現実の分まで仮想世界を走り回りたいと思います。   作:五月時雨

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 ほのぼのです。
 誰がなんと言おうと、ほのぼのです。
 ……多分、きっと。ほのぼのだと思いたい。

 


速度特化と久々のソロ

 

 この日ログインしたハクヨウは、久しぶりにソロで探索に出かけた。

 最近はほぼ毎日メイプル達と地底湖に行っていたため、感覚が鈍っていないかの確認である。

 

「この辺で良い、かな」

 

 やってきたのは最前線の密林。レベル40から一向に上げていなかったが、ここなら一撃でやられるモンスターがいないので動作確認し放題。

 久しぶりなので、少しずつギアを上げていくことにした。………小さく、深呼吸。

 

「さ、て―――【挑発】」

 

 周囲にいるリザード型のモンスターを【挑発】で誘き寄せたハクヨウは、久しぶりの感覚を思い返しながら、動きをなぞる。

 

「まず、ひとつ。――【八重・刺電】」

 

 最前列の数体はそのままに、後方のリザードの一団を【麻痺】を入れて無力化し、正面から戦うモンスターの数を一気に減らす。

 

「に」

 

 トンッ、と地を蹴り、中央の一体に肉迫。あり得ない【AGI】を有するハクヨウの移動速度についてこれず、決定的な弱点を晒したリザードの首に、優しく刃を這わせる。

 それだけでリザードの首が落ち、【即死】が確定した。

 

「【瞬光】――さん」

 

 このリザードの攻撃方法は突進からの連続的な物理攻撃が主体である。しかし、ある程度距離のあるプレイヤーに対して、溶解液を飛ばして攻撃することが、報告されている。

 ハクヨウは四方を囲んだリザード全体が一斉にその溶解液を飛ばした瞬間、【瞬光】を発動して体感時間を十倍に引き伸ばす。

 そしてスローモーションに迫る溶解液の包囲網をするりと抜け出すと、目の前のリザードに一閃。同じく首に入れた一刀は、鱗を安安と斬り裂いて絶命させる。

 

「韋駄天は……いいや。【鱗刃旋渦】、し」

 

 【鬼神の牙刀】を外し、【竜鱗の神刀】を装備する。十倍に引き伸ばされ加速した思考は、このような急な装備変更にも有用に働いた。

 刀身を数千にもバラけた透き通る竜鱗に変化させたハクヨウは、溶解液を飛ばした時の口を開いたまま、いやゆっくりと閉じようとするリザードに苦笑し、その口に鱗を10枚ほど送り込む。リザードの殺意に濡れる瞳が驚愕に染まった時、全てが完了した。

 

「さよなら―――ご」

 

 体内に送り込まれた鱗が、内側からリザードを引き裂き、貫通し、ダメージエフェクトを散らしながらHPを全損させる。

 それと同時に、ハクヨウは視界の隅で【麻痺】から回復し、ゆったり起き上がる後続のリザードたちを捉えた。

 

「まだいた、ね。―――えへ……ろく」

 

 

 

 

 

 程なくして、リザードの群れが全滅した。

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、少し鈍って、る……」

 

 リザードを討伐し尽くしたハクヨウは、以前よりも自分の動きが鈍いことに辟易としていた。

 手数が増え、手札も増え、やれることが沢山できた。しかし、それを十分に活かしきれない事が歯がゆいハクヨウ。

 

「……しばらく、リザードで練習、しよっ」

 

 リザードならば動きが単調で読みやすい。その上、遠距離攻撃もあるので対応の練習ができる。せめて【瞬光】を使わずに溶解液から逃げ切れるようになりたいと思った。また、【首狩り】の成功率も上げたい。無防備を晒した相手ならば確実に決めることができるハクヨウだが、動きの中で首狩りをするのはまだ成功率が低かった。

 

 そう考えたハクヨウは、取り敢えず苦無をインベントリに仕舞い、代わりに右手には【鬼神の牙刀】を。左手にも【竜鱗の神刀】を装備する。状態異常に頼って足止めすれば余裕なことに間違いはないのだが、それでは練習の意味がない。

 

「メイプルじゃ、ないけど。色々と、試したいし、ね……【挑発】、【跳躍】」

 

 今ではめっきりやらなくなった、樹上からの奇襲戦法を思い出し、記憶と動きをなぞりながら、ハクヨウは呼び寄せたモンスターの群れに飛び込んでいった。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「これ、でっ!ラストっ」

 

 ザンっ!とリザードの鱗を刃で叩き割り、そのまま上半身と下半身をお別れさせる。

 

 ハクヨウは【挑発】でモンスタートレインし、【跳躍】で上空から奇襲し続けた。倒したモンスターの数は百で数えるのを辞め。早く、速く、疾く、モンスターを蹴散らした。

 以前の感覚を徐々に取り戻し、研ぎ澄まし、モンスターよりも一歩疾く踏み込む。

 残像すら残さず斬り捨てて両断すること、実に一時間が経過した。

 

 

 

 そうして潰した群れの数が二十を超えた頃。

 

 

