現実の分まで仮想世界を走り回りたいと思います。   作:五月時雨

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 【序章 九曜=or≠ハクヨウ】最終話。

 『速度特化と親友』
 『九曜とハクヨウ 二つの《わたし》』
 この二つの話を経た、望月九曜の答えです。


隠し通すか、打ち明けるか

答えは得た

ありがとね、みんな


私もようやく、前を向けた


 


九曜とハクヨウ どっちも《わたし》

 

 先程まで揺れていた車が止まった。

 

 いつも通りお母さんが運転席を降りて、車椅子を準備している。

 ―――いつもと同じなのに、少し緊張する。

 それを横目に見ながら、後部座席にいた私もまた、降りる準備をした。

 小学校から今まで、かれこれ十年以上もやってきた動作に淀みはなく、お母さんがドアを開けて車椅子を横に持って来た時には、準備は全て、完了。

 ―――淀みなく、いつも通りに。

 先に大きなバッグを、車椅子の座面下に設置してあるネットに放り込む。

 お母さんが抑えてるけど、重さで更に車椅子が安定する。

 次に腕の力で体を持ち上げ、ゆっくりと車から出て車椅子に体を預ける。

 やはり長年の相棒の安定感は段違いで、安心感が、全然違う。

 ―――それでも、少しだけ強張ってしまう。

 最後に、細々とした持ち物を膝の上に乗せれば、準備おっけー。

 

「それじゃあ、行ってくるね」

「えぇ、行ってらっしゃい」

 

 ゆっくりと漕ぎ出し、車椅子を進める。砂利道のガタゴトとした振動が直に伝わるけど、それはいつもの事だ。もう、慣れた。

 後ろに遠ざかる車のエンジン音を聞きながら、小さく細く、肺の奥から息を吐いた。

 

 なんとなくやってしまう動作。

 

 

 ―――けど今日からは、違うんだ。

 

 ()()()()()()()()()、意識を本当の私(ハクヨウ)に戻す。

 

 ミィやミザねぇと一緒にミドガルズオルムを倒した週明け。第三陣のソフト発売まで一週間と少しになった月曜日。今日が、私の覚悟を示す日だから。

 

 私は、私が背中を押した人に、背中を押してもらって。その後、一番信頼するミザ(美紗)ねぇにも、勇気をもらった。

 

あなた(わたし)の信じる親友なら、きっと受け止めてくれると思います』

 

 

 私の言葉に勇気を得て、踏み出した人がいる。

 

 私を信じて、送り出してくれる人がいる。

 

 あぁ本当に、この世界は残酷だ。

 

 私の気持ちを知らず、好き勝手言ってくれる。

 

 言葉だけで手を貸さない人がいる。

 

 あぁ本当に、この世界は優しさに満ちている。

 

 

 だから、歩き出そう。

 

 優しい言葉で、私を送り出してくれたから。

 

 残酷なまでに、弱い私を信じてくれるから。

 

 

 カラカラコロコロと、車輪が回る。この音は、一生私の耳から離れることは無いけれど。

 

 それでも強がって、気丈で、明るい。

 そんな自信に満ちた(ニセモノの)私とはおさらばしよう。

 こんなうじうじした私とは、今日という今年最後の登校日で終わりにしよう。

 4月に二年生になり楓と理沙がNWOを始める。

 その前に、私はこの一歩を踏み出そう。

 

 そうじゃなきゃ、ミィを焚き付けた者として情けない。

 美紗ねぇにも、きっと呆れられる。

 

 

 ―――大丈夫。

 二人なら、きっと受け止めてくれる。

 

 ほら、見えてきた。

 

 校門に着けば、いつも通り、親友の片割れが出迎えてくれる。

 

「おっはよう、九曜!」

 

 その挨拶は毎日と同じ。明るくて、皆を笑顔にしてくれる天然さん。

 

 少しだけ、息を吸う。これから言う言葉は、いつもと同じ。なのに、いつもより緊張する。

 楓には、初めて見せるからかな?

