現実の分まで仮想世界を走り回りたいと思います。 作:五月時雨
流石にアニメ終わってから一ヶ月。少し前までの盛り上がりが無くなりつつあって悲しいですが、元気に投稿します!
ハクヨウちゃんも元気に走り回り、ツキヨちゃんも向こうで暴れ回ります!
……防振り二次、もっと増えて良いのに。
あと3、4人と顔合わせたら、メイプルちゃん合流させようと思ってます。
原作だとリリースから三ヶ月で第一回イベント。その少し前にメイプルちゃん始めたけど、拙作だとリリースから二ヶ月で始めるから、原作より二週間程早く参入する予定なんですよね。
やったぜ。
そろそろ二陣の初心者プレイヤーたちの波も収まり、ある程度街に落ち着きが戻った頃。
ハクヨウはふらふらと町中を散歩していた。
「ん。人も、だいぶ落ち着い、た」
最近までは初心者で溢れかえり、人混みに慣れないためにオロオロしていたが、ようやくマシになったと安堵していた。
そんな活気あふれる町並みを眺めて、ハクヨウは一人、噴水近くのベンチに腰掛けて、店売りのアイスを食べる。
特にやることの無い昼下がり。
休日の今日は特にログイン人数が多く狩場の取り合い。ハクヨウの行く最前線はそうでもないが、道中に多くて一目見て嫌になった。
クロムはおらず、イズも作成依頼に大忙しらしい。この前遊ばれたペインには、あの日以来苦手意識がある。あれだ、近所の子どもを構ういじわるお兄さん。そんなペインに間を取り持てるクロムがいない状態で合う可能性は避けたかったハクヨウは、『今日はレベル上げは良いやー』と現実ではできない散歩を楽しむ。
ベンチに……というか椅子に座ると、何故かやはり車椅子に乗っている時の感覚が蘇る。自然と車輪があるべき場所に手が伸びてしまい、空を切った両手を見て『そっか、歩けるんだ』と思い直して席を立つ。
「いつも行ってな、い、お店とか、行って、みようか、な?」
NWOのフィールドを走り回ることを夢見ていながら、この街の中で知らない場所は沢山ある。だから、裏道とか路地裏とか、時間が許す限り探検してみようと思った。
◆◇◆◇◆◇
…………思って、いたら。
「迷っ、たぁ………」
ここどこぉ……と項垂れる。
どこを見渡しても似たような家が建っており、間違い探しかというほどに見分けがつかない。
適当に彷徨った結果、同じような家が立ち並ぶよく分からない場所にいた。
一度ログアウトして、もう一度ログインすれば、また噴水広場には戻れるのだが、それはなんか負けた気がした。
何に、何が負けたのかは分からないが。
適当にふらふら彷徨って、気の向くままに放浪したのが仇となった。方向音痴の典型例である。
しかし、自分が方向音痴とは思わなかったハクヨウ、新たな発見で、それはそれで楽しかったりする。ポジティブだ。
現実では、あまり家から出ない。町中を散策などしない。
比較的短距離なら一人で行くこともあるが、それは全部知っている道だし、広い道しか通ってこなかった。
けれど、ここでは。
狭くて、入り組んだ路地裏だろうとすいすい入れる。車椅子では通れない道だって簡単だ。
最初は本当に探検気分でワクワクした。
『ここの道も行けるっ!』とはしゃいだ。
結果が今なのだが。
楽しかったから仕方ない。と気を取り直し、まぁこのまま探検しても面白そうと思い、また歩き出そうとすると。
「おや、先客がいたか」
「ふ、ぇ?」
突然女の人の声が聞こえ、反応して振り向くと、黒髪を腰辺りまで伸ばした女性がいた。
鉄装備の軽鎧で統一され、刀を一本装備しているのが、見てわかる特徴。
二陣の人だろうか。
「あ。えっ、と……先客っ、て、どういうこと、ですか?」
「ん?この家のクエストを受けに来たわけではないのか?」
「クエス、ト?散歩してた、だけ、ですよ?」
「さ、散歩?」
「街の散歩、です。適当に、ふらふら……迷って、ここに」
「迷って、いるのか?」
「……………はい」
気まずかったが小さく肯定すると、女性に思いっきり笑われた。どうしてか分からず首を傾げ、ついでに頬を膨らませて睨んでおく。
