【完結】ニタモノドウシ   作:ラジラルク

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原作、時系列、ガン無視です。 


SE@SON ZERO
Prologue : 俺と私の邂逅


 夢は必ずしも叶うわけではない。

 そのことを知ったのはいつのことだろうか。記憶は定かではないが、この世界に身を投じてすぐに、わりと早い段階でその事実には気が付いていたと思う。

 “努力は必ず報われる”––––、そんなわけがない。努力だけで切実な夢が、欲しいモノが、何もかもを手をにすることができるのなら、誰だって死ぬ気で努力をするはずだから。

 だけど実際はそうじゃなくて、いくら努力をしても、強く願っても、どれだけ頑張っても叶えられない夢だってある。いや、むしろ叶えられる夢より叶わない夢の方がずっと多いのかもしれない。だから大半の人は何処かで自分の可能性に折り合いをつけ、夢を見ることを諦めていく。とてつもない努力の先に、何も叶えることのできなかった世界を見るのが怖いから。

 

 それでも、明日も明後日も、きっとその先も、ずっと果てしない夢を追いかけて走り続けていくのだと思う。

 才能もない、実力だってない、それでも絶対に叶えたいと強く願う夢があるから––––。

 

 

Prologue : 俺と私の邂逅

 

 

 俺は大きな勘違いをしていた。

 空席一つ見当たらないライブ会場で黄色い歓声を一身に浴びて、テレビやラジオの収録など、次から次に仕事の依頼が舞い込んできて、忙しいまでにスケジュールが埋まっていって−−、そんな夢のような日常を掴み取ったのは紛れもなく俺たちの実力なのだと。

 だけどそれはただの勘違いで、俺たちは実力なんて立派なモノであの地位を勝ち取ったわけでもなく、実際は大人に都合よく利用されていただけ。そのことに初めて気が付いたあの日、俺たちは半ば喧嘩別れのような形で961プロを去った。961プロによる765プロへの執拗な嫌がらせは勿論、何より俺たちを駒呼ばわりし、ただの操り人形として利用していたことが心底許せなかったのだ。

 

「一からやり直す。今度は俺たちの力を信じてくれる場所でな」

 

 突発的に961プロを辞めた俺たちを危惧してくれた765プロのプロデューサーに、そう言って俺たちは再出発を誓った。今度は俺たちを駒扱いする大人に利用されるのではなく、純粋に自分たちの実力だけで栄光を勝ち取るのだと、俺たちなら例え事務所に所属していなくても絶対にトップアイドルになれるのだと証明するため。

 だが961プロを出た俺たちを待ち構えていたのは、厳しい現実だった。事務所を介して届いていた仕事のオファーはバッタリと途絶え、空欄が見当たらなかったはずのスケジュール帳は次第に空白が目立つようになると、俺たちはユニットとしての活動が思うようにできなくなってしまった。当然事務所に属さず、仕事もなければ収入は途絶えてしまう。新曲をリリースするにも、イベントを行うにも、ライブをするのにも、何をするのにも莫大なお金が必要で、スポンサーも事務所もない今の俺たちにとって、金銭的な問題はとてつもなく大きな障壁だった。

 この時になって俺たちは嫌というほど痛感させられたのだ。今まで俺たちが実力で勝ち取ったと思っていた日常は、ただのハリボテで儚いモノだったのだと。961プロを辞めた俺たちに対し現実は厳しく、想像以上に無力だった俺たちに残されたモノは殆どなかったのだ。

 

 それからというもの、俺たちは必死に活動資金を工面し、どうにかして細々と活動を続けていた。

 だけど所属事務所も活動資金もない俺たちが抑えれる会場はたかがしれていて、961プロ時代に比べれば活動規模が見劣りしているのは明らか。スケールが大幅に縮小され、表舞台に出る頻度が減れば、次第にファンの関心も離れていく。必死に頑張っているはずなのに、夢は反発するかのように遠のいていくばかり。

