はじまりの罪を背負う者達は…魔王達と共にあり 作:五月雨☆。.:*・゜
次の日、谷口鈴は、暗く沈んだ表情で未だに眠る八重樫雫を見つめていた。
鈴は、王国に帰って来てからのことを思い出し、雫に早く目覚めて欲しいと思いながらも、同時に眠ったままで良かったとも思っていた。
帰還を果たし香織おハジメと楓の死亡が伝えられた時、王国側の人間は誰も彼もが愕然としたものの、それが無能のハジメと魔力以外の力量がErrorの楓だと知ると安堵の吐息を漏らしたのだ。
国王やイシュタルですら同じだった。
強力な力を持った勇者一行が迷宮で死ぬこと等あってはならないこと。迷宮から生還できない者が魔人族に勝てるのかと不安が広がっては困るのだ。
神の使徒たる勇者一行は無敵でなければならないのだから。
楓とハジメがベヒモスとやり合えるだけの力を持っていた。
だが、国王やイシュタルはまだ分別のある方だっただろう。
中には悪し様にハジメを罵る者おり、死人に鞭打つ行為に憤激に駆られたが、その前に正義感の強い光輝が怒り、勇者に王国や教会に悪印象を持たれるのはまずいと言う判断で二人を罵った者達は処分を受けたが…。
だが、それが原因で光輝は無能にも心を砕く優しい勇者であると噂が広まり、結局、光輝の株が上がっただけで、香織以外の二人が勇者の手を煩わせただけの無能であるという評価は覆らなかった。
「シズシズ……。このこと、シズシズが知ったら怒るんだろうね」
そして、現在に戻り、鈴は目の前で未だに眠る雫の手を取り、そう呟いた。雫と楓がそこそこ仲良かったことを鈴は知っていた。
楓だけではないハジメともだ。
ただでさえ親友の香織と仲のいいハジメと楓が奈落に落ちてショックを受けているのに、そしかも、それを幼馴染みの光輝が賛同したこと。
それは雫に追い討ちをかけることになる。
医者の診断では、体に異常はなく、おそらく精神的ショックから心を守るため防衛措置として雫は深い眠りについているのだろうということだった。故に、時が経てば自然と目を覚ますと…。
「!?シズシズ!聞こえる!?シズシズ!」
鈴が必死に呼びかける。
すると、閉じられた雫の目蓋がふるふると震え始めた。
それを見て鈴は更に呼びかけた。その声に反応してか雫の手がギュッと鈴の手を握り返した。
そして、雫はゆっくりと目を覚ました。
「シズシズ!」
「……鈴?」
ベッドに身を乗り出し、目の端に涙を浮かべながら雫を見下ろす鈴。
雫は、しばらくボーと焦点の合わない瞳で周囲を見渡していたのだが、やがて頭が活動を始めたのか見下ろす鈴に焦点を合わせ、名前を呼んだ。
「うんうん。そうだよ!鈴だよ!シズシズ、体はどう?違和感はない?」
「え、えぇ。平気よ。ちょっと怠いけど……寝てたからだろうし……」
「そうだね、もう5日も眠っていたんだし……怠くもなるよ」
そうやって体を起こそうとする雫を補助し苦笑いしながら、どれくらい眠っていたのかを伝える鈴。
「5日?そんなに……どうして……私、確か迷宮に行って……それで……」
徐々に焦点が合わなくなっていく目を見て、マズイと感じた鈴が咄嗟に話を逸らそうとする。
しかし、雫が記憶を取り戻す方が早かった。
「それで……あ…………………………香織と南雲君と闇野君は?」
「ッ……それは……」
苦しげな表情でどう伝えるべきか悩む鈴。
そんな鈴の様子で自分の記憶にある悲劇が現実であったことを悟る。
だが、いくら普段は冷静な雫でも、そんな現実を容易に受け入れられるほどできていない。
「……嘘よ、ね。そうでしょ?鈴。私が気絶した後、2人とも助かったんだよね?ね?そうでしょ?ここ、王宮の部屋よね?皆で帰ってきたんでしょ?香織は……南雲君と闇野君のところにいそうね。南雲君は……図書館かしら?図書館にいるよね?うん……私、ちょっと行ってくるわ。南雲君にはあの怪物を押さえてくれていたお礼言わなくちゃいけないし。香織には無茶したことを叱らなくちゃいけないし……だから、離して?鈴」
現実逃避するように次から次へと言葉を紡ぎ楓とハジメと香織を探しに行こうとする雫。そんな雫の腕を掴み離そうとしない鈴。
鈴は悲痛な表情を浮かべながら、それでも決然と鈴を見つめる。
「……シズシズ。わかっているんだよね?……此処に3人はいないよ」
「やめて……」
「シズシズの覚えている通りだよ」
「やめてよ……」
「3人は、カオリンと南雲君と闇野君は……」
「いや……、やめてよ……やめてったら!」
「シズシズ!3人は死んだんだよ!」
「違う!死んでなんかない!絶対、そんなことない!どうして、そんな酷いこと言うのよ!いくら鈴でも許さないわよ!」
イヤイヤと首を振りながら、どうにか鈴の拘束から逃れようと暴れる雫。
鈴は絶対離してなるものかと雫の体にのしかかり、キツく抱き締める。ギュッと抱き締め、凍える雫の心を温めようとする。
「離して!離してよ!3人を探しに行かなきゃ!香織が困ったときはいつも私が助けていたし!今回も!南雲君と闇野君と一緒に助けなくちゃ!お願いだからぁ……絶対、生きてるんだからぁ……離してよぉ……」
いつしか雫は「離して」と叫びながら鈴の肩に顔を埋め泣きじゃくっていた。
縋り付くようにしがみつき、喉を枯らさんばかりに大声を上げて泣く。鈴は、ただただひたすらに普段は見せない姿を晒す友人を抱き締め続けた。
