現実の分まで仮想世界を走り回りたいと思います。   作:五月時雨

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 本編で行き詰まった時の対処法。
 短編ssを書く!
 だって思いついちゃったんだもん!
 
 今回は気晴らしだったからTwitterで告知しなかったけど……良いよねっ(白目
 時間軸は、原作3巻よりは後。クロムはユニークシリーズも手に入れてる。
 


この素晴らしい世界を駆け巡る素早さ極振りに祝福を!

 

 どこか遠くの違う世界。

 女神によって、魔王討伐のためにと送られた転生者がわんさか居る狂った世界。

 どこまでも平和で、どこかシリアスになりきれないギャグっぽい、昔のゲームっぽい世界。

 

 そんな所で、彼女達は生きていた。

 

 

 自らの境遇を呪い、されど表向き受け入れていると装っていた彼女は、()()()()()()()()で命を落とした。

 護りたい者を、支えたい存在を見つけた心優しい彼は、彼女と共に交通事故に見舞われた。

 

 彼女は望んでいた。

 

 彼は望んでいた。

 

 出会いは偶然。

 けれど、それからの全ては必然で。

 

 彼女は彼と出会い、救われた。

 

 彼は彼女と出会い、護りたいと思った。

 

 生死の狭間。一面白に埋め尽くされた世界に並べられた2つの椅子。そこに腰掛け、願うのは。

 怠惰に堕落した駄目そうなダ女神を見据え。

 

 

 彼女は願う。

  彼に届く、どこまでも駆ける脚を。

 

 彼は願う。

  彼女を…彼女のための守護の力を。

 

 

 足元に散らばる最強の異能(チート)のどれでもない。

 心から望む答えは、そこには無い。

 

 

 ―――けれど願いは、受理された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほーん。ここが異世界、ねぇ」

「NWOに、似て、る?」

 

 水のように青い長髪をした、女神(多分)によって異世界に送られた彼と彼女は、目を開けると見知らぬ土地に立っていた。

 石造りの街中は二人が出会ったNWO―『New World Online』というVRMMOに雰囲気が似ている。ただ、景観はまるで違う。

 馬車が音を立てながら進んでいく光景は中世ヨーロッパを思わせ、車やバイク、電柱も電波塔もありはしない。

 その光景にしばし見惚れている彼女だったが。

 

「お、おい九曜……お前、足……」

「ふ、ぇ?―――あ、」

 

 ()()()()()

 紛れもなく、彼女は自らの足で立っていた。

 

「あ……ああ……あぁぁぁ…………」

 

 右足を軽く持ち上げて、下ろす。

 左足を軽く持ち上げて、下ろす。

 交互に、ゆっくりと、感覚を確かめるように。

 

 違和感は。

 

「歩ける、よ…っ。クロム、歩ける、よぉ……」

 

 ―――なかった。

 ほんのりと涙を浮かべながら、九曜が呟く。

 その姿を見てクロム―黒木場 歩―は嬉しそうに目を細めた。

 

「あぁ。良かった……本当に、良かった」

「うん……うん……っ」

 

 九曜は元々、歩けなかった。幼い頃に遭った交通事故で両足に後遺症を負い、永遠に歩く可能性を失った。しかし、NWOという仮想世界にて走ることができるようになった。

 その後は紆余曲折あって隣にいる大柄の男性と親しくなったり一緒に遊んだり現実で会ったり…としている最中の、事故だった。

 

 転生の際に九曜が願ったことは正しく叶った。彼女は容姿こそ現実のままだが、NWOにて使っていた白い着物を纏い、腰に二振りの刀と純白と苦無。

 歩が願ったことも正しく受理され、彼のは見慣れた赤黒い血色の大盾と大鉈を持ち、同じく赤黒い骸骨を模した全身鎧を纏っている。

 

 願ったのは、(クロム)と並び歩く足。

 願ったのは、九曜を守り、戦う力。

 

 望んだのは、慣れ親しんだNWOの装備。

 

 たった一つだけと言われて選んだのは、奇しくも二人とも同じだった。抜け道に近いが。

 『NWO装備』という一つの選択だから、これで良いのだろう。

 

