ハリーポッターと忘却のハルピュイア   作:カネナリ

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やはり寮と教室を往復するのは時間がかかりすぎるなと彼は思った

教室が城の外である「薬草学」の次が、教室が四階にある「妖精の呪文」であったら遅刻は免れないだろう

やはり塔に居を構えるなど間違っている

レイブンクローもスリザリンやハッフルパフを見習って地下に移るべきだ

 

「や、やあ、ヒートニーくん。また会ったね」

 

彼が寮に入るとカリスタ=コルーダが話しかけてきた

前とは違って目を泳がせて困っているかのような顔だ

彼はコルーダにまた新たな噂ができたのかと尋ねた

 

「いや、なんだ、噂は噂なんだがな。その、だな、君の友人が、あれでな」

 

彼女がどうしたのだろうか

しかし言い淀み過ぎたろう

正直うざったいと彼は思った

 

「すまん、ちょっと動転しててな。それでだ、マクゴナガル先生が、怒り心頭とした顔で彼女を研究室に連れていったそうだ。今頃しょっぴかれているだろう。彼女は一体何をしたんだい?」

 

彼は彼女がマクゴナガル教授に質問しにいったことしか知らない

彼女の質問のなかにマクゴナガル教授の不興を買うようなものがあったのだろう

こうなるならば遠くから見守っておくのだったと彼は後悔した

 

こんな用もない所でぐずぐずしている暇はない

彼は二階にあるマクゴナガルの研究室に向かうことにし先程潜った扉を開けた

 

「お、おい、ヒートニーくん、。何処にいくつもりだい?」

 

彼は彼女が居る所だ、と口に出して走り去った

扉が勢いよく閉まる

 

「あ、ぬぅ、友達だからってそこまでやるのか普通。やっぱり付き合ってるだろ」

 

カリスタ=コルーダの呟きは焦っている彼には聞こえていない

カリスタ=コルーダはあわよくば彼を貰おうと狙ってはいるが望み薄だ

特別な存在にはしかるべき相手が居る

そういった運命的なものが世の中にあるものだ

 

彼はかなりの速さで道を駆けていく

道中でなにかを轢いた気がしたが気のせいだろう

彼の記憶通りに道を進めば一際華のある扉が見えた

マクゴナガルの研究室だ

 

彼は扉の前に立ち左手を握りしめた

深く腰を落とし正拳突きの構えをとった

一つ息を吸った

浅く息を吐き溜め込んだパワーを放出した

彼の拳は爆発的な推進力で打ち出され扉をぶち破るだろう

 

「まあ、今はもう感情を抑制させる薬品や道具なんかも出回っています。そこまで心配することはないですよ」

 

彼はノックしようとした手を引っ込めた

今の言葉を聞くなら彼女は単にマクゴナガル教授と相談しているのではないかと彼は思った

彼女はドジを踏むことを嫌う多感な少女だ

 

噂というものは不確かなものだ

真実と真逆であることは珍しくもない

 

「あら、もうこんな時間。すぐに夕食が始まりますよ。大広間に行きなさい」

 

おっとこれはまずい

彼に内緒で相談していたら扉の先に彼がいた、なんていうベタなシチュエーションそのものではないか

だがこの世には魔法というものがある

 

彼は手に魔力をためて指をパチンと鳴らした

彼の姿は微かな光の粒子を残して消えてしまった

しかし姿が見えないだけだ

そこに居るのは変わらないので彼はその場から立ち退いた

 

「あ、はい。お話を聞かせていただいて、ありがとうございました。お茶とクッキー美味しかったです」

 

彼女が部屋から出てきた

ためになる話だったのかふぅ、と息を吐いている

よし、と何かを決心した顔になり歩み出そうとしたとき

鈍い音がした

それは今日の朝彼が聞いた音に似ていた

 

「え?」

 

彼女は恐ろしいものでも見たのか顔を真っ青にしている

彼女はドアノブに手をかけ恐る恐る扉を開け部屋を覗きこんだ

 

