痛いのは嫌ですか? 出来る限り耐えてくださいね 作:度し難し卿
New World Onlineに初めてログインしてから、様々な出来事が彼女の周りで起こった。
痛いのが嫌だからと防御力へステータスを振り続けたり、初めてボスと対決した時は食べることで倒し、強い装備やスキルを手に入れた。そうして自信が付き出したところへ、記念すべき第一回のイベントが開始した。
建物の跡のような開けた場所で、メイプルは身長より大きな盾を構えていた。黒と赤の入り混じった鎧と盾は、毒竜を倒した時に手に入れた戦利品だ。
「よーし! 次はどこから来るのかなー?」
次の敵はどこだと辺りを見回す姿は若干緊張感に欠けていた。この呑気な少女に先ほどから何人ものプレイヤーが挑んでは破れていた。その要因のひとつは、ステータスポイントを振り続けた桁外れの防御力にある。
「ポイントもらいぃーーー!!」
崩れた壁の裏に隠れていたプレイヤーが、片手剣を振り上げて襲いかかった。完全に死角の後ろからの攻撃だった。メイプルが振り向くより早く、剣はメイプルの身体に突き刺さった。
「……へっ?」
まるで金属同士がぶつかった音を立てて弾かれた剣に、信じられないと目を丸くした。
「よい、しょっ!!」
その止まった時を狙って、メイプルは盾をプレイヤーにぶつけた。
盾を当てられた瞬間にプレイヤーの身体はドット化して、盾に吸収されてしまった。これが彼女が毒竜との対戦で得たスキル、『悪食』だ。
ふぅ、と一息ついたメイプルは右手を空に掲げた。
「『
紫色の魔法陣が掲げられた手を中心に発生し、そこから3つの毒竜の首が出てくる。正確には毒竜を模した毒だ。それらは前方へ向かって行き、潜んでいたプレイヤーを飲み込んで毒で倒してしまった。
「もぉ〜〜…….まだ終わらないの〜?」
何度も繰り返して作業のようになってきたプレイヤーキル。そろそろイベントも終了する頃かと、時計をみようとした。
すぐ近くの壁の裏から、足音が聞こえた。
「うわっ! まだ残ってたの!?」
飛び上がって盾を構えたメイプルの前に出てきたのは、黒一色の服と仮面をした男だった。襲いかかってくるでもなく、拍手をしながら姿を現したことに、戸惑うメイプル。
「驚かせて申し訳ありません。貴女の勇姿を見させていただきました………とてつもない防御力と珍しいスキルの数々………実に」
「『パラライズシャウト』!!」
甲高い音がしたと思ったら、メイプルを中心に辺りのモンスターや隠れていたプレイヤーが麻痺状態になる。メイプルの持つスキルのひとつ『パラライズシャウト』だ。
これで麻痺した相手を『悪食』で喰らって倒すのが、メイプルの必勝パターンのひとつだった。
「これは、麻痺の状態異常でしょうか……なるほど……小剣を収めた音をトリガーとして発動するのですね」
辺りで痺れて動けなくなったプレイヤーを見て、ボンドルドは分析する。
「えっ、どうして!? う
〜〜〜ん、だったら『
まだ立っていることに驚くもすぐに魔法陣を展開。三つのヒドラの首がボンドルドに迫る。
「まだお話の途中なのですが………」
完全に捉えた。
はずだった。
ボンドルドはポケットから試験管を取り出すと、栓を開けて毒竜の毒を採取した。攻撃を受けながらの行動に、メイプルは唖然とする。
「えええええええええ!!!?? 毒も無効なの!?」
「はい。ですが、いい機会でしたので採取させていただきました。毒竜が出すのではなくプレイヤーが出した毒竜の毒………これでまた探求が進むと良いのですが」
試験管に溜まった紫色の液体を眼前で揺らしながら、ボンドルドは明後日の方向を見ていた。
「おっと………忘れるところでした。本日は貴女を勧誘に来たのです」
紫色の光がメイプルへ向いた。
「勧……誘……?」
「そう、勧誘です…………私はこの世界を探究し尽くす為に、貴女のような強い方や、珍しいスキルを持った方々を集っているのです」
「集うって……他にもいるんですか?」
「ええ、勿論です。貴女と同い年くらいの方も居ますよ。その方たちと最初はうまく打ち解けられなかったのですが、今は私と共に探究の道を歩んでいます」
両手を広げゆっくりと近づいてくるボンドルドは実に楽しそうに語っている。自分と同じような人がいるなら、そんなに楽しいなら、少し興味が出てきたメイプルは一歩、歩み寄った。
だが、ふと思い出した。元々は友達の理沙にこのゲームを勧められたこと。その理沙が今はテスト勉強でゲームが出来なくなってしまった。だから自分が先にログインしていた。
