話はしばらく前に
友人のメロスが「ちょっと旅行しようぜ」と言ってきた。
多少だらしないところもあるが、根はいい奴だ。
……と思っていた。この時までは。
セリヌンティウスは激怒した。必ず、かの
話はしばらく前に
友人のメロスが「ちょっと旅行しようぜ」と言ってきた。
多少だらしないところもあるが、根はいい奴だ。
……と思っていた。この時までは。
当時の俺は、フリーター? 自営業? みたいな仕事をしていて、日程の都合はつけられた。
金持ちというほどではないが、食うに困るほど貧しいわけでもない。
たまには羽を伸ばすのもいいかと、メロスと共に観光地に向かった。
俺たち二人は、奮発して割といい宿をとった。
早速、現地の新鮮な海の幸、山の幸に
「お、ウンタラのXX年ものがあるぞ。コレを頼もう」
おいおい、高いんじゃないか? 頼んで大丈夫か? 俺は宿代以上はたいして持ち合わせがないぞ。
「大丈夫だ、問題ない」
馬券か富くじでも当たったか?
大口契約でも取れたか?
まあ何でもいい。そういうなら大丈夫だろう。
俺も酒が回って、あまり深くは考えられない。
そして数日滞在した後、メロスがボソリと言った。
「実は金がない。持ってるか?」
は? いまなんつった?
「だから金がねえ。セリヌンティウスなら持ってるかなと」
たかる気マンマンかよ。俺はたいして持ってないって言ったよな?
「いや、しっかりものセリヌンティウスのことだから、ないといっても実は持ってるかなと」
そりゃまあ多少の余裕は持ってきたが、二人で豪遊できるほどじゃない。
「しょうがねえな」
メロスはいきなり小芝居を始めた。
「女将さん、実はお金が足りません」
「食い逃げか」
「落とした、いえ、掏(す)られたに違いありません」
「ただ、私に情をかけたいつもりなら、官憲に突き出すまで三日間の日限を与えて下さい。三日のうちに、私は地元で金を借り、必ず、ここへ帰って来ます。」
「ばかな。」
と女将は
「とんでもない
「そうです。帰って来るのです。」
メロスは必死で言い張った。
「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。そんなに私を信じられないならば、よろしい、ここにセリヌンティウスがいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を下男としてこき使って下さい。たのむ、そうして下さい。」
「あとは任せた」
あっけに取られている間に、メロスは出ていった。
逃 げ や が っ た。
メロスは約束の三日目の日暮になっても帰ってこなかった。
女将の目が更にきつくなった、気がする。
「
俺のことか? いや別人だ、たまたま、たまたま別の無銭飲食があったのだ。
あるいは、最近見た
そうだ、そうに違いない。
数日か数ヶ月か、皿洗いか風呂掃除でもすれば許してくれないだろうか。
移動自体はそれほどかからぬはず。
借金のアテが外れて、別のアテを回っているのか?
何か事故にでもあったか?
メロス、頼むぞ、信じてるぞ、メロス。
さらに数日後、なぜか神がキタ。
神と言っても、仕事で世話になった先輩であり、心の師でもある。ご本人が嫌がるから、心の中の呼び名だが。
聞けば、メロスは神に事情を話して借金を頼み込んだらしい。
宿代相当の金を貸したものの、帰ってこないので心配して様子を見に来たとのこと。
何という畏れ多いことを。
神に借金するだけでなく、ご心配までおかけして、はるばる足まで伸ばさせて、貴様には尊敬とか常識というものはないのか、メロス。
そしてメロスは借りた金で宿代を払って戻るのではなく、別の場所で豪遊しているところを神が見つけたという。
ねえ、俺は? 人質の俺のこと忘れちゃったの?
セリヌンティウスは激怒した。必ず、かの
が、とりあえずはこの宿を脱出するのが先決だ。心苦しいが、神に宿代を建て替えてもらい、電車賃を借りた。
そして、神がメロスを見つけたという場所に向かった。
「メロス、なぜ期日までに戻ってこなかった。なぜココにいる。俺がどんな思いをしたか」
しかしメロスは
「コレをネタに小説を書くつもりだ。俺のネタになれてよかったな」
などと抜かしやがった。
そういうところがある奴だと知ってたけど、ここまでとは思わなかった。
その後、メロスはこのネタを「ちょっとイイ話」に仕立て上げて、荒稼ぎしたという。
それで借金を全部返済したらしい。
俺から神に返済途中だった分は俺に返す、と神がおっしゃってくださったが、迷惑料としてそのまま受け取ってもらった。
俺より迷惑を掛けられた神がメロスをお許しになられているなら、俺ごときがこれ以上口を挟むことではないが…………
コレだから作家という人種はダメ人間で人間のクズで信用ならないのだ。
まあ、俺もそうなんだけど。
いつか貴様をネタに小説を書いてやるぞ、メロス。
メロスの死後、セリヌンティウスは手記を書いた。手記によると、ココまで怒っている風ではなく、良い友人だったという。しかし、死者を悪く言わない風習がある国のことで、内心はわからない。
あるいは、メロスが憎めないキャラだったか、セリヌンティウスが「こんなダメな人は私が支えてあげなきゃ」というタイプ、いわゆる「ダメンズ」だったのかもしれない。BL禁止法ができたものの、民間ではまだその風習の空気が残っていた時代である。
一方で、関係者である神や女将は何も語っていない。もしかしたらセリヌンティウスが捏造したネタかもしれない。何しろ、作家はネタのためなら家族や友人すら売る、
メロス:太宰治
セリヌンティウス:とある作家
神:とある大御所作家
おまけ
「走れメロス」の元ネタは、BL全盛期の古代ギリシャの民話、を中世に戯曲(芝居の台本)にしたもの、を(確か)19世紀に小説にしたもの、の翻訳を幼少の太宰が読んでパクったもの、なので、アレは男のアツい友情ではなく、BLとして読むのが歴史的に正しいんじゃなかろうか。
本当はシャイで借金を言い出せずに、ほっとかれたらしい。もうちょい邪智暴虐になってもらいました。
参考:走れメロス 青空文庫(無料)
https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1567_14913.html