はじまりの罪を背負う者達は…魔王達と共にあり   作:五月雨☆。.:*・゜

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闇の王子と錬成師

橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は1メートル位の大きさだが、その数がおびただしい。

 

 

小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物"トラウムソルジャー"が溢れるように出現した。

空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。

その数は、既に100体近くに上っており、尚、増え続けているようだ。

 

 

メルドが呟いた"ベヒモス"という魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。

 

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

 

「ッ!?」

 

 

その咆哮で正気に戻ったのか、メルドが矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

 

「アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイル!全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 

 

「待って下さい、メルドさん!俺達もやります!あの恐竜みたいなヤツが1番ヤバイでしょう!俺達も……」

 

 

「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ!ヤツは65階層の魔物。かつて、"最強"と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ!さっさと行け!私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

 

メルドの鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる天之河光輝。

 

 

それを見て、楓は舌打ちした。

天之河輝夜にはメルドの考えがわかった。

メルドたちが時間稼ぎをしている間に天之河光輝がトラウムソルジャーを撃破して、逃げ道を作り、それと同時に撤退するというものだろう。

 

 

それが一番、全員生存の確率が高い方法だと楓も同じように考えていた。

しかし、天之河光輝は思い込みと勘違いでその場から動こうとしない。

 

 

どうにか撤退させようと、再度メルドが天之河光輝に話そうとした瞬

間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。

このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。

そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

 

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――"聖絶"!!」」」

 

 

2メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに3人同時発動。

1回っきり1分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。

純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ。

後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は半ばパニック状態だ。

 

 

隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。

騎士団員の1人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。

 

 

その内、1人の女子生徒、園部優花が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。

「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

 

 

「いやぁ!!」

 

 

そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。

死ぬ――優花がそう感じた次の瞬間、トラウムソルジャーの剣を持っている腕が吹っ飛んだ。

剣を持ったトラウムソルジャーの腕は彼女から逸れてカンッという音と共に地面を叩くに終わる。

さらにそのトラウムソルジャーはある人物の剣撃で切り伏せられた。

 

 

「大丈夫?園部さん」

 

 

それは楓だった。

楓は全員生存のためには早くトラウムソルジャーを片付けるべきだと思って、こちら側に来たようだ。

楓は片手の"真・ダークドミネイター"を地面に突き刺し、優花に手を差し伸べた。

 

 

「う、うん……。ありがとう」

 

 

優花は差し出された手を掴んで立ち上がった。

楓は突き刺した"真・ダークドミネイター"を拾って、他のトラウムソルジャーの討伐に向かった。

そんな楓の姿に優花は呆然としながらもトラウムソルジャーの討伐に向かった。

しかし、優花は1つだけ、疑問に思ったことがあった。

 

 

「(闇野……、あんなネックレスしてたっけ?)」

 

 

自分に差し出された時に漆黒の宝石、オキニスらしきネックレスをしていたことに優花は不思議に思っていたのだった。

 

 

誰も彼もがパニックになりながら滅茶苦茶に武器や魔法を振り回している。このままでは、いずれ死者が出る可能性が高い。騎士アランが必死に纏めようとしているが上手くいっていない。輝夜だけは冷静に確実に対処しているが、そうしている間にも魔法陣から続々と増援が送られてくる。

 

「なんとかしないと……必要なのは……強力なリーダー……道を切り開く火力……天之河くん!」

 

そう考えたハジメは走り出した。

光輝達のいるベヒモスの方へ向かってベヒモスは依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。

 

 

障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。

障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルドも障壁の展開に加わっているが焼け石に水だった。

 

 

「ええい、くそ!もうもたんぞ!光輝、早く撤退しろ!お前達も早く行け!」

 

 

「嫌です!メルドさん達を置いていくわけには行きません!絶対、皆で生き残るんです!」

 

 

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

 

メルドは苦虫を噛み潰したような表情になる。

この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。

それ故、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。

しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の光輝達には難しい注文だ。

 

 

その辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているのだが、光輝は"置いていく"ということがどうしても納得できないらしく、また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。