 気が付いた頃には、俺たちは961プロに在籍していた頃の世界から随分と遠い場所に流れ着いてしまっていた––––。

 

 

 

「…………良いライブだったよな」

 

 8月の暮れ、すっかり日が暮れたというのに外は鬱陶しいほどに蒸し暑くて、俺はシャツの袖で額の汗を拭う。その拍子に思わず漏れた本音が、俺の両脇を歩いていた2人は足を止めた。慌てて咄嗟に漏れてしまった言葉の奥に潜む真意を隠すように、後ろを振り返る。

 振り返った先、視線に飛び込んできたのは真夏の夜を眩しいまでの灯りを纏ってそびえ建つ、大きなアリーナ会場。つい数分前まで、俺たちも足を運んでいたライブ会場だった。

 

「……そうだな。凄く良いライブだった」

「だね、なんか先越されちゃったって感じ」

 

 脳裏にフラッシュバックする、あのとてつもなく大きなアリーナで大規模なライブを成功させた765プロのアイドルたちの輝く姿。大歓声で揺れるアリーナで、何万ものファンを前にして臆せず歌って踊る姿は、まさにトップアイドルそのものだった。アリーナを満員に埋めるアイドルにまで成長した彼女たちは、俺の記憶の中の姿とはまるで別人のように思えるほどに、強く逞しい姿をしていた。

 そんな変わり果てたライバルたちの姿を客席から眺め、俺は凄まじい劣等感と敗北感を感じていたのだ。

 

(俺らと765プロとで、いつの間にここまでの差が開いてしまったのか)

 

 961プロを辞めて足踏みをしている間に、ライバル視していたはずの765プロのアイドルたちは遥か遠くの世界に行ってしまった。かつて俺たちが夢見ていたはずの世界に先に辿り着いた彼女らの姿を、客席から指をくわえて見下ろすことしかできない自分が不甲斐なくて仕方がなかった。

 唇を噛み締めながら、思わず拳を握り締める。途方もなく遠くに感じられるアリーナまでの距離が俺たちに厳しい現実を突き付けているような気がして、今の俺たちは途方もない距離から、アリーナ会場を眺めることしかできなかった。

 

「……まさかアイツらが先にアリーナライブを成功させるなんて」

 

 先を越されて悔しいと思うチンケなプライドが、言葉になって再び口から漏れてしまう。

 そんな俺を横目に、2人は苦笑いを浮かべていた。

 

「バックダンサーの件だったり、随分と不安はあったようだけどね」

「それでもアレだけのステージを魅せれるんだから、僕は素直に凄いと思うよ」

「あれだけ不安視されてたバックダンサーのエンジェルちゃんたちも、本番は立派なパフォーマンスを魅せてたからね。大したもんだよ」

 

 アリーナライブ前に行われたミニライブ、そのライブで765プロが投入したバックダンサーが転倒するトラブルが発生し、そのことが随分と大げさにゴシップ紙などで取り上げられていた。失敗が許されない765プロ初のアリーナライブで、素人集団に近い経歴のバックダンサーたちを導入するのは極めてリスキーなのではないかと、そんな不安視する声がファンの間でも上がっていたらしい。

 だが765プロはバックダンサー全員をアリーナライブのステージに立たせ、ファンたちの不安を一瞬で蹴散らすほどの圧巻のパフォーマンスを披露して魅せた。これだけリスキーな博打を成功させたプロデューサーの手腕は勿論、何より“先輩”としてバックダンサーたちを牽引するかつてのライバルたちの姿に、俺は未だかつてないほどの“差”を感じさせられた。

 そんな彼女らに比べ、俺たちはどうなのか。そう自問自答してみる。

 必死にバイトして資金を集め、小さなライブをどうにかして開催させようと頭を悩ませる今の俺たちには、彼女らのように周囲の人たちのことを気にするほどの余裕があるだろうか。

 とてもじゃないが今の俺たちにはそんな余裕があるとは到底思えなかった。

 

