悪鬼も哭き出す   作:笹の船

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半年ぶりの投稿ですが、大して話に進展はありません


水柱 対 赤い外套の男

 富岡義勇は鬼殺隊の柱だ。

 鬼殺隊とは、読んで字のごとく鬼を殺す組織。そしてその中で最高戦力とされる隊士が『柱』の肩書を拝命する。

 そんな鬼殺隊でも頭一つ抜けた実力者たる義勇は、かつてないほどの無力感を感じていた。

 鬼が現れる。それも鬼の首魁たる鬼舞辻無惨がいるかもしれないという情報をもとに急行した山奥で、義勇は見たことも聞いたこともない男と戦っていた。

 血の様な赤い外套、見慣れない白髪、身の丈ほどもある大剣。日本の者ではないのは一目見て明らかだった。

 男の背後には、鬼になった少女に組み付かれた少年がいた。恐らく家族関係にある二人なのだろう。一刻も早く頸を切らなければ少女は肉親を食らうという罪を犯してしまい、少年は命を落としてしまう。そんな地獄は、もう見たくはない。

 だというのに、目の前の男は義勇を二人の元に行かせまいと邪魔をしてきた。既に幾度か男と剣を交えているが、一向に有効打が取れず悪戯に時間ばかりが過ぎていく。

 

「クソッ……」

 

 思わず毒づきながらも、義勇は呼吸を整えて技を繰り出す。

 

―全集中・水の呼吸―

 漆ノ型 雫波紋突き

 

 鬼殺隊の戦いを支える全集中の呼吸。その中の流派の一つ、水の呼吸の中で最も速い突き技。柱である義勇が繰り出すそれは、傍から見た素人には瞬間移動と呼んで差し支えない速度。まさに世に伝わる縮地のソレだ。

 だが常人には必殺の突き技を繰り出してなお、義勇と相対している赤い外套の男はフッと笑みを浮かべると半身になることでいとも簡単に回避してしまった。

 当然技を回避された義勇に隙が生じる。そして、相手はそれを見逃すはずがなかった。並の隊士であれば見切ることもできないであろう速さで右足を踏み込み、力強い袈裟斬りを繰り出して来る。

 勿論、その程度で動揺する義勇ではなかった。雫波紋突きはあくまで牽制だ。避けられたことなどこれが初めてではない。

 

―全集中・水の呼吸―

 参ノ型 流流舞い

 

 突きの勢いを無理に殺さず、勢いのまま袈裟斬りを避ける。しかし男の方もそれだけでは終わらない。

 男は身の丈ほどもある巨大な大剣を体の一部かのようにいともたやすく右に薙ぐ。それを義勇は姿勢を低くすることで避けるが、その義勇の真上で大剣が空気を引き裂く重い音が響いた。一撃食らうだけでも良くて重症、悪ければ即死するであろう威力があるのは間違いなかった。

 それだけではない。見た目通りの重さがあるだろうその剣の重さと勢いに逆らうことなく、男は背後で剣を右手から左手に持ち替えさらにもう一度斬撃を繰り出してきた。力だけではない、技も合わさった見事な連撃だ。

 右薙ぎの後の先を狙っていた義勇は攻撃を諦め、流流舞いの回避の足運びへと移る。

 そんな義勇を逃がすまいと、男は勢いに乗った大剣をさらに頭上を経由するように一回転させ逆袈裟斬りを仕掛けようとしてきた。

 瞬間、義勇の視線が鋭くなる。逆袈裟が来るならば左側面はがら空きになる。普通ならば分かっていても斬りこめないほんのわずかな隙だが、流流舞いの足運びをしている今ならばその隙を突くことが可能だ。

 雫波紋突きからここまで、わずか3秒と経たない超高速戦闘を繰り広げながらも義勇の視界は狭まってはいない。義勇には自分と男の動きや立ち位置までハッキリとわかっていた。

 だからこそ、ここで後の先を打ち込むことが出来ると確信をしていた。男の逆袈裟を紙一重で避けながら、義勇は大きく息を吸う。

 

―全集中・水の呼吸―

 壱ノ型 水面斬り!

 

 逆袈裟を回避され、がら空きの男の左側面から渾身の水面斬りを繰り出す。

 取った。これで首を落とせれば……落とせなくとも隙は作れる。そうすれば、その間にあの少年と少女の元へ行ける。

 

 慢心をしていたつもりはない。タイミングは完璧だった。剣筋もしっかり首を斬れるラインだった。

 

ロイヤルガード(ROYALGUARD)!!