「あっ、ゴメンなさい!! わたし友達と一緒にやる約束してたので……楽しそうなんですけど、ごめんなさい!」
ここでこの人の勧誘に乗って後からきた理沙を説得して一緒のチームで楽しむ、なんてことは出来ない。理沙の意見も聞いてないのに、自分だけで決めたらダメだ。
「……………………………そうですか。残念ですが、無理強いはしてはいけませんからね。いつでもお待ちしていますよ」
長い沈黙を挟んで、ボンドルドは変わらず明るく優しい声で子供を慰めるように言うと、背を向けて帰ってしまった。
本当に勧誘に来ただけだったのかと、拍子抜けしたメイプルだけがその場に取り残された。
イベント終了のアナウンスが流れたのは、それからわずか数分後のことだった。
New World Onlineの第一層は、広く知られるファンタジー世界をイメージして作り出された。城下町から離れれば、そこはすでにモンスターの蔓延るフィールドだ。しかしモンスターといえどレベルの低い相手ばかりだと経験値も溜まりづらい。街から離れた場所へ経験値をために行くプレイヤーも少なからずいた。
強いモンスターが出ると噂の森林地帯で、草木を薙ぎ払って走る者がいた。
「ハァッ、ハァッ……い、息が……!」
走り続けて痛む脇腹を抑えながら、呼吸もままならなくなってきたというのに走るのをやめない。土汚れや枝で裂かれた服をそのままに走り続ける。回復薬を取り出そうとして鞄の中で手が空を切った。回復はできない。その事実が余計に疲労感を強くした。
足が木の根にぶつかって、盛大に倒れた。鎧が鈍器のように胸を打ち、無理やり空気を吐き出させた。
どうしてこんな目に。悔し涙か、痛みによる涙か。それを袖で拭って、鎧の留め具を外した。中身のないバッグや装甲を外して、幾分か軽くなった身体を起き上がらせて走り出した。
城下町まで逃げれば、あそこには人が大勢いる。少なくとも殺されることはない。城下町とは別の方角に走っていることに気づかず、懸命に足を動かし続けた。
「
目の前に黒いものが落ちてきた。ボロ布のように穴だらけのそれは、自分を取り囲んでいた。唯一残った剣を抜いて、その黒いものに刃を立てた。
切り裂かれると思ったそれは、刃を寄せ付けずびくともしなかった。まるで木の棒でタイヤを叩いてるような心許なさだ。
「閉じろ」
「いぎゃぁああぁいあああああ!!!!」
何が起こった。いきなり視界が下がったと思えば、圧殺されそうな力で上から抑え付けられた。混乱する男を抑えた黒い物質は上へと伸びている。それは掌の下から伸びた筒から出ていた。
「少々強引な手ですが、ご安心を………この装備は捕縛用です……死にはしません」
木の上から話しかけていたボンドルドは、
「お陰でこの装備の動作確認もできました。貴方にはお礼が言いたい………でも、途中で投げ出すのはいけませんね。やる事をちゃんと終わらせて、それからまた追いかけっこをしましょう」
ずい、と無機質な仮面が近寄る。
「他にも試したい装備があるのです。出来るだけ頑張って逃げてくださいね」
地獄にいると思っていた。こんな地獄から逃げ出したいと、一本の糸に縋った。
だが、その糸を垂らしていたのはこの男だった。
そして地獄と思っていた場所よりも深く、暗く、希望も何もない深淵の上に自分はぶら下がっていた。
「私の秘密基地に案内しましょう……是非とも見ていただきたい。男の子なら大好きなはずです……頑張って作ったんですよ」
糸が切られた。もう、穴の中へ落ちていくだけだ。
引きずられていくが抵抗する気力もなかった。
ただ、これから起こる事を想像しないよう、感じることさえないよう。
意識を深く、奥の奥まで引っ込めて、じっと耳を塞いでいた。
何も反応を示さなくなったプレイヤーに気がついたボンドルドは、首を傾げた。
「おや、どうされたのですか?」
足を止めて瞳を覗き込んだ。その目からは、つい先ほどまでの生きようとする輝きが失われていた。
これでは可哀想だ。右手の装備から一本の針が射出され、鎧のなくなった胴に命中した。
「がッ!!??」
「大丈夫ですか? 感覚を強制的に増したので痛覚も何倍かになったでしょうが、我慢してくださいね、男の子でしょう」
意識を失うこともできず、廃人になることもできず、またプレイヤーが1人居なくなった。
今回のイベントの3位、メイプル……凄まじい防御力とスキルの数々でした…………
おや、表彰式ですか……………
噛んでしまって………メイプルは可愛いですね……
実に欲しい………
ご友人の理沙という子は、どんな子なんでしょう
またお会いしたいですね