まだ、若いから仕方ないとは言え、少し自分の力を過信してしまっているようである。

戦闘素人の光輝達に自信を持たせようと、まずは褒めて伸ばす方針が裏目に出たようだ。

 

 

「光輝!団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

 

雫は状況がわかっているようで天之河光輝を諌めようと腕を掴む。

 

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ?付き合うぜ、光輝!」

 

 

「龍太郎……ありがとな」

 

 

しかし、龍太郎の言葉に更にやる気を見せる光輝。

それに雫は舌打ちする。

 

 

「状況に酔ってんじゃないわよ!この馬鹿ども!」

 

 

「雫ちゃん……」

 

 

苛立つ雫に心配そうな香織。

その時、一人の男子が光輝の前に飛び込んできた。

 

 

「天之河くん!」

 

 

「なっ、南雲!?」

 

 

「南雲くん!?」

 

 

驚く一同にハジメは必死の形相でまくし立てる。

 

 

「早く撤退を!皆のところに!君がいないと!早く!」

 

 

「いきなりなんだ?それより、なんでこんな所にいるんだ!ここは君がいていい場所じゃない!ここは俺達に任せて南雲は……」

 

 

「そんなこと言っている場合かっ!」

 

 

ハジメを言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした光輝の言葉を遮って、ハジメは今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。

いつも苦笑いしながら物事を流す大人しいイメージとのギャップに思わず硬直する天之河光輝。

 

 

「あれが見えないの!?みんなパニックになってる!リーダーがいないからだ!」

 

 

光輝の胸ぐらを掴みながら指を差すハジメ。

その方向にはトラウムソルジャーに囲まれ右往左往しているクラスメイト達がいた。

訓練のことなど頭から抜け落ちたように誰も彼もが好き勝手に戦っている。

効率的に倒せていないから敵の増援により未だ突破できないでいた。

スペックの高さが命を守っているが、それも時間の問題だろう。

 

 

「一撃で切り抜ける力が必要なんだ!皆の恐怖を吹き飛ばす力が!それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ!前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」

 

 

呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る光輝は、ぶんぶんと頭を振るとハジメに頷いた。

 

 

「ああ、わかった。直ぐに行く!メルド団長!すいませ――」

 

 

「下がれぇーー!」

 

 

"すいません、先に撤退します"そう言おうとしてメルドを振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。

暴風のように荒れ狂う衝撃波がハジメ達を襲う。

咄嗟に、ハジメが前に出て錬成により石壁を作り出すがあっさり砕かれ吹き飛ばされる。多少は威力を殺せたようだが……舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた。

 

 

「香織はメルドさん達の治癒を!」

 

 

「うん!」

 

 

天之河光輝の指示で香織が走り出す。

ハジメは既に団長達のもとだ。戦いの余波が届かないよう石壁を作り出している。

天之河光輝は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。

 

 

「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!神の息吹よ!全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!神の慈悲よ!この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――"神威"!」

 

 

詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。

先の天翔閃と同系統だが威力が段違いだ。

橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと直進する。

 

 

龍太郎と雫は、詠唱の終わりと同時に既に離脱している。

ギリギリだったようで二人共ボロボロだ。

この短い時間だけで相当ダメージを受けたようだ。

放たれた光属性の砲撃は、轟音と共にベヒモスに直撃した。

光が辺りを満たし白く塗りつぶす。

激震する橋に大きく亀裂が入っていく。

 

 

「これなら……はぁはぁ」

 

 

「はぁはぁ、流石にやったよな?」

 

 

「だといいけど……」

 

 

龍太郎と雫が光輝の傍に戻ってくる。

天之河光輝は莫大な魔力を使用したようで肩で息をしている。

先ほどの攻撃は文字通り、光輝の切り札だ。

残存魔力のほとんどが持っていかれた。

背後では、治療が終わったのか、メルドが起き上がろうとしている。

そんな中、徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われる。

その先には……無傷のベヒモスがいた。

 

 

低い唸り声を上げ、天之河光輝を射殺さんばかりに睨んでいる。

思ったら、直後、スッと頭を掲げた。

頭の角がキィーーーという甲高い音を立てながら赤熱化していく。

そして、遂に頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎった。

 

 

「ボケッとするな!逃げろ!」

 

 

メルドの叫びに、ようやく無傷というショックから正気に戻った光輝達が身構えた瞬間、ベヒモスが突進を始める。

そして、光輝達のかなり手前で跳躍しようとした。

このまま赤熱化した頭部が下に向けて隕石のように落下してくる。

誰もが、そう思ったときだった。

 

 

ズボッ!!

