現実の分まで仮想世界を走り回りたいと思います。   作:五月時雨

35 / 53
 前話と今話の後書きに、アンケートを入れました。良ければ投票してください。
 どれになっても、面白くなるよう頑張ります。

6/14追記
 アンケートですが、複数気になるのがある場合、片方に投票の上で感想に『何番目と何番目が見たい』と書いといてください。
 一話の中に複数載せる方法が分かんないので、頑張ってカウントします。
 


大盾達の邂逅と真実への片道切符

 

 クロムとメイプルを引き合わせる日が来た。

 

 前日はメイプルが一人探索に出掛けたが、今日はサリーが一人、地底湖で【水泳】【潜水】スキルのレベル上げに行っている。この分では、上げ終わるのに一週間はかかるだろうとの事。

 因みにだがメイプルはまだ来てないし、それどころかクロムに会わせるとも言っていない。端的に、伝え忘れたとも言う。

 『今日一緒にやろう』とすら言い忘れたので、ログインした所を捕まえる算段である。

 あと一時間ほどしたら、リハビリに行く為にログアウトしなければならないため、早めに来てほしいハクヨウ。その願いが通じたのか、近くに初心者大盾の少女がログインして。

 

「メイ――」

「私……まだ初期装備のままだ!」

 

 声をかけに行こうとしたら、メイプルがそんな叫びを上げた。

 そして近づいていたハクヨウに目が合い。

 

「ハクヨウ!そういう格好良い装備はどこで手に入るの!?」

 

 開口一番、これである。

 挨拶すらない。

 

「メイプル、落ち着い、て?」

「うっ……ハクヨウの装備みたいに、格好良い大盾が欲しくて……つい」

 

 格好良いの、だろうか?と、ハクヨウは自身の装備をひらひら。綺麗ではあると思うし、白い着物で統一感もある。

 顔を隠しているため殆ど忍者だが、死に装束にも見えなくもない。彼岸花が血のように赤いし。

 

「それ、は、ありがと。でも、私が装備を手に入れた、のは、二週間、かな?そのくらい経って、から。メイプルは、まだ始めたばかり、でしょ?」

 

 焦る必要は無いと思うよ?と、笑いかける。

 だが、メイプルは不服のようで。

 

「でも……ハクヨウと差が激しくて辛い……」

「メイプル、は、そういうの気にしない、と思って、た」

「気にするよ!」

 

 一応、ユニークシリーズという裏道も、無いことはない。しかし、発見済みダンジョンは二つだけであり、そのどちらも既にユニークシリーズが取られている可能性は、否定できない。既にユニークシリーズの取られたダンジョンをクリアしても、ユニークシリーズは出ないのだから。

 サリーのような例外が無い限り、教える気にはなれなかった。

 下手な希望は、叶わなかった時の絶望が大きいのである。

 

 と、そんな風に逡巡していると。

 

「なら、生産職と顔合わせだけでもすれば良いんじゃないか?」

 

 そんな、聞き慣れた男の人の声が後ろから聞こえた。振り向けば、見慣れた赤い大盾に赤い鎧姿の相棒。クロムが立っていた。

 

「クロム……」

「よう。遅くなっちまったみたいで、悪かったな。ハクヨウ」

「また、撫でる……っ」

「はははっ!悪い悪い。だから頭突きはやめろ?

 あれ結構痛い」

「む、ぅ……」

 

 遅くなったことを謝りつつハクヨウの頭を撫でるクロムに、ハクヨウが頭突きを敢行しようとすると、その前に静止させられた。

 ワシャワシャ――ッとする乱暴な手付きから、ミザリーのような優しい撫で方に変わったので、驚いて動きを止めてしまった。

 

「えっと……ハクヨウ?その人は……?」

「相、棒」

「相棒!?」

 

 ものすっごい端的な説明に、メイプル驚愕。

 本気で何も知らなそうなメイプルの様子に、クロムはため息をついた。

 

「ハクヨウ。お前何も言ってなかったのか?」

「……これから、伝えるつもりだった、よ?」

「それを俗に、『言い忘れた』っつーんだよ」

 

 ハクヨウは目を逸らして小さく言い訳をしてみるものの、クロムには通用しない。

 仕方なくクロムから自己紹介することにした。

 

「はぁ……。俺は、クロム。見ての通り大盾使いで、ハクヨウとはかれこれ二ヶ月ほど、コンビを組んでる。まぁ、お互いソロか別のパーティーに入ることもあるから、『予定が合ったら』って前置きが付くけどな」

