現実の分まで仮想世界を走り回りたいと思います。   作:五月時雨

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 『空想科学』のタグ追加。
 所詮、物語の中だけの空想だからっ!てか感想で半ば答えに行き着いてる人もいて、わりかし困ってる。九曜ちゃんにとっての救いがよく分からなくなってきたこの頃です。
 今回は時間軸が行ったり来たりしますよ。頑張って付いてきて!

 


速度特化の身バレ

 

 

 ―――それは、九曜の入院二日目に遡る。

 

 九曜の入院期間は、およそ一週間。

 健康状態自体は問題ないものの、当然ながら彼女の症状は非常に重いと判断され、ある程度狭窄の症状緩和、及び壊死の進行が緩やかになるまで、退院は認められていなかった。

 

「……どうしても、いけませんか?」

「患者の容態を悪化させかねない物を、なぜ医者が許容できる」

「ですが彼女は今、それこそが必要なんです!」

 

 美紗は、九曜が非常に不安定に見えていた。

 いや、或いは落ち着いている。落ち着き()()()程に。そんな九曜のことを病室で人一倍見ている美紗は、今の九曜の心が分からなかった。

 

 状況を、受け止めている。

 症状を、受け入れている。

 楽しそうに、笑っている。

 

 ()()()()()()()()()

 美紗は、九曜の本質をちゃんと知っている。天然で。明るくて。努力家で。ぽわぽわしていて。みんなを和ませる天才で。

 

「……優しいんです、あの子」

 

 自分よりも、誰かを慮る優しい心の持ち主。

 

「九曜ちゃんは知ってるんです。自分が悲しんだり、苦しんだりすることで、()()()()()()()()()()()()ことを」

 

 例えば、九曜の母。九曜を助けられなかったことを深く後悔し、心を擦り減らした母を見て、九曜は自分の想いに蓋をした。

 

「自分が、誰かを悲しませてしまう事に耐えられないんです」

 

 例えば、楓や理沙。小学校からの親友の二人が、自分の事で悲しむ姿を見たくない。

 

 例えば、美紗。九曜が姉と慕う彼女には、いつも笑顔でいてほしい。その想いがあるからこそ、九曜は美紗に何も言わなかった。

 

「でもそれだと、いつか心を壊してしまう」

 

 夢を持ってゲームに飛び込んだ事を愚かだと言い、自己嫌悪したように。今回はそれ以上に、危うい状態だと思ったから。

 

「あの世界には、九曜ちゃんが築いた繋がりがあるんです」

 

 ハクヨウが紡いだ繋がりは、決して他の誰かが紡いだモノじゃない。九曜だったからだ。クロムの悪態を否定し隣に並んだのも。イズが絆されたのも。カスミに半眼を向けながら協力したのも。正反対なのにそっくりなミィを励ましたのも。シンやドレッドに気に入られたのも。マルクスに『楽しい』と言わせたのも。全部全部、九曜なのだ。

 

 その繋がりが絶たれている今の九曜は、絶望の暗闇で覆われている。人の優しさを感じていても、心は泣いているように美紗は感じていた。

 

両足(ゆめ)仮想世界(きぼう)も失ったら、あの子は壊れてしまう」

「ご両親には義足の準備を勧めている。それに何も、永遠にゲームができなくなる訳ではない」

「けれど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは、ご存知のはずです」

 

 四肢の喪失とは、それだけ精神に掛かる負担が大きいのだ。『ある』のに『ない』。『動かない』けれど『動く』。仮想世界と現実世界とのギャップに翻弄され、まともにアバターの操作ができなくなる症例が非常に多い。

 ましてや、九曜は【AGI】特化。足の速さでは折り紙つきの彼女だが、その速さこそが仇となりかねない。最悪の場合、仮想世界でも歩けなくなる。こんな形で、九曜から仮想世界を失わせてはいけない。

 

「だからせめて……少しの間だけでも、あの子を不安から開放したいんです」

「―――それこそ、一時凌ぎに過ぎない」

 

 そんな事をすれば、むしろ現実を直視し、立ち直れないかもしれない事は分かっている。今は良いだろう。苦しみを忘れられるだろう。だが、その後は?術後両足を失った彼女が、幸せな過去を思い出し、また傷つくことになる。叶わない夢を見て、現実を受け入れられないかもしれない。

 

仮想(ゆめ)から覚めて、現実での最善を考えろ。義足で歩けるようにリハビリし、社会復帰することが、我々にできる最善だ」

 

