現実の分まで仮想世界を走り回りたいと思います。   作:五月時雨

16 / 53
 基本読み専だからいろんな作品に目移りして執筆が進まない……
 なろうも並行して色々読んでるからなぁ……面白い作品が多すぎて困る。
 更にどんどん発掘する私も私だけど。
 今回は長くなりそうだったので分割しました。


速度特化と素材集め

 

 【石造りの遺跡】は、五人横並びで歩ける程度には広く、普通のプレイヤーならば、十分な広さがあった。

 

「……せまい」

 

 ハクヨウ、ただ一人を除いて。

 

「あー……ハクヨウ、この広さでも狭いのか?」

「AGIが高いってことは、それだけ曲がりにくい、の。最高速じゃ、走れないと思う」

 

 ハクヨウの機動力は、ダンジョンでは活かしづらい。故に、前衛はクロムに任せるのだった。

 

 クロムが大盾を構え、ハクヨウが後ろからついていく。平原では隣り合って、森ならハクヨウは木の上。

 戦う場所によって、位置取りは様々だった。

 

「ここって、どんなモンスター出るの?」

「実は情報は集めてねえ。初見攻略してみたかったからな」

「そっか。……あ、【気配察知】にかかった。なにか来る」

「噂をすれば、か」

 

 ハクヨウの【気配察知】圏内にモンスターが現れ、一気に近づいてくる。その速度はかなりのものがあり、確実にハクヨウたちを狙っているようだった。

 

「なるほど、猪か」

「動物系モンスター」

 

 口に二本の巨大な牙を生やし、高速で突進する様はまさに猪。

 突進はかなりの威力があると見て取れる。

 

「【カバー】!」

 

 クロムは猪の突進を受け、その瞬間に()()()()()()

 突進を受け止めるのではなく、受け流す。

 大盾の扱いが慣れていなければできない芸当で、ダメージを最小限に、猪の突進の威力を殺し、狙った方向を向けさせる。

 

「【一閃】」

 

 速度の落ちた猪の隙を見逃さず、向けられた方向にいたハクヨウは【鬼神の牙刀】を振るう。

 分類状は片手剣ではあるが、この剣ならば刀のスキルも一部使用可能だった。

 使用不可能なスキルもあるが、手札が増えるのは良いことである。

 

 

「【刀術】か……一応、片手剣なんだよな?」

「そう、だよ?【刀術】スキルの中でも、【一閃】や【居合い】とか、剣を片手で振るスキルは、使えるんだ。両手で使う【兜割り】とか、【一刀両断】とかは、使えない、けど」

 

 狭い通路では、ハクヨウの機動力が落ち、他のプレイヤーも散見しているため、【手裏剣術】を誤射したくないため使えない。

 気遣うことはそれなりに有ったが、そうして戦闘を繰り返すことしばし。

 

 

「あ、【刀の心得】取れた」

「お、ならダメージも上がるんじゃないか?」

「うん。【長剣の心得Ⅳ】も発動してるから、ダメージ5%上がる」

「どっちもⅩまで上げれば、ダメージが+10%だからな。最大で20%上がるなら、かなりの上昇率だ」

「うん」

 

 途中の枝分かれした通路を一つ一つ丁寧に調べ上げていく。

 急ぐ攻略でもないため、宝箱はないかなー?素材採取場所はどこかなー?と戦闘を除けば、散歩気分で攻略する。

 

 

「お、猪じゃないのが来たな」

「くまク○熊べアー」

「アニメ化するらしいな。っと、んなこと言ってる場合じゃないっての」

 

 ハクヨウの言う通り、現れたのは熊のモンスター。熊は通路を塞ぐように仁王立ちしているため、通るには倒すしかない。

 

「クロム、引き付けて」

「了解っと。【挑発】!」

 

 熊はクロムの【挑発】にかかり、ハクヨウには目もくれずその太い腕をブンッと振ると、爪の形をした白いエフェクトが飛んでくる。

 

「ベアー○ッターじゃねぇか!」

 

 まさかあれはキグルミ少女で、後から白と黒の熊も出るのか?とアホみたいな事を考えていても、防御は怠らない。

 きっちりと熊の攻撃を大盾で受け止め、次にクロムが見たのは、背後から熊の首を斬り飛ばすハクヨウの姿だった。

 

「ヘイトありがと」

「ああ。てか、お前どんだけ速いんだよ……最高速は出せないんじゃなかったのか?」

 

 防御に専念してあまり見てなかったとはいえ、残像もなく熊の背後をとったハクヨウに、クロムが問いかけた。

 

「出せない、よ?今のは、壁を三角跳びして、後ろに回ったの」

 