「ぷっ、はははっ……あぁいや、すまない。噴水広場に繋がる大通りの脇道で、堂々と迷っているというのが、どうにもおかしくてな」
「大通りの、脇道?」
「あぁ。そこの路地を抜ければ、すぐに大通りだ。まさかこんな場所で堂々とした迷子を見るとは……くくっ、はははっ!」
「っっ〜〜〜〜‼」
なにそれ……っ!と、ハクヨウはフードを目深に被り、恥ずかしさで赤くなった顔を隠した。
「で、だ。君はクエストを受けに来たわけじゃないと言うことで良いのか?」
「……そう。ただの、散歩だか、ら。それ、でクエス、トってどういうの、ですか?」
クエストと言われると、ハクヨウが思いつくのは【捷疾の鬼殿】クエストだけだ。他に受けたことがないから仕方ないし、少なくともあのクエストが発生する場所じゃないのは分かる。だから、どんなクエストなのか気になった。
「普通のお使い系クエストだ。素材を取って持ち帰るだけのな。一陣ならその辺は知ってるだろ?」
「そう、なんですか?」
「……待て、一陣じゃないのか?」
「一陣、だけど」
「なのに、知らないのか?というか、道に迷っていたのか?」
「それ、掘り返さないで、くださ、い」
「す、すまない……」
ジト目で見れば、ちゃんと謝ってくれる。普通に良い人だと思ったハクヨウ。
それから少し話を聞いてみると、装備を一式揃えるためには生産職プレイヤーに頼むか、ダンジョンの宝箱を狙うしかない。
これはハクヨウでも知っていることだ。そして、生産職に頼むにはお金がかかる。なら稼ぐしかない。モンスターを倒し、素材を売って稼ぐのが普通だが、彼女が受けるつもりのようなお使い系クエストでは、同じ量を普通に売るよりも高い報酬が貰えるのだとか。
だから攻略掲示板なんかではお使いクエストの情報なんて溢れるほどにあるし、ここはその中でも難易度が比較的高いけど報酬も相応に高いという、ハイリスクハイリターンなクエストなのだとか。
「君も装備一式揃っているし、こういうクエストをやってお金を貯めたと思ったんだが……」
「私、は、ダンジョンドロップで揃った、ので」
「なるほど。羨ましい限りだ」
そう呟く女性の視線は、吸い寄せられるようにただ一点……【鬼神の牙刀】だけを見ていた。
「あ、の……?」
「え、あ、あぁ。すまない。不躾に見すぎていたな」
「それは、良いです、けど」
装備一式が揃っていることに羨むのならば、武器だけを見ているのは考えづらい。
というかハクヨウは、この人の視線に羨むとか嫉妬とかそういう感情を感じなかった。
もっと素直で、もっと純粋な感情……これは。
「もしか、して。刀が、好き、とか。ですか?」
いや、流石にそんな安直なわけ無いよね……と。変なこと言ってごめんなさいと言おうとした時。
「うっ……や、やはり分かるか?」
「え?」
「同じ刀使いとして、一生のお願いだ!その刀を見せてくれないか!?その柄頭から鞘の先まで純白に染められた刀がずっと気になっていてな……っ!」
そこから始まる、見せてくれというお願いコール。目がものすごいキラキラしていて、その圧力にハクヨウは押されっぱなしになる。
「え、と……これ、一応、片手、剣です、よ?」
「何!刀じゃないのか!?」
「【刀術】も使え、る、けど。武器の種類として、は、片手剣」
「……なるほど。だから私が使うものよりも全長が短く、全体的に軽量化されているのか。本来両手武器である刀を、片手で振りやすくするために」
「あ、の……?」
「そして反りが少ないな。どちらかと言ったら軍刀……いや、君の見た目からして忍び刀か?それなら納得がいく片手を空けておくことで応用の幅が広がるし、正面から斬り合わないのであれば長物である必要もなく、小さくまとめているのは取り回しを重視するのであればむしろ必然。ますます興味深いぜひ見せてくれっ!」
「わか、った。見せる、からっ。離れて、くださ、いっ!」
目がやばい。と、ハクヨウは本能的に分かった。この人に、刀の話はタブーだと。
悪い意味ではなく、興奮でブレーキと言うものがぶっ壊れるのだと。
