はじまりの罪を背負う者達は…魔王達と共にあり 作:五月雨☆。.:*・゜
両手で顔を庇い、目をギュッと閉じていたハジメは、ざわざわと騒ぐ無数の気配を感じてゆっくりと目を開いた。そして、周囲を呆然と見渡した。
まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。
縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。
背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。
「(まるで…白の王国のようだ…しかし…)」
ハジメと同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がいた。
どうやら、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれてしまったようである。
そして、ハジメは楓が向いている視線の先……おそらくこの状況を説明できるであろう台座の周囲を取り囲む者達への観察に移った。
その内の一人、法衣集団の中でも特に豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ30センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子のような物を被っている70代くらいの老人が進み出てきた。
もっとも、老人と表現するには纏う覇気が強すぎる。
そんな彼は手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音で楓達に話しかけた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。
「……(でも、この世界からアイリスの気配がする…)」
現在、ハジメ達は場所を移り、10メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。
此処に案内されるまで、誰も大して騒がなかったのは未だ現実に認識が追いついていないからだろう。
イシュタルが事情を説明すると告げたことや、カリスマレベルMAXの天之河光輝が落ち着かせたことも理由だろう…。
そして、全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そう言って始めたイシュタルの話は実にファンタジーでテンプレで、どうしようもないくらい勝手なものだった。
要約するとこうだ。
まず、この世界はトータスと呼ばれている。そして、トータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族である。
人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。
この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。
魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。
戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。
それが、魔人族による魔物の使役だ。
「(やはり、どの世界でも戦争はあるのか…平和な世界は作ることは出来ないのか…彼女の望みを…)」
魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ。
それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのことだ。
これの意味するところは、人間族側の"数"というアドバンテージが崩れたということ。
つまり、人間族は滅びの危機を迎えているのだ。
「あなた方を召喚したのは"エヒト様"です。
我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。
おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。
このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。
あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。
召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という"救い"を送る。
あなた方には是非その力を発揮し、"エヒト様"の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべている。
おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。
イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。
すると、突然立ち上がり猛然と抗議する人が現れた。
それは畑山愛子先生だった。
「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
ぷりぷりと怒る畑山愛子先生。彼女は今年25歳になる社会科の教師で非常に人気がある。
150センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくない。
しかし、イシュタルの言葉に凍りついた。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
場に静寂が満ちる。
重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。
誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!?喚べたのなら帰せるでしょう!?」
「先程言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「そ、そんな……」
畑山愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とした。
そして、同時に周りの生徒たちも口々に騒ぎ始めた。
「うそだろ…?帰れないってなんだよ!」
「いやよ!なんでもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