 流石に二人が取得していたスキルまでは無理だったが、装備スキルは引き継がれた。

 例とすると【瞬光】はないし【手裏剣術】の無い九曜は、【九十九】による状態異常のバーゲンセールもできない。

 歩は【カバームーブ】が使えないし【フォートレス】で防御力が上がってないなど。

 しかし、装備スキルの中でも九曜は【韋駄天】がそのままなので、相変わらず空を跳べるし【鱗刃旋渦】も【忍法】も使える。しかし【捷疾鬼】関連はごっそり消えていた。常時アバターが常時発動状態だったので、これは仕方ないだろう。

 歩も歩で、敵を斬ればHPとMP……の代わりに損傷が治り魔力が回復していく。流石に【デッドオアアライブ】は怖くて試せないが。

 こちらはあくまでも[武器の性能]であり、魔剣や聖剣、聖鎧もあるため別に良いのだろう。詳しくは知らん。

 

 暫くして落ち着いた二人は、人気のない路地裏にやってくると、現状の確認から始めた。

 

 本来貰えるチートよりもチート性能なのだが、ゲームよりは弱体化しているため気付かない。むしろ別のところに驚いていた。

 なんと、確かめてみたらNWOでの所持金が引き継がれてたのだ。

 

「えっと……この『エリス』ってのが、通貨で良いんだよな?」

「だと、思う。私も、たくさんある、し」

 

 曲がりなりにもトッププレイヤーの二人は、小金持ちだった。二人合わせるとギリギリ8桁。感覚からして1エリス=1円っぽい。

 『まじか……』みたいな感じで目を丸くする。

 

「あの女神の話じゃ、ファンタジー世界らしいが」

「ん。魔王が、いて。魔王軍が、攻めて、来て。魔法も、モンスターも、いる」

「まんまゲームみたいな世界って訳だ。しかも『魔王を倒して』なんて一言も言われてねぇ」

 

 むしろ「ゲーオタ二人に期待なんてしないから、さっさと選んで」と言われた。

 物凄い面倒臭そうだった。ポテチ頬張ってた。

 

「つまり、自由?」

「おう。折角NWOの装備そのままに来れたんだ。世界中を旅するってのもありだぞ」

「おぉー」

 

 NWOの世界を全て走り、見て回るのが目標の一つだった九曜。世界こそ変わってしまったが、新しい世界を自由に見て回るのは面白いかもしれないと、ちょっぴりワクワクし始める。

 

「あの女神、見るからに適当そうだったしな…」

 

 確認しなかったのか、プレイヤーとしての機能まで一部残っており、青いパネルのユーザーインターフェイス―UI―は開けるし、そこで『エリス』も引き出せるようだった。便利すぎる。そこのメモ機能を活用しつつ、現状をまとめていった。

 

「取り敢えず、すぐに無くなるってわけでも無いが、金を稼ぐ手段はあった方が良いだろうな。……冒険者ギルド的なのがあると良いが」

「ギル、ド?それって、私達、の?」

「いや、NWOのギルドってのは、所謂仲良しグループ。今言ったのは……そうだな。ハンター組合に近い」

「なる、ほど?」

 

 モンスターの討伐を主とした依頼を斡旋し、冒険者がそれを達成するクエスト斡旋所という役割を担うのが、ここで言う[ギルド]であり、NWOにおけるギルドとは毛色が違う。NWOの方はクランと言い換えてもいいだろう。

 

「日本語はその辺適当で、あやふやになってるからな。いや日本人が適当なのか?……まぁ狩猟対象がモンスターの、討伐を主とした職業斡旋所だな」

「なんとなく、分かった」

「なら良い」

 

 全身鎧に大盾と短刀を持つ男と大量の刃物を持つ少女にはピッタリな仕事場である。(クロム)は、自分の想像するままのギルドであることを期待し、思いを巡らせていると、くいっと袖を引かれた。

 

「どうした?」

「クロム。これ」

 

 ちょいちょい、と九曜が指し示すのは、自らのプレイヤー[ハクヨウ]としての青いパネル。正確には、歩も自身のパネルを見ろと言っているらしい。

 

「ステータス……NWOの、まま」

「おう、そうなの―――はぁっ!?」

 

 急いで歩もパネルを開くと、九曜の方は一部のステータス表記がバグって消えているものの、【AGI】に関しては、NWOでの到達レベルでのステータスそのままであり、他のどの数値も若干ながら上乗せされている。これは現実の九曜自身のステータスが上乗せされているからだろうと考えられ、少なくとも0では無い。逆に言えば、AGI以外は素の身体能力のままだ。

