現実の分まで仮想世界を走り回りたいと思います。 作:五月時雨
白雷の如き速度で空から降ってきた『それ』は、しかし僅か程の砂煙も立てず。まるで重力を感じさせない軽やかさで着地した。
「やっほ、ミィ」
片手を軽く上げて挨拶をする、降ってきた存在ことハクヨウは、“ちょっと通りかかりました”と言わんばかり。
「………ハクヨウ?」
「ん。そう、だよ?」
“他に誰がいるの?”とコテンッと首を傾げるハクヨウの姿に、ミィは今更かとため息をついた。
「……うん。自力で空を飛んでくるなんて、ハクヨウ以外に居ないよね」
「飛んでない、よ?空を……走ってる、だけ」
「似たようなものじゃん」
話しつつも、ハクヨウは視線を敵プレイヤーから逸らさない。いつ仕掛けてきても可笑しくないバトルロイヤルで、会話にうつつを抜かす愚は犯さない。そんなハクヨウを見て、ミィも気を入れなおした。
「割り込んできたんだし、手伝ってくれる?」
「その前、に……一つ確認しても、いい?」
「え?」
「手伝うの、は、良いけど……」
けど、と一瞬言い淀んだハクヨウは、ミィに顔だけ向けて楽しそうな、あるいは挑発するような笑みを浮かべた。
「別、に…私が、全員倒して、しまって、も…構わないよ、ね?」
「――――――へぇ?」
『連戦で消耗してるなら、全部倒して
けれど、その顔は笑ってない。
「やってやろうじゃん?」
「ん、勝負っ」
背中合わせになった二人は、周囲を取り囲む30人を置いてけぼりにして勝負を始めた。
「【炎帝】!!」
「【跳躍】っ」
どっちが多く目の前の敵を倒せるか、と。
◆◇◆◇◆◇
「ず、ずるぅーっ!ハクヨウの速度チートだよチートっ!!」
「そんなこと、ない」
砂漠のど真ん中で、ダイヤモンドダストのようにキラキラと輝く粒子に囲まれながら、ミィが心の丈をぶちまけていた。
というのも、勝負は一瞬で終わってしまったのである。【炎帝】で包囲網の一部に風穴を開け、ドヤ顔で振り返ろうとしたミィは驚愕に目を見開いた。
「何あれ反則じゃん!どんなAGIしてんのさっ!」
「ブイ、ブイっ」
「くっそかわいい腹立つっ!」
勝負を始めた次の瞬間、ミィは取り囲むプレイヤーの
それを引き起こしたのが、今ドヤ顔ダブルピースを決めるハクヨウだと思うと腹が立った。
かわいいけども。
「で?結局どうやったの?」
「普通に、近づいて、斬った、だけ」
「………にんげん?」
「ひど、いっ」
「本当に、斬っただけ」と頬を膨らませて不機嫌そうに告げるハクヨウ。
「これだけの人数を、一度に【首狩り】は無理だ、し…【跳躍】で近づい、て、剣宛てて、グルッと一周した、だけ」
即死効果を持つ【首狩り】だが、スキルによって見える首の線は非道く細い。身長の違う大勢のプレイヤー全員に対して、一瞬の内に修正しながら成功させるのは不可能と判断し、持ち前の高火力をそのまま活かして攻撃したハクヨウに、ミィは呆れるしかない。
(本気で、全く見えなかった……)
ミィも初めて出会った時や、フィヨルドで共闘した時は、ハクヨウの走る姿を捉えることは出来なかった。しかし、その後時折パーティを組んで遊ぶようになってからは、初動や方向転換、減速の瞬間だけ辛うじてだが目で追えるようになった。慣れたとも言う。
攻撃を当てられるかは、別問題として。だが今のハクヨウの動きは、全く見えなかった。
(い、いや、久しぶり過ぎてハクヨウの速度を忘れちゃってただけ。うん、きっとそう…多分)
ちょっと力量の差に頭を抱えたくなったミィの考えなど露知らず、ハクヨウは首を傾げている。その姿もイラッとして、けどそんな姿すらしばらく見れなかったと思い出して、問答無用で手刀を振り下ろした。
