提督を避けるかのような態度を取り続けている照月。話を聞いてみると、意外な事実が分かります。

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盗みの代償

 提督は先程帰投した艦隊についての報告を受けていた。報告を行っているのは照月である。

「以上、です……」

 照月は言う。提督は提出された書類に目を通していたが、やがて顔を上げて、

「うん、これだけいければ十分だろう。被弾した子はもうドックには入ってるね?」

 と彼女に聞いた。

「は、はい」

「それから、出撃中に何か不足を感じた事はあるか? 俺も出来る範囲で対応していきたいんだが……」

 そんな提督の質問に対して一瞬ポカンとした表情を浮かべた照月は、すぐに慌てたような表情で、

「は……? い、いえ、特に要望とかそう言ったものはありません!」

 と、答える。

「そう、か。まあ、何かあったら言ってくれ」

 提督にしてみればそれ以上言いようがない。

「はい……それでは、失礼します……」

 報告を終えた照月はそそくさと執務室を出て行った。

(うーん……)

 その後ろ姿を執務室の椅子に座ったまま見送った提督は首を捻った。

(俺、何かやったかな?)

 照月に対してである。彼女がこの鎮守府に配属されたのは比較的最近の事であるが、実績面で言えば既に申し分ないレベルにある。特に、防空能力に関してはずば抜けており、彼女の着任によって他のメンバーを対艦戦や対潜戦に専念させやすくなった。その事もあって提督は彼女の事を高く評価していた。

 ところが照月の方はというと、提督に対する態度は実に素っ気ない。というより、明らかに自分の事を避けるような態度に終始していた。どこか自分の事を恐れているような印象さえ受ける。

 この照月の態度が提督の気掛かりな点であった。大人しそうな印象を与えるし、人見知りな性格なのだろうかとも思ったが、他の艦娘と気さくに話している所を見るにそうとも考えづらい。では、自分の行動に彼女を遠ざけるような要素があったのだろうかとも考えてみたが、これと言った心当たりは無い。自分が自覚出来ていない照月の嫌悪感を喚起するような部分があるのかも知れないが、彼女が提督とだけはやたらと距離を置きたがるのはその着任の当日からである。

 とある一人の人間が万人から好かれるはずはない。むしろ嫌われている事だって多いと考えた方が良い。そんな事は提督だって分かっているつもりだが、照月の態度だけはどうにも引っかかるのであった。見る限り、他の艦娘と比べても礼儀についてはきちんとしており、自分の前でもそれで取り繕うくらいの事は出来ても良さそうなものだが、現状ではそれが行えているとも言い難く、何か深刻な問題を抱えているのではないかとも思ってしまうのである。

(このまま放ったらかしておくのも、ちょっとなあ……)

 相手の個人的な事情に立ち入るのは気が引けるが、照月に軽くでも良いから話が聞けないものかと、日を改めて彼女と会話する機会を設ける事にした。

 

「照月、提督が呼んでるけど」

 同僚の艦娘が照月にそう声をかけた。

「ええっ!? あ、そ、そう。うん、分かった」

 若干慌てたかのような口調で返答する照月。

「何? アンタ変な事したの? ま、流石にそれは無いか」

 提督の伝言を伝えた艦娘はそう言いながら笑っているが、照月の内心はその時点で暗いものとなっていた。

(もしかしたら、そうかもだよ……)

 そう内心で思いながら、重い足どりと共に照月は執務室へと向かったのである。

 

「失礼、します……」

 コッソリと侵入するように執務室に入室する照月。ドアのノックに対して提督が明朗な声で「どうぞ」と言ったのにこれである。

(どんだけ怖がられてんだよ俺?)

