はじまりの罪を背負う者達は…魔王達と共にあり 作:五月雨☆。.:*・゜
「離して!鈴!恵里!香織が!!南雲君が!!闇野君が!!離してぇ!!」
「ダメだよ!雫ちゃん!」
「そうだよ!シズシズ!気持ちはわかるけど!行っちゃ、ダメ!」
すぐ近くで同じように香織の後を追いかけてきたと思われる雫が奈落へと飛び降りようとしていたのを鈴と恵里の2人がかりで抱きしめて、押さえていた。
しかし、2人よりも身長が高いこともあって、ジリジリと奈落のほうへと近づいていた。
それくらい、普段の冷静さが見る影もないほど必死の形相だった。
いや、悲痛というべきかもしれない。
「俺たちが止められなかったから団長が雫を止めてくれたんだ。それに雫も体が壊れずにすんだんだ」
「そうだよ!鈴たちじゃ、シズシズは止まらなかっただもん!」
「うん……。いきなりで驚いたけど、あのままだったら、私たちも一緒に落ちていたよ……」
龍太郎の言葉に同意するように鈴と恵里の言葉を聞き、天之河光輝は憮然とした表情をした。
「それによ、ほら、今は南雲も言っていたように皆を引っ張って、全員で脱出するべきだろ?頭の良くねぇ俺でもわかるぞ?頼んだぞ、親友?」
龍太郎の言葉に、天之河光輝は頷いた。
「そうだな、早く出よう」
目の前でクラスメイトが3人死んだのだ。
クラスメイトたちの精神にも多大なダメージが刻まれている。
誰もが茫然自失といった表情で石橋のあった方をボーと眺めていた。
中には「もう嫌!」と言って座り込んでしまう子もいる。
ハジメが天之河光輝に叫んだように今の彼等にはリーダーが必要なのだ。
天之河光輝がクラスメイトたちに向けて声を張り上げる。
「皆!今は、生き残ることだけ考えるんだ!撤退するぞ!」
その言葉に、クラスメイトたちはノロノロと動き出す。
トラウムソルジャーの魔法陣は未だ健在だ。
続々とその数を増やしている。
今の精神状態で戦うことは無謀であるし、戦う必要もない。
天之河光輝は必死に声を張り上げ、クラスメイトたちに脱出を促した。メルドや騎士団員たちも生徒たちを鼓舞する。
そして全員が騎士団員たちが死守していた階段への脱出を果たした。
上階への階段は長かった。
先が暗闇で見えない程ずっと上方へ続いており、感覚では既に30階以上、上っているはずだ。
魔法による身体強化をしていても、そろそろ疲労を感じる頃である。
先の戦いでのダメージもある。
薄暗く長い階段はそれだけで気が滅入るものだ。
そろそろ小休止を挟むべきかとメルドが考え始めたとき、ついに上方に魔法陣が描かれた大きな壁が現れた。
クラスメイトたちの顔に生気が戻り始める。
メルドは騎士団員の1人に扉に駆け寄り詳しく調べさせ始めた。
フェアスコープを使うのも忘れない。
その結果、どうやらトラップの可能性はなさそうであることがわかった。
魔法陣に刻まれた式は、目の前の壁を動かすためのもののようだ。
メルドは魔法陣に刻まれた式通りに一言の詠唱をして魔力を流し込む。すると、まるで忍者屋敷の隠し扉のように扉がクルリと回転し奥の部屋へと道を開いた。
扉を潜ると、そこは元の20階層の部屋だった。
「帰ってきたの?」
「戻ったのか!」
「帰れた……帰れたよぉ……」
クラスメイトたちが次々と安堵の吐息を漏らす。
中には泣き出す子やへたり込む生徒もいた。
天之河光輝たちですら壁にもたれかかり今にも座り込んでしまいそうだ。
しかし、ここはまだ迷宮の中。
低レベルとは言え、いつどこから魔物が現れるかわからない。
完全に緊張の糸が切れてしまう前に、迷宮からの脱出を果たさなければならない。
メルドは休ませてやりたいという気持ちを抑え、心を鬼にして生徒たちを立ち上がらせた。
「お前たち!座り込むな!ここで気が抜けたら帰れなくなるぞ!魔物との戦闘はなるべく避けて最短距離で脱出する!ほら、もう少しだ、踏ん張れ!」
少しくらい休ませてくれよ、という生徒たちの無言の訴えをギンッと目を吊り上げて封殺する。
渋々、フラフラしながら立ち上がる生徒たち。
天之河光輝が疲れを隠して率先して先をゆく。
道中の敵を、騎士団員たちが中心となって最小限だけ倒しながら一気に地上へ向けて突き進んだ。
そして遂に、一階の正面門となんだか懐かしい気さえする受付が見えた。
迷宮に入って1日も立っていないはずなのに、ここを通ったのがもう随分昔のような気がしているのは、きっと少数ではないだろう。
今度こそ本当に安堵の表情で外に出て行く生徒たち。
正面門の広場で大の字になって倒れ込む生徒もいる。
一様に生き残ったことを喜び合っているようだ。
