現実の分まで仮想世界を走り回りたいと思います。   作:五月時雨

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 シリアスもあるけど、基本はゲームだからね。
 メイプルちゃんの装備が揃って、サリーも揃うのが約二週間後。
 それからの二週間の、NWOのやることの無さね。早いところ第一回イベントに入りたいけど、現実パートはここからが重要になってくるので、やっぱり時間がかかってます。

 


速度特化の本領(微)

 

 翌日。

 春休みが開けて登校した九曜は、楓の様子がいつもと違うことに気付いた。

 

「楓。どうか、した?」

「う、うぅんっ!なんでもない!」

 

 首をブンブンと振って何でもないとは言うが、明らかに九曜を見て動揺している。

 これで隠すつもりという方が無理がある。

 基本的に能天気というかあまり深く考えない楓が、九曜に気まずげな視線を度々向けるのだ。気になって仕方がない。

 というか、楓の視線が明らかに九曜の足にいっている。九曜は一瞬、ここ数日の違和感を見抜かれたかと不安になったが

 

「そ、だ。今日、NWOで理沙の手伝い、行くんだけど。楓も、行く?」

「理沙の?そう言えば、全然一緒に遊んでなかったような……うん、分かった。行く!」

「ん。じゃあ、噴水広場で」

 

 なんて会話をしながらも、楓の視線は足にチラチラ。次いで九曜を見て、なにやら物憂げな表情になり。

 

(は、ぁ……そういう、こと)

 

 楓の視線が、その内心を克明に教えてくれた。楓は三日遅れで、理沙と同じ考えに行き着いたのだろう。

 自分に対して心配する何かがあるとすれば、この二人にとってはそれしかない、と。

 

「………初日に、言ったけど」

「へ?」

 

 だから、もう一度繰り返そう。

 やっぱり理解してなかったことに苦笑いして。

 まだ時間も早く、人がいないから。早いうちに、この天然さんを安心させてあげようと思った。

 

「楓の杞憂、だよ。前は悩んだ、けど。でも、今はどっちも、受け入れてるから」

「えと……何のこと……?」

 

 本気で分からない楓。理沙の様には伝わらなかったようで、急に話す九曜に楓の頭上でクエスチョンマークが踊る。

 他人の機微を感じ取る点では、理沙の方に軍配が上がる。………成績はお察しで。

 

「心配、してくれたんでしょ?」

「っ!」

「私が、NWOで走れるから。こっちで、歩けないから」

「……うん」

 

 誰もいない廊下をゆっくりと車椅子を押してくれる楓に、体をよじって下から覗き込む。

 

「現実で頑張る、九曜も。NWOで走り回る、ハクヨウも。どっちも『私』。どっちも、今は好き。だから、楓の心配は、解決済み。

 でも、心配してくれて、ありがとっ」

 

 車椅子から目一杯手を伸ばせば、小柄な楓の頭くらいなら届く。

 最近は色んな人から頭を撫でられている九曜は、感謝を込めて楓の頭を優しく撫でた。

 

「は、恥ずかしいよぉ……」

「私ばっかり、撫でられる、から。偶には、私が撫でるっ」

 

 体をかなり捻っているし、それなりに体勢はキツイのだが、それでも撫でる側の感覚を楽しむ九曜。“わ、さらさら……”とか呟いてる。

 それから、教室につくまで九曜は撫でるのを辞めず。楓も人が来る前にと足早に教室に行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、理沙は知ってたの?」

「むしろ全っ然気付かなかった楓に、私がびっくりなんだけどね?」

「えぇーーっ」

 

 初日は半日で終わり、両親は流石にまだ仕事中なので、理沙に車椅子を押されての下校中。楓は学校方面に戻ることになるのだが、それも厭わず三人で話していた。ちなみに理沙と九曜の家は、それなりに近かったりする。

 

「だって九曜、見た目が現実と全然違うし……」

「あ、それは思った。大体、鬼って何鬼って」

「鬼になる、スキル。人に戻れない、だけで、大きなデメリット無し、だけど、効果高い、よ?」

「そういう事じゃなくて……」

 

 “人並外れたプレイしすぎ……”という意味が伝わらず、九曜は首を傾げてしまった。

 真っ白なのも踏まえて、明らかに現実離れした容姿のハクヨウと、現実の九曜を区別しても無理はないのである。

 

 それから暫く。NWOでこれから遊ぶので、それぞれの報告は後で良いと、雑談しながら帰る三人だったが、九曜が急に顔をしかめた。

 

「―――っ!」

 

 膝頭を押さえて小さく呻く。

 

(なん、で、今……?)