 

 

「グウゥアァァーー!?」

 

 

「!?」

 

 

急にベヒモスの右の前足を踏み外したのか、転倒したのだ。それによる風圧がハジメたちに襲いかかったが、大したことはなかった。

 

 

「なぜ、いきなり転倒したんだ?」

 

 

光輝は先程のベヒモスに転倒したのか、疑問に感じた。てっきり、石橋を踏み抜いたと思われたがベヒモスの足元には穴など存在していなかった。

 

 

「(今、あの怪物の足元……黒い魔法陣が……)」

 

 

「…グランドエクリプス…」

 

 

そう、楓が魔法を唱えベヒモスの足元に重力を乗せて転倒させてハジメはメルド団長の元へ。

 

 

「……やれるんだな?」

 

 

「やります」

 

 

決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくる南雲に、メルド団長は「くっ」と笑みを浮かべる。

 

 

「まさか、お前さんに命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

 

 

「はい!」

 

 

その直後、最後の障壁が突破された。

そのまま赤熱化した兜は石畳の中にめり込んでしまう。

 

 

「錬成!!」

 

 

石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。

周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、南雲が錬成して直してしまうからだ。

 

 

ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。

ずぶりと一メートル以上沈み込む。

更にダメ押しと、南雲は、その埋まった足元を錬成して固める。

 

 

ベヒモスのパワーは凄まじく、油断すると直ぐ周囲の石畳に亀裂が入り抜け出そうとするが、その度に錬成を直して抜け出すことを許さない。ベヒモスは頭部を地面に埋めたままもがいている。中々に間抜けな格好だ。

 

 

その間に、メルドは回復した騎士団員と白崎を呼び集め、天之河達と共に離脱しようとする。

トラウムソルジャーの方は、どうやら幾人かの生徒が冷静さを取り戻したようで、周囲に声を掛け連携を取って対応し始めているようだ。

 

 

「待って下さい! まだ、南雲くんが!!」

 

 

撤退を促す団長に白崎が猛抗議した。

 

 

「坊主の作戦だ!ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら魔法で一斉攻撃を開始する!もちろん坊主がある程度離脱してからだ!魔法で足止めしている間に坊主が帰還したら、上階に撤退だ!」

 

 

「なら私も残ります!」

 

 

「ダメだ!撤退しながら、香織には怪我したヤツらを治癒してもらわにゃならん!」

 

 

「でも!」

 

 

なお、言い募る白崎にメルド団長の怒鳴り声が叩きつけられる。

 

 

「坊主の思いを無駄にする気か!」

 

 

「ッ――」

 

 

ベヒモスを足止めするには火力不足に陥るかもしれない。

そんな事態を避けるには、白崎が移動しながら生徒達をを回復させる必要があるのだ。

ベヒモスは南雲の魔力が尽きて錬成ができなくなった時点で動き出す。

 

 

「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――"天恵"」

 

 

白崎は泣きそうな顔で、それでもしっかりと詠唱を紡ぐ。

淡い光が皆を包む。体の傷と同時に魔力をも回復させる治癒魔法だ。

 

 

団長は、白崎の肩をグッと掴み頷く。

彼女も頷き、もう一度、必死の形相で錬成を続ける南雲を振り返った。そして、団長と、騎士団員達と共に撤退を開始した。

しかしトラウムソルジャーは依然増加を続けていた。

既にその数は二百体はいるだろう。

階段側へと続く橋を埋め尽くしている。

だが、ある意味それでよかったのかもしれない。

もし、もっと隙間だらけだったなら、突貫した生徒が包囲され惨殺されていただろう。

実際、最初の百体くらいの時に、それで窮地に陥っていた生徒は結構な数いたのだ。

 

