白雪千夜がプロデューサーとなんやかんやありながらお嬢様のために奔走するお話です。pixivにあげたものをそのままこちらにもあげました。
この手の話は初めてなので拙い部分が多いとは思いますがぜひ読んでいただければ幸いです。

1 / 1
白雪千夜は暴きたい。

「よし、できた」

 

彩り豊かに盛り付けられたサラダに満足感を覚えながら、私は次の目的を果たすためその場を後にする。

 

柔らかな光を浴びて伸びをひとつしてから私はその扉を開き、ベッドへと歩みを進める。

 

「お嬢様、朝ですよ、起きて──」

「ん〜!おはよう、千夜ちゃん」

「わっ……ふふ、お嬢様が一人で起きるなんて珍しいですね」

「でしょ?今日はとっても大切な撮影の日だからね。新人アイドル黒埼ちとせさんは気合が入っているのだよ」

 

急に抱きつかれて体制を崩すもベッドの方へ引き寄せるようにされたためか柔らかい布団の上にボスンと落ちる。

いつもならまだ寝ているはずのお嬢様が今日は珍しく早起きをしていた。

甘い匂いに惑わされる前に優しくお嬢様から距離を置いてカーテンを開く。

 

「今が見頃の桜をテーマにした撮影、でしたね」

「そうなの!でもやっぱりこの時期は他のアイドルもベストなタイミングを狙ってるみたいでね。今回は私たちの撮影場所の近くで別チームも撮影をするんだって事務員ちゃんから聞いちゃった♪

スタッフもカメラや機材なんかは同じものを事務所から配布してもらえるんだって!気合入ってるよねー」

「そうなのですか。商売チャンスは逃さない、ということなのでしょうね」

「そういうこと!負けられないね」

 

アイドルというものは一人で成り立っているものではないことを最近知った。

衣装や楽曲やその他大きなことに関わる度に人の輪は広がっていき、マーケティングなので責任もひとしお、ということである。

慣れる日が果たしてくるのか、慣れてしまったらどうなるのか、今の私には分からないがお嬢様がこの戯れを気に入っているのならそれを応援するだけのことなのでそれ以上は深く考えない。

 

「今朝のニュースで今週からちょうど満開になると話していましたよ。桜と並べばお嬢様の美しさにもより磨きがかかりますね」

「今日は千夜ちゃんも来てくれるんだよね?」

「ええ。私は予定が空いていますので」

「やった!お互いに個人での活動が増えてきたけど、やっぱり二人一緒だと安心するからね」

「私はいつだってお嬢様の戯れに付き合いますよ」

「ふふっ、ありがと!千夜ちゃんはどう?アイドル楽しい?」

「そうですね、概ね楽しめているのではないでしょうか。趣味も増えましたし……あいつなりに奮闘しているようですしね」

「魔法使いのこと?千夜ちゃんは相変わらず厳しいね」

「いえ、私はあの者に見合った評価をしているだけです、面の皮の厚さも含めて。それよりも、さぁお嬢様、朝ご飯の支度が整っていますよ。今日は大事な日ですから力をつけて臨んでください」

「よーし!今日はもりもり食べるぞ〜!」

「ふふっ、その意気です──」

 

 

────────────

 

 

「──撮影ができない?」

「いや、まだできないと決まったわけじゃないだろ」

 

賑やかな喧騒と華やかな桜の下で私はそいつの言葉に耳を疑っていた。

 

「……ふっ。いい度胸だな。さぁお前の罪を数えろ」

「なんでまず俺を疑うんだよ!!!」

 

 

─────────────

 

 

──時間は少し遡る。

現場に着き撮影のメイクのためお嬢様と別れた後、私はこいつ(プロデューサー、魔法使い、などなど呼び方が安定しないので"こいつ"ぐらいがちょうどいい)とぶらぶら歩いて時間を潰していた。

何故こいつと歩こうと思ったのかは……私にもよく分からない。

美しく咲き乱れる桜が私をそうさせたのかもしれない。

……そういうことにしておく。

 