「九曜?どうかした?」

 

 急に来た痺れに、痛みは無い。けれど何もしていないのに痺れた事に一瞬反応してしまい、理沙に見抜かれた。

 

「う、うぅん。何でも、ない。小石に乗り上げて、びっくり、しただけ」

「あ……ご、ごめんね?」

(何もしてない、のに……痺れ、消えない)

「大丈、夫」

 

 それほど強い痺れではないが、長時間続けば痛みにもなる。いつもはすぐにマッサージするのだか、二人の前でやれば怪しまれる。

 できるだけ、耐えるしかないと腹を括った。

 

 

 

 

 幸い、痺れが出たのは家に近い位置。

 我慢できる程度の痺れだったのも幸いし、無事に家につくことができた。

 

「それじゃあ、二時に噴水広場ね」

「ん。分かっ、た」

「はーい!」

 

 どうせならと、三人で地底湖に行くことにした九曜達は、お昼を食べたらログインすることにした。

 

 九曜は家に入るとすぐに自室に行き、ベッドに倒れ込む。お昼を食べる余裕もなかった。

 

「ひっ、あ―――っ!」

 

 我慢した分だけ痺れは増し、耐え難い苦痛となる。感覚が無いはずなのに、足先が寒く感じる。

 

「く、ぅぅ………なん、でぇ……っ」

 

 マッサージをする余裕はなく、ただただ苦悶に喘ぐ。今回ばかりは、理由が分からない。

 ここ数日あった痺れは、寝起きやNWOからのログアウト後。つまり体が、ほとんど動かなかったから起こったものだ。

 その時に足の血管が圧迫され、正座をした後のような症状になっただけだと思っていた。

 

 

 否。思おうとした。

 

「あっ、ぅぁぁああ……っ!」

 

 けれど、今日はただ座っていただけ。無理な体勢もしていない。なのに、この痺れがきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから十分。いつまでも続くかと思われた痺れはゆっくりと引いていき、少しずつ九曜の呼吸も落ち着いた。

 

「はぁ……はぁ…は、ぁ……なんで、いきなり」

 

 もう痺れませんようにと思いながら、ゆっくり足をもみほぐす。

 暫く耐えていた分今回の痺れは強かったと、九曜は小さく身震いした。

 

 “もしこれが、寝てる時に来たら”

 

 それは、まともに眠れる状態では決して無いだろう。何より今回のことで、痺れが来る条件が未知になった。

 

 ―――睡眠そのものが、怖くなる。

 

「考えたく、ないよ……」

 

 今の状態は嫌でも最悪が想起される。

 それだけじゃない。NWOにログイン中は、VRハードによって伝達信号が全てシャットアウトされるため、ログアウトするまで体の異常に気付けない。それはつまり――。

 

「痺れに気づかず、ログインし続けた、ら……」

 

 今以上の、痛みが襲い来る。

 

 痛みには、慣れているつもりだった。

 毎回のリハビリで、体重を膝に乗せて歩くのだ。それに比べれば、今の痛みは非常に軽い。

 しかし、問題は突発性。いつ来るか分からない恐怖が、常に九曜の背後にある。

 

 仕方なく、九曜は連続ログイン時間を減らすことにした。マルクスと出会った時のように、最長で四、五時間連続でログインしていたのを、どんなに長くても三時間。

 それ以上は一度休憩を入れて、ログインし直した方が良いだろうと。

 少しでも恐怖を薄めるために、できる限り無理はしないと決めた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 噴水広場で合流した三人はメイプルがユニークシリーズを手に入れたことに驚いたり、サリーが一層の気合を入れたりとあったが、早速地底湖に向かうことにし……ここで一つ問題があった。

 

「まぁ、メイプルとハクヨウのAGIは正反対だもんね……」

 

 片や【AGI 2600】を超え、片や【AGI 0】。

 速度差は圧倒的で、町中ではハクヨウが何度も立ち止まった。ハクヨウができる限りゆっくり歩いても、サリーすら置いていってしまうのだから、困りものだ。

 

「どうする?」

「メイプルを私がおんぶする……いや、それじゃあ速度が落ちるし……」

 

