現実の分まで仮想世界を走り回りたいと思います。   作:五月時雨

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 思いの外、前回後書きで聞いたやつの元を知ってる人がいて驚いてます。
 てかマジでやばい。続きは書き途中なんですが、本作のストック尽きました。
 マジで忙しくて、執筆に着手できてない。


速度特化と海の竜

 

 予測不能な事態の連続に、ミザリーは混乱していた。

 偶然辿り着いた東の最前線を攻略し、遠くまで来ていたら、いきなりフィヨルドから飛沫が上がり、翼を持つ、蛇のように長い胴体をした竜が現れた。

 モンスターなんだろうが、今まで相手にしていたモンスターとは比べ物にならないほどの巨躯。

 身に纏う凶悪な威圧感。

 その全てが、『勝てない』と実感するには十分だった。

 

 だから、すぐ近くからいきなり現れた白いプレイヤーが戦い始めた時には、ミザリーはその正気を疑った。

 

「ミザリー……あの子。前にも私を助けてくれた子だ……っ!」

「前にも、ですか?」

 

 全てが真っ白で、だからこそ裾等に描かれた彼岸花(あか)が鮮烈な印象を与える、鬼の姿をした女の子。やけに既視感を感じたが、会ったことはない。

 空を飛ぶスキルも、水上を走るスキルも、視認不可能なほど早く走る人も、一人であんな大きなモンスターを相手取れる人も見たことがない。

 

「うん……あの子のお陰で、私は今、()()()()()()()()()から」

 

 ミザリーは何処か、九曜に似た雰囲気を感じるミィがほっとけなくて。ミィとフレンドになり、こうして一緒に遊んでいた。

 そんなミィが、あの子のお陰で自分のままでいられるとは、どういう事か気になる。

 

 

 

 気にはなるが。

 

 

「なら、恩返ししないといけませんね」

 

 『ほっとけない子』の一人を助けてくれたのなら、ミザリーがあの子を助ける理由になる。

 

「……良いの?」

「はい。……それにあの子には、確かめたいことがありますし」

「確かめたいこと?」

 

 この既視感は何なのか。

 戦う直前、明らかに自分に向けられた笑みと、聞き取れなかった言葉の意味。

 それらを確かめなければ、ミザリーの気がすまなかった。

 

「えぇ。ですが、今はあの子をサポートしましょう。【水泳】も無い私達では、ここから援護しかできませんが、無いよりはマシでしょう」

「あの子、水の上走ってたけどね」

「世の中には、何事も例外があるものですよ」

 

 大地も空も、果ては水上すらも駆け抜けるなんて、もう一人の『ほっとけない子』とは正反対だと苦笑した。

 

「それで、あの子の名前は何というのですか?」

「あっ……えっと、直接は聞いてない。けど、調べたらすぐ分かった」

「聞いてないのですか?」

「あ、あの時は色々あったの!それで、あの子は、【白影】のハクヨウだと思う」

「【白影】ですか。確か鬼の姿で白い装備が特徴の、NWO内で最速のプレイヤーでしたね」

 

 確かに、特徴は合致する。

 フードで角や顔立ちをちゃんと確認できていないが、他の特徴はそのままだ。

 名前はハクヨウかと、ミザリーはまた苦笑した。喋り方も、雰囲気も、名前すらあの子に似ているなんて、と。

 そして、九曜があの時、話してくれたことを思い出してしまえば。

 

「ふふっ……聞くことは無くなりましたが、話す理由はできました」

「ミザリー?」

 

 もう、確定だろう。

 正反対なのも頷ける。()()()()()()()()()()のは、あの子自身なのだから。

 自身に笑いかけたのも、何かを言ったのも、聞き取れはしなかったが、理由はわかった。

 

「ふふふっ。妹が戦ってるのに、任せて逃げるお姉ちゃんなんていないんですよ」

「姉?……妹!?ちょ、ミザリーどゆこと!?」

 

 ミィの問いかけを柳に風と聞き流し、ガックンガックン揺らされながら朗らかに笑う。

 

「話は後にしましょう。きっと、あの子も応じてくれますから」

「うっ……で、でもあの時は逃げちゃったし……今更は恥ずかしいというか…」

「大丈夫ですよ。ハクヨウちゃんは気にしません。むしろ、ミィに感謝される筋合いはないと言うでしょうね」

「なんで?」

「……そういう子だから、としか」

 

 ミザリーは、今のミィしか知らない。今のままでいられなかったミィ。今とは違った時の姿を知らない。だから、答えられない。

 それは、ミザリーの考えとしても、戦闘状況としても。

 

「これ以上、ハクヨウちゃんに任せきりではいられませんね。行きますよ、ミィ!」

「わ、わかった!……【炎帝】!」

「ハクヨウちゃん、避けてくださいね!