 それだけ言って部屋を出ていく主治医。

 ()()()()()分かりきっている。

 言葉にするには難しすぎて。『目の前の九曜』しか見えてないことも自覚していて。未来において九曜が苦しむ可能性なんて考えないで。

 

()()()()。今あの子の涙を掬ってあげたい」

 

 美紗の思いは、それだけだった。

 九曜が美紗のことを姉のようだと言った日から。美紗は九曜の姉で、九曜は美紗の妹だから。

 

「今掬ってあげないと未来なんて無いんです。()()()()()()は、私達の次善未満なんですよ……」

 

 優しくて、我慢強いから、九曜は叫び声をあげない。助けを求めるより、涙をこらえてしまう。その上で、気丈に笑うのだ。つい最近ようやく出せた、本当の笑みを永遠に失って。

 

 

 

 現実も、仮想も救う。荒唐無稽な夢物語だとしても、それだけが九曜にとっての最善だから。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「はぁ……ままならないものですね」

 

 帰宅した美紗は結局、主治医の説得は失敗に終わったことに、肩を落とした。『病院内からのVRゲームへのログイン』であれば、九曜のメンタルケアと同時に、常に状態を確認でき狭窄などの症状にも逸早く対応できる。だからこそ毎日とは言わずとも週一回くらいは認めてほしかったと、抱きしめていた羊のぬいぐるみをギュウギュウ抱きしめて顔を埋める。

 

「……いいえ。分かってるんですよ。私の訴えが特別扱いだってことも、九曜ちゃんの症状を考えれば到底不可能だということも」

 

 何しろ、原因の存在を容認しろと言ったのだ。そんな事を医者が、病院が許すはずが無いし、許すという前例も、作ってはいけない。

 

「メイプルとサリー……いえ、こちらでは楓さんと理沙さんでしたか。二人といる時も、私には泣いてるようにしか見えなかったのに……」

 

 夕方に来た二人の少女が九曜のお見舞いに来ていたので、こっそり覗いた時だった。仕事中だったので婦長に怒られたし、自分が部屋の外から覗いていたから、三人が騒いでるのが婦長にバレてしまったのだが、話している時の九曜は、美紗には泣いているように見えた。

 

「或いは……罪悪感に、押し潰されそうな」

 

 九曜からは、例え楓や理沙に会って容態を聞かれても、壊死のことだけは言わないで、とお願いされている。九曜はその時一緒にいた九曜の母にもお願いしていてあの二人を絶対に悲しませたくない。悲しむ顔を見たくないという、九曜の切なる願いが込められていた。

 

「義足、か……」

 

 九曜のリハビリに付き合ってきたからこそ分かる、九曜の願い。その全容は、義足を付けた瞬間から叶わなくなるもの。

 

 ()()()()で、歩きたい。

 

 義足(にせもの)では、駄目なのだ。十年という九曜の一生の半分以上を懸けて願い続けた夢は、生易しいものじゃない。

 

 ―――例え現実で歩くことができるようになったとしても、不自由さは背負ったままだ。ズタズタの神経を違和感を抱えながら動かして、走ることなんて一生できない。

 

 そう理解していながら、諦めきれずに足掻き続けた十年。地獄のような辛さの中で、(ゆめ)を求め続けた九曜の努力が、壊死なんか(こんなこと)で無に帰すなんて許せるものか。今までの努力全てを、無駄だったなんて思うものか。

 

「せめて、九曜ちゃんの『意思』で歩けるようにしてあげたいですね……」

 

 現実世界でも、仮想世界でも。

 現実世界は、義足によって半分叶う。自分の足では不可能だが、せめて、九曜の意思で立ってほしい。けれど、仮想世界は?

 

 このままいけば、現実に希望はない。手術はほぼ確定的で、九曜は絶対に両足を失う。これはもう、逃れられない必然だった。だから、義足が必要。それが、現実の分の九曜にとっての次善。勿論最善は、奇跡を信じ壊死が完治することだが、そんな症例は世界でも数少ない。或いは、片手で収まるかもしれない。

 そして普通の義足では仮想の分の最悪だ。仮想世界を諦めて、現実を受け入れろと言っているようなもの。あの世界は今や九曜の宝物なのに。

 

 自分の足で歩くことを願う九曜にとって、義足で歩くことは救いではない。受け入れはするだろうが、認めはしないだろう。

 それによって、更に仮想世界すらも失えば絶望しか残らない。

 

 全てをひっくり返すには、自分の足で立つしかなく。けれど、それは不可能。

 

