現実の分まで仮想世界を走り回りたいと思います。   作:五月時雨

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 原作主人公と友達のはずなのに、原作主人公が10話以上経ってようやく出る系小説。
 久々というか、一話目以降で初めての現実回。
 しかも今回短めというね。
 


速度特化と親友

 

 先程まで揺れていた車が止まった。

 

 いつも通りお母さんが運転席を降りて、車椅子を準備している。

 それを横目に見ながら、後部座席にいた私もまた、降りる準備をした。

 小学校から今まで、かれこれ十年以上もやってきた動作に淀みはなく、お母さんがドアを開けて車椅子を横に持って来た時には、準備は全て、完了。

 先に大きなバッグを、車椅子の座面下に設置してあるネットに放り込む。

 お母さんが抑えてるけど、重さで更に車椅子が安定する。

 次に腕の力で体を持ち上げ、ゆっくりと車から出て車椅子に体を預ける。

 やはり長年の相棒の安定感は段違いで、安心感が、全然違う。

 最後に、細々とした持ち物を膝の上に乗せれば、準備おっけー。

 

「それじゃあ、行ってくるね」

「えぇ、行ってらっしゃい」

 

 ゆっくりと漕ぎ出し、車椅子を進める。砂利道のガタゴトとした振動が直に伝わるけど、それはいつもの事だ。もう、慣れた。

 後ろに遠ざかる車のエンジン音を聞きながら、小さく細く、肺の奥から息を吐いた。

 

 なんとなくやってしまう動作。

 

 演技というわけでも、嘘というわけでもない、けれど。でも、意識を切り替える時に無意識に出てしまうこの動作。

 NWOのハクヨウ(わたし)は、自信を持って素の私だって、言える。けれど、現実の九曜(わたし)もまた、自信を持って素の私だと言えるから。

 

 ただ、ゲームの中よりも口調を普通にして、少しだけ気丈に振る舞うよう心掛けているだけ。

 

 いや。もしかしたら……。

 

 うぅん。私のことで、みんなの気を煩わせたくないから。いつしか身に付いた処世術。親友と言える仲の二人は、これが身に付いた後に出会ったから、知らない。

 見栄を張ってる……いや、虚勢を張ってると言ってもいいかもしれない。けど、少し口調を変えてるだけで、考えてることは変わらない。やってる事も同様だから。演技とは言い辛いと、思う。

 

 毎日、学校の駐車場から校門に向かう間に、こうして意識を切り替える。

 

 NWO(あっち)が楽しくて、その分、現実(こっち)がナーバスになってるのは否めないけれど。

 それでもそれは、身体の不自由さを自覚しているからこそ。向こうでは枷から解き放たれたような、そんな感じがするから。

 けど、向こう(ゲーム)の私は速すぎる。

 こっち(現実)では、このゆっくりさが丁度良い。

 そう思えてしまうくらい、この長年連れ添った不自由さにも愛着がある。

 

 

 ……愛着という表現は、流石におかしいかな。

 

 

「おっはよう、九曜!」

「うん。おはよう楓」

 

 校門に着けば、いつも通り、親友の片割れが出迎えてくれる。

 本条楓。私と同じ小柄さを持つ、ちっちゃい者同盟の仲間。勝手にそう思ってるだけだけど。

 もう一人の親友たる理沙は平均くらいはあるから許さない。

 

「いつもありがとね」

「良いって良いって!」

 

 楓がここに居てくれるのは、車椅子のタイヤを拭くためだ。みんなが、外履きから上履きに履き替えるのと同じ。

 持参してるタオルを一つ渡して、楓に片方の車輪を任せる。中学の頃から、楓がこれをやってくれているので慣れたものだ。私ももう片方を拭き、タオルを受け取って校舎内に入る。

 楓が後ろからゆっくりと押してくれるから、私は荷物を抑えてるだけでいい。

 