そうすることで、少しでも傷ついた心が痛みを和らげますようにと願って…。
どれくらいそうしていたのか、窓から見える明るかった空は夕日に照らされ赤く染まっていた。
鈴が、心配そうに雫を伺った。
「シズシズ……」
「……鈴……香織は……南雲君……闇野君……は落ちたのね……此処にはいないのね……」
囁くような、今にも消え入りそうな声で雫が呟く。
これ以上、大切な友人が傷つくのは見ていられない。
「うん。そうだよ」
「あの時、南雲君と闇野君に皆の魔法が当たりそうになってたわ……誰なの?」
「……ごめん、わからないの。誰も、あの時のことには触れないようにしてるの。怖いんだよ。もし、自分だったらって……」
「そう……」
「やっぱり、恨んでる?」
「……わからないわ。でも、もし誰かわかったら……きっと恨むと思う。だから……分からないなら……その方がいいと思うわ。きっと、私、我慢できないと思うから……」
「そっか……」
俯いたままポツリポツリと会話する雫。
やがて、真っ赤になった目をゴシゴシと拭いながら顔を上げ、鈴を見つめる。
「鈴、私、信じないわ。3人は生きてる。死んだなんて信じないわ」
「シズシズ、それは……」
雫の言葉に再び悲痛そうな表情で諭そうとする鈴。
しかし、雫は両手で鈴の両頬を包むと、微笑みながら言葉を紡ぐ。
「わかってるわ。あそこに落ちて生きていると思う方がおかしいってことぐらい。……でもね、確認したわけじゃないわ。可能性は1パーセントより低いけど、確認していないならゼロじゃない。……私は信じたいのよ」
「シズシズ……」
「私、もっと強くなるわ。それで、あんな状況でも今度こそ守れるくらい強くなって、自分の目で確かめる。香織のことを。南雲君のことを。闇野君のことを。」
鈴はじっと自分を見つめる雫に目を合わせ見つめ返した。
雫の目には狂気や現実逃避の色は見えない。
ただ純粋に己が納得するまで諦めないという意志が宿っている。
その時、不意に部屋の扉が開けられる。
「鈴!雫は目覚めたか!?」
「おう、雫はどう……だ……?」
光輝と龍太郎だ。
雫の様子を見に来たのだろう。
訓練着のまま来たようで、あちこち薄汚れている。
雫が目を覚ましているところを見て、光輝はホッとしたが、龍太郎は、目覚めたことにもちろん安堵しているが同時に違和感を感じた。
雫の目がまるで自分たち、いや光輝を睨んでいるように見えたのだ。
「もう!乙女の部屋にノックも無しに入るとか、デリカシー無さすぎ!」
そこで、鈴が如何にも怒ってます光輝と龍太郎の側に駆け寄った。
「そ、それはすまなかった。ところで雫は大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないよ!たった今、起きたばかりで混乱しているんだから!ほら!出ていった出ていった!」
「え?あ、いや。幼馴染みの俺と龍太郎が側にいたほうがいいんじゃないのか?」
「もう!何言ってるの!?」
鈴としては、龍太郎はともかく、光輝を今すぐ雫から離したかった。
たった今、3人についての話をしたばかりだ。
このままだと精神が不安定な雫が何しでかすのか、わからなかった。
しかし、光輝にそのことを説明しても当然納得してくれるはずもないため、あれこれ理由をつけて、追い出そうとしたが、光輝も光輝であれこれ理由をつけてこの場に残ろうとしていた。
このままじゃ埒が明かないと思い、鈴は龍太郎に手招きして、耳打ちをした。
「お願い。今すぐ、光輝君連れて出ていってくれない?たった今、3人のこと話したばかりなの」
「あぁ……。そういうことか……。それは最悪のタイミングに来ちまったな……」
鈴の言葉に納得した龍太郎は光輝の腕をガシッと掴んだ。
「ほら。出ていくぞ、光輝」
「龍太郎!?何言っているんだ!雫の側に居てやらなくちゃ!」
「それは鈴がやってくれんだろ」
「だが、俺たちのほうが!」
「幼馴染みよりも女同士のほうが話しやすいんだって」
「だが!」
「ほら、いいから。とっとと行くぞ。じゃあな、雫、鈴」
そう言って、龍太郎は光輝の言葉を無視して無理矢理連れて出ていった。
それを確認すると、鈴は雫の元に駆け寄った。
「シズシズ、大丈夫?」
「えぇ……。ありがとうね……。正直、今は光輝と話をしたくなかったから、助かったわ」
そう言いながら、悲痛そうな表情をする雫。
次回は、奈落に落ちた楓くんの話から書こうと思います。
しばらくはハジメと香織はで出来ませんのでご了承下さい。
闇野楓君の追加して欲しい技能
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夜目
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バッドステータスを受け付けない(呪い等)
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戦い度に少しずつ攻撃力が上がる
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闇の憤怒、掌に赤黒い炎で全て灰にする力