「……移動にここまで時間がかかるとは。もう正午過ぎていますよ」

「これでも事務所からは結構近いんだぞ?帰りも遅くならないようにするから安心してくれ」

 

夜はお嬢様の時間、といっても過言ではないので夜の行動自体はそこまで気にしないが、お嬢様の身体の状態は気になるのでこまめに簡単な確認をしている。

これも仕える者の役目というわけだ。

 

「それにしても本当に綺麗に咲いてくれたな〜桜!」

「そうですね。お嬢様に並び立つに相応しい桜達です。彼らにはその真価を存分に発揮してもらいましょう」

「これ以上ないくらいのロケーション!ちとせなら難なくこなしてくれるだろうしこの日に予定組んで正解だったな。ちとせの人気も爆上がりすること間違いなし……ん?」

「?どうかしたのですか」

「誰かこっちに向かってくるぞ」

 

「おーーーーい!!!」

 

どこか遠くから明るい声が聞こえたかと思うともう近くまでたどり着いたようで肩で息をしながらこちらに向き直っていた。

 

「はぁ、はぁ、ふぅ…! おはようございます!サイキックアイドル、堀裕子です!ムンっ!」

「ユッコじゃないか!えっと…お疲れ様かな?ユッコもここで撮影なのか?」

「お疲れ様ですっ!そうなんですよ、今日は私のサイキックパワーで桜も満開にしちゃいました♪ムムムーンッ☆」

「相変わらず絶好調だな、さすがサイキックアイドル」

「えへへ、どんどん褒めてくださいね!…もしかして隣の方って最近事務所に来たという──」

「白雪千夜です、よろしくお願いします」

「いえいえ、こちらこそ〜!」

 

突然の来訪者に頭が追いつかないのでひとまず気になっていたことを口に出してみた。

 

「ところでサイキックというのは…」

「よくぞ聞いてくれましたっ!ここだけの話ですが私、超能力者なんですよ…!」

「メディアでもバンバン出してるけどな」

「そうなんですけどね〜!」

「……………」

「あ、その目は……疑ってますね?

『何言ってるの?この人……』って顔してますね?

実はさっきもさいきっくぱわーで困ってる人を助けたばかりなんですよ〜っ?」

「おっ流石サイキックアイドルだな!」

「「あはははっ!!!」」

「……………はぁ」

「おっと、スタッフの皆さんを待たせているので私はこれで失礼しますねっ!グッドラックエスパー!」

 

なんだかとんでもない熱量をぶつけられて言葉を失ってしまった。

本当にアイドルというものは多種多様すぎて頭が追いつかない……というか何故あいつはあのサイキックアイドルの方と平然と会話が出来ているのだろうか。

分からない。

 

「……風のような人なのですね」

「まぁな、あれがユッコの魅力だよ。誰かを元気にする魔法が彼女にとってはサイキックでアイドルなんだよ」

「お前の説明は要領を得ませんね」

 

あまりにも曖昧だ。私にも分かるように説明して欲しい。

 

「分かる日がきっと来る、そのための俺であり事務所でありアイドルなんだからな」

「……お前が私に何を与え何を変えるのか、私がアイドルを辞めるまでに答えが出るといいですね」

「出るさ、きっと。千夜にしかない美しさを見いだすんだ」

「……お前は綺麗事ばかりですね、そんなものなどありはしないのに」

「なかったらこんなこと言わないよ。さぁ二人の話はここまで!そろそろちとせの準備もできてる頃合いだろうから迎えに行こうか」

 

先を行くあいつの背中を見ていると否が応でも思わされる。

 

「……お前のその無遠慮な言動が、似ているから苦手なんですよ」

 

 

────────────

 

 

それからしばらく歩いていると、こちらを待っていたかのようにスタッフの男が飛びついてきた。

 

「あっプロデューサーの方ですか!?良かった、ちょうど良いところに!」

「どうかしたんですか?」

「実はカメラが紛失してしまって……」

「カメラが?代わりのものはないんですか?」

「それが事務所から支給されたカメラは一つだけでして……」

 