今も【鬼神の牙刀】に目を向けつつもハクヨウの肩をがっしりと掴んで逃さないようにし、顔を突き合わせてぜひ見せてくれと迫っている。
怖い。超怖い。
最初の冷静沈着そうなイメージを返せ。
「はぁ……素晴らしい。白雪のような純白に染め上げられた、汚れを知らぬ刀身。美しい……綺麗だ。あぁ……私もこんな綺麗な刀がほしい……はあ〜……」
【鬼神の牙刀】に頬ずりしながらうっとりとトリップする黒髪の女性。
さっきマシンガントークの途中で、名をカスミと知ったハクヨウは、装備ステータスを絶対に見ないことを条件に、彼女に【鬼神の牙刀】を見せた。出会い方も、笑い方も、最初に話した時の雰囲気もサバサバとした大人の女性という感じだったのに、今は大好きなおもちゃを与えられた子どものようである。いや、トリップしてる辺り、子どもより
「クエ、スト。受けなくて、良いんです、か?」
「うぅ……そうなんだがこんな美しい、芸術品のような刀を見てしまうと、どうにも離れ難くてな……この鞘に施された彼岸花も良いな。不吉の象徴ではあるが、それとは別に『情熱』の花言葉もある彼岸花だ。この刀に対する思い入れが伝わるようだよ……」
………刀身に頬ずりしながら、格好いい事を言っても全く格好良くない。とハクヨウは嘆息。
情熱とか言われても、【九十九】の方が単純な使用頻度は多いのだが、それはさておき。
「自分の刀を作る時、に、存分に拘って、くださいっ!」
「……あぁ。確かにな。だが、それでもこれほどの刀を見てしまえば数日は忘れられそうにない」
もうこの人どうにかして……と、ハクヨウに泣きが入り始める。
第一、人の武器に頬ずりとかしないでほしい。潔癖と言うわけでは無いけれど、それ私の主武装なのに……あと、汚れは沢山知ってるよ。と思わなくもない。昨日だって大量のオークやミノタウロスを斬ったし。
「くっ……これほどの刀を見てしまっては、私も早く作成依頼をしたいな……」
「なら、早くクエスト、行けば、良いのでは?」
「うぅぅぅうぅ!」
何その、刀はほしい!だけどこの刀も見ていたい!みたいな目は……と、もういい加減にしてほしかった。
ハクヨウ自身に用事はないが、巻き込まれてるだけな上に、刀を渡してるから離れるわけにも行かない。ジレンマだった。
だから、仕方なく。
不肖不肖で、大負けに負けて。
「……武器、は、眺めるものではありま、せん」
「っ」
「使って、こそ、その真価を……輝き、を、発揮しま、す。だか、ら」
クエスト行きたいんでしょ?
新しい刀を欲しいんでしょ?
この刀も見てたいんでしょ?
なら。これ以上、この面倒な人に巻き込まれずに済むのなら。
「貴女のやりた、いクエスト、手伝い、ます。今日、だけ。この一回、だけ。好きなだけ、武器見て、いいから。資金貯めて、良いから」
だから、これ以上……私の剣に頬ずりするのはやめろぉぉ――っ!
◆◇◆◇◆◇
「いやぁ付き合ってもらって悪いな!ハクヨウ」
「そうしなきゃ、折れなかった、くせに」
鉱山地帯にやってきたハクヨウとカスミは、片やジト目で。片や物凄い笑顔で洞窟の中を歩いていた。
ハクヨウがカスミに敬語を止めたのは、カスミに向ける年上への対応が面倒になったからである。もうこの人、ただの刀好きだ。面倒この上ない。
クロムには普段から普通に話しているので、然程抵抗なく敬語はやめた。面倒だった。
今日一回、このクエストを手伝ったら、もうハクヨウの【鬼神の牙刀】を頬ずりしない、ハクヨウの許可なく触らない、近寄らないで合意した。対象がハクヨウではなく、【鬼神の牙刀】だというのが、せめてもの優しさである。
「そう、言えば。クエストの内容聞いて、なかった。カスミ、説明、お願い」
「あぁ。そう言えば言ってなかったな」
クエストNPCから借りたというランタンを手に、カスミが受注したクエストの内容を話し始める。
「クエストNPCは、この鉱山で働く鉱夫の頭領でな。なんでも、鉱山の中に凶悪な魔物が住み着き、採掘ができないらしい」
「ならそのモンスター、を倒すのが、クエスト?」
「そういう事になる」
「お使いクエストじゃ、なかった、の?」
