現実の分まで仮想世界を走り回りたいと思います。 作:五月時雨
彼にとって彼女は『ハクヨウ』でしか無く、そのハクヨウの現実に迫るため、タイトルはこれが正しいのです。
「ハクヨウの叶わない夢、ですか?」
クロムから聞かれた時、メイプルには、そんなものがあるのかと分からなかった。
「うーん……勉強できるし、優しいし、大人っぽいし……えぇ、何かあるかな……?」
「あのハクヨウが、大人っぽい?」
「あ、はい。サリーの勉強とかよく教えてますし、しっかりしててお姉ちゃんみたいですよ!」
“あの”ハクヨウがお姉ちゃん……と耳を疑ったし、まず頭が良いならなんであんな頭の悪いステータスしてるのかと問いたいクロム。
「そう言えば、ハクヨウの夢って聞いたことないなあ……」
「そうなのか……」
知らないのなら、聞けそうにないと思ったクロム。第一、本人以外のところから聞き出しても、ハクヨウに悪いだろう。
「でもクロムさん、なんでそんな事を?」
「……前にポロッと、アイツが溢しててな。なんか抱えてんのかと気になっただけだ」
ふざけたステータスで、思いっきりゲームを満喫してるハクヨウだが、何か悩みがあるのならと気になっていた。年長者として、力になりたいとも思っていたクロム。
だから、ハクヨウと友達だというメイプルに、愚痴っぽく呟いた。
「ハクヨウ、この世界じゃ
呟いて、しまった。
「え……、あ、あれ?」
そう言えば、と。メイプルはいつの間にか極自然に受け入れていた、現実との決定的な違い。
いや、受け入れていたのではない。ハクヨウの見た目が現実と違いすぎるから、無意識に
だから見逃していた、ハクヨウには普通に
それがもし、ハクヨウが願う『叶わない夢』だとしたら。
「いやでも、気にしてないっていつも……」
そう。
いつも、気にしてないと笑っていた。
リハビリだって、筋肉の硬直がなんたらかんたらだって、メイプルはよく覚えてないが愚痴っていた。そんな……。
代わりに見るようになったのは、小さく綻ぶ優しい笑顔。
それが、それこそが九曜の本当の笑顔で。
「なら、前のは……」
それこそ自分たちが出会った頃から見ていた、あの笑顔は?九曜は『戻っただけ』と言っていた。なら『戻る前』のあの笑顔は……。
「おーい、メイプルちゃん?どうかしたか?」
「っ!あ、いえ!何でも、ないです……」
「そうは見えないが……」
九曜の現実。楽しそうに走り回るハクヨウ。見なくなった快活な笑顔。見せた本当の笑顔。それらがメイプルの中で繋がり、たった一つの事実だけが浮かび上がる。
でも信じられなくて。信じたく無くて。
「っ、あ!えと、他に何か、夢のことでハクヨウ言ってませんでしたか!?」
「え?あ、あぁ。何かあったかな……」
夢、夢、夢……?とクロムは十秒ほど考え込むと、ふと思い出した。
「あぁ、そう言えば二人でダンジョン攻略した時に言ってたな。『この世界全部駆け抜けるのが、私の夢』……だったか」
「そう、なんですか……」
駆け抜けるのが、夢。このゲームの世界なら、叶えられる夢。果たしてハクヨウが言った『この世界』とは、
第一層?NWOのフィールド?VR世界全て?
それとも。
―――現実を含めて、『この世界』?