 歩の方は、全て上がっていた。何でかと疑問に思ったものの、考えればNWOは現実の身体能力=【0】で表記される。しかし、ここは元からステータスのある世界。だとすれば、加算されたのは現実の身体能力なのだろう。

 他には装備品のみ表示され、名前とレベル、HPとMPに加え取得スキルも消えていた。

 もっともスキルによる上乗せは無いので、九曜の【AGI】は本来の六分の一以下なのだが。

 それでもレベル50を超えてなお、九曜は【AGI】にしかスキルポイントを振らなかった人外の敏捷性を有しているし、歩も大盾使いとして破格のステータスを持っている。

 

「あの女神何考えてんだ……」

「たぶ、ん…アバターをそのまま、上乗せした」

「だろうな。スキルやらレベルやらは、こっちの世界に適応して失って、ステータスだけ現実の俺たちに上書きされた感じか」

「人外、だぁー」

「本当にな……あの適当加減なら、『調整が面倒だ』とか言って放り投げたんだろうな」

 

 『NWOの装備』を頼んだら、二人ともプレイヤーとしての自分が付属してた。チートとかいう次元じゃない気がするが、女神の所業だから良いのだろう。責任転嫁万歳。

 

「まぁ……あれだな。武力って意味で困ることは無さそうだ」

「ん。貧弱なまま、放り出される、より…まし。むし、ろ、願ったり」

「マジで叶ったり」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 そんなこんなあって人に道を聞きながらやって来た冒険者ギルド。

 マジでその名前のまんまあった事に苦笑いしたが、あるのならば問題ない。もっと別の名前でも良いと思うのだが。いや、こういう所は女神が言っていた【自動翻訳】の妙なのだろう。日本人に好まれるように自動的に翻訳されたそれは、だからこそ、好きモノな[冒険者ギルド]の訳があてはまるのかもしれない。

 

 などと適当な弁舌を頭の片隅で展開していた(クロム)だったが、隣で『おぉ〜』と感嘆して瞳を輝かせる九曜に苦笑い。めちゃくちゃ頭良いのに、こういう所でテンションが上がる程度には好奇心が残っているらしい。

 

「なんかこう言うの、ワクワクするな」

「ん。わか、るっ」

 

 現代日本での日常からかけ離れた雰囲気に呑まれそうになるが、もう戻れないのだという郷愁がチクリと胸を刺す。NWOのような仮想世界ではない、本当の異世界。ゲームの服装なので勘違いしそうになるがやはり、ここは現実だ。

 

「……いくか」

「……んっ」

 

 適当な思考ばかり先行していたが、意を決して中に入ると。

 

「あ、いらっしゃいませー。お仕事案内なら奥のカウンターへ、お食事なら空いてるお席へどうぞー!」

 

 短髪赤毛のウェイトレスの女性が、愛想よく出迎えた。

 どことなく薄暗い店内は酒場が併設されているようで、そこかしこに鎧を着た冒険者らしき人たちが集まっている。

 先に入った歩が、一応特にガラの悪そうな人がいないのを確認していたりするのだが、そんな事は知らんと九曜はすたこら中に入る。

 

「まんま昔のゲームだな……」

「そ、なの?」

 

 赤い全身鎧と白い着物の組み合わせが注目を浴びているのか、好奇的な視線に晒される。居心地は良くない。が仕方ないと割り切って、さっさと奥のカウンターに向かっていく。

 

「九曜はNWOしかやってなかったんだっけ?こういう場所でクエスト……依頼を受けて、モンスターを倒すってのも、RPGには割とよくある」

「NWOとは、だいぶ違う、ね?」

「その手のも有るには有るけどな。NWOは圧倒的に、住民クエストが多い」

 

 所謂、住民から直接受けるタイプのクエストがNWOでのクエストの大半を占めるのだと話しつつ、空いているカウンターに向かった。

 

 ゲームなら美人な受付と話すとフラグが立ちそうだなぁ…隠し要素とか役立つ情報とか。

 と歩が、唯一混んでいる女性の受付の方を見て考えるが、それはそれ。ゲームと現実は切離そう。決して九曜のジト目が刺さるからな訳じゃない。

 

「はい、今日はどうされましたか?」

「冒険者登録をしたい」

 

 簡潔に答えた歩の後ろで、コクコクと九曜も頷いておく。明らかに装備が整っているのに、冒険者ではない事に訝しむ視線を受けるが、それは予想済み。

 

 筋書きはこうだ。

 