これじゃ討伐クエストではないかと、ハクヨウは白い目で見るが。
「正確には、モンスターは体内に鉱石を溜め込んでいるから、それを吐き出させるか、採掘して鉱石を持ってきてくれ、とのことだ。まぁ討伐とお使いの中間だな」
報酬が良いのは、普通のモンスターではなく、相手がボス級に強いから……と。
そして、単純に素材量が多いため、採掘するよりも戦った方が効率的なのだとか。
「そんなの、よく、やる気になった、ね?」
「実入りは良いし、鉱石を吐かせる方法は掲示板に上がっていたからな。倒したら追加報酬が付くんだが、それは諦めている」
「どう、して?」
「倒せないからさ」
「倒せない、の?」
「鉱石を吐かせると、その時点でボスが逃げて戦闘終了。吐かせず倒す方法がいくつか試されたらしいが、それも無理だった」
「?」
「鉱石を吐くのには、2つのパターンがある。一つは、腹部へ一定以上のダメージを与えること」
「もう、一つは?」
「HPを八割以上削ることだ」
「………は?」
なに、それ……。と、思わず、そんな声が漏れてしまった。
「そう思うのも無理はないさ。倒すにはHPを削り切らななきゃいけないのに、その途中で鉱石を絶対に吐き出し、逃げてしまうんだからな」
八割削れば確実に鉱石を吐くが、モンスターは逃げ出してしまう。
最後まで削ろうとしても、途中で吐き出してしまうから意味がない。
「むり、ゲー……」
「一応攻撃特化プレイヤーが、一撃で残り二割になる前に削りきれば、討伐は可能だ。ボスのHP自体は低いらしいから、攻撃にほぼ極振りしたプレイヤーが成功した例もある」
――だが、お互い攻撃特化ではなさそうだし、それは無理だろう?
と、カスミが朗らかに笑う。
が。
それはカスミが、ハクヨウというプレイヤーを知らなすぎである。
攻撃極振り?それがどうしたと言わんばかりのAGIを持つハクヨウさんである。
AGIの高さをダメージソースにしてしまう反則スキルを持つ、音速移動する化け物である。
カスミもまさか、ここにいるのが【AGI】ステータスが2000を超え、与ダメージが【STR 400】に相当する化物だとは、夢にも思わないだろう。
「カスミ……その攻撃特化、の人のステータス、知って、る?」
「ん?確か……開示していたのは、STRが150だったと思うぞ。流石にそんな攻撃力は、ハクヨウもないだろう?」
「うん、そんな
「だろうな。ハクヨウは見るからに身軽な装備だし、AGI特化型だろう?大人しく、鉱石を得てクエストを終えるとしよう」
ランタンの光源だけで、薄暗い洞窟の中。
カスミは、ハクヨウが嬉しそうに笑ったことに、遂に気付かなかった。
◇◆◇◆◇◆
洞窟の中は、以前装備素材を取りに来た場所に雰囲気が似ており、出るモンスターも似た姿のものが多かった。
と言うか体色を変えたり、一部分が違ったりというだけでほぼ同じだった。
「やはり、ハクヨウは戦闘慣れしているな」
「そ、う?」
「あぁ。恥ずかしながら洞窟探索は初めてでな。
だからこそ、ハクヨウの場慣れは良く分かる」
そう言われても、襲ってきたモンスターに驚きつつも、持ち前のAGIに物を言わせてカウンターしているだけである。
「わ、また……」
「良くそのタイミングからカウンターができると思うよ……」
ツルハシのように尖った両翼を振り下ろしながら迫る蝙蝠に【鬼神の牙刀】を間一髪で当てて倒す。
「それに攻撃特化程ではないが、STRもかなり高いんだな。今の蝙蝠を一撃とは」
「あ、当たりどころが、良かった、だけ」
スキルを言うつもりはないので、はぐらかしておくハクヨウ。
「さて。そろそろモンスターのいる辺りに着くはずなんだが……」
「……あ、あそこだと思う、よ。空間が、開けてる、から」
ボス並みに強いというモンスターだろうと、それなりに動けるほどの広さが確保されている場所。近くにはバラバラに砕けたまま放置されたツルハシなどの採掘道具があり、ここがNPC達の仕事場だったのだろうと分かる。
そして、その中央には。
「……トカゲ?」