「っ……!クロム、さん」
なら。
なら、ハクヨウがAGI特化でプレイしている理由は。それは、もう――
「ハクヨウが、AGI極振りしてる、理由って……知ってますか?」
「……あぁ。『ただ速く走りたいから』『歩くのも走るのも、全部好きだから』だってよ」
「っ〜〜〜〜!!」
もう、確定だろうと、メイプルは分かった。
そして、それはクロムも。
これまでを思い返した点と点が、繋がった。
「メイプルちゃん……一つ、聞かせてくれ」
当然と言えば、当然だ。寧ろ遅かったほど。
“この世界全部駆け抜けるのが夢”ならば、それは叶えられる夢。
ならば。あの腹の中に色々と抱え込んでいるハクヨウが叶えられない夢は、
「―――現実のハクヨウは、歩けないのか?」
小さく。けれど確かに、メイプルは頷いた。
◆◇◆◇◆◇
リハビリを終え、どうにか美紗にバレずに済んだことを安堵した。
直前まで入念にマッサージをし、違和感をほとんど無くしたため、問題なく終えて帰路につく。
今日は母が仕事なので、美紗ねぇが家の近くまで送ってくれた。
「明日から、新学期、かぁ……」
二年に上がるだけだし、クラスの場所も配慮があって変わらない。楓と理沙もいるので、そう代わり映えのない一年になるだろう。
「は、ぁ……」
家と病院は、そう離れていない。車椅子でも10分程度の距離。でも地味に段差が多くて辛いところだ。
でも、もう慣れた。
小さな重心移動とバランス保持で前輪を浮かせ、段差を越えるくらいはできる。美紗ねぇも、家が見えた時点で戻ってしまった。
仕事の途中で抜けたらしいし、仕方ない。
「向こうなら、楽なのに……」
向こう……NWOなら、軽く足を持ち上げると簡単に越えられる段差。小さな路面と凹凸なんて気にしなくて良くて、階段も上れる。
あの世界では、こちらでは出来ない沢山のことが、いつでも出来る。
「勉強、は、終わってるし。明日学校終わったら、早くやろっ」
どうせ始業式だけで半日で終わり、目一杯遊ぶことができる。
「そう言え、ば。運営から、告知来てたっけ」
NWOに第三陣を迎え、来週からは通常販売に切り替えるらしい。つまり、店頭でそう困らずに手に入るようになる。また来月にはサービス開始3ヶ月となり、第三陣のプレイヤーもある程度強くなる。
それに合わせ、第一回イベントが開催されるという告知がなされていた。
内容はまだ告知されていないが、NWO初のイベントだと俄に話題になっている。
「スキル、練習しなきゃ」
【鱗刃旋渦】の練習をメイプル達が参加したことで先送りにしていたが、イベントで必要になるかもしれない。
理沙は地底湖だし、メイプルはクロムに任せても良いだろう。と言うかいつも一緒に行動しなくても良いわけだし。
「………あれ?」
良く考えたら、むしろパーティープレイこそをしていないのでは?
メイプル……自由気まま
サリー……地底湖泳いでる
ハクヨウ……現状でレベル差がありすぎる
クロムとも都合の合う日しか組んでいないし、むしろ一週間くらい組まない時もある。
だから苦にならないし、考え付きもしなかったが、今のところ一緒に遊んでいない。
「明日、は、どっちかと遊、ぼっ」
◆◇◆◇◆◇
ストン、と。
心の何処かで納得する自分がいた。
そうだ。何故、思いつかなかったのか。
無意識のうちに、除外していた?
あいつが、そんなことは無いと。
あの天然で、最近はよく口より手が出て、どこか幼くて、元気に走り回る。
速さに……いや。
走るだけで、凄い楽しそうにしていたのに。
ふとした時に悲しそうな瞳をしていたのに。
この二ヶ月近く、何度も見ていたのに。
「本当は見てなかった?考えなかった?」
いいや違う。あの時から本当は気付いていた。
【石造りの遺跡】に二人で行った時、俺はハクヨウの
「馬鹿か
思い出す。
『夜のこんな時間に出歩くって、なんか、不思議な感じです』
『まぁ、ハクヨウちゃんみたいな子がこの時間に外でたら補導されるわな』
『それもありますけど、単純に、一人では外に出られないので』
『なんだそれ?』
そりゃそうだ……歩けないのに、一人で外に出れる訳がない。車椅子に乗ってても、一人じゃ倒れた時どうしようもない。
思い出す。
『ダンジョンの通路で、最高速出したら、多分壁にあたって、自爆する、よ』
『笑えねえし……それでもある程度は操れるとか普通、現実での自分の速さとのギャップで振り回されるだと思うんだがな……車はもちろん、戦闘機みたいな速度だしよ』
『……そう、なんだ』
あぁそうだ。なんであの時、ハクヨウは悲しそうな顔をしていた。ハクヨウは
思い出す。
