痛いのは嫌ですか? 出来る限り耐えてくださいね 作:度し難し卿
いいものとそれほどじゃないものがあれば、いいものを使いたくなる。
ただそれだけです。
一面の銀世界。その言葉は見渡す限り雪に覆われた幻想的な世界を意味している。雪に太陽の光が反射することで光り輝く大地と化す。雑音を雪が吸い取り、しんしんと音が聞こえてくるような気もさせる。
しかしこれら全てが
「これはこれは……」
その美しい雪原を前に、ボンドルドが呟いた。新しい層が出現してすぐに部下の
通信機越しに聞いた
雪を踏み締めると足跡が残り、手に持てば体温で少しずつ溶けていく。溶けかけた雪を握りしめれば、凝固して氷のような塊になる。
ポタポタと滴り落ちる水からは、全く温度が感じられなかった。濡れた手をハンカチで拭いながら、落胆の目を向けた。
冷たい、寒いといった感覚がない。
「はて……これもバグでしょうか。雪とは冷たく、これほどの雪原の中は寒いのが常識なのですが」
新しく追加されたばかりの層だから、まだ完全ではないところも多いんだろう。
しかし、寒さとは時に命を脅かす。それを考慮して付けてないのだとしたら、それは大きな間違いだった。
あくまでここはゲームの世界。現実ではあり得ないアイテムやステータスなどが存在してるのだから、遭難する可能性は低いだろう。
「そういえば、凍死の実験はできていませんでしたね……これは良い層が現れてくれたのかもしれません」
現実の雪山は、過酷すぎる環境と立地条件の悪さから基地の作成を断念していた、しかし、そこへ現れたのがこの雪山だ。
「製作者の方々には申し訳ありませんが、多少の手を加えさせていただきましょう」
どこを変えようかと歩き回っていたボンドルドは、遠巻きに、一組のパーティーが光の中へ消えていく様子を見た。あれは褒美アイテムのある場所へのワープの光だ。
「おや?」
しかし1分もしないうちに、ワープポイントが輝きを取り戻した。明らかに異常な速さだ。寒さを付け加える前に、そこも直すべきかを確認しなくては。
「おやおや……まさか」
まだ気が付いていないんだろう。異質な雪原の中で、目の前の光るワープポイントへ進む二人組を見つけたボンドルドは、仮面の下で喜びを表していた。
「きっと彼女なら今回の実験だけじゃなく、まだ見ぬその先への道も拓いてくれるでしょう……こんなにすぐ会えるなんて、運命を感じずにはいられませんね」
勇気を出して、気合を入れて、メイプルとサリーは光の中へと消えていった。そしてその二人組を追うように、ボンドルドもまた、そこへ足を踏み入れた。
しかし、そのワープポイントは先程のように輝いていなかった。それもそうだった。このワープポイントはあくまで罠。無用心に入ったパーティーを、その先に待ち構える悪質な強さのエネミーが一瞬で屠るというものだったからだ。
もし次から次に入ることができるなら、援軍が追加され続ければいくら運営が作った悪質な強さといえどエネミーは狩られるだろう。
「なるほど……制限付きなのですね」
今回のように、先へ進めないようになっている扉などはいくつもあった。そのたびに何度も上書きや裏道を使って進んできた。
「時間がありません。ここで彼女を見失っては、またいつ会えるかわかりませんからね。
多少、強引な手を使わせていただきます」
ボンドルドが片腕を曲げて、肘を足元へ向けた。瞬間、膨大な熱が発生して辺りの雪が瞬く間に蒸発した。理を書き換えるほどの情報量の多さに、ゲーム内の処理速度が落ちそうになる。
腕の光が、一際増した。
「