 

それでも、未だ死人が出ていないのは、ひとえに騎士団員達のおかげだろう。

彼等の必死のカバーが生徒達を生かしていたといっても過言ではない。代償に、既に彼等は満身創痍だったが。

しかし白崎のおかげで全員が元気を取り戻した。

攻撃は一気にトラウムソルジャーを減らしていく。

 

 

「(まったく、無茶しやがるな。ハジメ)」

 

 

トラウムソルジャーを屠っていた楓が内心で呆れていた。

実は、楓はベヒモスが出てきた時点で服の中に隠していたネックレスを付けてそれを使い、トラウムソルジャーを屠りながらもベヒモスのほうに気を配っていたのだ。

 

 

ベヒモスが転倒したのも、楓がスキル、グランドエクリプスを使用したからだ。

そして、ハジメが思い付いた作戦の内容もメルドに話しているときに盗み聞きしていたのだ。

 

 

「(ハジメがとっとと、撤退させるためにも、この骨共を片付けるか)ルナティックアサルト!!」

 

 

そう呟くと斬る、蹴る、殴る、そう言った行程を楓はトラウムソルジャーの大群の僅かな隙間を通り抜ける一瞬で行った。

 

 

しかし、それでも確実にトラウムソルジャーを屠り、追い詰められていた生徒たちを助けていた。

生徒たちは何が起きたのか、わかっていなかった。

楓が通り過ぎるといつの間にか、トラウムソルジャーが斬られたり、砕けたり、吹き飛ばされていたのだ。

 

 

「――"天翔閃"!」

 

 

純白の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。

橋の両側にいたソルジャー達も押し出されて奈落へと落ちていく。

斬撃の後は、直ぐに雪崩れ込むように集まったトラウムソルジャー達で埋まってしまったが、生徒達は確かに、一瞬空いた隙間から上階へと続く階段を見た。

 

 

「皆!行くぞ!!道は俺が切り開く!」

 

 

そんなセリフと共に、再び"天翔閃"が敵を切り裂いていく。天之河が放った攻撃によって自体は加速する。

相変わらず痛いセリフだが、それでも今は必要だろう。

 

 

「お前達!今まで何をやってきた!?、訓練を思い出せ!さっさと連携をとらんか馬鹿者共が!」

 

 

皆の頼れる団長が"天翔閃"に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒す。その喝が生徒達をさらに元気づけていく。

そのまま生徒達の勢いで、ついに階段を確保する。

 

 

「坊主!あとはお前だけだ!!」

 

 

団長の必死の叫びは、果たして届いたのだろうか。

魔力が空になったのだろう、ハジメはこちらへと走り出す。

 

 

「魔法、放て!ベヒモスを足止めするんだ!」

 

 

その団長の声に、魔法組や魔法使える奴らはまとめてベヒモスへ魔法を放った。

発動速度は人それぞれのため、いくつもの魔法の軌跡がハジメの頭上を通過する。

誰もが行けると確信した、その時だ。

 

 

「っ!?.........おいおい嘘だろ!?」

 

 

魔法のうちの一個の火球が突如として軌道を変え、ハジメへと突き刺さった。

完全に予測できていなかったのだろう、ハジメの顔は驚愕に満ちていた。

咄嗟に走る方向を変えて避けようとしたハジメのすぐ側に、その火球は突き刺さった。

着弾の衝撃波をモロに浴びたハジメは横に吹っ飛ばされて、石橋の外に投げ出された。

 

 

「(ああ、ダメだ……)」

 

 

空中に放り出されたハジメはそう考えながらも、思わず手を伸ばした。この状況で誰も掴んでくれる筈無いのにと自嘲しながら……ガシッ!