深〜いため息を落としながら。
「ふぇ……っ?」
「……一週間、心配させた罰、だからね」
ポコンッと言うような軽いものだが。
久しぶりに会えたと思えば、ハクヨウは軽い調子で“やっほ”な上、まるで一週間のブランクを感じさせない。実力的にも、精神的にも。
(心配して損した……じゃ無いけど、このくらい許してよね)
ついでに二、三回チョップチョップチョップ。
その度にハクヨウから「あぅ」「ふみゅ」「うにぃ」なんて変な声が漏れて、流石にミィも笑いを抑えられなかった。
ヤバいクセになる……と楽しくなってきたミィだったが、イベント中なのでそろそろ自制。
「………」
「ご、ごめんごめん。ちょっと歯止めが利かなかった」
笑いが収まった頃、ハクヨウがジトーっとした視線を向けていることに気付いて平謝り。やり過ぎたかな。
「もう、しない?」
「……善処します」
「確約、して」
「………」
サッと目を逸らす。楽しかったんだもの。
もうこの際、話が変わってる事なんて放置。ハクヨウの視線が痛いけど、そんなの知ったことかと言わんばかり。
「はぁ……」
「う……」
拗ねた、或いは叱られるのが嫌な子どものようなミィに、ハクヨウは諦めの溜め息を一つ。
本当はハクヨウだって分かっている。追加三回は許さないが、何も言わずにゲームにログインしなくなり、心配させた自分が悪いのだと。あとの三回は許さないが。ちょっとダメージ入った。
イベント初ダメージ――お仕置き。
「心配させ、て、ごめんね?もう、大丈夫」
「こっちこそごめん……けど、急に居なくなるとか、寂しかったからね?」
「んっ。もうしませんっ」
仲直りのような何かを果たした二人は、漸く落ち着いて、腰を据えて話すことができる。
とか思った時期が彼女たちにもありました。
――――ォォォォォォオオオ………
「な、なに!?」
「何か、さ、寒気、が……」
遥か遠くから聞こえてくる、何者かの雄叫び。理性の箍が外れたとも感じさせるその叫び声に、ハクヨウは超自然的な恐怖を感じた。
ハ―――ォォォォォォオオオ!!
「な、何か近づいてくる……っ!?」
「ひ……っ」
声が少しずつ鮮明になると共に、土煙を上げて猛然と接近する『何者か』を捉えたミィと、思わず小さな悲鳴を上げたハクヨウ。寒気は怖気に変わり、ハクヨウの顔に恐怖が滲む。
「ハクヨウ―ォォォォオオ!!」
「ひぅ……っ!?」
「カ、カスミっ!?うわ怖っ、こわぁっ!?」
『何者か』は、カスミだった。比較的高いAGIを発揮した全速力で砂漠を猛然と突っ切る姿と鬼気迫る表情に、ハクヨウは死の危険を感じた。
「み、みみ、みミミミィ、た、たたすけ…」
「むむむむり……こわ……こわぁ……」
まだ距離こそあるが、高いステータスを持つカスミのAGIでは間もなく襲われる。怖くなり、訳もわからずミィの背後に隠れるも、ミィも怖さでパニックになる。
「に、ににに、逃げよ?早く、速く疾くっ」
「そ、そそそそうだね逃げよう!」
ふたり は にげだした。
「い、韋駄天、韋駄天んんんっ!!」
「【フレアアクセル】【フレアアクセル】っ!」
パニックになって【韋駄天】を使おうとするが、
「な、なんで逃げるんだ!?待ってくれハクヨウ!!」
「や―――っ!!」
「怖い!怖いってカスミぃいいっ!?」
幸運だったのは、ハクヨウのAGIが素でプレイヤー内最速だったことだろう。グングンとカスミを引き離し、距離を取る。ミィも必死にハクヨウを追うが、やがて距離が開いていく。
「ハクヨウ、先に行って!」
「で、でも……っ」
「ハクヨウのAGIなら逃げ切れる!けど私もいたら追いつかれる!」