 提督は照月のこの態度に対して心の中でツッコミを入れる。同時に、俺ってそんなに怖いのかな、などと思い、少々凹んでしまった。

「まあ、今回は別に深刻な話じゃない。ちょっとそっちに座ってくれるか?」

 そう言って提督は執務室のソファを指差した。

「あ、は、はい……」

 照月はオドオドとした態度と共にソファに座った。対面のソファには提督が座るが、照月は明らかに落ち着きがない様子だ。そんなにビビらなくても良いだろうに、と思いつつ、提督は切り出した。

「お前が着任して以来、防空戦が楽になったと言う評判が多くてね。摩耶なんかは『これで自分は好き放題サボれる』なんて言い出すぐらいなんだ」

 冗談めかして提督はいう。しかし、照月は、キョドキョドと視線を浮かせながら、

「は、はあ……」

 と、不安そうに返事をするだけだ。

「まあ、それは許さん、って言ったけどな。摩耶にやってもらわなきゃならん仕事はまだまだある訳だから。で、気がかりなのは照月の方なんだよ」

 途端、照月はビクリとした。彼女の反応を見ている限り、遠回しでは提督の疑問点は解消出来まい。だから彼は単刀直入に照月を問いただす事にした。

「どういう訳か知らんが、俺の前だとやたらと落ち着きがないような気がしているんだ。お前が他の奴らを相手にしてる時はそんな感じに見えなくてな。何か俺がお前に対して不味い事をしてしまっているのなら、他の奴らにもやってしまっているんじゃないかって正直気にしている訳だ。そういうのがあるんなら、教えて欲しい。今後、自分が直さなければいけない部分だしな」

 と言い、「ま、お前がよければ、だが」と、付け加えた。

 その後に執務室内に訪れたのは沈黙である。提督自身は無理やり照月から何かを聞き出そうというつもりはなく、彼女が返答を渋るようだったら、速やかに解放させてあげるつもりで黙っている。

 何やら俯いて苦悶しているかのような表情の照月だったが、やがて、

「……正直に、申し上げていいですか?」

 と聞いた。

「うん」

 と提督が相槌を打つと、

「私、実は提督の事が、怖くて……」

 と照月は言う。

(あー、やっぱりなんか凄い怖がられてる)

 と思い、軽いショックを受けながらも、俺って本当にコイツに何かやってたかなあ、などと自問しつつ、照月に問う。

「うーん、俺がお前に悪さしてたって事なんだと思うんだけど、それってどんな事?」

「悪さ……は、私がしてたんです。提督ではなく」

「……ん?」

 照月の告白に驚く。照月が悪さをしていたというのはどういう事か。自分が照月になんらかの危害を加えられたなどという記憶は無いので、まさか外部で犯罪に手を染めていたとでも言うのだろうか。当初の想定とは全く異なる返答であるが、だとすれば照月が提督に対してのみよそよそしかった事にも合点がいく。しかし、その内容によっては彼女の今後の扱いを考え直さねばならないという事でもあるので、提督は眉をひそめた。

「悪さって、何やったの?」

「えっと……窃盗、になると思います」

「窃盗、なあ……」

 提督の懸念が的中してしまったのか。彼は額に指を当てながら、更に問う。

「何、盗んだの?」

「提督のお家の、干し柿です」

「へっ?」

 思わず拍子抜けする。確かに窃盗の類ではあるが、どこかの店で万引きをしたとか、誰かの住居に侵入したといったものを想像してしまっていただけに尚更であった。それらに比べれば程度としては軽い。

 それよりも何よりも、照月の先程の発言で気になる点があった。彼女が言った「提督のお家」とは自分の実家の事であろうが、この鎮守府からははるかに離れた場所にある。ここからわざわざ盗みに行ったとすれば合理性など皆無だ。

「んー、よく分かんないんだけど、なんで俺の実家の話が出てくるんだ?」

 不思議そうな表情で提督はそう聞いてきたので、照月は答える。

「私がまだ小さかった頃にお近くに住んでたんです。提督にもよく遊んでもらってました」

「俺が照月と……?」

「覚えておられませんか? 私のウチは河川敷の近くにあって……」

「……ああ!!」

 提督は思わず声を上げる。少年時代の提督はよく地元の河川敷近くの道路を通って学校へ通学していた。その道路近くに提督の実家と付き合いのある家があり、その家の両親に頼まれた事もあって、そこの子供達とよく遊んであげていた事を覚えている。よくよく照月の顔を見れば、その時遊んであげていた子供達のうち、その一人の面影と記憶が符合する。