 

 

「……え?」

 

 

しかし、そのハジメの伸ばした手を何者かが掴んでくれたのだ。

 

 

「大丈夫か?ハジメ」

 

 

「…楓………?」

 

 

それは、楓だった。

体を半分、外に出した状態でハジメの手を自分の右手で掴んでいたのだ。

トラウムソルジャーから階段前を死守していたはずの楓がなぜ、ここにいるのか、ハジメにはわからなかった。

その理由は単純、闇の王子の力で一気にワープしたのだった。

 

 

しかし、楓は今はそんなことを話そうとせず、ハジメを安心させるように微笑みながら声を掛けた。

 

 

「今、引き上げるからな」

 

 

そう言って、楓はハジメを引き上げ始めた。

しかし、ハジメはある方向を見て、顔を引きつらせた。

そこには3度目の赤熱化をしたベヒモスの眼光がしっかり楓とハジメを捉えていた。

そして、赤熱化した頭部を盾のようにかざしながら楓とハジメに向かって突進してきた!

 

 

それを見て、もうダメだ!とハジメは思った。

しかし、ふと楓の顔を見るとそんな考えは消えた。

いまの楓は不敵に笑っていたのだ。

 

 

「おい。魔物」

 

 

「お前、最後にもう一度くらいひれ伏せよ?」

 

 

楓がそう言うと、ベヒモスの周りに黒い魔法陣が浮かび上がった。

 

 

「(この魔法陣!?さっき、僕が見たのと同じ!!)」

 

 

ハジメがそう思ったのとベヒモスが跳躍しようとしたのと同時に再びベヒモスの右側の前足の足元が黒い魔法陣で沈んでゆく。

 

 

「グウゥアァァーー!?」

 

 

しかし、楓はそれに目もくれず、ハジメを引っ張り出すことに集中していた。

そして、ハジメの上半身が石橋よりも上に姿を現した。

しかし、悲劇はまだ続いた。楓の背後に再び、ベヒモスの足止めの為に放たれていた魔法の1つが機動を曲げたのだ。

ハジメを吹き飛ばした一撃と全く同じものが……。

 

 

「楓!後ろ!」

 

 

「危ない!」

 

 

ハジメともう1人の声により、集中していた楓も火球の存在に気づいた。

しかし、気づくのが遅かった。

 

 

「ガッ!?」

 

 

その火球が楓の右手に直撃したのだ。

ハジメの手を掴んでいた手を……。

そして……

 

 

「しまっ!?」

 

 

ハジメの手を離してしまったのだ。

しかも、それだけじゃない。

火球の衝撃のせいか、楓の首のネックレスが外れてしまったのだ。

 

 

「ッ!(しまった!?ネックレスが!!)」

 

 

さすがの楓もこれに慌てた。

四魔幻獣の闇の力をうまく制御するのにネックレスは必要なものだった。

しかし、そのネックレスは奈落の底に落ちてしまった。

そして、ハジメはある方向を見ると

 

 

「――」

 

 

小さく何か呟き、楓のほうを向いて、いつもの困ったような笑みを浮かべながら、落ちていった。

 

 

「ハジメ!?」

 

 

「南雲くん!!」

 

 

楓が叫ぶのと同時にすぐ後ろで同じように叫ぶ声が聞こえた。

そして、その声の持ち主と思われる人影が楓の横を通り過ぎた。

 

 

「ッ!?白崎さん!?」

 

 

それは香織だった。

おそらく、先程の火球について教えてくれた叫び声も彼女だろう。

香織は楓が呼び止める暇も与えることなくハジメの後を追うように飛び降りた。

 

 

「い、…嫌あぁぁーーーー!!!」

 

 

「グウゥアァァーー………!!!」

 

それを見て呆然とした楓の耳には、近くで雫の悲鳴とベヒモスの遠ざかっていく声が聞こえた。

 

 

「ちっ!!」

 

 

ベヒモスの近くに居た楓はベヒモスの攻撃を食らってそのまま奈落の底に落ちたのだった。

3人のクラスメイトが奈落に落ちてしまった瞬間だった。

闇野楓君の追加して欲しい技能

  • 夜目
  • バッドステータスを受け付けない(呪い等)
  • 戦い度に少しずつ攻撃力が上がる
  • 闇の憤怒、掌に赤黒い炎で全て灰にする力
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