痛いのは嫌ですか? 出来る限り耐えてくださいね 作:度し難し卿
この方々が、運営を担っているのですか
まるでぬいぐるみみたいですね……
第1回イベントから数日後。暗い洞窟の奥にある広場には何本もの蝋燭が立ち並んでいた。それに取り囲まれるようにして、ぽつんと古ぼけた椅子が置かれていた。儀式か何かだろうか。何も知らない者はこの光景に首を傾げるだろう。
その洞窟から今し方出てきたメイプルは友人の理沙、もといサリーの手を握って歩いていた。友人の怯える様を握った手で感じながら、メイプルは少し申し訳ないと思っていた。
「ごめんね〜。り、サリーが幽霊とかこういうの苦手だってすっかり忘れてたよ」
「いいから! 絶対に離れないでよね!」
周りをオロオロと見回して手どころか腕にしがみつくサリーを見て、少し前の出来事を思い返した。
テストが終了したことでゲームの許可がおりた理沙と共に、楓は最初の街の近辺でレベル上げを行なっていた。
そしてレベルが上がったことでステータスポイントが手に入ったのだが、その寸前で第一回イベントでメイプルが3位になったことを知っていたサリーは、メイプルに強くなるコツを聞いた。
「全部防御力に振ったあっ!?」
痛いのが嫌だからという理由で始めたそれが原因だと知ると、サリーは少し考えたあと自分も同じく極振りしようと決めた。
「でも、あたしまで防御っておかしいじゃない? だから、あたしは絶対に攻撃が当たらないアタッカーって感じで行こうと思うの。守りはメイプルであたしが攻撃、最強のコンビ結成よ!」
そうして意気揚々と始めた俊敏極振りの為のレベル上げだが、単に振り分けるだけで強くなるのなら誰も苦労しない。
スキルの力も必要だと思ったサリーがメイプルに相談をし、メイプルが最近仲良くなったという大盾使いに相談した。
「それだったら、超加速のスキルを得られるクエストがいいんじゃないか? こっから少し遠いところにある洞窟にあるぜ」
その大盾使いがマップに記した場所に行ってみれば、その洞窟の中には人が住んでいたであろう痕跡があった。人の骨らしきものが転がり、怨念が漂っているような場所だ。
幽霊などが苦手だったサリーがメイプルの後ろに隠れて先へ進んだところこそが、蝋燭の並ぶ広場だった。その椅子には男のNPCが縛り付けられていたのだが、その様を可哀想と思ったメイプルが回復薬を使い、サリーも協力して限界まで『ヒール』の魔法を使ったところ、男は昇天。
クエストクリアとみなされ、無事に超加速のスキルを会得した。
「全く1日目だってのに……とんでもなく疲れたわよ」
「あははは………また次やるときは、幽霊絡みじゃないクエストを選ぼうね」
全くよ。そう言って先へ行こうとするサリーの後ろ姿を見て、ふとメイプルは思い出した。
「あっ、そうだ。この間、ある人に勧誘されたんだった!」
「勧誘ね〜、そりゃイベント3位のプレイヤーだから当然か」
後ろに隠れながら歩くサリーに、メイプルは違うと首を振った。
「イベント中に勧誘されたんだよ」
「イベント中って…………あれ、でも誰とも組んでないじゃない。どうして?」
「だ、だって………サリーと一緒に遊ぶって約束してたし……私が勝手に決めちゃ悪いかなって………」
少し照れながら言う友人の姿に、嬉しさがこみ上げてきたサリーは後ろから思い切り抱きついた。
「嬉しいこと言ってくれるじゃん!! それで、その誘ってきたのってどんな人?」
「え〜っとね………」
メイプルは覚えてる限りのボンドルドの特徴を伝えた。最初こそ友人の優しさに嬉々としていたサリーが、仮面の特徴などを聞いてからは笑みも失って、抱きしめていた手を解いて、愕然とメイプルの口から紡がれる言葉を聞いていた。
「ねぇ、楓………」
「ちょっと〜〜、名前を呼ぶのはご法度じゃなかっ」
「聞いて!!」
両肩を強く掴まれて後ろに向き直される。サリーと向かい合う形になって、メイプルはこの時ようやくサリーの表情がわかった。出会ってから今まで見たこともないほどに真剣な顔をしていた。
「ど、どうしたの急に……」
つられて自分の喉からも固い声がでる。サリーが肩を掴んでいる手に力が入るのがわかった。
「その男の誘いには絶対に乗ったらダメ………いいや、その男と話すのも……会うのもダメ!」
「ど、どうしたのサリー……なんだか怖いよ」
鬼気迫る表情に圧倒されているメイプルを見て、冷静さを少しとはいえ取り戻したサリーは、掴んでいた両手をばっと離して謝る。
「ごめん………」
「どうしたのサリー……らしくないよ。なんであの人の勧誘に答えたらダメなの? それに、会うななんて……」
困惑するメイプルの前で、ゆっくりと大きく呼吸をして心を落ち着かせた。
「『
これまで知らなかったという状況下でボンドルドに勧誘されて断ったのは、まさに九死に一生を得た状況だった。そう考えれば幸運だったと良い方へ考えたところで、サリーは何も知らないメイプルに諭すように喋り出した。
「ここ最近このゲーム内で、バグやエラーが起こるのを阻止しているプレイヤーがいるの。その名前が、ボンドルド……メイプルが会ったのはこの男でしょ」
サリーがネットに表示された画像を見せてくれた。森の中で、それもかなり遠くから撮影されたものだけど、特徴的な仮面は見間違うはずがない。あの人だった。
「方法はわからないけど、この男にかかればどんなエラーやバグだろうとたちまち治ってしまう。それどころか、改良して新しいゲーム要素にしちゃうの………人間業とは思えない技術力の高さに、付けられた異名が『
しかし、その技術力の裏にはとてつもない闇が潜んでいると言われている。
その技術力を少しでも自分のものにしたいと、幾人ものプレイヤーがボンドルドに会おうと探しに行った。
その中で、ボンドルドを見つけたであろうプレイヤーの友人がネットに書き込みをしたのだ。
《ある日を境に、友達の様子が変わりました。これまで内向的だったのに急に人が変わったように何事にも取り組むようになって、運動神経も良くない方だったのに、突然柔道部に入部したと思えばみんな『のして』しまいました》
当然、ただのホラ話と言われていた。だが、そんな書き込みが20を超えた辺りで事件が起こった。
「過労……死……?」
「そう。たぶん最初に変わったって人が急に倒れたらしいの……しかもその人だけじゃなく、様子が変わったって人は次々と倒れていった」
「そんなのって! それじゃまるでボンドルドさんが………」
「そうだよ………ボンドルドに『何か』されたんだ………! 証拠も確証もなかったけど、メイプルが勧誘されたって話を聞いて『確信』した。ボンドルドは関わっちゃいけないやつなんだ」
わかってくれた? その問いかけは不要だった。
両肩をすくめて、守るように身体を抱きしめているメイプルの姿を見れば、理解したかどうかなど愚問だった。
危機感を抱いてくれたという安堵とは別に、ここまで怯えさせてしまったことへの罪悪感に苛まれた。
目の前の小動物のように震えるメイプルを抱きしめる。先程のような照れ隠しのものではなく、不安や恐怖を和らげるように優しく腕を回した。
コースケ君も終わってしまいましたか………
将来の夢はお医者さんだったのに……
しかし、あなたたちの犠牲は決して無駄にしません………
その輝きは夜明けをより一層素晴らしいものにしてくれるでしょう………
メイプルのお友達ですか?
おやおや、かけっこが大好きなんですね