 【ホーリージャベリン】!」

 

 ハクヨウが音速を超えて竜の周囲を飛び駆けて攻撃しても、まだ二割程度しか削れていない。

 いやむしろ、僅かな時間に一人で二割削ったことこそが異常である。

 それも、硬そうな竜鱗に守られた、硬い防御力を持っているだろう相手に。

 

 それでも、あれだけの戦闘をすれば消耗はするだろうと。少しでもハクヨウの力になるために、ミザリーとミィは魔法を放った。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 戦い続けて、ハクヨウの主観では二十分が経った。実際の経過時間は僅か二分だと考えれば、時間の流れる遅さに慌ててしまう。

 けれど、少し前から始めた自力スパーリングがここで活きたと、ハクヨウは頬を吊り上げた。

 あれが無ければ、ハクヨウはとうの昔に集中力が途切れ、致命的なミスをしていただろう。

 

(やってて、良かった……これからも定期的に、やろ……)

 

 不測の長期戦に見舞われた今回のような時、必ず役に立つ気がした。

 

 竜の尾がうねり、周囲を音速で飛ぶハクヨウに叩きつけるように迫る。

 同時に、巨大な体に比べると細く小さな。けれど人間の身長を遥かに上回る両腕が、ハクヨウを挟むように迫りくる。

 

「遅いけど、ね」

 

 けれど、それは世界時間における高速の話。

 十倍の認識速度の世界に立つ今のハクヨウには、あくびが出るほどに遅い攻撃。

 空を蹴って直角に方向転換したハクヨウは、そのまま左袖に隠していた四本の苦無を番え。

 

「【八重・毒蛾】!」

 

 毒の状態異常を叩き込む。

 フィヨルドから出てきた、元は水棲モンスターなだけあってか、火と水への耐性が高かったため、【炎蛇】や【凍貫】を入れても大したダメージは与えられなかった。

 その為、少しでもダメージを上げるために毒を喰らわせる。

 

「【居合斬り】!」

 

 【韋駄天】を発動している時は、【居合い】よりこちらの方が与ダメージが遥かに上。移動速度がそのままダメージに影響するのだから当然だ。【韋駄天】無しの時は、若干だが【居合い】の方がマシである。

 

 それで、ようやく二割。

 一番ダメージの入る、腹側や尾の先端に攻撃を入れても、ハクヨウの攻撃力でこの有様。普通に反則級の強さを持っている。

 

「そろそろ、逃げれた、かな?」

 

 ミィという女の子については、ゴキ……オークから逃げ続けた実績もあるので問題ない。ミザリーは未知数だが、時間は稼いでるのだから大丈夫だろう。

 そう思い、チラリと二人のいた岸辺に目を向ければ。

 

「なん、で……っ!?」

 

 なんで、まだ逃げていないのか。

 なんで、竜に魔法を放とうとしているのか。

 逃げろと言ったのに、ミィは両手に火球を浮かべ、ミザリーは光の槍のようなものが浮いている。色の褪せた世界では、ちゃんと認識できないが。逃げるんじゃなかったのかと言いたいが、そうもいかない。【韋駄天】も残り時間は体感で十分を切った。正直に言えば、あと十分で削りきるのは不可能だったのでありがたい。

 だから、竜には二人の魔法を確実に喰らってもらう。

 

「【ダブルスラッシュ】!」

 

 背中側に回り込み、翼の付け根に向かって二撃。飛行能力を失わせるまでには届かなくとも、少しの間、動きを止めるくらいはできる。

 

「【三重・疲燕】!」

 

 竜の巨体を【縛鎖】で縛るには、最大重複させる他ない。だからこそ、一瞬動きを止め、防御力を下げる方にシフトした。

 世界基準で高速だろうと、竜は素で避けることが可能なために。

 

 そして、直撃。

 上手く竜の向きを誘導したのも手伝って、二人の攻撃一回で一割減った。

 【疲燕】で三十パーセント防御を下げていたのに、一割しか減っていない事に嘆きつつ、発動後に隙が出来るスキル攻撃を避け、竜の体表に斬撃を叩き込み続ける。

 