「………普通のやり方では、無理ですね」

 

 諦めたように、美紗はスマートフォンに手を伸ばし、ある人に電話を掛けた。

 

 

「………お久しぶりです、板見くん。……えぇ、折り入って相談がありまして。あなた今VR技術を――正確にはVRハードに搭載されている技術を応用した研究をしていますよね?力を貸してください」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 板見は、九曜にとって良い話だと話し出す前に、病室の外に声をかけた。

 

「四人とも、そろそろ入ってきてくれ」

 

 ガラリと扉が開かれ、四人の男女がぞろぞろと入ってくる。その誰一人として九曜は見覚えがなかったが、なかなかに特徴的な人たちだった。

 

 一人は、金髪をサイドテールにした小柄な少女。年は九曜と同じか年下に見える。

 一人は、サングラスをかけた色黒の男性。彼らの中では平均的な身長だが、剣呑とした雰囲気を漂わせている。

 この二人は、妙に襟の高い薄手のコートを羽織っていた。

 一人は、大柄の居丈夫。百八十センチを超える身長と勝ち気そうな顔立ちをしている。

 最後に、眼鏡にスーツといった出で立ちの柔和な顔立ちの女性。

 

「へー、この子がそうなのー?板見さん」

「あぁ。聖さんからもカルテを一部拝見させてもらったからね」

「ん?……いや、まさかな?」

「くははっ!また小さい子だな!」

 

 ベッドの上に座る九曜をまじまじと眺める少女は、板見に確認を取ると、おもむろに左手を差し出してきた。

 

「はじめましてー、板見梨花だよー。ま、よろしくねー」

「望月、九曜。よろし、く。……板、見?」

「そそー、板見さんの……養子?ま、色々あるんだよねー」

「なる、ほど?」

 

 差し出された手を反射的に握った九曜は、その名前に戸惑ったものの、訳ありらしかった。

 

「やー、九曜ちゃん可愛いねー。年はいくつ?」

「十六」

「あや、年上ー?九曜さん?」

「好きに、呼んで」

「じゃあ九曜ちゃん、いっこ質問ー」

 

 こういうタイプと出会ったことの無かった九曜は、梨花のペースに呑まれて混乱真っ只中。他の人たちも呆れたように笑っている。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

「?っ………え?」

 

 反射的に握った手を見つめても、見た目に何かあるようでも無く。触った感触も、限りなく人のそれ。動きも自然で、違和感なんてほとんどない。それなのに。

 

「なん、か……固、い?いや……厚い?重い?」

 

 試しに右手も触らせてもらうと、ほんの少しだけ、梨花の左手は重厚感があるように感じた。

 

「あははー、正解ー。にしても聞かれるまで気付かないとは、板見さんの研究の成果かなー?」

「再現度はかなり高くなっているけど、やはりまだ誤差があるようだね。もう少し、材質の配合率を弄ってみようか」

「私はこれで満足だけどねー?」

 

 明らかに不穏な言葉が聞こえた気がする九曜。材質だとか配合率だとか。少なくとも、人体に対して言う言葉ではない。

 

「いやー、びっくりさせてごめんねー?」

 

 九曜に向き直り、両手を前で合わせてウインクする梨花。その手の動きに違和感はなく、完全に普通に見えるのに。

 

「実は私もー、九曜ちゃんと同じなんだー」

 

 なのに。

 袖を捲り肩を露出させた梨花は、右手で左肘をむんずと掴むと、()()()()()()()()()()

 

「ぅ、わ……」

「あはー、びっくりしたー?私、左手が義手なんだー」

「はははっ!あんまり驚かせてやるなよ梨花!」

 

 一回転させてから、キュポンと小気味いい音を立てて外れた左腕。見れば、梨花の左腕は肩から先がほとんど残っておらず、本当にあれが義手なのだと告げている。後ろで巨漢の男性が笑っている。

 

「因みにー、こんな事もできるよー」

「へっ……わ、わわっ」

 

 右手で掴んでいた義手がひとりでに動き出し、指がグーチョキパーと順番に動く。その後手首をリズミカルに動かして手を振るものだから、ちょっとした恐怖映像だった。

 

「凄いですね……。研究途中と聞いていましたが、それほどの完成度とは」

「まだまださ。協力者が梨花と烈しかいないから、データ取りも進まないし、通常の人のサンプルデータも少ない。というかそっちは俺一人だ。実用段階にはもうすぐ届きそうだが、如何せん論文としても特許取得にしても、まだ足りないものだらけだ」