なにやら雲行きが怪しくなってきた。さすがにこいつだけに任せられない話題なので私からも質問を投げてみる。

 

「……つまり撮影はできないと?」

「いや、まだできないと決まったわけじゃないだろ」

「……ふっ。いい度胸だな。さぁお前の罪を数えろ」

「なんでまず俺を疑うんだよ!!!」

 

だってお前くらいしか心当たりないからな、の念を込めて死んだ目で合図をしてみる。

 

「その目をやめろっ!第一さっきまで一緒にいたじゃん!アリバイは千夜が証明できるだろ!ねぇ聞いてる???」

 

まぁそれもそうか。

こいつはそういう無駄なことはしない人間だった。

 

「言われなくても聞いていましたよ、聞き流していただけで。」

「俺の扱い雑じゃない!?」

「失くした時の詳しい状況を説明して貰えますか?」

「は、はい。実は自分ユッコ……堀裕子さんの大ファンでして、メイクスタッフの方から堀さんが近くで撮影していると聞いて見学に行ったんです。サインまで頂けて感激だったんですけど、帰ってきたら置いておいたカメラが失くなっていて…」

「ここを離れる前に確かにカメラは置いていったんですか?」

「ええ、仕事道具ですし借り物ですから手荒には扱えませんよ、ちゃんと机の上に置いておきました」

「つまりあなたがここを離れてから誰かがカメラを持っていったということですね」

 

ふむ、なにやら面倒なことになってきた。

このシーズンは花見目当ての人が押し寄せてくるので当然私たち以外にも撮影目的でここを訪れる人もいるのだろう。

そういった人間が間違えてカメラを持っていってしまったのだとしたら少し厄介かもしれない。

 

「この時期は人が混んでて場所確保するだけでも大変だったのに、この中からカメラを探し出すのか!?」

「お前は騒ぎすぎです。……手分けして探しましょう、私たちは落し物置き場を見てきます」

「では自分は他のスタッフにも呼び掛けてきます!」

「あっ、ちとせにはその場で待機するよう伝えておいてください!」

「分かりました!一時間後にもう一度ここに集まりましょう」

「ではまたあとで!」

 

 

────────────────

 

 

「……ダメだ、落し物置き場にもない」

 

落し物置き場に目的のカメラは届いていなかった。

ここにもないとなると広場全体を探さなければならない事になる。

無策に走り回るよりも先にまずは頭を動かすべきだと私は踏んだ。

 

「携帯機器での撮影は出来ないのですか、最近のスマートフォンはカメラも優秀だと聞きましたが」

「俺も詳しくは説明できないが、その手のカメラはセンサーとかがスマホとは段違いらしいんだ。どうしてもダメなら最悪スマホに頼ることになるかもしれないが……。でも今回の仕事はちとせにとって大きなチャンスになるかもしれないんだ、妥協はできない」

「……そうですか。ならばもう一度関係者から話を聞きましょう。何か見えてくるかもしれません」

「そ、そうだな。とりあえず目星が着くのは……メイクさん?」

「でしょうね。では行きましょうか、時間が惜しい」

 

────────────────

 

「あっいた!メイクさーん!」

「?あぁプロデューサーさんでしたか。機材の方は……?」

「ごめんなさい、落し物置き場にはありませんでした」

「そうですか……」

 

落ち込んでいる暇はない。

為すべきことを為さなければならないので少し強めに話題を促してみる。

 

「それで良ければ失くした時のお話をもう一度伺いたいのですが」

「と言われても特別なことはなにもありませんでしたよ。メイクを始める前にカメラマンの方と談笑していただけですから。堀裕子さんが近くに来ていることを伝えたら挨拶したいと言っていたので軽く案内したんです。それで帰ってきたら失くなっていて」

「……ふむ」

「あの、撮影の方は大丈夫なんでしょうか?ちとせさん綺麗にメイクアップ出来たので綺麗なまま写真に残してあげたいんですが……」

「お心遣いありがとうございます。必ず見つけますので準備を進めておいてもらえますか」

「は、はい!分かりました!」

 

 

 

メイクの方が立ち去るのを見送ると、やり切れない不満げな声が耳に響いた。

 

「クソっ!せめて代わりのモノがあれば……」

「代わり、か……何か引っかかるな」

 

何かがおかしい気がする。

本当にこれは事故なのか?