パニックになる生徒達。
そんな生徒たちを見て、楓は隣のハジメに話しかけた。
「ハジメ、大丈夫か?」
「う、うん。僕はこの手のラノベを何度も読んだことあるし、楓と一緒に過ごしたことで身についた神経の図太さがあるからね。」
「そうか(異世界の住人が余所の世界の崇めている神のことを聞いて、『はい、そうですか』って言う訳ない)」
楓は、イシュタルの考えていることに想像がついて、内心で毒を吐いていた。
未だパニックが収まらない中、天之河光輝が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。
その音にビクッとなり注目する生徒達。
天之河光輝は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。
彼にだってどうしようもないんだ。
……俺は、俺は戦おうと思う。
この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。
それを知って、放っておくなんて俺にはできない。
それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん?どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
ギュッと握り拳を作りそう宣言する天之河光輝。
同時に、彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。
絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。
天之河光輝を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前1人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
「雫……」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
いつものメンバーが天之河光輝に賛同する。
後は当然の流れというようにクラスメイト達が賛同していく。
畑山愛子先生はオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えているが天之河光輝の作った流れの前では無力だった。
正直、ハジメもこの状況に不安を抱いていた。
しかし、自分なんかが言ったところで黙ってろと言われるのがオチなため、口をつぐむことしかできなかった。
そんなとき、楓の口から静かだがはっきりした声が辺りに響いた。
「悪いが俺は、この戦争に参加するのは反対だ」
楓の言葉に周りは静かになった。
天之河光輝には確かにカリスマがあった。
だが、それはこのクラスに対して発揮していないだけであって、楓にもそれ以上のものを兼ね備えていた。
なんたって、楓は前世で闇の王の後継者であり多くの犠牲を出して彼女と共に大崩壊を起こしたのだ。
「そもそも、この戦争はこの世界の住人の問題だろ。なぜ、余所者の俺達が命をかけて、お前らの尻拭いをしなければいけないんだ」
楓の言葉を聞いて、天之河光輝がガタンと立ち上がった。
「闇野…。君はこの世界の人たちがどうなってもいいと言うのか!?」
「天之河光輝。俺は無関係な人間を巻き込まずに自分たちで決着をつけろって言っているんだ」
「だけど、俺たちは選ばれたんだ!そして、彼らは助けを求めているんだぞ!助けるのは当然じゃないのか!?」
天之河光輝の言葉に楓はため息をついて、視線は天之河光輝に、だがこの場にいる全員に向けて、言った。
「お前らは、根本的に理解していないんだよ。
戦争ってものをな。
戦争ってのは、いわば、集団の殺し合い合戦。
俺たちはそれに参戦しろって言われたんだ。お前らには、自分たちの手を敵の血で汚す覚悟はあるのか?俺のように…(ボソッ」
自分の右手をヒラヒラさせながら言った楓の言葉に生徒たちは顔を青ざめた。
目から逸らしていた現実に向き合わせられたみたいだ。
そんな生徒たちの態度に楓は「甘過ぎるんだよ」と呆れていた。
ちなみに楓なら即答で覚悟があると答える。
前世で戦争を経験したことのある楓にとっては今更な話だからだ。
ただ、自分と彼女に無関係な戦いに関わりたくないだけだ。
「それに選ばれたとか、力を手に入れたとか、そんなもの戦争で絶対に死なない保証にはならない。死ぬときはあっさり死ぬんだ。」
楓の言葉に生徒たちは自分たちが死ぬかもしれないという事実にさらに青ざめた。
「さらに付け加えるなら、自分の身に有り余る力を手に入れた奴はオモチャを与えられた子供のようにはしゃぐ。そして、その力に溺れて、周りや自分を傷つけるのがオチだからな」
「そ、そんなことない!」
楓がそう言うと、天之河光輝が叫んだ。
「俺たちは決して、力に呑まれたりなんかしない!仮にそうなったとしても、皆がいれば乗り越えることができる!」
天之河光輝がそこで話を区切ると周りの皆に呼び掛けるように話した。
「大丈夫だ、皆!俺たちは1人じゃない!皆が力を合わせば、決して負けない!そして、俺が皆を死なせない!」
そんな感じで天之河光輝の長い演説が始まって、結局、全員、現実から目を背けながらも戦争に参加することになってしまった。
楓も「これは、口でいくら言っても無駄だな…」と諦めていた。
おそらく、イシュタルは見抜いていたのだろう。
この集団の中で誰が一番影響力を持っているのか。
そして、楓が口を挟んだとき、イシュタルは「余計なことを」と言わんばかりに顔をしかめて、楓を睨んでいた。
世界的宗教のトップなら当然なのだろうが、油断ならない人物だと、ハジメは頭の中の要注意人物のリストにイシュタルを加えるのだった。
楓に関してはもうイシュタルのことを、そして、自分たちを召喚したエヒトのことを99%信用していなかったのだった。
闇野楓君の追加して欲しい技能
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夜目
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バッドステータスを受け付けない(呪い等)
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戦い度に少しずつ攻撃力が上がる
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闇の憤怒、掌に赤黒い炎で全て灰にする力