悪鬼も哭き出す   作:笹の船

5 / 7
気が付けば鬼滅は完結してるし、無幻列車は円盤が出ましたね
僕はPS5が当たったのでSEをそこそこ楽しみました。
鬼いちゃん楽で強いのズルい。


一時の別れ

 ネズコとその兄へ襲い掛かった青年は「富岡義勇」と名乗り、己が鬼を滅する「鬼殺隊」という組織に属していると語った。

 曰く、鬼となったものは例え肉親であろうと飢餓感に抗えず人の肉を食らう。人の肉を多く食らった鬼はその分強力になり、また人を食らう。

 そうなる前に鬼の首を刎ね、無辜の人々を守る。そして、この世界から鬼を根絶することが自分達の目的なのだと語った。

 そして、自分は鬼がこの辺りに現れるという情報を得てここへやってきたのだと明かしたのだった。

 

「俺が話すべき事は話した。さあ、今度はお前達の番だ。……お前達は何者だ?」

 

 義勇の鋭い視線がダンテとバージルを射抜く。だが、そんな青年の視線など意にも介さずバージルは口を開いた。

 

「俺の名はバージル。こっちの愚弟はダンテだ」

「…………」

「…………」

 

 簡潔に自分達の名前を告げるだけ告げて、それ以降特に何も語ろうとしないバージルと同じくこちらを睨むだけで何も語らない義勇。

 ダンテは察した。義勇という男、バージルと同じ……と表現して良いかは分からないがおしゃべりが苦手な奴なのだと。

 これでは話が進まない。自分達はいいが、その辺で気絶しているネズコ達をそのまま放っておいたまま立ち尽くすのは余り良くない気がする。一応話しながら義勇がネズコを少年の隣に寝かせていた――ネズコの口には竹で作った(くつわ)を噛ませていた。間違って少年を食べないようにするためだろう――が、地面に寝かせたままのが最善の対処とは思えない。

 そう考えたダンテは、滅多にフル回転させない頭を使って日本語の話し方を思い出そうとした。

 

「アー、ギユウ? オレタチ、ミチ、マヨッテル」

 

 バージルのソレに比べて余りにも拙すぎる日本語がダンテの口から飛び出す。一瞬バージルの口角が得意げに上がったように見えて、無性にぶん殴り(リアルインパクトし)たくなったがソレを鋼の意志で抑えながら話を続けることにした。

 

「オレタチ、イエ、カエリタイ。デモ、ココ、ドコカ、ワカラナイ。ココ、二ホン?」

「……冗談も休み休み言え。お前達のような奴らが道に迷ってたまたま鬼のいる場所に居合わせたなど、そんな都合の良い話があるものか」

 

 ダメだ、コイツ話が通じねェ。ダンテは露骨に顔をしかめた。

 とは言え、確かに青年の立場からすれば自分達は怪しく見えてしまうというのも分かる。分かるが、もう少し融通を利かせてくれてもいいだろうに。

 

「ウソジャナイ。ミチ、マヨッタ。ソコノ、コドモノイエ、ミツケタ。ミンナ、コロサレタ。オレタチ、アノコ、マモレナカッタ」

「……待て。お前達、その娘が鬼にされるところを見たのか!?」

 

 急に義勇が血相を変えてこちらに詰め寄ってきたので、思わずダンテは押されるように上体をのけ反らせた。そういえば、鬼の血を傷口に流し込まれると鬼になるとか言っていたか。

 つまり、ネズコを襲った奴は鬼を生み出す能力を持った奴だったらしい。義勇達からすれば、なんとしても仕留めたい相手だっただろう。

 

「やった奴はどういう見た目をしていた!? 何故あれほどの実力を持ちながら逃がした!?」

 

 やはりお前達は鬼の味方だったのか、そう叫び出しそうなほどの形相で詰め寄ってくる義勇に待ったをかけたのはバージルだった。

 

「勘違いするな。俺達はあんな雑魚の味方などではない」

 

 その言葉に、ダンテは一瞬でも兄が頼りになると思った自分を呪いたくなった。やめろ、その物言いはこの場をかき回すだけなんだぞ。確かに雑魚だとは思ったが。

 

「大体、俺達は今お前に説明されるまで鬼という存在を知らなかった。本能に振り回されるだけの下等な奴らの仲間など、こちらから願い下げだ」

「ソウソウ。オレタチ、オニ、シラナカッタ」

 

 頼むからこれで納得してくれ。ああ、早くストロベリーサンデーとピザが食いたい。

 そんなことを考えながら、ダンテは義勇を見下ろす。

 義勇は不服そうな雰囲気を醸し出しながらも、一応は納得をしたようで小さくため息をついてダンテから少し距離を離した。

 

「分かった」

 

 義勇の言葉にダンテがほっと胸をなでおろす。どうやら、もう一度戦うことにはならずに済みそうだ。

 

「だが、やはりお前達を野放しにする訳にはいかない。俺に付いてきてもらおうか」

 