タイミングといい何から何まで綺麗に物事が動いている気がしてならない。

なにより私はこの感覚に不思議な覚えがある。

なんだ、なんなんだ、考えろ…………。

もしこれが事故ではなく人為的な何かなのだとしたら……?

 

「…………まさか。いやでもそんなはずは……」

「どうした千夜、なにか思いついたのか?」

「いえ……少し、考え事をしていただけです」

「ちとせは俺たちの大切なアイドルなんだ。絶対にカメラを見つけ出して綺麗な姿を残してやりたい」

 

……何が望みなのか分からない。

分からないが、聞いておいた方が良いのかもしれない。

 

「……その言葉に偽りはないですか?」

「え? ちとせのこと?」

「そうです」

「そりゃそうに決まってるだろ。……ちとせとは"契約"したからな」

 

違う、もっとだ。

 

「それだけが理由ですか?」

「いや、そうだな、千夜の言う通りだ。それだけじゃない。俺はちとせに世界の美しさをもう一度見せてあげたいんだ。彼女の目はもっと綺麗に輝くはずだから……」

 

そうか、これだけ言質を取れれば十分だろう。

 

「……そうですか。いえ、なんでもありません。私たちもここで別れましょうか。すでに1時間以上経ってしまっているのでお前は一度集合場所へ戻って皆さんを待機させてください。その間に私が何とか見つけ出します」

「そんなことが出来るのか?」

「えぇ、おそらくは。もし見つからなくても意地で用意しますので安心してください」

「それは安心できないぞ……」

「とにかくこちらはいいのでお前はお前の為すべきことを為してください。私たちには動く理由がある。そうでしょう?」

「……はぁ、分かった。後のことは任せるぞ」

 

あいつが走り去るのを見送りながら、私は深いため息をつく。

 

「えぇ、それでいいのです。お前も、私も、振り回されて踊る滑稽な姿がお似合いだ」

 

 

────────────────

 

 

「ちとせ、準備は出来てるか?」

「ええ、もちろん♪いつでもいけるよ」

「そうか……それにしても、本当に綺麗になったな。同じ人間とは思えないよ」

「だって私、人間じゃないもの」

「ちとせの冗談は冗談に聞こえないのが怖いよな……」

「美と醜は表裏一体ってね」

「背筋が凍るな……。うん、元気そうでよかったよ、安心した」

「当たり前でしょ?私は私なんだから写真に残っても残らなくても私であることはこれからも変わらない。それに貴方はちゃんと覚えていてくれるんでしょう?」

「当たり前だろ」

「そう言うと思ってた♪あっ千夜ちゃん来たよ」

「本当か!?」

 

「……お待たせしました。これで大丈夫ですか?」

 

私は見つけたばかりのカメラをそのままカメラマンに見せた。

 

「……!はい、これです!ありがとうございます!」

「いえ、当然のことをしたまでです」

「ちなみにどこにあったんですか?」

 

少し思案してから、私は用意していた答えをそのまま彼に伝える。

 

「どうやら堀裕子さんが落し物置き場でカメラを見つけて自分たちのものだと勘違いしそのまま持って行ってしまったそうです。あちらのカメラマンもタイミングよく支給されたカメラを持ってきてくれたものと勘違いしてそのままそれを使ってしまったそうなのであちらが本来使う予定だったものをそのまま借りてきました。これで問題なく撮影が出来るかと」

「そうだったのか…!千夜、本当にありがとうな!とりあえずこのお礼は撮影の後で!今は撮影を先に終わらせてしまいましょう!」

「了解です!黒埼ちとせさん入りまーす!」

 

 

─────────────────

 

 

その後つつがなく進み撮影は無事終了。しかし捜索で時間が押したこともあってか辺りはすっかり暗くなり、桜のライトアップが始まる時間になった。

せっかくなので私たちは美しい夜桜を見ながら緩やかな時間を過ごすことになった。

しかしまだ私のやることは残っている。

 