全身を鉱石のような光沢のある鱗に覆われた、巨大なトカゲ。トカゲと言うよりは、怪獣のようなフォルムをしている。
「あれが目当てのモンスター。10秒以上ヤツの視界に入るなよ。石化の能力を持っているからな」
「そ、れって……っ!」
カスミに、どんなモンスターか聞かなかった自分が悪いのは分かっているのだが、カスミの方ももう少し早く言ってくれたって良かったじゃないかと。そう言いたかったけど。
「あぁ――バジリスクだよ」
洞窟を崩壊させるのではないかという大音響の咆哮が、戦闘の幕開けだった。
バジリスクに捕捉されないように、ハクヨウは最初から全力で駆け回っていた。
まぁそんなことしなくても、【辻斬り】で
教えてくれなかった腹いせに、カスミには多くを背負ってもらおう。
「ハ、ハクヨウももう少し攻撃してくれっ!」
「はぁ……【投剣】、【投剣】、【投剣】」
「それで三割も持ってくとは本当にお前はどうなっているんだ!?」
明らかに手を抜いて、遠くから適当にポイポイポーイと苦無を投げてるだけなのに、一投一割で削れていく。
バジリスクと正面切って戦い、爪や牙による攻撃を辛くも避け、強烈なブレスも予備動作を見切って、絶対に一箇所には留まらず動き続けて。
そうやって物凄い頑張ってる
「だが、やるならちゃんと腹を狙ってくれ!その方が早く済む!」
「カスミ、ファイ、トっ」
「あぁぁぁあああっ!黙っていたのは悪かったから!謝るからもう少しお前も手伝えぇ!」
そんなこと言われても……と。
ハクヨウは、
「ボスじゃ、ない、とか」
正確には、ボスモンスターはダンジョンを除き、特殊な場合しか現れない。
今回のバジリスクは、あくまでもクエスト対象のモンスター。討伐か一時的に追い払うのが目的の、
「ちゃんと、戦って、る。カスミよりダメージ、稼いで、る。がん、ばっ、カスミ」
「それは、そうだがっ!その消えるスキルはなんだとか聞きたいことはあるんだがっ!」
「ひみ、つ……私が本、気出した、ら、バジリス、ク、倒せる、けど……良いの?」
カスミのクエストなのに、私が完全にやっちゃうけど、それ、一プレイヤーとして納得できるの?と煽る。
消える秘密も何も、スキルじゃなく、ただ全速力で走っているだけなのだが、それも言うつもりはない。【鬼神の牙刀】を頬ずりしていた仕返しである。あとついでにバジリスクのことを教えてくれなかったから。
「ただの手伝、いが、倒しちゃって、カスミは、納得す、る?」
「そんなの……」
するというのであれば、【一重】で火力を重視した【手裏剣術】をばら撒く。
最高速で駆け抜けて、【居合い斬り】する。
【瞬光】から首の線を狙い、【首狩り】による即死を与えてもいい。
そんな面倒な手をしなくても、自分の攻撃力であればこの程度のモンスターはどうとでもなる。
だって、これはあくまでお使いクエスト。
それは、実際に戦ってみて分かった。
このバジリスクは最前線のオークよりは強いが、鰐程じゃないから。
単純な力として。
攻撃力、機動力、凶悪性、攻撃の密度。
一つ一つを見れば、ミノタウロスにも、オークにも、それどころか最前線の動物モンスターにも遠く及ばない。
初心者用のクエスト。
それが手に取るように分かる程、バジリスクの動きは単調で分かりやすい。
怖いのは石化の能力だけど、そんなの本来なら初撃で目潰ししてしまえばどうってことない。
だからカスミが、
このくらいで折れる人に、これ以上手伝う義理も無いから。
だけど。
「納得するわけあるかっ!」
やっぱり、良い。と、ハクヨウは笑う。
簡単な近道を選ばず自分でやると決めて貫く。
それができるカスミは、良いと。
クロムも大盾の扱いにくさを嘆いていたけど、既に多くの人に知られる大盾のトッププレイヤーとなっている。
やり直すという簡単な道ではなく、苦労してでも貫き通し、今の実力を得た。
だから、ハクヨウはクロムに懐く。
かつて自らが諦めた姿にダブった彼が、自分と違い諦めずに足掻く姿に魅了されたから。
そして、今もそう。
自分の力で勝つことを諦め、
その簡単な方を選ばず、自分の力で勝つことに貪欲な姿。カスミの意思。