 義勇の言葉にダンテはけれど好都合だと思った。何せ、今自分達がどこにいるのかすらよく分かっていないのだ。

 もし本当にここが日本だというのなら、アメリカに帰るにしたってパスポートが必要になる。密航という手段もないわけではないが、それをやるにしても日本にいる誰かしらとコネがなければ難しい。

 一番良いのは電話を使ってモリソン、あるいはエンツォ辺りにでも連絡を取ることだろう。彼らであれば、そういった裏のルートを用立ててくれるだろう。後からくる請求書が怖いが、背に腹は代えられまい。……Vからもらった時の報酬で足りるだろうか。

 そんな先の心配をしながら、ダンテは義勇に従おうとバージルに言うべく彼の方を振り返る。と、そのタイミングで義勇に倒された少年がうめき声をあげた。どうやら目を覚ましたようだ。

 

「起きたか」

 

 義勇が少年の方を向いて、ほんの少しだけホッとしたような表情を一瞬だけ浮かべる。だが少年が義勇に気づいてネズコを抱きかかえた時には、仮面でも被ったかのような無表情に戻っていた。

 そんな自分を警戒している少年を他所に、義勇は一方的に話し始めた。

 

「狭霧山の麓に住んでいる鱗滝左近次という老人を訪ねろ。富岡義勇に言われてきたと言え」

 

 なおも混乱しているであろう少年に、義勇は続ける。

 

「今は日が差してないから大丈夫なようだが、妹を太陽のもとに連れ出すな。鬼の最大の弱点は、太陽の光だからな」

 

 義勇の言葉に少年のネズコを抱きしめる力がわずかに強まった。ダンテが空を見上げてみるが空は一面どんよりとした雲で覆われている。少なくとも、すぐに日の光が差すことはないだろう。

 

「俺は行く。お前達は俺に付いてきてもらおうか」

 

 義勇の言葉にダンテはやれやれと肩をすくめながら、ついていこうと義勇の方へと歩み寄った。

 だが、背後から聞こえてきたバージルの言葉に思わずその足を止めてしまう。

 

「悪いが、俺はお前には付いていく気はない」

『……なんだって?』

 

 この場で義勇についていかないことは、どう考えてもデメリットの方が大きい。そんなことはバージルにだって分かっているはずだ。

 少なくともダンテは自分達が悪目立ちする容姿であることを自覚していた。それに、レッドグレイヴ市に行ってからシャワーも浴びてないし服も洗濯をしていない。人に近寄られれば、自分達から血の匂いがしていることに気づかれてしまうだろう。

 そうなれば騒ぎになることは間違いない。バージルとてそのリスクは把握しているはずだとダンテは訝しんだ。

 

「俺はこの小僧達に付いていく。……どうせ狭霧山とやらはここからすぐにたどり着けるような場所ではないだろう? 万が一の時のために、保険はあるに越したことはあるまい」

 

 バージルは少年たちの方をちらりと見てからそう言う。保険というのは、ネズコが暴走した時の為に首を刎ねて暴走を食い止めることを言うのだろう。

 だが、ダンテはバージルの本音がそうではないことを見抜いていた。なんせ自分達の目の前にいるこの幼い兄妹は、大切なものを失うまいと力と心を示すことの出来た『強い人間』なのだから。

 きっと、バージルはこの兄弟が持つ『人間の強さ』が何なのかを知りたいのだろう。であれば、止める理由はどこにもない。

 

『OK、好きにしな。ただ、あんまり騒ぎを起こすなよ?』

『お前に心配されることではないな』

 

 英語でそんな短いやり取りをし、ダンテとバージルは互いに小さく笑みを浮かべる。再び離れ離れになってしまうが、此度は今生の別れではない。

 そして何より、ダンテはバージルが人間の強さとは何なのかを真剣に知ろうとしていることが嬉しかった。

 もうただ『力』に固執し人間であることを捨てようとした過去のバージルはいない。Vと融合することで人間らしさを取り戻した兄貴であれば、きっと少年達の助けにもなるだろう。

 それにネロのこともある。ここらで子守の一つでも覚えておけば、孫ができた時に案外経験が活きるかもしれない。

 そんな考えと共に笑みを浮かべながら、ダンテは義勇の方に向き直った。

 

「ダイジョブ、アイツ、コドモ、キットマモル」

「……その言葉、信用していいのか」

 

 不信感をにじませる義勇の目をまっすぐと見つめながら、ダンテは大きく頷く。

 

「……分かった。鱗滝さんには手紙でその男がついていくことも書いておこう」

 

 義勇が小さく頷いて地面を蹴る。それだけでわずかな雪煙と共に義勇の姿はかき消えた。もちろん、ダンテには義勇が卓越した技術で遠くへと跳躍したのが見えていた。

 最後にもう一度バージルの方を振り向き、それからやや呆然としたままの少年と彼に抱かれたネズコを流し見てからダンテは同じように地を蹴って義勇の後を追いかけた。

 次に会うとき、バージルが彼らからいったいどんなことを感じたのかを教えてもらうことを楽しみにしながら。

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