「……なんつーかさ、アイツら見違えたよな」

「珍しいな、いつもならもうちょっと憎まれ口叩いているのに」

「にっ、憎まれ口なんて叩いてねぇーし! ただ……、なんか置いていかれちまった気がしてさ」

「うわぁ、すごい弱気発言……。今日はどこまでもらしくないね」

「う、うるせぇよ! ほらっ、さっさと行こうぜ!」

 

 いつまでもここで立ち止まっていたら調子が狂ってしまいそうな気がして、俺は2人の背中を叩くと踵を返した。

 今は知名度も人間としての器も、765プロの連中と比べると劣っているのかもしれない。アリーナまでの距離は気が遠くなるように果てしなくて、足踏みしている俺たちの遥か先を彼女たちは歩いているのかもしれない。

 だけどそれでも最終的に俺たちは765プロを追い抜いて、トップアイドルになってやる。俺たちの実力は本物なのだと、今度こそ俺たちの実力を証明できる世界で、誰にも負けないアイドルになるのだ。

 

「……俺たちジュピターは、こんなところじゃ終われねぇんだ。765プロにも絶対に負けねぇ」

「そうそう、それでこそ俺たちジュピターのリーダーだよ」

「冬馬くんはそうじゃなくっちゃね」

 

 今はまだ遠くに感じられるアリーナを背に、俺たちはゆっくりと歩を進めた。

 

 

 

  ★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 傲慢だった自分が恥ずかしかった。

 私は自分に才能があるとか、実力があるとか、決してそんな勘違いをしていたわけではない。むしろ運動神経も平凡で、あまり突出した能力がない自分はアイドルになるのは限りなく低スペックな方だとさえ思っていた。

 それでも絶対に叶えたい夢があった。

 才能はない、実力もない、スペックだって低い。それでもどうにかして夢を叶えたい。なら努力で補うしかない。できないことあるのなら、できるまでやればいい。それが例えライバルを蹴落とし孤独で歩む道だったとしても、私は進み続ける。夢を叶えるためなら何だってできるとさえ、私は思っていた。

 だからこそ、私は先輩たちの言動を今日のライブが始まる直前までとてもじゃないが理解できなかった。

 

「あのっ、天海さん……」

 

 全プログラムが終了し、ライブの成功を祝杯ムードに酔いしれる楽屋。出演アイドルやスタッフ、関係者たちが各々で喜びのグラスをぶつけ合う中、私は盛り上がる集団から離れ、先輩を楽屋の外に連れ出した。

 

「お疲れ様。どうしたの、何かあった?」

 

 オープニングからアンコールまで全速力で駆け抜けた偉大な先輩はグラスを片手に、疲れているはずなのに嫌な顔せず楽屋の外に付いてきてくれた。

 傲慢でワガママな後輩に対しても、変わらぬ優しい笑顔で気遣う先輩の姿を見ると、散々偉そうに自分の意見ばかりを押し付けてきた自分が酷く幼稚に思えて、自己嫌悪に陥りそうになる。

 そんな羞恥心を無理やり飲み込んで、私は思いっきり頭を下げた。 

 

「え、えっ!? どうしたの急に!?」

「……本当にすみませんでした。今まで散々皆さんの和を乱して迷惑かけて、邪魔ばかりしてしまって。本当に反省しています」

 

 私はずっと天海さんの言動が理解できなかった。

 矢吹さんがバックダンサーを抜けると言い出し、それを何度も引き留めようとする天海先輩の姿を見て苛立ちを覚えたことさえあった。

 

『もう時間がないんです! 今進める人間が進まないと、全部ダメになりますよ!』

『話にならないです。なんであなたがリーダーなんですか』

 

 矢吹さんに構うばかり、全体練習が進まないことに不満を爆発させ、天海さんに対して辛辣な言葉を何度も浴びせてきた。アイドルの世界は勝負の世界、皆が皆お互いをライバル視しているものだとばかり思っていたから、馴れ合いを大事にしようとする天海さんの発言や行動を私は理解できなかったのだ。ライブの成功よりも全員でステージに立つことを優先する天海さんの考えが理解できず、私は内心先輩たちのことを見下してさえいた。こんな生温い空気のままでアリーナライブを成功させようなんて考えが甘すぎる、と。

