町はずれの墓場
「最後まで忠義を貫き通し、君は死んでいった。後世の者達は君を何と評価するのだろうね。悪の王女に最後まで付き従い、逃げ出す家臣団の中で唯一彼女の元に残り続けた君を。」
青の国の王子はある人物の墓を前にしてこう呟いた。
「・・・こうなってしまったのことには俺に責任の一端がある。だからせめてこうすることでしか君を慰めることが出来ない。実に身勝手なことだと思うが。」
王子は黄色い花束を手向け、墓場を去った。そして、墓にはこう書いてあった。
「最期のその時まで忠義を貫き通した忠臣とその主人共に眠る」
昔々あるところに悪逆非道の王国がありました。頂点に君臨する齢14の王女様は絢爛豪華な暮らしをする一方で民衆には重税を課し苦しめていました。しかし、王女は王宮では一人でした。幼くして王国の頂点に立つことになった彼女は我儘を言う事でしか孤独を癒すことが出来なかったのです。でも、王女にはその孤独と我儘を同時に解決してくれる召使がある日配下につきました。
「・・・・お久しぶりです、リン王女。本日付けで貴方専属の召使としてお仕えさせて頂きますレンです。以後お見知りおきを。」
「・・・・レン? 本当にレンなの?!」
王女に召使として仕えることになったのは王女の双子の弟でした。産まれたその日からずっと一緒に行動してきた彼女の唯一の味方であり、心を預けられる人物でした。幼い日に双子は不吉であるとして引き裂かれたものの、再び一つになることが出来たのです。
「はい。そのとお・・・うわ!!」
王女は喜びのあまり召使に抱き着いてしまいました。それ程再会が嬉しかったのです。同時に彼も彼女と一緒になることを望んでいました。
「リン王女。このレン、命を代えまして貴女様をお守り致しますことをお約束致します。」
「それはダメよレン。」
「? 何故でしょうか。」
「だって、それはレンが死んで私がまた独りぼっちになっちゃううじゃない。私は生きる時も死ぬ時もレンと一緒がいいの!!」
「は、はあ。」
「だからこう誓って頂戴。私と運命を共にするって。」
「・・・王女がそうおっしゃるのでしたら。」
「それと誰もいない時は昔みたいに話しかけて。だって、私とレンは姉弟なんだもん!!」
無邪気な笑顔を召使に向ける王女。その笑顔に召使も笑顔で応じる。全然笑わなかった王女は新しい召使が来てからよく笑うようになった。召使も王女の願いの全てを叶えた。時には叱責され、平手打ちを食らうこともあったが変わらず彼は王女に尽くした。そんな彼らに運命の時がやってくることとなった。
「・・・・この国ももう終わりか。」
積もりに積もった国民の怒りが緑の国への侵攻で爆発したのだ。赤き鎧の女剣士や青の国の王子に率いられた革命軍は王宮を取り囲み、内部へ侵入しようと門扉を破壊しようとしていた。
「・・・レン。」
「・・・リン。」
王女は召使に抱き着く。
「ねえ、レン。彼らの狙いは私よね?」
「その通りだよリン。彼らは君の首を狙ってる。」
「ど、どうすれば良いのレン。」
眼をつぶる召使。
「・・・もしかしてだけど、服を入れ替えて私に逃げろとか言う気じゃないでしょうね?」
「・・・分かっていたの?」
「勿論よ。だって私達は姉弟よ。でもレン、それは絶対にダメ。だってレンが死んじゃって私は一人ぼっちになっちゃう。」
「・・・・じゃあ、どうする? もう王宮は完全に囲まれ、二人で逃げるのは不可能だ。君を革命軍に捕らえさせて僕が救出する手もあるけど、革命軍がすぐに君の首をはねたらおしまいだ。」
召使は引き出しを開ける。そこには自決用に用意していた即効性の毒が小瓶に入っていた。
「確か、リンは死ぬ時も一緒じゃないと駄目って言ってたよね。唯一君と僕が引き裂かれない方法がもうこの小瓶しかないんだ。」
涙ながら王女を抱きしめる召使。
「ごめんよ・・・僕にもっと力が・・・事前に情報を掴んでいれば・・・。」
「良いのレン。その代わり、あの世でも一緒にいてね。お願いよ。」
「一緒にいるに決まってるじゃないか。だって。」
「僕は。」
「私は。」
「双子なんだから!!」
その後革命軍が王女の居室へ突入するが、そこには最愛の召使と共に毒を煽り自決した後だった。両者共に晴れやかな顔つきであり、手を繋ぎ、抱き合っていたという。召使の彼以外の全ての家臣団が逃げ出すか裏切るかした中、唯一彼は王女と運命を共にした。王女の行いは許されるべき行為ではないが、彼の忠義は評価されるべきだ。先人を切って居室に突入した青の国の王子はそう呟き、兵士たちに死体を乱暴に扱うことを禁じ、丁重に埋葬した。王女の墓では角が立つためあくまで召使の墓として。
「・・・俺には出来ないな。いや、他の誰にも出来ない。君にしか出来ない。だからこそ、俺は君のことを深く尊敬する。」
その後青の国の王子は男児をもうけることとなったが、長男にはあの召使と同じレンの名を与えたという。流石に長女にリンの名は与えなかったようであるが。
「もし、生まれ変われるならば、君達はまた双子だと、良いね。」
(完)