 趣味で世界中を見て回る気ままな二人旅。

 戦闘はなるべく避けてきたが、稀に戦うこともあるので装備は途中で手に入れた。

 そしたらいろんな人から冒険者と間違われた。

 いっそ次の街で本当に登録してしまおうと、二人で話した。

 

「ってわけだ」

「ん」

「な、なるほど」

 

 九曜がNWOでやりたかった事をそのまんま理由に引き継いで、いっそ本当に色々な地域を見て回ろうと画策していたりするが、腰を据えて休める場所もほしい二人である。 

 若干食い気味に話し、二の句を継がせず有無も言わせない。その雰囲気飲まれ、受付の女性は引き気味。

 

 

「では、登録手数料が掛かりますが、よろしいですか?」

「いく、ら?」

「はい。登録料はお一人千エリスになります」

 

 顔を見合わせる。

 登録料というだけなので、そこまで高くはないらしいと安堵するのだが、困ったことにお金は全てUIの中だ。そんなものを出せば怪しまれる。

 

「クロム」

「ん?ってちょっ、おい」

 

 つんつん、と歩の腕をつついて、九曜が歩の後ろに隠れた。まるで引っ込み思案な子が、視線に耐えられなくて隠れたような振る舞い、策士である。そこで九曜は、(クロム)越しにカウンターの下に青いパネルを浮かべ、手早く二千エリス(ゴールド)を取り出し歩の手に握らせる。

 ここでようやく九曜の意図を察した歩は、何食わぬ顔で受付の女性に手渡した。

 

「ふふっ、可愛らしい妹さんですね?」

「あぁそりゃどうも……って妹じゃないから」

「そ、それは失礼しました」

 

 振り返れば、『計画通り!!』とドヤ顔する九曜。憎たらしい。けどかわいい。これがどこぞの新世界の神になりたかった男なら、暗黒面に堕ちてる。

 

 それから、受付の女性によって簡単な説明が行われた。冒険者とは人に害を与える存在、所謂モンスターなどの討伐を請け負うが、基本は何でも屋。冒険者とはそれらの総称で、その中には様々な職業があるという。

 

 そんなわけで差し出されたカードは、身分証としての役割を持ち、同時に冒険者としてのレベルを表すらしい。ここに登録者のレベル、所有スキル、討伐モンスターのデータが自動で記録される。

 

「なるほど……確かにゲーム的だ」

「ん。レベルに、スキル、だし」

 

 カウンター越しだと聞こえない程度の小声で話した九曜達は、別に渡された用紙に身長、体重、年齢、身体的特徴を記入した。

 

「はい結構です。ではお二人とも、カードに触れてください。それであなた方のステータスが分かりますので、その数値に応じて、なりたい職業を選んでいただきます」

 

 と言われたので、取り敢えず触れてみる二人。UIに表示されたものとの違いがあるのかも確認しておこうと思った。カードが淡く発光し、ステータスを写し出す。

 

「……はい、ありがとうございます。クロキバ アユムさん、です、ね……?」

 

 それだけ言って、受付の女性が硬直した。

 なんか呆然として、口をパクパクさせている。そして数秒の後。

 

「はっ!?はぁぁああ!?何です、この数値!?魔力が平均より低い事以外、殆どのステータスが平均を大幅に上回っていますよ!?特に生命力と耐久力が尋常じゃないんですが、あなた何者なんですか……っ!?」

 

 なんか、凄いらしい。女性がカードを見て上げた大声に、施設内が途端にざわつく。

 

「おい、なんか俺凄いらしいぞ?……メイプルに防御力負けてんだけどなぁ」

「クロム、は、もっと自信持って、いいっ」

 

 流石はトッププレイヤーの一角と言うべきか、あり得ないステータスを持っているらしい。歩が確認してみると、やはり先程パネルで見たものと同じ値を示していた。幸運が追加されていたり、【STR】が筋力になったりしているが。恐らく生命力も【HP】だろう。見覚えがあった。

 レベルは1になっているので、確かに驚異的なステータスだろう。

 

「す、凄いなんてものじゃないですよ!?魔力が少ないので魔法使い職を選べば苦労されるでしょうが、知力が高いので、これもできなくはありません。他の職業は言わずもがな、なんだってなれますよ?それこそ、最初から上級職に…!」

 

 女性は興奮気味にまくし立てる。

 

「そうだな……攻撃よりも、防御寄りの職業がいい。俺の役目はこの大盾で、コイツを護ることだからな」

「んっ……くすぐった、いっ」

 