「まだ、まだぁ……っ!」

 

 頭の先から、尾まで。爪の先端から翼の皮膜まで。全身くまなく斬り刻み、赤いエフェクトを散らす。【疲燕】がまだ少し残っているため、ダメージはこれまでの比ではなく、【韋駄天】が切れるまでに、残り四割と少しにすることができた。

 

『――――――ッ!!』

「……っ、【文曲】残ってて、良かった……」

 

 十数メートル落下し、何とか水上に降り立ったハクヨウは、しかし、まだ戦闘開始から数分しか経っていない。順調、と言えば順調だろうが、ここからは【韋駄天】による高速機動も、空中移動も使えない。

 空を飛ぶ竜に対して攻撃力はガタ落ち。

 

「ふ、ぅ―――……」

 

 この際だ。と、ハクヨウは腹を括った。どうせ、ミザリーには見られても構わない。

 ミィは分からないが、ミザリーがいるなら大事にはならないし、他にプレイヤーはいない。

 

「なら、隠し玉は無しで、やろう」

 

 水面に【鬼神の牙刀】を立て、ハクヨウと同じ白さを持つ巨体の鬼を召喚する。

 

「【捷疾鬼】!」

 

 白い魔法陣が現れ、中から二メートルを超える身長の白鬼、捷疾鬼が出てくると、類稀なる跳躍力で跳び上がり、竜に攻撃を始めた。

 

 しかし、これもまた一分で消える。いや、【瞬光】を使っているハクヨウの主観では、十分は残ってくれる。なら、その間に策を弄する。

 

「捷疾鬼、攻撃を続けて!」

 

 そして自分は、全ての苦無を投げ切る覚悟で。

 

「【疲燕】、【刺電】、【毒蛾】、【睡閃】、【炎蛇】、【凍貫】、【縛鎖】ッ!!」

 

 七種類合計五十六の苦無が空を駆ける。

 威力にのみ注力した【一重】で、全て状態異常はレジストされた。しかし、威力は十分。

 当たらなかったモノもあるが、それでも大半を当てて兎に角ダメージを稼ぎまくる。

 

「【解除】」

 

 先に投げた分も考えて、心許ない【九十九】も一度解除し、苦無を回収する。と同時に【瞬光】が切れ、【捷疾鬼】が姿を消した。

 

「あと、は……」

 

 一度、ミザリー達と合流するべきだろうと、ハクヨウは判断した。

 さっきまでは【瞬光】のデメリットで話せなかったが、逃げないなら協力するべきだ。

 その為には、竜の動きを封じる必要がある。

 

「【跳躍】!」

 

 垂直最大跳躍距離が十メートルを超えた時から、全力での跳躍は控えていた。使う場面が無かったというのが主な理由だが、事ここに至り、それだけの跳躍力があったことに感謝する。

 一息で竜と同じ高さにまで、上がることができたのだから。

 

「ここなら、二人、巻き込まない!

 【忍法・白夜結界】!」

 

 【九十九】を投げるために納刀していた【鬼神の牙刀】を僅かに引き抜くと、瞬く間に、周囲一体を覆い尽くす濃霧が発生する。

 

【白夜結界】

 【忍法】の一つで、その場から半径三十メートルに濃霧を発生させる。

 濃霧の中はハクヨウだけがはっきりと物体を視認でき、濃霧に囚われたものは、方向感覚を失い、例え濃霧から出ようとしても、()()()()()()()()()()()。正しく、迷いの霧。

 パーティーメンバーすら捕らえてしまうため、クロムやカスミとパーティーを組んだ時に出番の無いスキルだったが、岸辺からも離れたフィヨルドの上空ならミィやミザリーも巻き込まない。

 解除方法は、スキルが終わるのを待つ。

 ハクヨウが解除する。

 濃霧の何処かにある大きな氷の結晶を砕く。

 のどれか。

 しかし、氷の結晶を探すにも歩き回れば同じ場所に戻ってしまう。知らなければ、誰をもハメ殺すことができる無間地獄。

 その世界に竜を捕らえたハクヨウは、【忍法・影纏】によって積み重なった敵対値(ヘイト)を解除し、フィヨルドの岸辺に降り立った。

 

「なんで、残ってる、の?」

「一緒に戦うためですよ、ハクヨウちゃん」

「う、うん……私達も、手伝う、から」

「ミィ?なんでそう余所余所しいのですか」

「だ、だってぇ!」

 