だが、一部の生徒、未だ目を覚まさない雫を背負った龍太郎や光輝、その様子を見る恵里、鈴、そして優花などは暗い表情だ。
そんな生徒たちを横目に気にしつつ、受付に報告に行くメルド。
20階層で発見した新たなトラップは危険すぎる。
石橋が崩れてしまったので罠として未だ機能するかはわからないが報告は必要だ。
そして、ハジメと香織と楓の死亡報告もしなければならない。
憂鬱な気持ちを顔に出さないように苦労しながら、それでも溜息を吐かずにはいられないメルドだった。
ホルアドの町に戻った一行は何かする元気もなく宿屋の部屋に入った。幾人かの生徒は生徒同士で話し合ったりしているようだが、ほとんどの生徒は真っ直ぐベッドにダイブし、そのまま深い眠りに落ちた。
そんな中、檜山大介は1人、宿を出て町の一角にある目立たない場所の木の前に立ち尽くして、微動だにしない。
すると、次の瞬間……
「ふざけんなあぁぁぁーーーー!!!あのキモオタがあぁぁぁーーーー!!!」
この世の全てが憎いと言わんばかりに濁った瞳に憤怒と憎悪の炎を浮かべて、目の前の木を何度も殴りつけた。
そう、あの時、軌道を逸れてまるで誘導されるようにハジメを襲い、楓の手を直撃させた火球は、この檜山が放ったものだったのだ。
階段への脱出とハジメの救出。
それらを天秤にかけた時、ハジメを見つめる香織が視界に入った瞬間、檜山の中の悪魔が囁いたのだ。
今なら殺っても気づかれないぞ?って…。
そして、檜山は悪魔に魂を売り渡した。
バレないように絶妙なタイミングを狙って誘導性を持たせた火球をハジメに着弾させた。
流星の如く魔法が乱れ飛ぶあの状況では、誰が放った魔法か特定は難しいだろう。
まして、檜山の適性属性は風だ。
証拠もないし分かるはずがない。
そう考えて、1発目の火球によってハジメが橋の外に吹き飛ばされたときはほくそ笑んだ。
しかし、そのときにあり得ないことが起きたのだ。
自分の背後でトラウムソルジャーと戦っていた筈の楓が目の前でいきなり、それこそ瞬間移動のように現れて、ハジメの手を掴んで、落ちるのを阻止したのだ。
これを見て、檜山は動揺した。
しかし、それは一瞬であり、自制心を失っていた檜山はこのように考えた。楓とハジメ諸共殺れるのではないか?って…。
檜山にとって、楓は気にくわなかった。
自分たちからの陰口や嫌がらせもたいした反応を見せず、まるで眼中に無いと言わんばかりな態度に。
檜山は楓にプライドや自尊心を悉く傷つけられたのだ。
ある意味、ハジメ以上に許せなかった相手だった。
だから、まだ魔法が乱れて飛んでいる間に2発目の火球を飛ばそうとした。
しかし、ここでもまた、予想外のことが起きたのだ。
それは、香織が楓とハジメの元に向かって、走っていたのだ。
おそらく、楓のハジメを助ける手伝いのためだろう。
自分の想い人の姿を見て、自分の火球が香織にまで当たってしまうのではないか?と思った檜山は本当に制御を誤ってしまったのだ。
しかし、幸にも不幸にも火球は想定より僅かにずれて、結果的に楓の右手に直撃して、ハジメは奈落へと落ちたのだ。
制御を誤ったことには慌てたし、楓まで奈落に落ちなかったのは残念だが、当初の予定通り、ハジメを殺れたことと右手だけでも楓を傷つけられたことに檜山は満足したのだ。
しかし、ここで3度目の予想外な出来事が起きた。
それは、香織がハジメの後を追って、飛び降りたのだ。
これには檜山の頭の中が真っ白になった。
彼女までもが死んだことと彼女の意思で飛び込んだこと。
檜山はそれを認めたくなかったのだ。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
そこで檜山は木を殴り続けるのを止めて、息切れをしていた。
その時、不意に背後から声を掛けられた。
「へぇ~、やっぱり君だったんだ。異世界最初の殺人がクラスメイトか……中々やるね?」
「ッ!?だ、誰だ!」
慌てて振り返る檜山。そこにいたのは見知ったクラスメイトの1人だった。
「お、お前、なんでここに……」
「そんなことはどうでもいいよ。それより……人殺しさん?今どんな気持ち?恋敵をどさくさに紛れて殺すのってどんな気持ち?それとそのせいで自分の想い人までもが死んでしまったのってどんな気持ち?」
その人物はクスクスと笑いながら、まるで喜劇でも見たように楽しそうな表情を浮かべる。
檜山自身がやったこととは言え、クラスメイトが3人死んだというのに、その人物はまるで堪えていない。
ついさっきまで、他のクラスメイトたちと同様に、ひどく疲れた表情でショックを受けていたはずなのに、そんな影は微塵もなかった。
「……それが、お前の本性なのか?」