 九曜の頭をなでりなでりしつつ、歩は希望に沿う職業があるか問う。

 

「そんな……!確かに驚くべきことに、現時点で生命力、耐久力はそれこそ王都の有名冒険者すら上回る勢いですが、これだけの筋力があれば最高の攻撃力を誇る剣士《ソードマスター》だってなれるんですよ?」

「生憎だが攻撃は九曜の方が上だし、俺は大盾が合ってる」

「……そう、ですか。では、最高の防御力を誇る聖騎士《クルセイダー》はいかがでしょう?《ソードマスター》には及びませんが十分な攻撃力も備える優秀な前衛職ですよ!」

 

 一押しの《ソードマスター》を投げやりに断られて残念そうだったが、《クルセイダー》を食い気味に勧める受付嬢。

 対する歩は。

 

「あ、じゃあそれで」

「か、かるっ」

「良いんだよその辺は。分かんねえんだし、知ってる人に任せるに限る」

 

 めちゃくちゃ軽い態度で、《クルセイダー》でいいやである。思わず、九曜がずっこけた。

 

「では、クルセイダー……っと。冒険者ギルドへようこそ、クロキバ アユム様。スタッフ一同、今後の活躍を期待しています!」

 

 受付の女性はそう言って、にこやかな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………いや、あと九曜もやるから。そんな『やりきった感』出さないでくれ」

「あぁっ!ごめんなさいごめんなさい!」

 

 この人、ポンコツかもしれないと少し不安になったが、すぐに気を入れ直して九曜が触れたカードに目を向けた。

 

「えぇっと、モチヅキ クヨウさん、ですね。生命力、筋力、魔力……どれもふつ、う……?」

 

 ピシリ、と。

 歩の時同様に、女性が固まった。

 

 復活したかと思えば、視線は九曜とカードを行ったり来たり。

 

「お、おかしいな……?カード、故障してたのかな。人間にはあり得ない敏捷値が見える……」

「あぁそれ、正常だと思うぞ。こいつの速さは尋常じゃない。ぶっちゃけ人間辞めてるレベル」

「それ、は……褒め言葉」

 

 十回くらいカードと九曜を見直して、ようやく女性は声をあげた。

 

「おかしいですよねぇぇ!?ほ、本当に何者ですか!?こ、こんな数値……見たことないんですけどっ!?逆に他のステータスが普通すぎて、違和感しかないんですけど!?」

「ぶい、ぶいっ」

「あぁ、それが九曜だからなぁ……」

 

 歩としては『あ、この反応懐かしいわぁ』である。昔は九曜のやる事なす事に驚かされて、内心で彼女みたいになっていたのだ。

 

「九曜の速さがあれば、スト……筋力の低さなんて関係なく、あり得ない攻撃力を叩き出せる」

「そ、それは見れば分かりますが……あ、知力もすごい高い。魔法使いも行けますね…って魔力は平均より下でした」

「なんの職が、合う?」

「九曜の戦い方には、斥候職辺りが合いそうだよな。けど、ぶっちゃけ何でも大丈夫だろ」

 

 現実逃避気味に知力を取り上げた女性に、九曜が問いかける。歩としては素の攻撃力が頭のおかしい事になりそうなので、九曜の職業は何でもいいと思っていた。

 

「そ、そうですね……敏捷値が頭のおかしい事を除けば、ごく普通のステータスです。基本職である《冒険者》?……でもでも敏捷値を活かさない手はないので斥候として《盗賊》?いえあれだけの敏捷性なら身軽な《剣士》?」

 

 自分の中で考えが纏まらず、受付嬢として二人を待たせるわけにもいかず、話しながら考えを纏めようとする。

 そうして悩みに悩んだ末、突如として彼女は勢いよく立ち上がり、まるで天啓を得たとばかりに「そうだ!」と叫んだ。

 

「《暗殺者(アサシン)》です!《盗賊》と《剣士》の派生上級職で正面戦闘から奇襲まで熟し、高い攻撃力と機動力で一撃必殺を得意とする単独戦闘における万能職!これです!」

 

 バァァァァンッ!!と背後から出てきそうなほど、自信たっぷり興奮マシマシな女性。

 周囲からは『マジかよ……』『二人とも上級職……』『しかも女の子の方は派生職だ!』などとめちゃくちゃに視線を集める。視線が痛いとは、正にこの事。

 

「あ、じゃあそれ、でっ」

 