『レベルが43に上がりました』

『スキル【鱗斬り】を取得しました』

『条件を達成したため、【鱗斬り】がスキル【鱗嫌い】に進化しました』

 

「わ。久しぶり、に、スキル取れ、た」

 

 久しぶりのスキル取得に歓喜するハクヨウは、足早に元いた木の上に戻って安全を確保し、スキル説明を開いた。

 

 

―――

 

【鱗斬り】

 鱗を持つモンスターに対する斬撃ダメージを二倍にする。

取得条件

 鱗を持つモンスターを連続して一定数、斬撃によってのみ倒すこと。

 他の攻撃を行った場合リセット。

 

【鱗嫌い】

 鱗を持つモンスターに対する全ての攻撃で、与ダメージを二倍にする。

 鱗系統の素材ドロップ率低下。

 鱗を持つモンスターからの取得経験値二倍。

取得条件

 鱗を持つ単一種類モンスターを、単独で一定範囲内から絶滅すること。

 

―――

 

「う、わ……」

 

 絶滅……と、小さく呟いて、ハクヨウは辺りを見渡した。リザードは一匹も湧かず、辺りは静寂に包まれる。

 

「絶滅、てこと、は……もう、湧かない?」

 

 ハクヨウは知らないことだが、この場合の絶滅とは、一時的にその種族モンスターが、そのエリアでは一切出現しなくなることを指す。絶滅とシステム的に認定されると、それからまる一日そのエリアでは出現しなくなる。

 この場合まる一日経過するまで、辺り一帯でリザード系は一切出現しなくなるのだ。

 ハクヨウの殲滅速度がリザードのポップする速度を上回ったことを示している。圧倒的な【AGI】と攻撃力を兼ね備えたハクヨウだからこそできた芸当だった。

 

「けど、もしかし、て……」

 

 取得したスキルを見て、ハクヨウは“もしや?”と一つ思いついた。もし実行できれば、モンスター戦ではかなりの力を発揮するだろう。また自分の殲滅力であれば、ドロップ率低下程度は数で補える、と。

 

 

 

 

 

 ――そんな思いつきから、一週間が経過した。

 

 

 

―――

 

【NWO】モンスター湧かねえ【怪奇】

 

1名前:名無しの片手剣使い

 最近、フィールドの至る所でモンスターが全く湧かない自体が発生してるが、バグか?

 

2名前:名無しの大剣使い

 kwsk

 

3名前:名無しの魔法使い

 どういうことだ?

 

4名前:名無しの片手剣使い

 毎日いろんな場所で色んなモンスターが出現しなくなってる

 最初は最前線 次は西の森 その次は北の山脈 って感じだ 場所はかなり不規則

 なお、翌日には普通に戻ってる

 

4名前:名無しの短剣使い

 点々としてるな

 

5名前:名無しの槍使い

 戻ってるなら運営が修正したってことだろ?

 

6名前:名無しの弓使い

 でもバグ修正の通知とかきてないよな?

 

7名前:名無しの片手剣使い

 そうなんだよ だからバグとは違うんじゃないかと思ってな

 

8名前:名無しの大剣使い

 色んな場所で似たようなバグが起きてんなら、運営から通知があるはずだよな

 

9名前:名無しの魔法使い

 つまり、何かの仕様か?

 

10名前:名無しの片手剣使い

 わからんから書き込んだ

 

11名前:名無しの槍使い

 まぁ戻ってるなら問題ないだろ

 

12名前:名無しの弓使い

 また起こったら問題だろ

 

13名前:名無しの片手剣使い

 もう一週間毎日起こってるぞ

 場所は必ず一箇所 規則性は検証班頼む

 

14名前:名無しの大剣使い

 頼んだ(`・ω・´)ゞ

 

15名前:名無しの魔法使い

 頼んだ(`・ω・´)ゞ

 

16名前:名無しの槍使い

 頼んだ(`・ω・´)ゞ

 

17名前:名無しの弓使い

 頼んだ(`・ω・´)ゞ

 

18名前:名無しの短剣使い

 頼んだ(`・ω・´)ゞ

 

19名前:名無しの検証班

 規則性はないぞ

 

20名前:名無しの槍使い

 うわほんとにでた!

 

21名前:名無しの検証班

 ただ出現しなくなるモンスターは毎回違う

 初日はリザード 翌日ゴブリン その次は鳥系 他にもミノタウロスやオークと言った亜人の日だったり昆虫種だったりだな

 毎回別のモンスターが出現しなくなり、同じエリアでも少数だが、別のモンスターなら確認されている

 また出現しなくなったエリアだが、前日には『突風が吹いた』『モンスターが一瞬でバラバラになった』『怖い怖い白い影怖い』など、実に様々な噂が飛び交っている

 

22名前:名無しの片手剣使い

 サンクスってかモンスターが一瞬でバラバラかよ もしかしてバラバラになったモンスターって?

 

23名前:名無しの検証班

 翌日にポップしなくなったモンスターということも、確認済みだ

 

24名前:名無しの槍使い

 つまり、バグじゃなくプレイヤーの仕業、か?