 現実と同じ優しい眼差しで笑いかけてくるミザリーに、これは気付かれてるかな?と心の中で笑う。やはり美紗の目は誤魔化せないらしい。

 でも、やっぱり少しだけ、恥ずかしいから。

 

「どう、かな?み、……ミザリー?」

 

 『美紗ねぇ』と呼びそうになって、何とか言い直す。それにも気付く、敏いミザリーは小さく笑った。

 

「ふふっ……この世界(ここ)で元気に走るあなたを見れて、とっても嬉しいですよ。ハクヨウちゃん」

「えへへ……やっぱり、貴女で良いんだ……」

「えぇ。改めて、よろしくお願いしますね」

 

 笑いかけてくるその微笑みが。

 頭を撫でる、その手付きが。

 彼女を、自分が知る美紗なのだと告げている。

 

「私の事は好きに呼んでください。呼び捨てでも、お姉ちゃんでもいいですよ」

「じゃ、ぁ……ミザねぇ、で」

「ふふっ、こっちでもお姉ちゃんですね」

「んっ……」

「私は『ハクヨウちゃん』で良いですか?」

「う、ん。白……(ハク)から繋げて、ハクヨウだから。好きに呼ん、で」

「なるほど。分かりました」

 

 ……因みに。

 ミザリーがハクヨウの頭を撫でた辺りから、ハクヨウはミザリーに抱きついていたりする。丁度、妹が姉に甘えるように。

 ミザリーも、愛おしいようにハクヨウの小さな体を包み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてそんな中、当然もう一人が置いてけぼりを食らうわけで。

 

 

「ねぇ……良い話風になってるけど、私のこと忘れてるよね!?」

 

「「あっ……」」

 

 両手に火球を浮かべて濃霧の中を警戒するその瞳は、若干涙目だった。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ミザリーから離れたハクヨウは、【白夜結界】のことを二人に説明した。

 

「多分、そろそろ時間にな、る」

「ハクヨウちゃんは、最初の空を飛んだのはできないのですか?」

「できる、けど。あれは、もう一つのスキルを併用、しないと、振り回される、から……そっちが使えないから、無理」

「火も効きにくいんだよね?私攻撃手段、【火魔法】しか無いんだけど……」

「私は回復の方が得意ですからね……攻撃面ではミィに及びません」

 

 作戦は単純。ハクヨウが最初に麻痺を入れ、その間に二人が削る。元より、ハクヨウは二人とパーティーを組んだことがないため、連携もあったものでは無い。ならば、臨機応変に対応するしかないだろうと決まった。

 

「私も、削る、から。だい、じょう……ぶっ」

「本物のトッププレイヤーが言うなら、安心感があるね」

「ふふっ、ハクヨウちゃんがトッププレイヤーとは思いませんでしたが……確かに、心強いです」

「別、に。トッププレイヤーのつもり、ない」

「レベルは?」

「ん?……36」

「「トッププレイヤーだね(ですね)」」

「む、ぅ……」

 

 最高レベルをひた走るペインで37だったりするので、バリバリのトッププレイヤーである。因みに、クロムはつい最近30を超えたとか。

 

「では、ハクヨウちゃんに前衛を任せますね」

「わか、った。できるだけ、裏取る、から。お腹側、は、二人で叩い、て」

 

 うっすらと晴れていく霧を眺め、三人ともそれぞれの得物を構える。

 完全に標的を見失った竜は一時的に静かになっていて、それが、嵐の前の静けさを表しているようで不気味だった。

 

 その感覚は、極めて正しい。

 

 

 

 

 

 竜は飛ぶのをやめ、海に高い水柱を上げて落ち、程なくして身体の半分を海上に持ち上げる。

 そして。

 

「っ、海が!」

「海そのものを、操るなんて……っ!」

 

 竜の咆哮と共に海が唸りを上げ、水面の一ヶ所がグゥっと盛り上がり、水でできた蛇のように伸び上がった。

 さながら、海そのものが生きているかのように、更にもう一本、二本三本――次々に水面から触手が伸びて、フィヨルド全域を埋め尽くす。

 

「こんなの、無理ゲーじゃん……」

「ハクヨウちゃん、ここから苦無は……」

「届か、ない。それ、どころか」

 

 少しでも投擲する素振りを見せれば、触手が必ず数本、竜との射線上に入り攻撃を許さない。

 

 そして何も、触手は守るだけではない。

 