「今日は珍しく、理沙がもう来てるんだよ」

「そう?珍しいね。いつもはもっと遅いのに」

「だよねー!なんか話があるからって早く来たらしいけど、また夜更かししたみたいで教室で爆睡してる!」

「ふふっ、理沙らしい。それで、どんな話?」

「まだ聞いてないんだー。九曜にも言いたいって待ってた」

「それで寝ちゃったら本末転倒だけどね」

「あははっ、たしかに!偶には九曜の手伝いに来ればいいのにねー」

 

 楓は朝。理沙には日中助けられてるから、別に良いんだけど……。

 教室は一階。あと1ヶ月と少しで二年生になるけど、先生方の特別の措置(全国模試一位の意地)で、二年生になっても教室は一階のまま。

 私の存在は学校側としても良い宣伝になるから、こういった生活面で細々とサポートしてくれるので助かっている。

 因みに、クラス替えしても楓と理沙とは離れない様に計らってくれたらしい。対外的には非公認なので内緒だと校長にウインクされた。おちゃめな人だと思う。それに乗る私も私だけど。

 

「あ、理沙起きてる」

「んっん……少し睡魔に襲われただけだよ……おはよう、九曜」

「おはよう理沙。夜更かしはだめだよ?ただでさえこの前の期末考査は危なかったでしょう?」

 

 教室につくと、爆睡していたらしい茶髪の友人が起きていた。尤も額が少し赤くなっているから、寝ていたことは確定のようだけど。

 

「うっ。その節は九曜に多大なるご迷惑を……」

「あの時は理沙の家でご飯ごちそうになったし。負担ってほどでも無かったから良いよ」

「九曜、理沙に教えながらしっかり全教科満点だったもんね」

 

 それが、私がここにいるために必要なことだからね。正確には学年上位の成績をキープする事、だけど。NWOを始めたことで精神的にリフレッシュできるようになり、かえって勉強の効率が上がったのは嬉しい誤算だ。

 

「それで、わざわざ九曜が来るの待って、人がいない時間を狙った話って何?」

「っと、そうだったそうだった。その為に早く登校したんだもんね。んっん……ふふふ……時にお二人さん。今日は重大な提案があるのだよ」

 

 理沙がこうも仰々しいというか、演技がかった口調の時は、大体テンションが高い。

 そして、それに乗っかるのが私達だ。

 

「むむっ……何だい理沙くん」

「ふふっ。理沙くん何やらテンションが高いね」

「ふふっ……何を隠そう来週から、『New World Online』第三陣の先行予約が始まるのだよっ!」

「ニューワールド、オンライン……?」

「っ……」

 

 ……知ってる。少し前に運営からお知らせ通知が来てたから。

 NWOの人気は右肩上がりのうなぎ登りで、当初の予想を超える大反響を巻き起こした。結果、サービス開始すぐに店頭販売は即日完売。これが、通称第一陣と呼ばれる、私達今のプレイヤー。

 ついで第二陣。来週の2月末。つまりサービス開始一ヶ月で店頭販売され、こちらは既に予約でいっぱいになったらしい。

 そして、第三陣。年度明けの4月初めに発売されるソフトの俗称で、二陣の販売日から予約が開始されるらしい。

 

「最近物凄い人気のVRMMOなんだけどね?二陣の予約は確認するのが遅くて間に合わなかったんだけど、三陣はなんとか予約できそうだからさっ、いっしょにやらない?やろう?そうしよう!?」

「ち、ちょっと理沙!」

 

 ごめんなさいもうやってます……とか言ったら理沙発狂しそう……三週間前も、そう思って言わなかったんだし。

 

「ねぇ理沙。私は理沙に振り回されてるから良いよ?でも、それに九曜は……」

 

 あ、そうだ。私がVRのハードを持ってること、楓は知らないっけ。それに、楓と理沙は私の身体のことを考えて、私に仮想世界を勧めなかった。

 

 歩けない現実に、私が絶望してしまうかもしれないと思ってるから。

 