「はいはい。思い出した思い出した! まさかあの子が艦娘になっていたなんてなあ」

 提督は懐かしむように言うが、照月は複雑そうな表情だ。

「失礼な事を言うようですけど、覚えて頂けていなかったのは、ちょっと……」

「あはは、それは、本当に申し訳なかった」

 提督は苦笑いする。何しろずいぶん前の話であるし、地元の人間とこんな場所でばったりと遭遇する可能性など、頭の中からすっかり抜け落ちていたからだ。しかも、照月の今の麗しい成長ぶりは、当時からは全く予測が出来ないであろう。

 照月だって地元の人間と会う事は無いだろうとは考えていたのだろうが、提督と異なる点は、相手の事をしっかりと覚えていたという所である。しかも、自分が盗みを働いた家の人間が上官なのだから、よそよそしくなっても無理はあるまい。

「お父様とお母様はご健勝かな?」

 と提督が聞くと、即座に、

「はい!」

 と返事が返ってきた。この時ばかりは照月の声も表情も明るかった。

「そうか、それは良かった。……それで、干し柿の話だったな? 盗ったのはその頃って事か」

「はい……」

 確かに、提督の実家では毎年干し柿を作るという慣習があった。生垣の近くに干していたから盗みやすい位置ではあったろうが、さて、自分が実家にいた頃に干し柿が盗まれるなんて事があったろうかと記憶を辿る。

「あったねえ……」

「……」

「気が付いたら干し柿がいくつか無くなってたって事が確かにあったよ。川辺で採ったのかなあ、お代のつもりだったんだろうけど、綺麗な花と石ころがそばに置いてあってさ」

「ええ、多分、それです」

 照月は正直に認める。提督の記憶においてその光景は何故か鮮やかに残っていた。

「あれ、お前だったのかあ」

 提督は実に懐かしそうに言う。作っていた干し柿を盗む代わりに、花や綺麗な小石をおいて行くというイタズラに遭遇していたのは事実であるが、そんな行動を取るのは男の子であると思い込んでいたのである。律儀に盗んだ代金として何らかのモノを置いて行ったのであるから、単純に男子の場合だったらそこまでやるだろうかと、疑問を覚える側面があったのも確かではあったが。

「本当、ウチって貧乏だったんですよね。だから、あの時は食べられるものが見つかったから、他が全部飛んじゃって……」

 照月の発言には提督も少々心当たりがある。最近彼女の家の生活が苦しいらしい、ウチだって金銭的な支援は出来ないが、なんらかの手助けぐらいはしないとまずいだろう、といったような事を両親が話し合っていた事を思い出したのだ。しかし、その事を言ってしまうと照月は更に萎縮してしまいそうなので、話の焦点を干し柿の件に絞る。

「で、吊るされてた干し柿は位置的にも盗めるんじゃないかと。盗むだけだと悪いから手持ちの何かをおいていった、と」

 そう提督が穏やかに言うと、

「はい……」

 と言って照月は頷き、黙り込んでしまった。

 提督が再び笑う。

「軽蔑するのは構いませんけど、何で笑っているのか……」

 不審げな表情で照月は提督に問う。

「いや、そこまで深刻に捉えてしまっているのが却って悪い気がしていてなあ。どうしたものやら、とね」

「……え?」

 照月は罪悪感を感じたまま着任以来ここまで提督の下に居た。しかし、提督の反応を見る限り、彼女が干し柿の一件を現在まで引きずっている事が可笑しくて仕方がないらしい。彼女にとって、全くと言って良いほど理解が出来ない現象であった。

 提督は言う。

「気分を悪くしたのならすまない。あの時ウチの実家でも話題にはなってたんだよ、干し柿が盗まれたってのはな。でもな、わざわざお代を置いて行くって事は結構な後ろめたさがあるんだろうって話になってたんだわ。立て続けにやった訳でも無かったしね。だから、あの時点でお前の窃盗は不問って結論になってた訳」