「お嬢様、喉が乾きませんか?暖かいコーヒーでも買ってきましょうか、こいつが」

「俺かよ!!!」

「まだカメラを見つけたお礼をされていないはずですが」

「それはそうだけど千夜にはお世話になったしもっと改まった形でお礼を……」

「恩着せがましくされるのは好きではないのです。いいから行きなさい」

「全く人使いが荒いんだか優しいんだか……」

 

今日は走り去る人の背中ばかり見ている気がするが、今回ばかりはあいつがいては困るので適当に用事を押し付けてやった。

なおここから一番近い自動販売機でも数十分はかかるはずなのであいつには馬車馬の如く走り回ってもらう予定である。ばーか。

……さて。

 

「千夜ちゃんがプロデューサーと仲良くなれたようで私も嬉しいな♪」

「戯れを。あいつはお嬢様には遠く及びませんよ」

「千夜ちゃんも強情だなぁ」

「お嬢様」

「ん〜?」

「今回の黒幕はお嬢様ですね?」

 

私からそう告げるとお嬢様の空気が変わる。

一瞬の敵意と、どこか和やかな安心感。

お嬢様は微小を浮かべたまま会話を促してくれた。

 

「……どうしてそう思ったのかな」

「もし今回の騒動が偶然ではなかったとして、カメラを移動できるのはお嬢様しかいないからです」

「でも私はメイクされてたんだよ?」

「いえ、メイクさんがカメラマンの方と談笑をしていた間、お嬢様は完全にフリーです。

カメラマンがカメラを置いていくのを確認してからお嬢様はそれを盗み出し、スタッフの二人が堀裕子さんとの会話を終えたタイミングを見計らってお嬢様は堀裕子さんにそれを渡したのではありませんか?

カメラが堀裕子さんたちの元にあったのは本当ですが、カメラを借りる際に彼女に伺いました。確かにお嬢様から託されたと話してくれましたよ。

『そちらのカメラマンがこれを探している』と」

 

「先程は堀裕子さんが落し物置き場でカメラを見つけた、と説明しましたが明らかにこれから撮影をするといった雰囲気の機材の近くに置かれたカメラを見て普通の人はそれを落し物置き場に届けたりはしないでしょう。

それに私たちが付近を散策している時に出会った堀裕子さんは『人助けをしてきた』と話していました。おそらく受け取ったカメラを届けたあとだったのでしょう」

 

「……なるほどね」

 

「そしてこのトリックは気づきさえすればカメラをすぐに用意出来るようになっています。なにせ事務所支給の新品のカメラが2つなので本来相手が使う予定だったカメラをそのまま使えばいいのですから」

 

こんな安全策を講じてまで何故こんなことをしたのかは分からないのだが。

 

「もちろんこの推理に確証はありません。

お嬢様が作為的に堀裕子さんにカメラを渡した理由がないので本当にお嬢様が彼らの身を案じてカメラを託した可能性も否定はできませんし、私もそこまで言及するつもりはありません。

お嬢様が話したくないのなら、これ以上は聞きません」

「……私の事嫌った?」

「まさか、私はお嬢様のことを愛しています。私に価値はありませんから、いつだってお嬢様が全てです」

 

これは真実である。お嬢様が何をしようと私はその戯れに付き合うだけだ。

だが──

 

「……ですが、聞きたいこともあります。何故こんなことをなさったのですか?私には理由が分かりません。

……もしお嬢様があいつのことを疑っているのであれば問題はありません。お嬢様のことを心から気にかけていましたから」

 

意味があるかは分からなかったがしつこいほど言質は取っておいた。

 

「理由、か」

 

心ここに在らずといった感じで遠くを、空を見つめる目で少し思考してからお嬢様は口を開いた。

 

