痛いのは嫌ですか? 出来る限り耐えてくださいね   作:度し難し卿

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 おやおや、皆さん楽しそうですね。

 是非とも私も混ぜて欲しいです


第一層 New World Online

 

 物々しい機械の数々を、奇妙な仮面を付けた祈手(アンブラハンズ)たちが操作している。その機械群から血管のように伸びたコードはひとつのヘルメットに繋がっていた。

 

 金属製の椅子の上に置かれたそれは、フルダイブ型のゲームソフトと一緒に販売されているヘルメットだ。

 

 カツン、カツン。異なる2つの足音が鳴る。1人はここの主人である男で、もう1人はまだ10歳になったばかり程度の子供だった。周囲の機械を見て目を輝かせている。

 

「すっげぇぇ〜〜〜! 秘密基地だ秘密基地! おっさん本当にすごいやつなんだな!」

 

「喜んでいただけて私も嬉しいですよ………さあ、あちらです」

 

 喜ぶ少年の頭を優しく撫で、その手で奥にある椅子とヘルメットを示した。少年はそのヘルメットを見て瞬時に理解した。あれはCMでやってたフルダイブゲームのコントローラーだ。

 

「やったー!!! なあ! 本当にやっていいの!?」

 

「もちろんです。この中にはフルダイブ型のゲームソフトがたくさん内蔵されています。その中からお好きなものを選んで構いませんよ」

 

 祈手を押し除けてヘルメットに駆け寄った少年は、もう何度目になるかわからない質問を繰り返した。その問いに男もまた同じ答えを返す。

 

 我慢できないと、椅子に飛び乗った少年は躊躇いなくヘルメットを被った。

 

「うぉおお………おお!  おおおおお!」

 

 初めて体験するフルダイブに興奮を抑えきれず言葉にならない声を発している。

 

 

「感動しているようで、私も作った甲斐がありました。慣れないフルダイブでは何が起こるかわかりません……少しテストをしてから遊びましょうね」

 

「え〜〜! 大丈夫だって! 同い年の子がやってるけど、ぜんぜんだって言ってたから」

 

「いけません、何事も安全確認を怠っては痛い目を見てしまいます。テストが終われば、ちゃんと遊ばせてあげますから」

 

 しゃがみこんで、目線の高さを合わせた男はヘルメット越しに少年の目をみる。少年は渋々うなづいて、口をへの字に曲げて椅子に深く座り込んだ。

 

「いい子ですね……では、テストを始めましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数刻後、部屋を後にしていた男が戻った。中の様子は一部を除いて変わりなく、機械も問題なく作動し続けている。

 

「あっ、旦那……」

 

 祈手の1人が中に入ってきた男に気づいてデータをまとめたファイルを手に取った。

 

「進捗はどうですか?」

 

「一応とれるデータは全部取りました。やっぱすごいっスねこのヘルメットの技術は……五感を疑似体験なんてレベルじゃないほど再現可能で、ちゃんと負荷がかかりすぎないようストッパーまである」

 

「素晴らしい……そのストッパーを外しての実験はどうですか?」

 

「この通りですよ……」

 

 祈手が顔を向けた先には先ほどの椅子があった。あれほど輝いていた瞳は片方から血を流し、もう片方はよどんでどこを見ているのかわからない。拘束された箇所は皮膚が擦り切れて皮下組織が露わになっている。爪が無くなった手で椅子を引っ掻き続けていた。

 

「最初は暴れてたんですが途中からうんともすんとも言わなくなって……全部の感覚が麻痺どころかなくなっちゃったって感じですね」

 

「素晴らしい………素晴らしい成果です。彼は我々の探究の礎となってくれた…………しかし、結局テストだけで遊ぶことができませんでしたね…可哀想に」

 

 小刻みに震える頭をそっと撫で下ろす。もはや再起不能の少年を見て、少し垂れ気味の目が哀しみを顕にしていた。だがそれも僅かな時間だけだった。いいことを思いついたと、顔を上げた。

 

「そうだ………彼は私の旅路に付き合ってもらいましょう! きっと楽しんでくれます」

 

「こいつを使うんですか? ……まあ、材料くらいにはなるか」

 

 機械を操作していた祈手たちがわらわらと群がり、慣れた手つきで拘束を外すと少年を連れ去っていった。男と祈手の1人が部屋に残って見送る。

 

「旦那はこれからどうするんですか?」

 

「必要なデータは揃いましたからね。これからゲームで楽しく遊んできます」

 

「でも………そこ使うんすか?」

 

 祈手が指を差したのは今し方少年が座っていた椅子だ。排泄物や血などでひどい有様のそれを見て、男も思わず顔をしかめた。

 

「あまり宜しくないですね……綺麗にしてからにしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 洗浄も完了して、祈手たちが配置についた。入り口からまっすぐ歩いて、椅子に置かれたヘルメットをそっと持ちあげ、腰掛けた男はそれを頭に被せた。

 

「では皆さん……共に新しい探究を始めましょう!」

 

 電源を入れた瞬間、身体が後ろへ引っ張られていく感覚がした。祈手たちがどんどん遠くなっていき、真っ白な光の中へと引き摺り込まれた。

 

「これは…素晴らしい技術です………意識の混濁もない…」

 

 本来であれば、装着者の顔や身体データを読み取ってキャラクターを作るのだが、そんなことをすれば男の正体がバレてアカウントを停止されてしまうだろう。今後の行動によってアカウントを消される要因は数多くあるが、敢えて語らないことにしよう。

 

「おや……どうやら始まったようですね」

 

 男を中心に黒くドロドロしたものが広がっていく。それはプログラムだった。ドロドロのひとつひとつが全て、データを書き換えるハッキングプログラムだった。

 黒く流れ出たものが白い対抗プログラムにせき止められ、飲み込まれていく。黒から灰へ、灰から白へ、消えてなくなったところで、男の前にキャラクター設定画面が表示された。

 

 だが、職業の選択とステータスの割り振りが出来なくなっていた。バグだろうが、男にとってそこは問題ではなかった。キャラクターネームの入力画面に移って静かに名前を入れていく

 

 

『ボンドルド』

 

 

 

 身体が光に包まれて、別の場所へと転送される。

 

 

 城下町の美しい景色の中に、全く不釣り合いな黒く機械的な装備の男が降り立った。

 

 全身が黒ずくめ。『暁に至る天蓋』と呼ばれている様々な武装を内蔵した全身鎧は、一見すると服のように見える。そしてなにより異質さを際立たせるのは仮面だった。フルェイス型の仮面の真ん中に縦一文字に光る紫色の光だ。

 

「鎧は問題なく再現できたようですね………武装も欠けることなく…………素晴らしい」

 

 

 感動に震えるボンドルドを見て、ヒソヒソと話す他のプレイヤーたち。その視線を感じ取ったボンドルドは、意識を切り替えて歩き出した。

 

 

 この世界ならば、存分にこの研究成果を試すことができる……

 

 

 是非とも、協力していただきたいですね………





 献身的な方たちばかりで、とても嬉しいですね

 次は毒の耐性を調べましょう。さあ、こちらへ……
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