普段なら先程の荒れ様からも、その言葉に怒り狂いそうなものだが、あまりにも予想外だったため檜山は呆然と呟くだけだった。
それを、馬鹿にするような見下した態度で嘲笑う。
「本性?そんな大層なものじゃないよ。誰だって猫の1匹や2匹被っているのが普通だよ。そんなことよりさ……このこと、皆に言いふらしたらどうなるかな?特に…八重樫雫が聞いたら……」
「ッ!?そ、そんなこと……信じるわけ……証拠も……」
「ないって?でも、僕が話したら信じるんじゃないかな?あの窮地を招いた君の言葉には、既に力はないと思うけど?それに死んだ内の1人が皆に人気者の白崎香織だしね」
檜山は追い詰められる。
まるで弱ったネズミを更に嬲るかのような言葉。まさか、こんな奴だったとは誰も想像できないだろう。
二重人格と言われた方がまだ信じられる。
目の前で嗜虐的な表情で自分を見下す人物に、全身が悪寒を感じ震える。
「ど、どうしろってんだ!?」
「うん?心外だね。まるで僕が脅しているようじゃない?ふふ、別に直ぐにどうこうしろってわけじゃないよ。まぁ、取り敢えず、僕の手足となって従ってくれればいいよ」
「そ、そんなの……」
実質的な奴隷宣言みたいなものだ。
流石に、躊躇する檜山。当然断りたいが、そうすれば容赦なくハジメと香織を殺したのは檜山だと言いふらすだろう。
葛藤する檜山は、「いっそコイツも」とほの暗い思考に囚われ始める。しかし、その人物はそれも見越していたのか悪魔の誘惑をする。
「白崎香織、欲しくない?」
「ッ!?な、何を言って……、香織はもうあの時に……」
暗い考えを一瞬で吹き飛ばされ、驚愕に目を見開いてその人物を凝視する檜山。
そんな檜山の様子をニヤニヤと見下ろし、その人物は誘惑の言葉を続ける。
「僕に従うなら……死んだ彼女を蘇らせてあげるよ」
「そ、そんなことできるわけ……」
「う~ん?君は忘れていないかな?僕の技能を?」
そう言われて、檜山はその人物の技能について思い出した。
そして、真剣な顔つきにして尋ねた。
「……本当にできるのか?」
「今すぐには、無理だけどね。さすがに僕もまだまだ未熟だからね。でも、極めるつもりでいるから、その内、必ずできるよ」
「……何が目的なんだ。お前は何がしたいんだ!?」
あまりに訳の分からない状況に檜山が声を荒らげながら尋ねた。
「ふふ、君には関係のないことだよ。まぁ、欲しいモノがあるとだけ言っておくよ。……それで?返答は?」
あくまで小バカにした態度を崩さないその人物に苛立ちを覚えるものの、それ以上に、あまりの変貌ぶりに恐怖を強く感じた檜山は、どちらにしろ自分に選択肢などないと諦めの表情で頷いた。
「……従う」
「アハハハハハ、それはよかった!僕もクラスメイトを告発するのは心苦しかったからね!まぁ、仲良くやろうよ、人殺しさん?アハハハハハ」
楽しそうに笑いながら踵を返し宿の方へ歩き去っていくその人物の後ろ姿を見ながら、檜山は「ちくしょう……」と小さく呟いた。
檜山の脳裏には忘れたくても、否定したくても絶対に消えてくれない光景がこびり付いている。
ハジメが奈落へと転落した時に後を追って落ちていった香織の姿。
どんな言葉より雄弁に彼女の気持ちを物語っていた。
今は疲れ果て泥のように眠っているクラスメイトたちも、落ち着けばハジメの死を実感し、香織の気持ちを悟るだろう。
香織が決して善意だけでハジメを構っていたわけではなかったということを。
そして、香織が死んだという事実を見て、その原因に意識を向けるだろう。不注意な行為で自分たちをも危険に晒した檜山のことを。
上手く立ち回らなければならない。
自分の居場所を確保するために。
もう檜山は一線を越えてしまったのだ。
今更立ち止まれない。
あの人物に従えば、消えたと思った可能性――香織をモノにできるという可能性すらあるのだ。
「ヒヒ、だ、大丈夫だ。上手くいく。俺は間違ってない……」
ブツブツと呟き出した檜山。
それの邪魔をするものは誰もいなかった。
闇野楓君の追加して欲しい技能
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夜目
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バッドステータスを受け付けない(呪い等)
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戦い度に少しずつ攻撃力が上がる
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闇の憤怒、掌に赤黒い炎で全て灰にする力