 この発言を聞いた照月は驚きを禁じ得ないという表情で提督を見ていた。

「そう言う訳だからさ、もうこの話はとっくに無かった事になってるんだよ。気にしなくて良い。もし、そういうのを挽回したいんだと言うんなら、今のお前さんは艦娘で、俺の部下なんだ。実際の仕事で結果を出して欲しいな」

 訳が分からなくなった照月は俯き、そのまま固まってしまった。自分が罪悪感を覚えるような被害を提督に与えていたにも関わらず、彼はそれを一切気にせず、引き続き自分に期待を寄せてくれているのである。

「ちょっとはスッキリしたか?」

 提督にそう言われて照月はようやく思考を蘇生させた。

「は、はい……」

「ったくねえ、そんな下らない事で悩んでるんじゃないよ。気を揉んでた俺が馬鹿みたいじゃないか」

「えっ?」

 照月が顔を上げると提督は穏やかな微笑みを浮かべていた。

「艦娘になるってのは実は大変な事なんだ。生活が苦しい中でここまで来たんだから、物凄い努力をしたはずだ。そんな子を馬鹿にしたり、ましてや断罪出来る筈がない。ここまで成し遂げているって時点で、お前さんは俺よりも遥かに偉い、上等な存在なんだからね」

 今や艦娘は深海棲艦に対して最前線で戦う海軍の主力である。しかも、その前線で提督の代行として直接実戦の指揮を執る事もあるし、その際は臨機応変な戦術の運用能力が求められる訳で、その点において艦娘には一種独特の才能が求められる。それだけの人材であるから、艦隊司令の中には士官学校を経ていきなり鎮守府のトップに着任するという者もいる一方で、まずは士官学校を経由せずに艦娘からキャリアをスタートさせたという、言わば叩き上げも少なくない。ただし、そうなるにしても教育面である程度の素養が備わっている事が前提であり、厳しい訓練をクリアする必要がある。照月のように金銭面で苦心しつつも現在のポジションに到達出来る者は少ないだろう。

「でも、言ってくれて良かったよ。これで俺も照月に遠慮なく指示を出せそうだからね。今までは、実力はあるのにもどかしいなと思ってた訳だから」

「そこまで、評価して下さっていたのは、とても嬉しいのですが……」

 もはや吹っ切れたらしい照月は恥ずかしげに言う。

「そこで浮かれてはいけない。勘違いしてはいけない。これから俺はお前さんを酷使するかもしれないという事なんだよ?」

 真顔になった提督はそう言う。

「構いません。貴方以外に使われるつもりなんて、これで無くなりましたから」

 照月も真剣な目付きでこう返答した。

「……そうか」

 照月の発言が覚悟の上での、心の底からの発言であると悟った提督は再び穏やかな表情に戻っていた。しばらくしてから、提督が、

「その時の石、見たくないか?」

 と言った。

「えっ?」

 照月が提督の発言に目を丸くする。提督は立ち上がり、自分のデスクの引き出しを開け、一つの小箱を持ってきた。

「これなんだけどね」

 そう言って提督が箱の蓋を開けると、小さな石が姿を現した。

「ああ……」

 思わず照月は声が出る。透明度のある赤い色の石。おそらく石英か何かなのだろうが、あまり見ない色合いの物だったからいまだによく覚えている。これを河原で遊んでいてたまたま拾ったのである。帰宅する途中で提督の実家の前を通過し、干し柿を目にしてしまい、また拾えるだろうからと、摘んだ花と一緒に干し柿を盗む代わりに置いてきたという訳である。そして、あの時以降、ここまで綺麗な石は結局あの河原で見つける事は出来なかった。

「やっぱり、これだった?」

 提督は聞く。

「はい……これをもう一度見るなんて……」

 懐かしそうに言う照月。

「花はすぐに枯れちゃったからもう無いんだけど……俺さ、この石拾ったすぐ後に士官学校受かってさ」

「え、そうなんですか?」

 驚いた照月は聞く。

「その時は受かると思ってなかったからビックリだよね。で、俺って別に縁起担ぐタイプじゃないんだけど、どういう訳かこればっかりは手放せなくてね。まあ、パワーストーンというか、ラッキーストーンというか……」