『……私は、強くなりたいとか、上手くなりたいとかじゃ、なくて。ただ、速く走りたいから、AGIに全部振っただけだもん』
『わ、悪かったって。……そんな走るのが好きなのか?』
『歩くのも、走るのも、どっちも好きだよ。今は、この世界全部駆け抜けるのが、私の夢』
あぁ。ハクヨウの本心だったんだろうよ。ただただ、走りたい。その願いだけを抱え続けて、NWOを始めたんだろうよ。
そして、思い出した。
『自覚して、嫌悪して、叶わないと知っていても。それでも望んだ願いを
……ただ、それだけだから』
そう言って消え入りそうな顔で笑う、あいつの顔を。
『その事に絶望なんてしてないし、とっくの昔に受け入れてる』
受け入れたなんて全く見えないのに、そうやって強がる小さな身体を。
『だから、貴方にも知られたくない。
この願いだけは。この夢だけは。
誰にも相談、したくないんだよ。
お願いだから。……放っておいて』
目の前にいた俺を映さず、何もかもを映さず。
自己嫌悪に塗れた、無機質な瞳を。
けれど。
「分かった……お前の頼み通りにしてやるよ」
どうにかしたいと思った。
力になれればと、思った。
でも根本的にどうにもならなくて。
どうしようもないことだと突き付けられて。
せめて。
知ってしまった、せめてものお詫びに。
ハクヨウが願った通りで、居ようと思う。
「なあ、そうだよな?」
『AGIなら、誰にも負けない、よっ』
そう笑ったお前は、本当に楽しそうだったぞ。
心から、この世界を楽しめてる証じゃねえか。
走りたいと願って、誰よりも速いことに誇りを持ってる、証拠じゃねえか。
「なら年長者としてお前の思いも、願いも。
……
それが、お前が望んだことだからな。
な、そうだろ―――
◇◆◇◆◇◆
4月○日
今日から、日記を付けていこうと思う。というのも、朝起きたら、膝がピリピリとして、痛みとも違う痺れがあったから。
経験したことないけど、あれが正座をして『足が痺れた』という感覚なのかな?
昨日の夜、足先が少し黄色っぽく見えたけど、見間違いじゃなかった。
薄っすらとだけど、脛の辺りから下が黄色味がかっている。怖くなってマッサージを入念にやったら、一時間もしない内に戻った。
何だったんだろう。なんだか嫌な気がする。
4月△日
朝は、昨日と同じく痺れで目を覚ました。
マッサージをしてしばらくすれば落ち着くし、痺れも無くなる。だけど、同じ痺れがNWOからログアウトした後にも起こった。
幸い寝起きよりマシで、二、三分で収まる。
でも良いことに、黄色味がかった肌が元に戻った。朝起きても痺れだけで、黄変していなかったのを考えると、寝相で足の血管を圧迫していただけだと思う。良かった。
そう言えば、楓と理沙が参加してから2日。理沙の手伝いをしたけど、役に立てただろうか。
4月□日
今日は、痺れもなかった。でも、NWOからログアウトした後に少しピリピリした。最近は寝起きやログアウト直後に痺れるのが増えている。
あと、見慣れない黒子ができていた。こういうのって増えるのかな?
美紗ねぇが変化に気づかなかった。それだけは、取り敢えず安心した。
まぁ靴も履いてたし、長ズボンだし、気づかなかったのは当然かもしれない。
明日から学校が始まるし、テストもしばらくしたらある。今回は手を借りないって言ってたけど、理沙大丈夫かな……。
書いてて『これ、防振り二次だよね……?』と我が作品ながら不安になりました。
が、これまでのハクヨウちゃんの意味深な言動を全部回収できたのも嬉しい限り。
メイプルちゃんが言わなくても、ハクヨウの言動を思い出せば自然と気付いてしまう現実。
要はハクヨウちゃんのやらかし。
クロムさんが気付くのが今頃になった理由は、ハクヨウちゃんの言動一つひとつが出るのに期間があった、というのがあります。
何日も前の言動全てを正確に思い出せる人なんて少ないですから。
けど全部繋げて、そこから導かれるのは一つという。『真実はいつも1つ』なんやなって。
さて。現実の方でも九曜ちゃんに新しいシリアスが始まった所で、アンケートの中間報告です。
今話までアンケートを貼っていて、速度特化の投票期限は次話投稿までとします。
現在、二つの題材が拮抗していて『片方に入れたがもう一方も読みたい』と言う人がそれなりにいると予想しています。これはPS特化にも当て嵌まりますね。
結果発表も次話の後書きにて行いますが、恐らく拮抗している2話を書くことになるでしょう。
実は既に執筆に着手してて、凄い楽しいです。
そうそう。
ssですが、私が書きたいから書くのであって、本編の投稿には影響を出しません。2作品とも投稿しない日に投稿する予定です。