それに、とミィはハクヨウを安心させるように笑うと。
「カスミの狙いは、ハクヨウだけみたいだしね。時間稼ぎするから、早く逃げてよ。さっき手伝ってもらったお礼」
「っ……」
そう言われてしまえば、断ることはできない。焦ってはいるが、それを隠してハクヨウを逃がそうとするミィの思いに、否やは言えなかった。
「わ、かった……むり、しないで」
「私を誰だと思ってるのさ―――私は」
一人立ち止まり、猪突猛進するカスミに相対するミィ。その背中を逃げながら見つめるハクヨウ。
「【炎帝】の―――
「邪魔するなぁっ!【一ノ太刀・陽炎】っ!!」
カスミの姿が、揺らいで消える。
「へっ?」
そして次の瞬間、ミィの目の前に現れたのを、ハクヨウは見た。
横薙ぎに振るわれる刀がミィの胴体を深々と斬り裂く。
「ミィ―――――っ!!」
決着は一瞬。カスミの攻撃に対応できなかったミィが破れ、カスミはスキルの硬直で動けない。負けて決まったが、時間稼ぎの目的だけは果たした形になった。数秒あれば、ハクヨウならば遥か遠くまで逃げることができる。
「ありがとっ、ミィ」
ハクヨウは振り返らず、
こうして鬼が追われるという、長い長い奇妙な鬼ごっこが始まった。
◆◇◆◇◆◇
「あー、くっそ。【白影】まで来るとかふざけんなよ!」
その男は、砂漠からほど近い森の中で
「【白影】、マジで強すぎんだろうが……何されたか分かんなかったぞ……チートか?」
一瞬で、自分含め全滅した。数多くのゲームをやってきたベテランプレイヤーとして、それは己のプライドが傷付けられたと同義。このゲームでも中堅以上の実力があると自負していただけに、《最強》の座は遠いのだと自信が打ち砕かれた。
「何にせよ、早くここから離れねえと」
ここには、先程まで協力していたプレイヤーが多くいる。あれほど理不尽な力に蹂躙されたのだ。もう一度協力を頼むのは不可能だろう。だからこそ、今度は率いた自らが標的になる可能性が高い。そう判断した男は、すぐにでも森を抜けるために行動を開始して。
「はっ………?」
瞬間、一瞬の浮遊感を感じ、白い残像が目に入った。
「じゃまっ」
違和感。
視界が落ちていく/フラッシュバック
逆さまの空/数分前の出来事
立ち尽くす己の下半身/あり得ない、あり得ないあり得ないあり得ないっ!
「あ、あぁ……あぁぁぁぁあぁああああっ!!」
その日から、男は『白』が大嫌いになった。
ハ ク ヨ ウ た ん 欠 乏 の 末 路
皆様はこの様なバーサーカーに変貌してはいませんでしょうか。もししていたら一発ネタをお読みください。きっと白黒、もといハククロを楽しんでいただけると……良いなぁ(白目
そろそろ本気でキャラ崩壊のタグ付けを検討してます。もう原型ないでしょカスミェ……。
展開に悩んでいたのですが、鬼ごっこで慌ただしく進めば色んな所に逃げ、色んな人と
死亡フラグ(偽)
別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?と某弓兵みたいな事言ってるのに強者ムーブかますハクヨウちゃん。死亡フラグとしてじゃなく、ミィへの挑発として使ったからセーフでした。
名乗らせてもらえない【炎帝(笑)】
自信満々で「お前は先に行け!」したのに名乗る前にやられちゃうクソザコミィさん。
「う、うるさいっ!【炎帝】【炎帝】っ!!」
砂漠で二人を囲んだプレイヤーの首領
【炎帝】相手にイキってたら空から【白影】降ってきた。
何かどっちがいっぱい倒すかとかいう理不尽な勝負始めた。
一瞬で負けた…お、俺はもっと強いはずだ!
【白影】にリスキルされた。
なっ!何をするだァーッ!許さんッ!
だいたいこんな感じ。