 そんな中でも、九曜は適当に返した。まるで歩の焼き増しである。

 

「そ、そんな投げやりな……」

「そっちが、勝手に興奮してる、だけ」

「そ、そうなんですが……こんな小さな子に窘められるなんて……。兎に角、分かりました。暗殺者(アサシン)……っと。冒険者ギルドへようこそ、モチヅキ クヨウ様。冒険者ギルド一同、今後の活躍を期待しています!」

 

 

終了

 

 

 

 

 

 地球で交通事故に遭って死亡し、異世界にやってきた九曜達は、半年がたった今日も今日とて依頼を受けて冒険していたりする。

 

「九曜ー、悪いそっちいったー」

 

「まかせ、てー」

 

 ほんわかまったりとした会話とは裏腹に、目の前では鷲とライオンの合成獣、グリフォンが九曜に翼を広げて滑空しながら突っ込んでくる。

 

「やっ!」

 

 掛け声一つ。地を蹴り、次の瞬間にはグリフォンの右側面に移動。そのまま翼を切り落とし飛行能力を奪うと、運動エネルギーそのままに地面に激突したグリフォンに飛び乗って、首を落とした。

 

「あゆむー、おわった、よー」

 

「おー、こっちももう終わるー」

 

 この半年で呼び方を変えた九曜が歩に顔を向けると、向こうではマンティコアが無数の針を歩に飛ばしていた。が、それも全て歩の大盾に跳ね返され、叩き落される。

 おまけに体当りしてくるマンティコア自身すら受け止めると、大鉈で斬りつけていた。

 

 マンティコアが悲鳴を上げ、夥しい血飛沫が舞う。既にマンティコアは全身を斬り刻まれ、大量の血を流している。足元も覚束ずフラフラとしており、どちらが優位かは言わずとも分かる。

 

「終わりだ」

 

 歩は、最後の一撃を首に入れ、マンティコアの活動は完全に停止した。

 

「おつか、れー」

 

「おう。悪かったな。2体とも抑えるつもりが、グリフォンそっちに送っちまって」

 

「問題、なしっ」

 

「ま、これでマンティコアとグリフォンの討伐は達成と。後処理して帰るか」

 

「おー」

 

 縄張り争いで暴れまわるグリフォンとマンティコアの討伐クエストを難なく片付けた二人は、アクセルの街に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 アクセルの街に戻ってきて、二人は出会う。

 

 

 

 

『マジで異世界なのか!ひゃっほう、こんにちは異世界!この世界なら、俺、ちゃんと外に出て働くよ!』

 

『ああああああああっ!!どうしてくれんのよこのヒキニートっ!!』

 

「………なんだあれ」

 

「………さ、あ?」

 

 路上でジャージ姿の日本人が歓喜したり、女神が泣き喚いてたり

 

 

 

「汝、アクシズ教徒ならば……お金を貸してくれると助かります……」

 

「……どうす、る?」

 

「俺ら仏教徒なので」

 

「あ、そうです、か……じゃないっ!あんた達もしかしなくても日本人ね!?ならアクシズ教徒とか関係なく、転生させてあげた私を崇め奉り、お金を渡しなさいよ!」

 

「………逃げるか」

 

「関わらない……が、吉」

 

 絡まれたり

 

 

 

「あああああっ!助けて!助けてくださいアユム様ぁぁぁあーーー!」

 

「おう、最弱モンス……とはいかんが、ジャイアントトートくらい頑張れ。頭をぶん殴れば……まぁ、気絶はするぞ」

 

「カズマ、がん、ばっ」

 

「くっそぉ!可愛い子に言われたら頑張るしかないんだよぉぉぉおおおお!!」

 

「たしゅけてー!たしゅけてよ、かじゅまさぁぁぁぁぁぁんっ!」

 

「お前はそのまま暫く食われてろっ!」

 

 指導してあげたり

 

 

 

 この騒がしい異世界生活は、始まったばかり。

 

 

 

 

 

 

 

 

『この素晴らしい世界を駆け巡る素早さ極振りに祝福を!』

 

 つづかない。

 




 
 強すぎてニューゲーム。

ア「ゲームの装備をくれ?全くめんどくさいわねー。このままあの二人に上書きしちゃお。世界の修正力で何とかなるでしょ。装備だけなら然程強くもないでしょうし?チートをあげるんだから、このくらい良いわよね!私ってば天才!」


 本編は……も、もうちょっと待ってて!
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