトリカルパレードが開催されている。正直に言うと怖くてたまらなかった場面であったが、あのシナリオを描いてくれた己の師匠に頭が上がらず、今の言葉を脳内でリピートして顔がニヤけかけているのはご愛嬌だ。

 とはいえ、せっかくカッコイイと褒めてくれたのに、そんな顔をしていては自分の株価が下がると言うものだ。時間もあまりないために顔を背け咳払いを行い、一時的な別れの挨拶を口にする。

 

 

「僕は師匠と先に戻ります、アイズさんも気を付けてくださいね。地上に戻ったらまた一緒に、いつもの場所で剣を教えてください」

「うん、任せて。私達も、無事に戻るよ。待っててね、ベル」

 

 

 その言葉に花の笑顔を返しテントから出ていく少年と、それを見て己の顔が火照るのが分かり布団を引き上げて顔を隠す天然少女。鼓動の音がベルにも聞こえてしまったらと考えるも、どう頑張っても弱くなる気配が見られない。

 今の今まで誰からも貰うことのなかった心配の言葉を掛けられたからだろうかと考え、そうでないことは自分でも理解できた。胸の奥がキュンとなり心がくすぐられるこの感覚は何だろうかと思うも、決して嫌なものではない。

 

 なんせこちらも、例の箱入り娘(lol-elf)と同じベクトルにいる天然少女である。己が抱いて居るものが恋心などとは微塵にも分かっておらず、少年が見せる笑顔で心ときめく初心な少女だ。

 

 少年は1-2分ほどで出ていってしまったものの、あの花のような笑顔が見れてアイズの気分はかつて無いほどに上々である。その後見せた彼女の満面の笑みを見た者は誰も居ないが、幸せな心を抱きつつ身体を休めるのであった。

 




■トグルバフ:フィールドコマンド(レベル12)
・優れた自制心と戦場戦術の知識を持ち合わせ、激戦にうってつけのリーダーとなる
185 エナジー予約量
12m 半径
+86 攻撃能力
+86 防御能力
+25%装甲強化
+■付属パッシブスキル:スクワッド タクティクス(レベル12)
・仲間の能力を、まさしく最大に発揮させるよう奮い立たせる。
+50 エナジー予約量
+85% 全ダメージ
+14% 攻撃速度
+14% 詠唱速度


■トグルバフ:美徳の存在(レベル15)
・オースキーパーは美徳と信念の鑑であり、それらは付近の仲間を鼓舞する特性である。彼らのそばに立つ者は、勇気ある偉業を起こさずにはいられない。
190 エナジー予約量
12m 半径
100% 次のうち一つを確率で付与
-> 320 体内損傷ダメージ/5s
-> 192 出血ダメージ/3s
+157 攻撃能力
+8.3 エナジー再生/s
+152 物理報復
 +■付属パッシブスキル:安息所(レベル10)
・オースキーパーの存在が戦場の安息所となり、容赦のない打撃から慰安を与える。
+100 エナジー予約量
+18% ヘルス
+13 治癒効果が向上
+10% シールドブロック率
+30% シールドダメージブロック
 +■付属パッシブスキル:叱責(レベル14)
・オースキーパーとその仲間の心が、正義の激怒で掻き立てられる。
+128 エナジー予約量
+32-37物理ダメージ
+29% 反射ダメージ削減
+29% ヘルス減少耐性
+132% 全報復ダメージ
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