 だけど、結果として私の考えは誤っていた。765プロ史上初のアリーナライブは大成功、765プロの先輩たちのステージ場での姿は、私たちが普段見ていた姿とはかけ離れたモノだった。歌声もダンスもMCも、全てのパフォーマンスが信じられないほどに完成されていて、これが真のトップアイドルなのかと、控え室のモニターで初めて見た先輩たちの本気の姿を見ていた私は、自分との圧倒的な実力差を痛感させられたのだ。

 ライブ終盤、いよいよ私たちの出番を目前に控え舞台袖に待機していた時、私たちバックダンサー組は想像も絶する緊張感に押し潰されそうになっていた。誰も口にこそしなかったが、ミニライブで先輩たちのステージを台無しにしてしまった時のことが脳裏に浮かんでいたのだと思う。

 今日のここまで完璧に進めてきた先輩たちのアリーナライブを、私たちがまた壊してしまいそうな気にさせて、あの日の失敗が、未だかつてない恐怖心を私たち植えつけていたのだ。

 そんな失敗を恐れていた私たちの手を引き、頼もしい背中で牽引してくれたのは、紛れもなく私が見下していたはずの天海さんたちだった。

 舞台袖でガチガチに緊張する私たちを、アリーナの凄まじい声量に負けそうになる私たちを、リードしてくれた先輩たちの後ろ姿を見て、私は初めて気付かされた。天海さんたちは今まで“馴れ合い”をしていたのではないと。ライブは1人では決して成功させることができない、こうやってチーム全体として結束してこそ初めて成功を収めることができるのだと。そして私の考え方がいかに独り善がりで傲慢だったかも。

 

 ライブが終わって、無事に成功してホッとする気持ちの反面、私の中には悔しい気持ちという感情も芽生えてた。アレだけ天海さんに偉そうな口を叩いていたのに関わらず、本番ではアリーナの雰囲気に圧倒されるばかりで萎縮して緊張し、無意識に先輩たちの背中を求めてしまっていた弱さが、どうしても許せなかったのだ。

 

「……顔、上げなよ」

 

 天海さんの優しい声。

 ゆっくりと顔を上げると、天海さんは暖かくて優しい眼差しで私を見つめていた。今まで何度も失礼な言葉を投げかけ、軽蔑されても無視されてもおかしくないはずの無礼な態度を取ってきたのに、私を見つめる天海さんの眼差しはただただ優しかった。

 

「ありがとう、私たちのライブに協力してくれて。皆がいなかったら、今日のステージはここまで盛り上がらなかったと思う」

「そ、そんなっ……、私たちは」

「また一緒にライブやろうね! 次も皆で一緒にステージ立てるの楽しみにしてるから」

「天海さん……」

「あと、これからは苗字じゃなくて、“春香”って呼んでほしいかな! そっちの方が私的には嬉しいかも」

「え? あっ、はい。今度からそうします……」

「ありがとう志保ちゃん。これからも一緒に頑張っていこうね!」

 

 そう言い残した後、春香さんは私の頭を優しく撫でると、最後まで嫌味のない笑顔を振りまいて楽屋へと戻って行ってしまった。

 取り残された私は、何もその場で立ち尽くすことしかできなかった。

 

「…………私は、間違っていたのかな」

 

 一人取り残された私は、思わずそう口にしてみる。当然誰もその問いに答えてはくれなかった。

 

 

 

   ◎●◎●◎●◎●

 

 

 

「なんや志保、もう帰るん?」

 

 更衣室へ立ち寄った後に、楽屋へと戻ってきた私の名前を真っ先に呼ぶ陽気な関西弁。

 声の主––––、横山奈緒は少し離れたところで衣装姿のまま、私をまじまじと見つめていた。一人だけ先に着替えていた私を見て、私がこの場を去ろうとしているのだと察したのかもしれない。