「あ、えっと、私はメイプルって言います!ハクヨウの友達です!」

「あぁ。ハクヨウから聞いてるし、何となく君だったのも納得した。と言っても、俺は大盾の扱い方を教えてやってくれって“こいつ”に言われたんだが……」

 

 ハクヨウは知らないが、前日のメイプルの奇行を目撃したクロムさん。速度極振り(ハクヨウ)をして防御特化(メイプル)ありだと、遠い目になっていた。

 

「離し、て。クロム……っ!」

「この子に何にも伝えなかった仕返しだ。甘んじて受けろこんにゃろ」

「うぅ……」

 

 借りてきた猫のように、首根っこを掴まれて“ぷらーんぷらーん”するハクヨウ。クロムの比較的高めの【STR】から、【STR 0】のハクヨウがいくら藻掻いた所で、抜け出せる道理は無かった。

 気持ちハクヨウの目がジト目になっている。

 

「二ヶ月……ってことは、結構最初から……?」

「おう。会ったのは三日目くらいか。その時から、よくコンビ組んでるぜ……っていてっ、いててっ!ハクヨウ、やめっ!ってかまた新しい装備増えやがっていててっ」

「町の、ど真ん中、で、やること、ないっ!」

 

 町の中はセーフティエリアになっているため、攻撃を受けてもダメージが発生しない。

 だからハクヨウは離してもらえた瞬間、【鬼神の牙刀】と【竜鱗の神刀】の切っ先でチクチク。

 多くのプレイヤーが行き交う噴水広場のど真ん中で“ぷらーんぷらーん”された恥ずかしさを、思いっきり発散する。

 スキルさえ使えれば、速攻で【九十九】を使って八本の苦無でチクチクしていたのを考えれば、まだマシである。その場合はもれなく【鱗刃旋渦】も使っていたはずだ。容赦などしない。

 しかしこれ、端から見てじゃれ合ってるようにしか見えない。

 

 それから十秒ほどでハクヨウはクロムへの私刑を辞め、本題に戻した。今日はあまりいられないので、我慢である。

 

「クロムには、メイプルの、大盾の先生を頼ん、だ。一昨日のあ、れ。もう少し、上手く扱えるようになる、べき」

「そうかなぁ……?」

 

 自覚無しなメイプルだが、扱いが上手くなるだけで生存率はグッと上がる。それは、最初の頃と今のクロムの技術を比べれば明らかだ。

 

「メイプル、は、ゲームそのものに、慣れてない、から。戦い方を、クロムから習う、べき」

「だがハクヨウ、俺だって最初から上手かったわけじゃないのは、お前が一番知ってるだろ?」

「ん。けど大盾で、攻撃を受けようと、して、変に動かしてお腹クリティカル……ど、う?」

「教えるべきだな、うん」

「ハ、ハクヨウ――っ!?」

 

 言わずとも分かる、兎さんの大失態である。

 メイプルさん、顔を赤くして涙目でプルプル。

 

「た、確かに少し失敗しちゃったけど、でもあの時はダメージ受けなかったもん!」

「メイプルの防御、力以上の攻撃、来た、ら?」

「うぅぅううううっっ!」

 

 言い返せなかった。

 

「ダメージ受けなかったって、どんな【VIT】だよ……やっぱりハクヨウの友達なだけあるな」

「……どういう、意味」

「ははっ、自分で考えろ。この音速鬼娘」

「む、ぅ……」

 

……やっぱり話題戻ってなかったかもしれない。

 

 そう思った軌道逸らしの戦犯(ハクヨウ)は、“んんっ”と軽く咳払いをして、無理矢理にでも軌道修正する。

 

「今日、すぐっ、て訳にも行かない、から。今日、は顔合わ、せ。また今度、よろしく、ね?」

「はいよ。まぁ俺の大盾としての役目も、その内メイプルちゃんに奪われそうだが……」

 

 クロムより明らかに防御力は高いだろうメイプル。だからこそ、そのメイプルが大盾の扱いに慣れれば、これまで自分が守ってきた『ハクヨウの相棒』はお役御免だろう、と空笑いするクロム。

 だが、そんな言葉は。

 

「それは、ない」

 

 ハクヨウが即断した。

 

「親友は、メイプル。だけ、ど、大盾で一番信頼する、相棒は、クロム」

「お、おう。ありがとな」

「んっ……さ、て。話戻す、よ」

 