「千夜ちゃんはプロデューサーと捜索作業をしていてどう思った?」

「どう、というのは」

「そのまんま、一緒に探す中で彼のカッコいい一面、優しい一面は垣間見えた?」

「……お嬢様の優しさに比べれば米粒程度ではありますが、それなりには」

「相変わらずプロデューサーには厳しいね」

「朝話した通りですよ。……ですが」

「うん」

「私の大切なものを大切に思ってくれる、そういう人間だということは理解しました」

 

お嬢様の前で私は嘘をつけない。なので思ったことは正直に話すしかない。

 

「ふふっ、そっか。

……そういえば千夜ちゃんこそどうしてそこまで気づいていたのに皆に私の事話さなかったの?」

「今日は絶好の撮影日和、それが中止にでもなってしまった、お嬢様の美しさを世に知らしめられなくなりますよ。……それに、あいつの成果が台無しになります。いくらお嬢様の戯れとはいえそれはあまりにも忍びないな、と」

「ふーん?そっかそっか……♪」

 

本当にお嬢様には敵わない。

こう、自分の全てを覗かれているようで背筋がゾワッとしてしまう。

まぁそんな感慨すら愛おしいと思えるのだが。

 

「……お嬢様はズルいです。いつも全てを見透かすように手のひらで何でも転がしてしまう。アイドル活動だってそうです。舞台に立つ度に着実に増えるファンの数には目を見張ります」

「ありがと。千夜ちゃんのそういう優しいところも大好きだよ」

 

ご冗談を。私の方がお嬢様のことを愛している自信がある。

 

「ねぇ千夜ちゃん?」

「はい」

「もう少しだけアイドル頑張ろっか」

「……私の自由はお嬢様の意思で決まります。お嬢様の戯れに付き合うのが私の使命です」

「も〜千夜ちゃん?そろそろ自由になってもいいんだよ?そのためにプロデューサーとの時間を作ってあげたんだから」

「いいえお嬢様、私はお嬢様のものです」

「頑なだねぇ」

「不器用ですから」

 

顔を合わせてお互いに笑う。

 

「本当は千夜ちゃんを自由にしてあげられる足がかりになればなぁと思ったんだけど……」

 

少し思案してからお嬢様は口を開く。

 

「分かった、じゃあ──」

「おまたせーーー!!!甘いのと苦いのどっちがいい〜!??」

「……ふふっ、甘いのーーーー!!!!」

 

あいつが帰ってきたのか大きな声がこちらに響いてきた。

おいこのっ、自動販売機結構遠くにあったはずなんだが?

こんなところで変にやる気を出すんじゃない、などと考えていたのが顔に出ていたのかお嬢様は悪戯っぽく微笑むと彼に返事を返した。

それがなんだかモヤモヤしたのでお嬢様に抗議をけしかける。

 

「お嬢様──!」

「3人で…いや、皆で幸せになろっか」

「……!…………そう、ですね」

 

やはりお嬢様には敵わないのかもしれない。……皆で、か。

 

「何の話してたの?」

「ふふっ、ナイショ♪」

「それよりも見て、プロデューサー」

「あぁ、分かってるよ」

 

振り返ると吸い込まれそうなほどの色鮮やかなピンクが私たちを包み込んでいた。

 

「夜桜、綺麗だね」

「ちとせに負けないくらい綺麗だな」

「お前もお嬢様のことが分かってきましたね、それはいいことです」

「千夜、はいこれ、コーヒー。寒かったでしょ」

「私のことなど放っておけばいいのに」

「そうもいかないさ、今日の功労者は千夜だからな」

「えぇそうです。お前は気が回らないから、私が苦労ばかり被ることになるのです。自覚が足りないのですよ」

「あはは……いつもお世話になってます」

「それよりもプロデューサー!時間がもったいないよ!もっと他の桜も見ようよ♪」

「おぉっ!? そんな強く引っ張るなよ、ちとせ……!」

「あはははっ!」

 

あいつとお嬢様が楽しそうに談笑を始めると2人が笑ってこちらに向き直る。お嬢様のイタズラっぽい笑顔とあいつの満点の笑みが妙に眩しくて夜桜に誘われるように私は二人の輪の中へと吸い寄せられていくのだった。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。