 さっき楓が理沙を怒鳴ったのも、これが理由。

 それは全然的外れなんかじゃない。実際、あの世界の羽のように軽いハクヨウ(じぶん)に、何度嫉妬したかなんて分からない。

 けど、それ以上に楽しいから。

 どこまでも、誰よりも速く早く疾く。走って走って走り回れることが楽しいから。

 その分、現実にも身が入るようになったから。少しナーバスになることはあるけれど。

 決して、絶望なんかしないと今だから思える。

 

「……前に九曜言ってたよね?仮想世界が、リハビリの一つになるかも……って」

「え……そうなの、九曜?」

 

 ……そう言えば、そんな事言った気がする。口からでまかせだけど。

 

「うん。少し前にVRハード買って、理沙に設定の仕方を聞いた時だね。……あれから仮想世界で、何度も歩いてるよ」

 

 それどころか瞬間移動レベルの速度で疾駆して、空も跳んだよ。

 

「そうなの!?」

「やっぱり……リハビリの一環になるなら、どうせなら九曜が楽しくやれれば良いなって思ってね。NWOは絶対絶対、ぜーったいに面白いから、これを期に九曜も一緒にやれればと思って!」

「う、うーん……今まで九曜がゲームしなかったから二人だけで心苦しかったけど、九曜も一緒に三人でできるなら、やってみたいなぁ……」

 

 楓さんや。その、なんか期待を込めたチラ見は誘ってるの?確かに今まで全力で忌避してた感じがあるから、楓にも理沙にも悪いことしちゃってたけどさ。

 

「……どう、かな?」

 

 理沙さんや。その捨てられた子犬みたいな視線止めて。心が痛いよ。既に一人で仮想世界を楽しんでるなんて言ったら、絶対に発狂するでしょ?やめて?やめよう?そうしよう?

 

「予約は私が三人分一括でするからさ。ちょっとでも良いから、やってみない?」

「っ……」

 

 ……嘘、でしょ?

 三人分予約するってことは、既に持ってる私の分が無駄になる訳で。

 予約開始は来週。今言え、と?ちゃんと伝えて、二人を絶叫させろと?それ、なんて拷問?

 

 言葉に詰まる。どうやって言おうか。流石に『実はもうやってるのだよ、てへっ』とか言ったら、叩かれそうだし。

 

「あ……そう、だよね。やっぱり、やらないよ、ね。ごめん変なこと言って」

「ち、ちがっ……」

 

 言い淀んでいたら、それを理沙にやりたくないと思われた。違うんです。二人にいかに説明しようかと悩んでただけなんです。

 楓も目を逸らして、仕方なさそうに笑うし。

 

 うぅ……これ、やんわりとか諦めて、直球で説明しなきゃ伝わんない、よね?

 ……ストレートに、すっごく、やだ……。

 

「その。本当に、違く、て」

 

 思わず気丈な振る舞いも剥がれ落ちて。だけど、なんとか続ける。

 というか、もうあれ、だ。画像、見せちゃえば、全部伝わるよ、ね?

 

「これ見れば。分かる、から」

 

 ケータイを取り出して、懸賞が当たった記念に、何となく撮ったハードとNWOパッケージ(ソフト)の写真を出し、おずおずと差し出す。

 元から写真なんて撮らないし、手ブレでブレたりボヤけたりしてるけど、何とか、ちゃんと伝わる、はず。

 

 

 数秒後。理沙から校舎全体に響く絶叫が飛び出した。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「なんで!?どうして九曜がもうNWO持ってるの!?」

「……偶々応募した懸賞が当たったから」

 

 案の定、発狂を止められなかった九曜は、理沙の質問攻めを受けていた。

 その全てに、仕方なく物凄く視線を逸しながら答えていく。

 

「じゃあもしかしてもう……」

「……やってるよ」

「うわぁああああ!うわぁぁああああ!!」

「り、理沙?落ち着いて……」

「これが落ち着いていられる楓!?あの懸賞は私も応募してたのにぃぃ!九曜だけずるいよっ!」

「……そう言われても、困るというか」

「……あっ、じゃあもしかしてハードも!」

「……NWOやるために設定したくて」

「うわぁぁぁぁんっ!九曜のバカぁぁぁああ!」

 