 今日の所は急遽呼び出したクロムには悪いが、顔合わせだけ。また二人の都合の良い日にでも、大盾の扱い方をメイプルに指導してもらう。

 

「なら、今日はこれで終わり?」

「ん。私は、それでも」

「……いや、ハクヨウ。さっきもちょっと言ったが、どうせならイズの所に顔見せだけでもしようぜ」

「イズ、さん?」

「あぁ。俺やハクヨウが世話になってる生産職のプレイヤーで、俺の鎧や大盾も、イズにお金を払って作ってもらったんだ。いわゆる、プレイヤーメイドってヤツだな」

「おぉぉおっ!」

 

 目をキラッキラに輝かせてクロムの大盾を見つめるメイプル。次いで、自らの装飾の施されていない弱々しい大盾を見て、悲しそうな顔になった。

 

「格好良い……」

「はは、それはどうも。ハクヨウの友達なら、イズも歓迎するだろうし。どうだ、ハクヨウ?」

「良い、よ。じゃぁ、行こ、メイプル」

「分かった!」

 

 ハクヨウが信用しているなら問題ないだろうと思ったのか、メイプルは素直についていく。

 実は既に大盾のことしか考えていないのだが、二人共気付くことはなかった。

 

「マジか……まさかハクヨウの友達とは……後で掲示板に書こう」

 

 速度特化と防御特化が友達というのは、さぞ盛り上がることだろうと、とある掲示板の名無しの大盾使いは笑いを噛み殺したのだった。

 

 

 

 

 三人はしばらく歩き、イズの店に来た。

 イズは、相も変わらずカウンター越しに作業をしていたが、ハクヨウが来たと分かると“パァ…っ”と頬を綻ばせて声をかけた。

 

「あら、いらっしゃいハクヨウちゃん!……と、ついでにクロム。何か用事?」

「前言った、友達。連れてきた、よ」

「俺はついでか!」

「優先順位の問題よ。当然でしょう?」

 

 イズはクロムを適当にあしらうと、二人に続いて店内に入ったメイプルを見た。

 

「あら可愛い子ね。ハクヨウちゃんのお友達なら、私も仲良くしたいわ」

「えっと、メイプルって言います!」

「俺と同じ大盾使いだな。ハクヨウに、大盾の扱いを教えてくれって言われた」

「あらクロム、遂にお役御免?おめでとう」

「んなわけねーだろ!」

 

 お役御免(クビ)を『おめでとう』と笑うのは、イズくらいのものだろう。それなりに人為を知った相手だからこその軽口とも言うが。

 

「ふふっ。まぁお喋りはこのくらいにしましょうか。ハクヨウちゃん、本題は?」

「メイプルが、装備欲しいって、言うから。顔見せに連れてき、た」

「なるほどねぇ……。私はイズ。見ての通り生産職よ」

 

 イズとのファーストコンタクトは、ごく普通に終わった。ハクヨウへの信頼の賜物である。

 

 と、その時ハクヨウの頭にセットしておいたアラーム音が響いた。

 

「あ……ごめ、ん。そろそろ、落ちなきゃ」

「あら、何か用事?」

「そんなと、こっ」

 

 メイプルとサリー、ミザリーは仕方ないにしても、基本的に皆と同じ『普通に』接して欲しいハクヨウは、リハビリの事を言うつもりはない。第一、現実のことだから。

 

「そういや、あんまり居られないって言ってたか。悪かったな、ハクヨウ」

「ん、メイプルの指導、また今度お願い、ね?」

「おう。まぁ暇な時になっちまうが、それでも良いならな」

「十分……メイプルも、ごめんね?」

「大丈夫大丈夫!()()()()()!」

「っ……うん」

 

 ハクヨウが用事といえば、リハビリしかないと知っているメイプル。微妙に危ない発言に曖昧に返しつつ、ハクヨウはログアウトした。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ん、ぅ……っ。()()……?」

 

 NWOからログアウトした九曜は、膝に違和感を感じた。ピリピリと痺れるような感覚。

 それは数日前から、数時間ゲームを遊んだ直後に感じるようになったもの。

 

「ん、ふぅ……」

 

 痺れを我慢して体を起こし、入念にマッサージをする。十分もやれば痺れは取れる。

 今まで以上に入念にマッサージを始めてから、黄色っぽく見えた肌も元に戻ったと思う。

 

 でも、今度は別の変化が。

 

「太った、かなぁ……」

 