 心の底から楽しそうに提督は言う。

「しかも拾った本人がここに来ちゃったんだから。もしかしたらこれって本当に変な力が有るのかもしれないなんて、今本気で思い始めてるよ」

「有る、と思いますよ」

 目を細めながら言う照月。

 こんなやり取りの後、その日の照月と提督は幼年時代の思い出話に花を咲かせた。

 

 

 照月にとって、提督から真相を聞く事が出来たのは大きな収穫であった。自分が艦娘として堂々と前を見て進めるようになったからだ。が、良い事ばかりでは決して無かった。

 おかげで彼女のモノの見方が変化し、本来プラスの作用をもたらすものであったはずが、同時にマイナスの作用をも若干ながらもたらすようになったのである。

(ああ、また……)

 今日も提督の方を見れば見た目も美しい艦娘達が左右を囲み、寄り添うようにして彼の指示を聞いている。果たして、彼女達は単に上の命令を聞くだけという感覚で、提督の発言を聞いているのだろうか。照月の内部に燃え上がるような感情が湧き上がる。それが何かなど問うまでもない。嫉妬である。

 この感情のいかに強烈な事か。経緯はともかくとして、提督との幼年時代の記憶を大切に心の奥底に秘めたままここまで生きて来た照月にとっては尚更であり、彼女の心のタガを外すには十分であった。当初とは異なり、今や出遅れてしまっている自分はどうすればこの先彼のモノになれるのだろうか。このままでは無理だというのであればもはや乾坤一擲である。後がどうなるかなど知った事ではない。例え元の貧乏な生活に戻っても良いとさえ思ってしまう。だからここで一度、提督の気持ちを試したくなった。

 提督が一人きりになった所を見計らって、そろりと彼に近づいた彼女は、その耳元で思い切ってこう言った。

「以前の干し柿の件ですけど、やっぱり何もしないのは悪い気がしているんです。ですから、艦娘としての役割とは別に、私の身体を提督ご自身のお慰みに使って頂くというのはいかがでしょうか?」

 途端、提督は口を曲げて、こう返す。

「……何でそんなガラの悪そうな事を言ってくるんだ、お前さんは。真っ当な女の子がそう簡単に下品な事を言うもんじゃない」

 今迄温かい目で自分を見守っていた提督が一転して辛辣とも言えるセリフを吐いた。しかし、その表情を見る限り、嫌悪感など明らかに存在していない。だから、期待感を込めた低い声で、更に問う。

「その言い方、今後ならそういう事もあり得ると理解せざるを得ませんが」

「……好きにしろ」

 何かを噛み潰したような表情でそう言う提督。

「ふふふ……」

 浮かれた気分で提督から離れる。自分を異性として見ている事が明らかだからだ。

 

 干し柿を盗んだ詫びとして自分の身体を差し出すなど明らかに割に合わないが、その点は重要ではない。実際の所を言えば、提督との会話で罪悪感を解消出来て以来、その代わりに、それによって抑え込まれていた一種の強欲さ、それも、自分ですら呆れるほど手に負えないような、そんな強欲さが彼女自身の中に芽生えた。すなわち、心も身体も提督を求めて止まず、それがなされない今の寂しさを埋めて欲しいと、そう願うようになってしまっているのだ。

 照月がここまで妖艶な表情をするのはこの時が初めてであったろう。そして、提督以外の前で見せる事も、今後はおそらくあるまい。そんな彼女は呟く。

「お待ちしております、提督。いつか、ちゃんと私を一人の女として使って下さいね……?」

 一方、提督は、去って行く彼女の背中を見つめつつ、呆れ顔で呟いた。

「分かってて言ってる訳じゃないんだろうなあ、あいつ……」

 この発言には、そんな事言われたら止まらなくなるだろうが、という思いが同居していた。

 

 

 二人ともこんな感じなのだから、結局は双方に身勝手な思い込みがあっただけで、二人を阻害する要因など最初からどこにも無かったという事になる。

 だからつまるところ、ただ単にいずれは成るべくして成るというだけの話なのである。


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