そんな諦めてしまう自分とは違う、彼女の格好良い姿が見れたから。
「なら、倒せる、ように」
全力の後押しを。
「【九重・縛鎖】っ!」
右手に二本。左手に一本。
八本の最大数とは程遠く、火力もない。
けれど、最大限の後押しができるそれは。
「なっ鎖!?ハクヨウか!」
「現最、大級……
知っている。【投剣】を三本入れても状態異常が入らなかったバジリスクの耐性の高さは。
だから、威力は求めず多重化したのだ。
だから、同時に当てて重複させたのだ。
今できる最大限の多重拘束を入れて、動きを封じたのだ。麻痺などではすぐに回復されると思ったから。
都合27本の鎖は、ガッチリとバジリスクを拘束し三分は離さない。
三分は、その場から逃げ出せない。
【拘束】の多重化は、拘束時間が伸びるのではなく、拘束力が強まるだけだから。
「三分……それで、仕留めて!カスミっ」
「承知!」
残りHPは半分。けれど、その場からまともに動けず攻撃もできない相手は怖くない。
多少自由の効く腕も、口も。攻撃は続く。
けど、後ろ足は完全に縛り上げられ、その場で仁王立ちしているしかないバジリスク。首は動かせず、石化の邪眼も懐に入ったカスミを捉えない。
振り向けないのだから、後ろから斬りつけられれば防御もできない。
ハクヨウはカスミのその姿に大丈夫と判断し、バジリスクの視界外で腰を下ろした。
スキルを連発し、本当に三分でカスミはバジリスクのHPを削りきった。
バジリスクは蛇っていうのが通説ですが、時代とともにコカトリスと同一視されたり、トカゲという説もあったりと、それぞれ別物として扱いやすいですねw
作中ではハクヨウちゃんは大きなトカゲと称しましたが、見た目は翼がないドラゴンです。
地竜とも言いますね。
ドラゴンというのは、神話において『蛇』に属する存在なので、巨大な蛇として語られるバジリスクもまた、ドラゴンとしての側面を持ち得る存在です。その為今回は、ドラゴンに落とし込みました。
コカトリスとの同一視は、どちらも蛇としての側面、邪視、猛毒という共通点から、元々は別々の地域で別々の存在として伝わっていたものが広まる過程で混ざったとか。
まぁ、日本の創世神話なんて世界各地の神話様式が混ざって混沌としたモノですし、バジリスクとコカトリスの同一視なんて可愛いものです。
須佐之男命が高天原を追放された理由とか、須佐之男命の成り立ちと彼の立場から紐解くと、彼がやったのは正しい行為だったりします。
まぁそんなことは置いといて。
カスミは第二陣から参加です。本当は一陣で参加させたかったのですが、ミィ、ペインに続きフィールドで出会うというのも芸が無いなと。
ハクヨウちゃんには迷子になってもらいました。久しぶりに言う通り動いてくれました。
あと、原作知ってる人なら知ってる、大の刀好きーな側面を全面に押し出しました。
いつもは格好良いのに良い刀、というか和の物を前にするとカスミ可愛いですよねw
カスミがやったのは、掲示板ではお使いクエストとして扱われる物。
結局の所は『バジリスクがいて危険な洞窟から、素材を取ってきてくれ』という内容のクエストですので。ぶっちゃければ、洞窟で普通に採掘して持ち帰っても達成します。
ただ、量は半端じゃないくらい必要なので、バジリスクに吐き出させた方が遥かに楽。
バジリスクは状態異常耐性が高く、身動きを封じるのが困難、討伐は不可能。身動きを封じずにHPを削れば、いつか絶対に逃げる。
そんなモンスターです。
だから危険度は高いけど、ちゃんと立ち回れば達成できるクエストという感じですね。
バジリスクを倒すには『一撃で倒し切る』か『動きを封じて逃さない』などの策が必要。
後者は普通の状態異常では不可能でしたが、ハクヨウちゃんは普通じゃないので封じることができました。
【縛鎖】の現最大重複。
失敗すると【九重】1本分しか拘束できませんが、現状3本なら全く同時に当てられるので、重い【拘束】が入りました。
あ、あれ…おかしいな。
後書きで1000字に到達しちゃいました。
で、では今回はこの辺で。