 なんとなく、膝から下が‘むくんでいる’。

 マッサージをすればある程度は元に戻るし、違和感も少ない。……いや逆に言えば、マッサージ程度では完全には()()()()()()()()

 

 感覚がないはずなのに、違和感を感じてしまうこれは、一体どういうことなのか。

 

 嫌な予感がする。

 特に、美紗には隠せないだろう。リハビリのマッサージで気付かれるかもしれない。

 定期検診は二週間後で、詳しい結果なんかを教えてもらえるのは、更に二週間後。

 先月は、なんとも無かった。変化があったのは、四月に入ってからだ。季節の変わり目だからかな?と不安になる気持ちを押し留める。

 

 あるいは、最近はNWOをやる時間が長くなったせいで、運動不足かもしれない。いつもなら家ではもう少し動いているが、その時間もNWOで体は寝っぱなしだ。身体が動かないからなのは考えられる。

 

「よし、行こ……」

 

 取り敢えずマッサージをすれば痺れは取れるし、更に数分すれば違和感もほとんど感じなくなるのは、ここ数日で分かった九曜。だから違和感が無くなったの確認して、リハビリの準備を終える。

 

 

 

 

 

 

 両足の甲に出来た()()()()()を見ないようにしながら。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「しばらくオシャレはお預けだなぁ……」

 

 メイプルは、イズから聞いた装備作成にかかる費用に肩を落とした。

 

「百万くらいなら、気付いたら溜まっているものよ。地道にやっていれば、ね?」

「ダンジョンに潜るって手もあるぞ。ハクヨウの装備は、大半がダンジョン産だからな。案外、メイプルちゃんならソロでも行けるかもしれん」

「ダンジョン、ですか?」

「ダンジョンにはお宝が一杯あるから、一度行ってみるといいとは思うけど、ソロは厳しいんじゃないかしら?」

「ハクヨウがソロで攻略してるからな……メイプルちゃんには、ハクヨウと同じ空気を感じる」

 

 適当なことを言っているようで、クロムの言い方に、どこかソロ攻略に促すような雰囲気を感じたメイプル。

 

「うーん……一度ソロで行ってみようかな……サリーも今どこか行っちゃってるし、ハクヨウは強すぎるし……」

「無理なら無理で、今度ハクヨウにでも声をかければいい。あいつ、知らない所で交友を広げてくるからな。都合の合う奴を紹介してくれると思うぜ」

「分かりました!じゃあ後で行ってみます!」

「ほ、本当に行くの?止めるつもりは無いけど、無茶はしちゃだめよ?」

 

 その後、“応援してるぜ”と言いつつ自分のポーションを10個ほどあげたクロム。何だかんだ心配性である。そして、意気揚々とイズの店からそのまま向かうという行動力の塊を垣間見せたメイプル。

 

「あぁっと、そうだ。メイプルちゃん」

 

 イズの店を出てすぐ、思い出したようにクロムが声をかけた。

 

「はい?どうかしましたか?」

「いや、大したことじゃ無いんだ。答えられない事なら、答えなくても良い」

「はぁ?」

 

 もう、一ヶ月近くも前のこと。

 あの時、ハクヨウに吐露された胸のうち。力になれなかった答えを、現実の友達なら、知っているのではないか、と。

 

 

 

 

「ハクヨウの『叶えられない夢』が何か……知ってるか?」

 

 




 
 今話から、仮想と現実の両方でシリアスが少しずつ入ってきます。一話の中で二つのシリアスが同時に進行してるからツライ。
 気分が重くなりますダダ下がりです。片方は序章を超えそうで今から吐き気がします。
 序章の終わりで、シリアスはほぼ消化とか言った自分を張り倒したい。
 いや、九曜ちゃんの境遇的にシリアスになるのは仕方ない面があるんですが、ほのぼのと平和を享受するだけの物語とかつまんない……的な。
 九曜ちゃんは幸せにしたいけど、過程に苦悩や悲しみ、迷いや成長があってこそ、その『幸せ』が優しく照らすと思うんですよね。

 こう、なんと言うか……その方が『物語』じゃないですか。


 ので、気分転換にGW最終日に投稿したような、ssを投稿したいなって思ってます。
 内容は考え中なんですけどね。
 そのアンケートを下に貼っておくので、よければ読みたいヤツに投票してください。
 投票したいのが複数ある場合は、感想にチラッと書いといてください。

 投稿は6月下旬〜7月上旬のどこかを予定中。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。