 『こんな感じ』と、“とんっ”と地を蹴ったハクヨウが、右の壁面に着()し、もう一度跳んでクロムの頭上を飛び越え、背後に降り立つ。

 速度を極力抑えていたため、クロムでもぎりぎり目で追えた。

 

「……いや、それでも速えだろ。よく操作できるな」

「一気に上がった時は、少し戸惑うよ?けど、少し走れば、慣れる……まぁ、今のは私も、少しビックリした」

「というと?」

「小走り?程度のつもりが、前の最高速、普通に超えてた」

「ありえねぇ……」

「ダンジョンの通路で、最高速出したら、多分壁にあたって、自爆する、よ」

「笑えねえし……それでもある程度は操れるとか普通、現実での自分の速さとのギャップで振り回されるだと思うんだがな……車はもちろん、戦闘機みたいな速度だしよ」

「……そう、なんだ」

 

 クロムの言葉に、ハクヨウは一瞬驚いたような顔で、次に悲しそうにそう言った。

 

「ん?どうかしたか?」

「なん、でもない。数分走ったら、なんか、できたんだもん」

「『なんかできた』ほど理不尽なモノってないのな」

 

 自分の速さ。

 つまり、自分が走る本当の速さを知っているがために、そのギャップに脳が追いつかず、速すぎるアバターに振り回される。

 

 けれど、ハクヨウは違う。

 

 元から、()()()()()()()()()()()()

 

 だから、上がった速度に慣れるだけで良い。

 慣れるのも、スキルによって一気に上がった時こそ大変だが、ステータスによる少しずつの上昇はもはや誤差だ。すぐに慣れる。

 あとは、慣れた速度に合わせて動けばいいだけ。だから、ハクヨウは【AGI 2000】近い高速を、自在に操ることができた。

 そんな芸当が『普通は無理』と言われてしまえば、ハクヨウに思うところが無い訳がなかった。

 

(やっぱり、私は普通にはなれないのかな…)

 

「さて。イズの話じゃ、この辺の分かれ道のいくつかに採掘ポイントがあるみたいだ。行ってみようぜ」

「……うん」

 

 せめて『NWO(ゲーム)の中では普通に』と。

 そう、思っていたが故に。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 【石造りの遺跡】は迷路のように入り組んでおり、正しい道を進めば、さほど難しくもなくボス部屋に到達できる。

 けれど一度脇道を進めば、モンスターハウスにトラップと言った、『ダンジョン攻略らしさ』が満載だった。

 もちろん、その脇道の奥には数々の宝箱があったり、素材の採掘ポイントがあったりと、探索のし甲斐も豊富である。

 ハクヨウとクロムは、イズに指定された鉱石を採掘するために、そんな採掘ポイントの一つにやって来ていた。

 

「にしても、【採掘】が取れてからはそれなりに楽になったが……【DEX】があんまり高くねえから採掘量は少ねえな」

「う……ごめんね」

「【採掘】や【採取】は、STRとDEXが絡むからな……本当にお前、その馬鹿げた攻撃力なのにSTRが0ってどういうことだよ?」

「AGIで攻撃するスキルがあるの……スキルはDEXが無いと取れないから、無理……」

 

 一応、二人は今、【DEX】を少し上げるツルハシを装備しているため、それなりに採掘できる。

 採掘は【STR】や【DEX】が高いほど沢山の鉱石を採掘できる。しかし、どちらもが0のハクヨウは、少量の鉱石を地道に集めるしかなかった。採掘自体は、攻撃認定されていないらしい。

 ハクヨウの足元には、九割の石ころと、一割の鉱石が転がっていた。

 

「まぁ、そんな急いでるわけでもねえし、ハクヨウが必要な量は少ないからな。

 まずは自分の分を集めればいい」

「うぅ……頑張る」

 

 クロムの装備に使う赤い鉱石と、ハクヨウの装備に使う白い鉱石。どちらが大量に必要かは言わずもがなだが、ハクヨウは白い鉱石をせっせと採掘する。

 

「生産職の人なら、いっぱい取れるんだろうな……」

「だろうな。素材がなきゃアイテムは作れねえし、作るのにもDEXはいる。当然、DEXに高く振ってるだろ」

 

 むしろ、極振りしたハクヨウが変わってるんだよと笑う。

 この採掘ポイントにモンスターが現れないからこそ、二人は喋りながらコツコツ鉱石を集める。

 

「……私は、強くなりたいとか、上手くなりたいとかじゃ、なくて。ただ、速く走りたいから、AGIに全部振っただけだもん」

 