 うーんうーんと唸る二人に苦笑いして、ハクヨウは徐に角笛を取り出した。

 

「ハクヨウ、それは?」

「何してるの?」

「乗り()、喚ぶね」

 

 それは【鬼神の角笛】。

 ハクヨウの半分の【AGI】を持った鬼を三十分だけ召喚し、パーティーメンバーの一人を乗せられるというもの。

 鳴り響いたアルトの音色に反応し、足元に黒の魔法陣が描かれる。

 

「わわっ、わ!?」

「なにこれ!?」

 

 這いい出るは漆黒の巨漢。

 身長二メートルを超える筋骨隆々とした肉体に、一対の角を額から伸ばす大鬼。

 

「よろしくね、【ばぁさぁかぁ】」

 

 近くの初心者を軒並み怯えさす咆哮が、最初の平原を支配する。

 名を【ばぁさぁかぁ】。

 その名に()()()佇まいと、その名に()()()戦闘力0という、れっきとした乗り者である。

 

「メイプル、()()()

「えぇぇぇぇ!?こ、この鬼に乗るの!?」

「色々ツッコミどころしか無いんだけど……」

 

 最近はクロムと組んでいない上に、ハクヨウが自分で走った方が速いので、久しぶりに呼び出した【ばぁさぁかぁ】。地団駄を踏んでどことなく不機嫌さを醸し出している。

 

「最近、呼んでなくてごめん、ね。これからは、もう少し増えると思う、よ」

 

 そうハクヨウが声をかければ、ピタリと地団駄をやめてハクヨウに傅く。女王と家臣である。

 

「この子、は、【ばぁさぁかぁ】。戦闘力は0だけ、ど、足は速い。で、パーティーメンバーから一人だけ、重量を無視して、乗せられ、る」

 

 クロムすら簡単に乗せることができたのは、そういう事だ。どんな巨漢の大男だろうが、一人だけ絶対に乗せることができる。【ばぁさぁかぁ】はそういう乗り者なのだ。

 

 メイプルの前に背中を向けてしゃがみ、『乗れ』と視線で訴える【ばぁさぁかぁ】。しかしその厳つい顔と乱杭歯、天を突く角に圧倒されて、メイプルは近寄れない。

 後ろ手に向ける両腕も、丸太のように太い。爪は肉を容易く引き裂けそうだ。

 

「こ、これで戦闘力0……?」

「ん。角兎も倒せ、ない。メイプル以下」

「その言い方は私にも酷いよねぇ!?」

 

 事実、【ばぁさぁかぁ】のステータスは【AGI】以外設定されていない。

 三十分の間、戦闘には一切参加しないしダメージも与えられないが、一切のダメージを受け付けない完全無欠の安全な乗り者である。

 また【ばぁさぁかぁ】に乗っている間は、その特性が乗っているプレイヤーにも付与される。

 つまり、乗っている間のプレイヤーは役立たずだが、絶対に死ぬこともない。安全運転が標準装備されているのだ。

 まぁ尤も、メイプル自身が死にそうにないので、無駄な追加効果だが。

 

 そう懇切丁寧に説明されたメイプルは、恐る恐る【ばぁさぁかぁ】の背に乗る。

 

「おぉ、高い!すごい!」

 

 一瞬で気に入った。

 適応力の塊である。

 

「サリーのペースで行く、から。好きに走って」

「わ、分かった……」

 

 “この二人、もう駄目かも分かんないよ……”と内心で涙したサリーは、遂にはツッコミという大役を放棄して走り出す。

 

 ………無理もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「これの何処が安全運転!?」」

「事故が起きな、ければ、それ即ち、安全運転」

 

 疾走していた爆走していた暴走していた。

 平原を突っ切り、兎を跳ね飛ばし狼を引き倒し、猪から逃げ切り。

 

「「絶対に間違ってるからぁぁぁあああ!!」」

 

 その全てで、()()()()()()()0()

 前評判通り、【ばぁさぁかぁ】はモンスターと接触しても一切ダメージを与えず、自分も受けなかった。吹き飛んでもダメージを受けてない。つまり安全。だから安全運転。道路じゃないし乗り者だが、道路交通法違反で怒られてしまえと思うサリー。

 そんな左隣を走るサリーは、全てのタゲを【挑発】でハクヨウが受け付けているため、迷わず全力疾走している。

 そして【ばぁさぁかぁ】の右隣を()()ハクヨウはと言えば。

 