 

 だというのに、何かが弾けたような轟音と共に義勇が目にしたものはいつの間にか首筋の前に構えられた男の手首に刀を受け止められた光景だった。しかも、刀は男の手首を1㎝と斬れていない。

 

見切ったぜ(Too easy)!』

「なっ…!?」

 

 さしもの義勇もこれには思わず驚きの声を上げ、一瞬体が固まってしまった。回避されたのなら分かる。人を食らった数が多い鬼は異形になる傾向があるのだから、それに則って背中や肩辺りからもう一本腕が生えてきたというのなら己の慢心を認め、戒めよう。

 だが目の前の男の腕は二本しかないし、確かに大剣を振り切った体勢のはずだった。

 混乱し硬直したのはほんの一瞬だ。すぐに防御ないし回避の体勢へと移ろうとした義勇だが、その腹に強烈な衝撃が走った。 

 

「グッ…!」

 

 腹を蹴られた痛みをこらえて義勇は相手の男を睨みつける。相手の瞳に、文字はない。鬼の中でも上位に位置すると言われる十二鬼月ではないようだが何かしらの血気術を使われたのは間違いない。

 それに加え、剣術それ自体も達人の域と言っていいだろう。はっきり言って、かなり不利な状況と言える。

 それでも諦めるわけにはいかない。ここで義勇が諦めれば、鬼による被害はもっと増えてしまう。

 もとよりこの命、鬼殺に捧げたものだ。今ここで果てようとも、この鬼は必ずここで食い止めなければならない。

 改めて覚悟を決めながら、義勇が地面に叩きつけられる前に受け身を取り体勢を立て直す。

 

「うわっ!?」

 

 その真後ろで、少年の驚く声が義勇の鼓膜を震わせた。不味いと分かっていたけれど、思わず義勇はそちらへと振り返る。

 そこには鬼になった少女を守るかのように抱きしめる少年の姿と、その少年へ噛みつく素振りすら見せずこちらを警戒するかのような表情でこちらを睨みつける鬼の少女の姿があった。

 鬼の少女の頭部、衣服には少なくない血がついている。明らかに重傷を負った跡がある。

 鬼になる時、そして傷を受けた場所を治すには体力が必要だ。そして体力を失った鬼は飢餓状態になる。そうなれば、家族だろうが誰であろうが人の血肉を食べたくて仕方なくなるはずだ。

 目の前の少女は、間違いなく重度の飢餓状態になっている。それなのに、少女は自らを抱きしめる少年を食らおうとはしない。あまつさえ、こちらに対し牙をむき出しにして威嚇までもしてきていた。

 

『イイィィィィヤ!』

「ッ!」

 

 猛烈な速度で迫る赤い外套の男の雄たけびに己の迂闊さを呪いながら義勇が視線を戻すと、義勇の繰り出す雫波紋突きに勝るとも劣らない速度で突きを繰り出す構えのまま突進してくる男の姿が目に入った。

 即座に横に回避しようとして、しかし義勇は動けなかった。

 自分が避ければ後ろの少年が貫かれる。男の剣の切っ先は、そういう剣筋だったから。

 故に義勇は肺に入るだけのありったけの空気を吸い込み、技を繰り出す態勢を整えた。

 だが、万全の技を出すには遅すぎた。姿勢も呼吸も何もかもが中途半端だ。それでもここで引くわけにはいかない。

 覚悟を決めた義勇の意識が急速に研ぎ澄まされていく。世界から音が消え、迫る大剣の切っ先がゆっくり、そしてハッキリと目に写る。

 

―全集中・水の呼吸―

 

 そしてその切っ先が義勇に間合いに入ろうというところで、赤い外套の男が突進の勢いを乗せた無数の突き(スティンガー⇒ミリオンスタブ)を繰り出してきた。

 その瞬間、義勇も己が最高の技を繰り出す。

 

 拾壱ノ型 凪

 

 嵐のような勢いで繰り出される連続突きは、常人であれば見切ることはおろか回避することも不可能だ。

 しかし凪を繰り出した義勇の間合いに入れば、それらは全て弾き飛ばされる。ただ一つの例外なく、全て。

 

『おっと! ハッハー! やるじゃねェか!』

「ッ!!」

 

 突きを全て弾いた義勇は、けれども弾かれた男のどこか楽しそうな声に表情を歪ませる。

 本来最高の状態で繰り出せばほとんどの物を無に帰せるだけの威力を秘めた凪が、十分な姿勢と呼吸が確保できなかったためかあるいは男の大剣が余りに固すぎるのか……いずれにしても弾くだけにとどまってしまったのは義勇にとって好ましくない事態だ。

 己が奥義を繰り出してなお、相手の攻撃を無効にするだけで留まるとなれば義勇の側に決定打となるものがないということの証明に他ならない。

 それでも引けない。引くわけにはいくまい。自分の代わりに死んでいった仲間や家族のためにも……!

 

「ま、待ってくれ!」

 

 そんな二人の勝負に待ったをかける声が辺りに響いたのは、再び男に向けて突貫しようと義勇が足に力を籠めた時だった。

 




【大正こそこそ噂ばなし】

当然だがダンテは分かってて義勇を炭治郎の方へ蹴り飛ばしている。その上義勇が迎撃することを見越したうえでミリオンスタブも出していたんだろう。
仮に義勇が避けたとしても、炭治郎たちに害を加えぬよう加減もしていた。……全く我が愚弟ながら下らん茶番をするものだ。
力無きものは何も守れない。……己の身さえもな。炭治郎は、それをまるで分っていないようだが。あんな状態で妹を守るなど、笑い話にもならんな。


続きが出たらこそこそばなし欄はいろんなキャラにやってもらおうと思います。
(続くとは言ってない
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