 別に、やりたいことは違っても、変な考えじゃない。変わってなんかいないと頬を膨らませて猛抗議する。

 

「わ、悪かったって。……そんな走るのが好きなのか?」

「歩くのも、走るのも、どっちも好きだよ。今は、この世界全部駆け抜けるのが、私の夢」

 

 ポイントを次々に移動しながら話すハクヨウの表情を、クロムは見ることができない。

 ハクヨウの言葉の端々に、悲しみを覚えたのを気のせいにして、クロムもまた、ツルハシを振りかぶった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 採掘すること二時間。

 クロムは【採掘】が取れたため、ハクヨウは元より必要数が少ないために、それぞれここで取れる素材を必要数集めることができた。

 

「このダンジョンで集める素材は、これだけ?」

「そうだな。あとは、鉱山と平原、森、地底湖だな。ここで集める素材が少ないとはいえ、それなりに順調だ」

 

 各地周り、鉱石に金属、糸、毛皮と集める素材は大量にある。けれど、一日一箇所と考えても、二週間もかからず集め終わるような量であるため、順調だった。

 

「ボス戦がメイン、だよ。クロム」

「分かってるって。そう焦んなよ」

「焦ってない、もん。約束っ」

「はいはい」

 

 クロムから掛けた提案であるし、一度は約束を破ってしまったのもクロムだ。

 今日こそは一緒にダンジョン攻略すると約束した以上、もう一度破るつもりはクロムにもない。ハクヨウが気にし過ぎなだけである。

 

「てか、ソワソワしすぎだろ……」

「むぅ……」

 

 鉱石の採掘をしていた時も、外の通路を何度もチラチラしていたのは気付いていた。しかし素材集め。ひいては今後の装備を作るために我慢していたのである。

 

 二人は採掘ポイントから通路を抜け、二時間ぶりのモンスター戦闘で慣れない採掘で溜まったストレスを解消しつつ。

 

「あ、宝箱」

 

 入り組んだダンジョンを適当に散策していたことで入った部屋で、宝箱を見つけた。

 

「おぉ、こんな感じなのか」

「ユニークシリーズより、少し小さい、かな」

 

 赤く装飾され、金に縁取られた宝箱を見てそう呟く。小さいと言っても、横幅は確実に二メートルある。ユニークシリーズが大きいだけである。

 

「開けてみよクロムっ」

「ちょ、待て待て。安全確認が先だっての」

「?どういうこと?」

 

 小部屋にはモンスターなんていないし、手前の通路を塞いでいたモンスターの群れは片付けた。問題ある?と目で訴えたハクヨウに、クロムはため息を一つ。

 

「こういうのは、ミミックやトラップの可能性があるぞ」

「ミミック……擬態、だっけ?」

「そうだ。テンプレだが知らないか?宝箱に擬態して、開けようとした人に襲いかかるんだ」

「あぁ。シェイプシフター、だね。自分の姿を変えるっていう怪物」

「そこまでは知らんが……まぁ、安全確認は大事だぞ」

 

 某RPGの影響により、宝箱への擬態が一般的に取り上げられるが、元来は様々な姿に擬態し、敵に襲いかかる能力を持った存在である。

 

「なら、どうするの?」

「いや一つしかないだろ……」

「?」

 

 分からないらしい。いったいなんの為の防御役なのか。

 クロムは、にっ、と軽く笑い、ハクヨウの前に出た。

 

「こういう時の防御特化だぜ?偶には大人しく守られろ」

 

 『守られろ』と。そう言い切ったクロム。

 普段は気の良いお兄さんと思っていたのに、妙に格好よく言い放ったクロムに、ハクヨウは妙に恥ずかしくなった。

 だから。

 

「………クロムがイケメンオーラ出しても、格好良くない、よ」

「今言うこたぁねえだろ!?」

 

 クロムと視線を合わせないようにして、背中に回る。守られろというのだから、大人しく守ってもらうのだと。別に恥ずかしくて顔を見られたくないとかそんなんじゃないからっ、全然ないからっ。と誰に言うでもなく心の中で言い訳を並べた。

 

 

 

 

 

 

 さて。ここでこの宝箱が、本当にミミックだったならば、クロムが『守られろ』との宣言通り守り、格好よく決まるというもの。

 しかし、そうは問屋が降ろさない。

 

「はぁ……クロムには、がっかりだ、よ」

「俺のせいなのか!?」

「……『偶には大人しく守られろ』キラッ」

「やめ、やめろぉぉぉおお!?」

 