「【鱗刃旋渦】【毒蛾】【炎蛇】【刺電】!」

 

 森に入った途端、自分たち全員を守るように蒼く透き通る竜鱗のサークルを作り出し、左手で苦無を踊らせる。

 正面やサリーの方から迫るのモンスターは苦無で殆どが処理され、自分側と背後は放置。

 しかし近づいた瞬間。周囲を高速で飛び回る竜鱗の刃が、モンスターを塵芥と斬り刻んだ。

 

「「うわぁ……」」

「ん……なに?」

 

 いろんな意味で、ハクヨウ無双だった。

 まずサリーの全力疾走が、ハクヨウにとって早歩きだったこと。半ばスキップしている。

 刀を使ってるのに、遠距離と中距離でモンスターを圧倒していること。

 初心者フィールドとはいえ、全てのモンスターを一撃ということ。

 

「この辺じゃ、レベルアップは無理、か……」

「これがトッププレイヤー………」

「いやメイプル、他の人はもう普通だからね!?ハクヨウがおかしいだけだから!」

「む、ぅ……」

 

 余裕の溜め息でモンスターを蹂躙する姿に、トッププレイヤーの強さを見たメイプルだったが、そこはサリー。ちゃんと解っている。

 というか、こんなプレイヤーがたくさん居てたまるか、と。

 最高レベルのペインという人も、掲示板を見る限り普通の剣士らしいと。

 

 

 そんなこんなで十五分もすれば地底湖に到着した一行。サリーは早速準備運動を始めた。

 

「それじゃメイプル、ハクヨウ。計測お願いね」

「「はーい」」

 

 現実の方である程度話したので、何をするかはそれぞれ決めていた。

 潜るサリーを見送って、ハクヨウはメイプルに『すごいつりざお』を貸す。

 

「ありがとう!」

「ん。私は、向こうで遊んで、る」

 

 遊んでる、と言って、サリーが潜った大きな地底湖から離れたハクヨウは、メイプルからかなり距離をとった所で窪地を見つけた。

 

「ここなら、良いかな?」

 

 半径で三十メートルはあるだろう巨大な窪地は、中央に少しだけ水が溜まっているだけで、地底湖としては不完全なもの。そこが、試すには最適だと思った。

 ずっと試すに試せなかったスキル。

 範囲が広すぎること、下手にプレイヤーがいて、注目を集めたら困る事などがあって、中々試せなかった。しかし、今ここにはメイプルと、水中にサリーしかいない。

 範囲もメイプルを外したし、サリーは水中ダンジョンに潜った。今なら、問題も影響もなく練習できる。

 

 

 

 

 

 そう判断して、ハクヨウは左手を持ち上げた。

 

 

 

 

「―――【綴る】」

 

 

 禁忌のスキルを開放する(うた)が、(うた)われる。

 

 




 
 気紛れssアンケート、結果発表〜〜!
 どんどんパフパフどんどんパフパフ〜
 ベキベキポップーベキベキポップー!
 さて、皆さん多くの……多くの?投票をしていただき、ありがとうございました。

 ではでは書く題材をご紹介。
 ハクヨウちゃんがひたすら可愛がられる!
 PS特化のツキヨと姉妹だったら!

 あれですかね?最近本編がシリアスに入ってるから、皆ほのぼのを求めてるのかな?
 あと『クロムと付き合ったら(最終回風)』も思ったより票数がありました。

 ……やってやりますよ2話。
 私の表現の限界があるので、皆さんの期待に答えられないかもしれませんが、できる限り頑張りたいと思います。
 PS特化も2話書くことになりそうだし、4話かぁ……まぁ何とかなりますね!

 さて、発表おわり!
 少し、今話の事でも語りましょうか。
 今話では、九曜ちゃんの容態……は大げさかな?に異変がありましたね。まだ異変としては小さいのですが、ここから先どうなるか私にも分かりません(実はストック尽きました)
 そして、それでも楽しむNWO。
 久しぶりの【ばぁさぁかぁ】登場と、その元々予定していた使い道がようやくできました。
 他にもフィールドボスから得たスキルを次回、使います。練習だけど。
 などなど、ゲームはゲームで。現実は現実で動きが増えてくる速度特化。PS特化もあって私の頭はめちゃくちゃです!

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