 

「はい。ちょっとこの後用事があるので」

「そうなんか、残念やなぁ。また改めて打ち上げるするから、予定あけといてな」

「分かりました。日程決まったらまた連絡してください」

 

 嘘だった。この後の用事なんて何もなかった。

 本当は先輩たちの圧巻のパフォーマンスを見て、とてつもない実力差を痛感させられた今、ライブの成功を心底祝う余裕など持ち合わせていなかったのだ。

 今までの自分の傲慢さ、勘違い、全てが悔しくて情けなかった。先輩たちに比べて、私なんか魅力も才能も実力も、何一つ秀でた要素なんかない癖に。トップアイドルに相応しい実力を兼ね備えた先輩たちに対し、偉そうに口答えばかりしていた自分の存在が恥ずかしく仕方がなかった。

 それでも私は春香さんたちに追い付きたいと思ってしまう。いや、追い付くだけではなく、いつか追い越して春香さんたち以上に輝く星になりたいと。これだけの圧倒的な実力差を見せつけられながらも、自分が傲慢だと思っていながらも、それでも私はそう強く願わずにはいられなかった。

 この人たちを超えないと、きっと私が叶えたい夢は叶えられないと気付いたから。

 今のまま立ち止まってなんかいられない。

 もっと速く遠くへ、もっともっと頑張らないと春香さんたちには一生追い付けない。今のままじゃ夢を叶えることなんて絶対にできないのだから。

 

「すみません、用事があるのでお先に失礼します」

「お疲れ様! 気を付けて帰ってね」

「皆さん、今日は本当にありがとうございました。それでは」

 

 私は偉大な先輩たちと共に初ステージを踏んだ同期たちに挨拶を済ませ、足早に楽屋を離れた。

 

 

 

  ★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 ライブ後に近くの牛丼屋で簡単な夜飯を済ませると、俺は早々に北斗と翔太と別れ自分のマンションへと帰ってきた。

 家に着くとシャワーも浴びず、すぐさまジャージに着替えて外へ出る。私服より通気性の良いジャージが少しだけ身体を軽くしてくれているような気がして、俺は近所にある公園に向かって走り出した。アレだけのライブを見せつけられて、想像以上に開いていた実力さを痛感させられて、居ても立っても居られなくなったのだ。

 マンションを出て数分、少しだけ急な階段を登った先に辿り着いた公園。夜の公園は閑散としており、暗闇を照らす街灯が寂しげに佇んでいる。都会の喧騒から抜け出したような高台にあるこの公園は、961プロに在籍していた頃からレッスンや仕事がない日に自主トレでよく走りに来る公園だった。綺麗な芝生が植え付けられており、昼間は家族連れの姿が多く見られるが、夜になると途端に人が減るためいつも貸切状態。アイドルとして少なからずメディアに出ていた俺にとって、余計な心配もせずに自主トレに打ち込める貴重な場所だ。

 

「さて、今日は気が済むまで走り倒すか……、ん?」

 

 ランニングシューズの紐をキュッと強く結び直した時、遠くから一定のリズムで刻まれる足音が聞こえてきて、俺は暗闇に向かって目を細めた。

 視線の先、暗闇の中から出てきたのはイヤホンをしたか細い少女の姿。ほぼダッシュに近いような速度で走る少女は、俺の方には一切目も暮れず、ただひたすらに正面だけを見つめて息を切らしながら俺の前を通り過ぎていく。

 一心不乱に走る女性の眼差しは何処か遠くの世界を見据えているようで、一瞬だけ見えたその瞳からは強い決意や想いが垣間見えた。それはとてつもない強い願いを秘めた瞳だった。それこそ、俺たちと同じように何か果てしない夢を追い求めているような、そんな感覚さえ覚えさせるような。

 少女の姿は、ただただ美しかった。俺は凛とした強さを感じさせる大人びた少女の横顔に見惚れ、暫くの間走り去っていった少女の後ろ姿を呆然と見つめていた。




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