「つまり、あとは『周囲を納得させる材料』を集めるだけで、実物は完成しているのですか……相変わらずですね」

「協力者もいるからね」

 

 本物と見紛うほどに精巧すぎる義手で頭を撫でられ、軽くパニックな九曜は、美紗と板見の会話が頭に入ってこない。だから板見の視線がスーツの女性に向けられていたことにも、ついぞ気付かなかった。

 

「うんうんー、ちゃんと()()()()()()()()よー板見さん」

「あぁ、こちらでも観測している。これで少しデータも増えたな」

「え、と……?」

 

 状況が急転しすぎていて、何がなんだか分からなくなっている九曜は、うまく言葉が出てこない。

 

「驚かせてすまないね、望月ちゃん」

「面白い反応ありがとねー」

 

 いつの間にか左腕を嵌め直した梨花が、その手をフリフリして笑っている。こうして見ると、本当に本物にしか見えない。

 

「見てもらった通り、梨花は義手なんだ。君とは違って、先天的なものでね」

「ま、そーいうわけさー」

 

 梨花は生まれつき、左手が無かったと言う。

 梨花は物凄い軽く言うが、その苦労は計り知れない。目を白黒させる九曜は、撫でられた頭に手を翳し、その感覚を思い出していた。

 

「本物、みたい……」

「あぁ、限りなく本物に近づけている。見た目も重さも性能も……動作もね」

「どう、やって……」

 

 見た目や重さは、材質と造形でどうとでもなる。性能も技師の腕でいくらでも上がる。けれど、あの動きは完全に梨花が自分の意思で動かしていた。他の人が何かしているようにも見えなかった。なら、それはどうやって。

 

「九曜ちゃんも、よく知っているものですよ」

「ふ、ぇ……どういう、こと?」

 

 自分も知る身近なもので、こんな事ができるとは露ほども思わなかった九曜は首を傾げた。

 

 その動作に、サングラスの奥で目を見開いた男性。他のあらゆるものを無視して、一直線に九曜に近づく。

 

「ん?どうした烈?」

「ちょっとーナンパかなー?」

「ちげえよ。望月だったか?顔見せてくれ」

「え……?」

 

 九曜の前まで来るとしゃがみ込み視線を合わせ、間近でその顔を『じーっ』と見つめる。

 

見つめる

 

まだ見つめる

 

まだまだ見つめる

 

一分ほど見つめて。

 

「だぁ――っもう!いつまで見つめる気ですかこのグラサン!いい加減九曜ちゃんから離れなさいっ!このーっ!」

 

 美紗がキレた。

 サングラスの男を引っ張り動かそうとするのだが、何が彼をそうさせるのか梃子でも動かない。

 

「……サングラス、取ったらどうです、か?」

「いやー九曜ちゃん。烈さんはあれでいいんよー。てか、あれじゃないと駄目なんだー」

「どういう、意味?」

 

 こてん、と首を傾げるも、やっぱり分からない九曜。じーっと見つめるサングラスの烈。烈を意地でも引っ張る美紗。全く持ってカオスの様相を呈してきた空間に、やがて烈の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――やっぱりお前、【白影】のハクヨウか?」

 

「………えっ?」

 

 




 
 最近、近所に義肢を作ってる店鋪?が出来て、執筆の情報集めに行ってみたいけど、興味本位で行っちゃいけない気がして行けない。

 両足を切除→絶望
 義足にチェンジ→夢の喪失
 仮想世界を捨てる→希望の喪失

 とまぁ救いのない九曜ちゃん。
 限りなく本物に近い偽物ならどうかと美紗ねぇ、嫌いな板見も頼りました。

 さって、ようやくNWOが絡んできましたね!てか身バレしましたね!色黒のサングラスさん、一体誰なんだろーなー(白目
 金髪サイドテールちゃんとか豪快な高笑いしてる巨漢とか誰なんだろーなー(棒
 そして謎のスーツの女性は何者だろーなー。

 義肢のあれこれは『空想科学』なので、聞かれても何も答えません。妄想だからねっ!でも妄想なりに理論立ててるから許して!九曜ちゃんの状態がややこしすぎて面倒くさい……誰よこのキャラ考えたの……私か。
 もうね、今書いてる辺りはややこしすぎて、二、三日じゃ時間足りない。一時的にでも、週一更新も考えるべきかなー?
 てか今話は後々に修正するかも。自分でも頭こんがらかってくる。
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