 

25名前:名無しの大剣使い

 プレイヤーがまる一日モンスター狩り続けて、モンスターが逃げ出したんか?

 

26名前:名無しの弓使い

 一瞬でバラバラ……白い影……まさか、な?

 

27名前:名無しの魔法使い

 まさか【白影】か?最前線も潜れるプレイヤーは限られるし考えられるが……幼女だぞ?

 

28名前:名無しの短剣使い

 ぅゎょぅι゛ょっょぃ

 

29名前:名無しの槍使い

 最速プレイヤーだしなぁ……

 

30名前:名無しの大剣使い

 鬼のように強いってかまじで鬼だしなぁ…

 

31名前:名無しの片手剣使い

 まぁこの事は要観察でいいだろ

 

32名前:名無しの魔法使い

 情報待ちなのに変わりないかー

 

 

―――

 

 

「むふーっ」

 

 ハクヨウは一人、誇らしげにステータス画面の一部を眺めていた。

 それはこの一週間、限られた時間の中でかき集め取得した、実験スキルの数々。

 

―――

 

スキル

 【鱗嫌い】【妖精嫌い】【鳥嫌い】【亜人嫌い】【獣嫌い】【昆虫嫌い】【悪魔嫌い】

 

―――

 

 全て、それぞれに該当する種族のモンスター全般に対して、与ダメージを二倍にし、経験値を二倍にし、素材ドロップ率が低下するスキルである。

 素材ドロップ率については、ハクヨウの体感で凡そ七割にまで低下しているが、殲滅するモンスターの数が膨大なので誤差と言えた。

 なおこれを集めている間、途中にいくつものスキルが統合、進化している。

 代表的なのは【獣嫌い】で、初心者フィールドの狼、角兎、猪、熊を順番に絶滅した所、それぞれの【○○嫌い】を取得、最後に統合進化した。

 【亜人嫌い】もまた、オークやミノタウロスを絶滅させたことで取得したスキルである。

 

 そんなハクヨウは今、【毒竜の迷宮】を周回していた。

 目的は、この一週間と同じである。

 毒沼や瘴気の薄い場所を最速で駆け抜け、迷宮を一分と掛からず踏破。さらにボスすら、ハクヨウの【鱗嫌い】によってブーストされた与ダメージに耐えきれず数合で粒子へと変わる。

 

 毒を一切受けずに、だ。

 

 故にハクヨウはここを周回。一時間という設定こそ自分で設けたが、もうすぐ三十周。

 またレベルはこの一週間で49まで上がり、実はゲーム内最高レベルな事にも気付いていない。

 

 

 そしてジャスト一時間、ボスアタックを30周した時。

 

『レベルが50に上がりました』

『スキル【殺戮兵器】を取得しました』

『スキル【ボス嫌い】を取得しました。これにより【嫌い】シリーズがスキル【怪物殺し(モンスターキラー)】に進化しました』

 

「……よしっ」

 

 念願というか、予想以上のものが来たことに、ハクヨウは小さくガッツポーズをした。

 

―――

 

【殺戮兵器】

 対ボスモンスター戦にて、このスキルの所有者の全ステータスを二倍にする。

取得条件

 一定時間内にボスを規定数倒すこと。

 

怪物殺し(モンスターキラー)

 対モンスター戦において、全ステータス二倍。

 モンスターに与える全てのダメージを二倍。

 素材ドロップ率低下。

 モンスターを倒した時に経験値二倍。

取得条件

 全ての【○○嫌い】スキルを取得すること。

 

―――

 

 これにより、ハクヨウのモンスター戦における実質【AGI】は5000を超え、攻撃力も跳ね上がった。

 また全ステータス二倍と与ダメージ二倍は重複するため、実質的な攻撃力はこれまでの四倍。

 素材のドロップ率こそ下がったものの、ハクヨウが身につけるものはユニーク装備で【破壊不可】である。損耗は考えなくて良い。

 殲滅力からドロップ率低下は誤差であり、純粋な強化と言えた。

 

 悲しきは来週に控えた第一回イベントが、プレイヤー同士のバトルロイヤルだということ。イベントでこのスキルは役に立たず、今まで通りの戦力で戦うしかない。

 

「ふふっ、……」

 

 それでも、嬉しくて笑わずにはいられなかった。この一週間は、ずっとこの【○○嫌い】を集め続けた。各地でモンスターが絶滅し、掲示板では専用板ができているのもお構いなしに。

 

「やっ、た……っ」

 

 けれど、取得したスキルは非常に満足の征くもの。そろそろ三時間という自分ルールに迫っているのログアウトせねばならないが、クロム達には明日自慢しよう。きっとみんな驚いてくれる。

 

 

 そう思い、明日を期待してログアウトし――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日から彼女は、NWOから姿を消した。

 

 




 
 急展開はお約束。
 この辺りから一気に現実、仮想共に加速していきます。さぁて、長くなると予告した前回、ここからどうなるかなぁ……っ!?

 明日はPS特化。30日は気紛れssを投稿します!
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