「っ!来ました!」

「【爆炎】!……散らすしかできない!」

 

 圧倒的すぎる、面での制圧力。岸辺より近づくことのできない三人に対し、容赦のない無数の触手が津波のように襲いかかる。

 この触手の海の中央に、竜が待ち構えている。

 となれば触手を突破する他なく、ミィが高ノックバック攻撃をするが、元はただの水でできた触手。撒き散らすことしかできず、特に数が減ったようにも見えない。

 

「海が枯れるなんてあり得ず、つまり触手が枯れることもない……どうしたら……」

「触手が伸びる距離、限界がある、よ。それに、触手が出た位置、から、動けない、みたい」

 

 前衛で、苦無も意味をなさない為、守られるしかなかったハクヨウは、だからこそ、しっかり観察した。そして、その特徴を見つけることができた。

 

「では、やれる事は」

「一点突破、しかないね……できるか分かんないけど」

「やるしか、ない」

 

 三人の内、全員が【水泳】も【潜水】も持っておらず、代わりに一人だけ水上を走ることができる。ならばもう、作戦など一つしかない。

 

「ハクヨウちゃん。行って」

「うん、私とミザリーで道を作る。ハ…ハクヨウは、一気にボスまで走って」

 

 まだ呼び方に迷いがあるのか、ミィはハクヨウを呼ぶ時に恥ずかしそうに頬を染める。けれど、それもまた、以前会った時の演技では、到底見られなかったものだ。

 

「わか、った。任せる、よ」

「「任せて!」」

 

 プランは決まった。

 他に策もないので、殆ど特攻。けれど、それで良い。ミザリー(あね)の言葉なら信頼できる。

 

「ミザねぇ、行ってくる、ね」

「はい。こっちも頑張りますね」

 

 ミザリーへの言葉は、すんなりと出た。そしてもう一人。ミィにも何か言うべきかと考えて、答えは、思いの外すぐに出た。

 

「ミィ、さん」

「ぅ……え、と。ミィで。呼び捨てで良い、よ?私もハクヨウって呼ぶし」

「なら、ミィ」

「は、はい」

 

 さっきまで。そして、今も。

 

「肩肘張らず、素のままで。

 やりたい事を、やりたい様に

 

 ―――楽しい、でしょ?」

 

 

 

 

 答えは、満面の笑みで返された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ―――………」

 

 迷いは、ない。

 

 ここから真っ直ぐ進んで、竜まで突っ込む。

 途中の触手は、二人では限界があるだろうから、できるだけ自分でも斬る。

 触手という形を保っていることのデメリットか、その形を崩されると水に戻る。つまり、普通は斬れない水を、今だけは斬れる。

 

 【文曲】はまだ残っているが、もうすぐ時間切れ。そしたら一度【韋駄天】で空に上がり、クールタイムを待って再使用するしかない。

 つまり、【韋駄天】で空を飛んでいくことはできない。

 

「【挑発】!」

 

 触手の狙いが、ハクヨウのみになる。

 迫り来る触手の壁に、黙して構える。

 ハクヨウは鞘に左手を添え、腰を落とす。

 露骨なまでの【居合い】の体勢。

 

(一回じゃ、足りない)

 

 一度【居合い】をしたところで、範囲も僅かなものだ。絶対に、何度か斬る必要がある。

 

 それでも。

 

(できる、はず。私のAGI(速さ)なら)

 

 感覚は、ずっと前からできている。

 

 緩急を付ける。ただそれだけ。

 

 けれど、あの時よりもっと速く。

 

 一瞬だけ、速度を爆発させる。そんな感じ。

 

(あの時よりももっと、速くなった。今ならできる。私なら、きっとやれる!)

 

「【居合い】」

 

 瞬間、ハクヨウの背後から、ゆらり、と。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()




 
 まぁたハクヨウちゃん変な事し始めました。
 こっからどうなるのか私にも分かりません。てか展開としては決まってるけど、どうやってココから収集つけよう……。

 【白夜結界】ですが、アニメ落第騎士の英雄譚で、珠雫が『この中で自由に動けるのは私だけ』と言っていたのを元に、オリジナルでやばい感じにしました。
 霧の中に1つだけある氷の結晶を砕かないと、どんなに歩き回ろうがすぐに元の地点に戻されます。ハクヨウちゃんだけはこの空間で自由に動けて、視界も良好です。
 発動時間は10分くらいかな。それを過ぎれば霧が晴れてきます。


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