 ギャン泣きである。余程NWOが手に入らなかったのが悔しいのか、それとも散々誘っておいて『既にやってる』は恥ずかしすぎたのか。

 

「うぅぅっ!言ってくれればよかったのにぃ!」

「そしたら、絶対に理沙()()なるから」

「あ、たしかに」

「楓!?」

 

 目を逸らしつつも指で今の理沙を指し示した九曜に、楓も同意する始末。

 まだ人がいなくて良かったと心から思う。

 

 

 

 しばらくして落ち着いた理沙だが、それでも九曜を物凄いジト目で見ていた。

 

「……言わなかったのは悪かったけど、手に入らないって嘆いてたのは知ってたから、言いづらかったんだよ」

「あー……たしかに。ゲームのことになると理沙ものすごいもんね」

「「ねー?」」

 

 こう言われてしまえば、ぐうの音も出ない理沙。この際だからと九曜はぶっちゃけた。

 

「あ、リハビリの一環っていうのもでまかせ」

「ちょっ、なにそれ!?」

「人にも依るけどね。私の場合は神経系がやられてるから、仮想世界に入ったところでリハビリにはならないよ」

 

 精々が幻視痛の他、『痛み』というストレスを除去するため程度にしか使えない。

 九曜の場合、膝から下の神経系全てがやられているため、感覚そのものが無いから意味がない上、長年その状態であるために幻視痛のような症状も無い。

 

「まあまあ。九曜がもうやってるって事は、第三陣、だっけ?それを予約すれば一緒に遊べるって事じゃん!今回は私もやるよ、絶対!」

「え、ホント!?」

 

 ゲームの話をわたしの前であまりしない理沙だけど、楓もゲームに詳しくなく、いつも渋っていたのは知ってる。だからその楓が『絶対』なんて言うのに驚いたし、それで理沙が機嫌を直してくれたのは助かった。

 

「九曜がゲームって想像できないから、どんな風にやってるかも気になるしね!」

「あ、確かにそうだね」

 

 ……あれ?なんだ、ろ。なんか、まだ寒い日が続いてるけど、余計に寒い気が……。

 

「黙ってたのは許すからさぁー九曜?」

「どんな風にプレイしてるのか言ってみ?ほら言ってみ??」

「うっ……」

 

 こんなことだろう、って思った、よぉ……

 

「………分かった。話すよ」

 

 

 

 

 一言だけ、言うことがあるとすれ、ば。

 

 

 親友たちは、容赦なかっ、た……よ。




 
 一話から読み返したら、少しずつ、そしてある時を境に明らかに九曜ちゃんの口調変わってるんですよね。
 本当は、現実では物凄く大人しくて、ゲームですごいはっちゃける系主人公を予定してたのに。

 気付いたら、現実は真面目系しっかり少女。
 ゲームはゆるゆる天然コミュ障の妹系少女になってた。敢えて言おう。
 どうしてこうなった!と。
 属性詰め込みすぎだろうと!
 現実の方頭良すぎるだろうと!
 でも良いんです!初期構想段階で、現実の九曜ちゃんのイメージはノーゲーム・ノーライフの白だから!コミュ障ぽつぽつ口調がゲームの方に行っただけ!
 バカ(極振り)と天才を紙一重のバランスで両立したのが九曜ちゃんなんだよ!

 口調が変わる前は、まだ現実での意識した九曜(じぶん)が抜けてないけど、段々とその意識が薄れ、ただのハクヨウ(素の自分)になれてるんですよね。

 元々の予定とはキャラクター設定が違うけど、これはこれでありかなって。

 完全に余談だけど、独自解釈により作中は現在2月です。と言っても、ちゃんと原作の文中からの推測と逆算なので、それほど的外れではないと思ってますが。
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