 でも、勇気を出して。

 

 ―――ミィ、ありがとう。私に勇気をくれて。

 

「う、ん。おは、よ、楓」

「………」

 

 少しだけ、はにかんで。

 緊張から、ゲームの中よりも、更に吃ってしまったけれど。

 それでも、ちゃんとできた。

 これが、第一歩。

 

「どうした、の?」

「なな、何でもないよ!?なんか、いつもと雰囲気違うなぁ……って」

 

 挨拶したら固まった楓に声をかけると、やっぱり、気付かれるらしい。いつもはもっとハキハキしてるし、もう少し明るいもんね。

 こんな静かで、大人しい感じなのが、本当の私なんだ。

 

「そ、う?でも、いつも通り、だよ?」

「全然違うよ!?」

 

 『コテン』と首を傾げるのも、こっちじゃやらなかったから。でも、素の時は自然に出ちゃうんだ。無意識に、仕草から何から、抑え込んでいたから。

 

「それ、より。タイヤ、お願、い」

「わわ、わかった!」

 

 いつも通りタオルを渡せば、思い出したように慌ててタイヤを拭き始める。けど、やっぱり私が気になるのか、楓がチラチラとこっちを見ている。

 

「……ん。ありがとっ、楓」

「……やっぱり、何かあった?」

「んーん、何でもない、よっ」

 

 あぁ、うん、楽だ。

 下手に繕うのは、やっぱり疲れちゃってたんだって実感する。

 本当に、自然に笑える。

 前みたいな、少し無理した笑顔じゃない、本当に、心から出た自然な笑み。

 それが現実でも出たことが、とっても嬉しい。

 

「嘘だよ!九曜なんか可愛いもん!今までの何倍も可愛いんだけどっ!?」

「えへへ……何、それっ?」

「それだよ、も――っ!」

 

 あぁ、良かった。

 

 こっちの私(ハクヨウ)を、楓は受け入れてくれたんだ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 朝あったら、親友の様子が違った。

 いつもは大人しいけど、明るくて。

 サバサバしてるのに、とっても優しい。私と理沙の親友。歩けない身体を気にした様子もなく、毎日普通に過ごしてる。

 頭が良くて、私や理沙よりもしっかり者で、テストなんて毎回満点を取ってくる。

 もしかしたら、私達より歳上なんじゃ……と思うほど、昔からしっかりしていた、親友。

 

 それが。

 

 

「さっきから変、だよ?楓?」

 

 『コテン』と小さく首を傾げ、見たことのない花が咲くような可愛らしい笑みを浮かべて。

 あるいは、『幼い』と言ってもいいかもしれない、そのあどけなさにドキリとする。

 

 年上なんてものじゃない。

 年下の幼い子を見てる気さえしてくる。

 

 同じ見た目。同じ人のはずなのに、こんな動作、こんな笑い方、こんな雰囲気。

 全てが見たことのない九曜で。

 だけど何故か、そんなあどけない九曜にホッとしてる自分がいて。

 何でか分からないけど、『良かった』なんて思っちゃう。

 

「かえ、で?」

 

 私のことを見上げてくる瞳が揺れていて。初めて見た九曜の不安げな瞳が、やっぱり幼くて。

 

「九曜!」

「わ。……どうした、の?楓?」

「急に抱きしめたくなった!」

「もう、……なにそ、れ?」

 

 儚く、今にも消えそうなのに、野に咲く小さな花のように、仄かに存在を主張してる。

 けどやっぱり九曜の、私を受け止める感覚は、昔からずっと変わらない九曜のままだった。

 

 しっかり者で私と理沙のお姉ちゃんだった九曜は、今まで通りお姉ちゃんみたいにしっかりしているのに。

 

 

 

 

 

 やっぱりどこか、妹みたいだった(幼かった)

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 この日、授業らしい授業もなく、普段の生活よりも余程自由だったのも手伝ってか、九曜の変わり様が際立った。

 

 真面目でしっかり者。

 大人しい人ともよく話すが、とても明るい。

 先生からの信頼も厚く、何事も熱心に取り組む非の打ち所がない人。

 

 そんなイメージを学級内の全員が持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな九曜が。

 

 

 

「すぅ……すぅ………すぅ……」

 

「……寝てる、な」

「うん、寝てる」

「望月さんが居眠り……?」

「初めて見た……」

 

 終業式の体育館。

 クラス最後尾で、スヤスヤと眠っていた。

 しかも、校長が話している真っ最中である。

 

 え?何これ幻覚?望月さんが、嘘だよね?