 宝箱は、ちゃんと宝箱だった。罠なんて一切無く、ミミックでもなく、中にはショボい回復ポーション。それも、二人共全く使わないMP回復ポーションが50個だった。

 せめてこれが武器なら。HP回復ポーションなら。便利そうなアイテムなら。使い道はあるし、ここまでの残念感は生まれない。

 使う予定もないアイテムで、無駄に数だけはある代物。魔法を使わないクロムと、魔法もとい【忍法】を使うが、【スキルスロット】に付与して必要ないハクヨウ。

 残念、ここに極まれり。

 

 ハクヨウがクロムを煽り、恥ずかしくなったクロムはハクヨウを追いかける。

 けれど、AGIの差で絶対に追いつけない。むしろ時々クロムの横に現れる。

 肩をポンポン……と叩いて慰める。

 飛び跳ねつつ頭を撫でて慰める。

 可愛そうな者を見る目を向けてくる。

 

「だぁぁぁああっくそ!お前はどこの殺せ○せーだよ!?」

 

 小部屋は地味に広く、ハクヨウがある程度は駆け回れるくらいの大きさがあったが故に。

 ハクヨウはワザと緩急を意識してステップを刻み、無数の残像を生み出す。

 これは最近できるようになったもので、急加速と急停止を繰り返すことで残像を無数に作り出し、素で影分身みたいなことができるようになった。

 これで学校の勉強机が並んでいたら、完璧だったのに。

 

「無駄にハイスペックなプレイヤースキル身につけやがって!速すぎんだろうが!」

『緩急を付けるだけだから、簡単、だよ?』

「一辺に喋んな!?てかもう良いから止まれ!」

『分かった。これ、楽しいね」

「俺は楽しくねぇよ……」

 

 部屋の隅々からハクヨウの声が響く光景はマジで怖かったと、クロムは後に語る。

 時折、瞬間移動を思わせる時があり、明らかに全く視認できなかったことを考えると、既に残像が伸びるなんてことは起きない程の速度に至っているのだろうと思い、そろそろマジモンの化け物だなと遠い目をした。

 

「もう殆ど視認できねぇな。今のは全力か?」

「全力の、一歩手前。【AGI 1800】超え」

「あぁ、やっぱりバケモンだな」

 

 むふーっと胸を張る。

 数々のスキルによって六倍になっているハクヨウのAGI。もう追いつけるプレイヤーなんて存在しないだろう。

 その内にマッハ20も出せるかもしれない。

 ハクヨウが地を蹴った時、なんか蹴ったモノ以外の破裂音が聞こえるのは、きっと気のせいだ。

 

「MPポーションは、どうする、の?」

「半分ずつで良いだろ。丁度分けられるし、使い時があるかもしれないしな」

「分かった」

 

 じゃれ合いつつ探索する。

 ボス戦こそしたいが、そう焦るものでもないというのが、二人の共通認識である。

 マッピングの為にマップこそ開いているが、ルートは適当。思うがままにダンジョンを彷徨う。

 それでも勝てるだけの戦力であるがゆえに。

 

 そうして彷徨うこと一時間。

 MP回復ポーションの時の他に宝箱は見つけたが、今度はミミックだったため、きちんと討伐した。

 一度、ハクヨウがトラップを踏み抜きモンスタートレインをしたが、クロムが【挑発】して他のプレイヤーのいない場所に誘導し【手裏剣術】した。

 それからは、ビクビクしながら自身の背中に隠れるハクヨウを見て、クロムがめっちゃ笑った。

 ハクヨウは鬼になった。

 

「お、あれじゃないか?」

「すっごい彷徨った、ね……」

 

 これまでに通ったルートを見返し、実はダンジョンのほぼ全域を回っていたことに気付いた二人は、唯一マップが埋まっていない中央付近にやってきた。

 すると案の定、これまで見なかった大きな扉が二人を待ち受けていたのである。

 

「ここからが、本番っ」

「ああ。いくぞ」

 

 正面を塞ぐ荘厳な扉を押し開き、ボス戦の一歩を踏み出した。




 
 本当はボス戦までやりたかったんですけど、平均文字数的にも、ボス戦直前って感じ的にもここが切りやすかった。
 次回は掲示板もやりたいなぁ……読みたい作品が文庫にもハーメルンにも『なろう』にも多すぎて困ってます。
 
 【採掘】は【釣り】と似たように、【DEX】【STR】が関係する。
 【DEX】が0だと取得できません。

 ハクヨウちゃんの【刀術】スキル。
 刀は一応、両手武器のカテゴリーなので、基本は両手で使うスキルばかり。これは使えない。
 だけど、その中でもいくつかある片手でも使えるスキルだけは、ハクヨウちゃんも使用可能。
 もしNWOに牙突とかあったら多分できます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。