「あのぉ~、大丈夫ですか。あれ、先生?何処にぃ!?先生!大丈夫ですか!」

 

マクゴナガル教授になにかあったようで彼女は血相を変えて部屋に駆け込んだ

 

「え~とえ~と、どうすれば。確か、まずは助けを呼ばないと。だ、誰か~助けてください」

 

とてもか細い声で助けを呼んだ

そんなSOSでは救援は来ないぞ

 

「うぅ、無理そうです。…取り敢えず先生を安静な状態にしないと。よい、しょっと!」

 

彼は魔法を解除し部屋に入った

テーブルは倒れたティーポットから流れた紅茶でいっぱいだ

テーブルから滴り落ちている紅茶が絨毯に染みを作る

 

そんな部屋で彼女はマクゴナガル教授を抱え上げてソファーに優しく下ろしている

老いた女性とはいえ大人一人を抱えるとは

彼女は力持ちのようだ

 

彼は彼女にどうした、と尋ねた

突然背後に表れた彼に彼女は仰天したがすぐに取り直しマクゴナガル教授が倒れたことを告げた

 

ソファーに横になっているマクゴナガル教授は汗を滝のように流し浅く断続的な呼吸をしている

身じろぎをしてうなされている

かなりの悪夢をみているようだ

 

「あの、私こういったことが初めてでして。どうしたらいいんでしょうか。医務室の人に伝えるべきでしょうか」

 

彼女はこんな魔法を知っているだろうか

彼は杖を取り出し蘇生呪文(リナベイト)を唱えた

文字通り対象の意識を蘇生させる魔法だ

死んでいる生物には効果はない

 

「ッ!?」

 

マクゴナガル教授は勢いよく身を起こした

呼吸は荒く目は焦点が合っていない

左手を顔にかざして感触を確かめるように開閉した

 

彼はマクゴナガル教授に安否を尋ねた

 

「…Mr.ヒートニー…そうですか、貴方でしたか」

 

マクゴナガル教授は彼に目を向けた

マクゴナガル教授は彼を誰かと重ね合わせ一人納得した

マクゴナガル教授が発した言葉は彼に奇妙な感覚を芽生えさせた

 

「あの、具合が悪いなら医務室に…」

 

「Ms.ジュリア、お心遣いありがとう。私はもう大丈夫です。…今は、一人にさせてください」

 

マクゴナガル教授に授業で見せていた若々しい気迫はない

顔はやつれていて一気に老けている気がした

 

「だ、駄目ですよ。そんな状態で一人に出来ません!やっぱり医務室に行った方が「Ms.ジュリア!!」はひぃ!」

 

しつこいと感じたのだろう

マクゴナガル教授は彼女の名を強く呼んだ

呼ばれた彼女は思わずピシッと背筋を伸ばした

 

「いいから、行きなさい」

 

「はひ!すぐに!」

 

マクゴナガル教授は念を押すように彼女にハッキリと言った

威圧感に当てられた彼女は脱兎のごとく部屋を飛び出してしまった

彼も彼女に続き部屋を出ることにした

 

「Mr.ヒートニー」

 

彼はマクゴナガル教授に呼ばれ扉の前で立ち止まった

振り返りマクゴナガル教授を見据える

 

「すみませんでした」

 

ソファーに座った状態で深々と頭を下げた

悔いる思いに満ちた声とその姿から彼は何かに懺悔している

だが彼には謝られるようなことをされた覚えなどない

 

「…なんのことかさっぱりです。それでは、僕はこれで」

 

彼は踵を返した

マクゴナガル教授は彼になにかの因縁があるようだ

しかしそれは彼にとってどうでも良いことだ

悔いるのなら一人で勝手にやってほしい

彼は在りし日の母の姿など知りもしないのだから

 




マクゴナガル先生を起こすときにねぇ
見ちゃったんだよ、彼は

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