 と、近くの人はみんなしてヒソヒソ。

 

 壁際に立っている先生方も、そんな九曜を見てギョッとしている。

 『あぁ、やっぱり寝てるんだな』と、生徒も幻覚じゃないと思い直す。

 

 九曜のちょうど前にいる女子生徒、もとい理沙が九曜の足をちょいちょい。起きてーみんなギョッとしてるよー。

 

 しかし悲しいかな。

 九曜の足は神経系からやられているため、触られている感覚そのものがない。

 だから、それで起きれる道理はない。

 

 仕方なく、理沙は少しだけ上体を上げ、目立ってしまうのを覚悟で九曜の体を揺する。

 

「ん……っ、ぁふっ……な、に?」

 

 欠伸を噛み殺し、目を擦りながら尋ねれば、ヒソヒソと声が聞こえてくる。

 

「あくびしたぞ」

「あれ本当に望月さんか?」

「なんか小動物みたい……」

「かわいぃ……」

 

 それにより今が何をしているか理解した九曜。

 

「え、あぅ。え、と……」

 

 シュゥゥ……と頭から湯気が出るんじゃないかと思うほどに顔を赤くして、九曜は恥ずかしさから顔を覆う。

 

 

 それが、一つ目。

 

 

 

 

 

 次は、理沙が二年生になった時、確認テストがあると先生から告知された時。

 

「九曜!勉強教えてください!」

 

 そう言って九曜に泣きつく理沙を見て、『あぁ、いつも通りだぁ……』と聞き流すクラスメイトは、理沙が毎回のテスト前に同じことをするので慣れたものだ。だから、いつもの九曜の返答まで、ばっちり覚えてしまっている。

 

『全く……次からは自分で頑張るんだよ?』

 

 そう言って、毎回毎回面倒を見るのだ。お母さんだろうかと呆れる人もいるが、それはさておき。今回、九曜の返答はちょっと違った。

 

 

「え、やだ」

 

 

 ………ごめん全然ちょっとじゃなかった。

 

 絶望に顔を染めた理沙を見て、九曜が可笑しそうに笑う。

 

「えへ、へ。冗談、だよ。理沙」

 

 ……誰だろう、この子。

 え?もしかして、貴女は望月九曜という名前の、車椅子の少女ですか?

 え、ウソ?私達こんな子知らない。

 こんな可憐にあどけなく、幼さの残る表情で笑う小悪魔(少女)は知らないっ!

 望月九曜さんはもっと真面目で、明るく笑うハキハキした女の子だった!

 ペロッと小さく舌を出しておどけてみせる、可愛らしい少女とかもはや別人じゃん!

 何そのいたずらっ子な可愛らしい笑み!?

 

 とは、全員の見解の一致である。

 

 

 これが、二つ目。

 

 

 

 そして、最後の三つ目。

 

 下校直前のこと。

 毎年一人はいる、荷物を全然持ち帰っていない生徒が、大荷物を持ってフラフラヨタヨタしながら歩いていた所に、偶然九曜が通り掛かり。

 案の定、ぶつかってしまった。

 

「いってぇなくそ!!」

 

 そして、計画的に持ち帰らない自業自得で、荷物を床にぶち撒けてしまった。

 今回のように人とぶつかる事は度々あり、いつも申し訳なさそうに九曜が謝って終わる。

 いろんな人が見ているから、知っている。

 

『ごめんなさい……もう少し端の方を進むね。私が悪いのに、手伝えなくてごめんなさい』

 

 と。悲しそうに頭を下げて。

 けれど、ここでも違った。

 

「あぅっ……え、と。大丈、夫?」

 

 偶然自分の膝に落ちた教科書を拾い上げて、心配そうにぶつかった人の脛を見つめる。

 

 九曜のその心配そうに揺れる瞳に毒気を抜かれ、ぶつかった男子生徒はいそいそと教科書を拾い集める。

 

「ごめん、ね。私も、不注意、で。声、かければ良かった、ね」

「え、あ、いや……俺こそ前からちゃんと持ち帰ればよかったんだし……」

 

 話しながらも『ん〜〜〜っ、ん〜〜〜っ!』と、車椅子から必死に手を伸ばして彼の荷物を拾おうとする姿は、今まで見たことがない。

 いつも、手伝えなくてごめんなさいと謝って、静かに立ち去ってしまうから。

 なのに、彼のことを心から心配して、床に散らばった荷物を拾う姿には、周囲の人が何もせずにはいられなかった。

 

 俺も手伝う、私もやる、私も、俺も、と。

 続々と人は集まり、むしろ男子生徒は恥ずかしそう感謝し、ものの数秒で全て拾い集まった。

 九曜が手に取ったのは、実は最初に膝に落ちてきた教科書だけ。

 

 それでも、そんな九曜の姿に、男子生徒は目を玉のように丸くしていた。

 

 

 これは、ほんの一部。

 特に変化が際立ったのはこの三つだが、話し方、雰囲気、動作。細かな出来事は沢山ある。

 『今までの望月九曜』を知る人のイメージを、この一日でぶち壊した九曜は、だが自信を持って今日一日が楽しかったと言える。

 

「九曜いきなり雰囲気変わったけど、やっぱり何かあったでしょ?」

「そうだよ!NWOで何かあったの?」

 

 九曜の変化といえば、NWOしかないと検討をつけている二人に、人のいなくなった放課後の教室で問い詰められる。

 少し遅くなるという母の迎えを待っている九曜に付き合うという言い訳のもと、誰に聞かれる心配もなくなった今、問い詰めるのだ。

 

「そんなに、変わった?………わ、分かった、う、ん。分かった、から」

 

 何度も高速で頷く楓と理沙に、押され気味にタジタジになる。

 けれど、変わったわけではないのだ。

 ただ、押し込んでいただけ。

 元の性格に、戻っただけ。

 

「これは、変わったんじゃ、なくて」

 

 だから、心配なんていらない。

 私は私のままだよ、と。

 

「少しだけ、元に、戻った、が、正しく、て」

 

 九曜とハクヨウの違いに、塞ぎ込むことは無くなった。だって、どっちも自分だって受け入れられたから。

 素の自分も、傷付けまいと作り上げた仮面も。

 

「でも、もう大丈、夫」

 

 仮面はいらないと。

 信じて良いんだよ、と。

 きっと、受け入れてくれるから、と。

 

「背中を押し、押された、から」

 

 ミィに伝えた言葉を、偽善になんてしないために。本当の本心で、笑って言ったんだって、自信が持てるように。

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまし、て。これが私、です」

 

 

 

 

 

 

 改めて、本物の私(望月九曜)と親友になって下さい。




……真剣な後書きです


 序章は、これで終わりです。
 これまで本当にありがとうございます。

 一話から一巻終わりまで第一章としていたのですが、ここが一つの区切りだと思いました。
 これが、九曜ちゃんの答えです。

 前書きの件。
 アーチャーは名言製造機。ハッキリ分かんだね

 昔からタイトルって最後に決めてるんですよ。
 だから章のタイトルも最後まで決まらなくて。
 結局、便宜的に『最速プレイヤーへ』なんて付けていたのは良いものの、ずっとしっくり来なかったと言いますか。
 今話の執筆に終わりが見えた時に、ようやくピタッと嵌りました。これしか無いなと。

 原作一巻前に九曜ちゃんが一つの答えを出し、それを示したここまでの道のりは、第一回イベントを含めての1章としては駄目だと思いました。

 だからこその序章です。正に始めからクライマックス!ですね。

 今回の導入は『速度特化と親友』とほぼ同じ。
 あの時から変わらない日常と、変わった心境。
 それが皆さんに伝わっていれば幸いです。

 またタイトルは、分かりますね。
 物語の序盤から【別々のモノ】として分けてしまった九曜とハクヨウ。それが如実に出た『九曜とハクヨウ 二つの《わたし》』に対する、最終的なこの子の答えを表しました。

 序章は九曜≠ハクヨウとしてしまったあの子が、悩んで、自己嫌悪して、励まし励まされ。
 そうやって九曜もハクヨウも、どっちも自分自身だと受け入れるまでの成長でした。

 今回でシリアスを全部消化しました!
 ……と言えれば、どれだけ良いか。
 皆さんは覚えてらっしゃいますか?ゲーム内で最初にハクヨウちゃんの苦悩を知ったのに何もできず、絶対に力になると誓った大盾を。
 他キャラと出会うために空気になった相棒を!
 彼の伏線を片付けないと、本当の意味でシリアスは終われません。
 1章の中で、この残されたシリアスを消化したいです。何話かかるか、なんて知らん。

 ただまあ。今後はメイプルちゃん達が参入したり、イベントがあったり。悩みが解決したハクヨウちゃんが暴れ回ります。ワクワクですね。
 もうシリアスなんて1滴の雫くらいです。ここからはほんわか進めていきたい。

次回より
 『1章 揃いました 狙いは一つ!(こっちは決まってます)』始動!

シリアス前の気晴らしss 題材アンケート

  • ハクヨウが皆に可愛がられるだけ
  • 九曜の現実での苦労話(シリアス)
  • クロムと付き合ったら(最終回風)
  • PS特化のツキヨと姉妹だったら
  • ssなど不要!もっと投稿して!
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