殺人探偵?うっせぇ好きでやってんじゃねーよ!! 作:☆桜椛★
「………どうしたものか」
4対4戦当日もとい、俺が世界を滅ぼす大魔王として君臨してしまうまで残り4日。対戦相手が峰くんのチームだと分かった影山くん達は自信とやる気を完全に喪失してしまった。まぁ、無理もないわな。AランクどころかSランクのスナイパー であるレキくんが相手なんて勝てる気がしない。勝敗なんて『超推理』で推理するまでもなく明らかだ。俺自身ショック過ぎてこの2日間ずっとボーッとしており、受けた授業の内容どころか、なんの授業を受けたのかすら思い出せない状態だしな。
(あ〜………空が綺麗だなぁ)
こんな風にゆったりと空を眺めながら水蒸気煙管を吸えるのも後4日か。4日後には峰くん達に負け、クエスト失敗で世界中に『T-ウイルス』がばら撒かれる。不幸中の幸いってヤツなのか、この世界では武器弾薬の補充にはあまり不自由はしないだろう。それに今世では前世と違って自衛隊や軍隊だけでなく、武偵が存在する。もしかしたら比較的早く鎮圧されるかも知れない。だがそれでも世界中で数百万人の人間が死んでしまうだろう。最悪だ。原作の綾辻行人ですら数百万人を短期間で殺人しなかっただろうなぁ。ある意味で俺は原作の綾辻行人を越えちゃったよ。
「はぁ………ん?」
俺の所為で死んでしまうであろう数百万人の一般人の事を考えて溜息を吐いていると、俺が座っているベンチの空いているスペースに突然何かが降って来た。何事かと視線をそちらに向けると、滅茶苦茶見覚えのある三毛猫がジーッと俺を見ていた。どうやらすぐ側にある木の枝から飛び降りて来た様だ。俺は一度チラッとその木を見てから、再び三毛猫に視線を戻した。
「君は確か……みーちゃん、だったか?」
「にゃーん」
みーちゃんはまるで肯定する様に一声鳴いた。あのクソふざけた上から目線の文章をどうやったかは知らんが書けるくらいなのだから、俺の言っている事は多分理解出来てる筈だ。本当にそこら辺の武偵犬より優秀なんじゃね?てかなんでお前ここに居んの?飼い主さんは?まさかまた脱走して来たの?
「なーん?にゃーぉ?」
「………言っておくが、俺は君と追い駆けっこなどするつもりは無いぞ。またそこらの密売組織同士の取引現場に連れて行かれると面倒だからな。飼い主にも、さっさと君を連れ帰って貰いたいものだが」
あの飼い主……確か春野菜穂美さんだったか?あの人にはあれだけアクロバティックに動き回るみーちゃんが大人しく抱かれていた。少なくともみーちゃんは春野さんを嫌っている事は無い筈だ。だからさっさとみーちゃんを回収して貰いたいんだが、そもそも本当に脱走して来たんだろうか?偶々ここに散歩で来ているだけって可能性もあるしなぁ。
さてどうするか?と水蒸気煙管を吹かしながら考えていると、みーちゃんが飛び降りて来た木の影から、どこか聞き覚えがある声が聞こえて来た。
「やはり儂の事に気付いておったのか。気配は上手く隠せていたと思っておったが、少しばかり腕が鈍ってしまったかのぅ?」
『いや全然気付いて居ませんでしたが?』と心の中で呟きながらも、ゆっくりと声のしたを向いた。そこには杖を携え、山高帽を被ったトレンチコート姿の1人の初老の男性が立っていた。
あれ?この人、どっかで見た様な気がする。
「さて、お主が綾辻行人じゃな?その節は、儂の飼い猫のミケが大変な迷惑を掛けて済まなかった」
あ、みーちゃんの飼い主はこの人なのか。と言う事は、春野さんはこの人の身内か仕事上の部下って所か?てかミケってみーちゃんの事か?
「……貴方がこの猫の飼い主か。しかしこの猫はミケと言う名前なのか?任務の書類やあの春野と言う女性はこの猫を『みーちゃん』と呼んでいたが?」
「ミケは儂以外の者に名前を呼ばれるのがどうも好まん様でな。皆が『ミケ』と呼んでも見向きもせん。じゃから儂以外の者は皆、ミケの事を『みーちゃん』と呼んでおる。任務の書類に『ミケ』ではなく、『みーちゃん』と書いたのは、お主等武偵が呼んでも少しは反応するだろうと考えての事じゃ」
成る程な。通りで俺がみーちゃんの事を『ミケ』って呼んだ瞬間にみーちゃんが猫パンチして来た訳だ。てか地味に痛いんだけど?猫パンチ選手権なんてものがあったら普通に世界狙えそうだわ。てか飼い主さんは飼い主さんで何興味深そうにこっち見てんの?
「ほう、ミケが名前を呼ばれて反応するとは珍しい。余程ミケに気に入られた様じゃのう」
「……これは気に入られているのか?」
これ普通に嫌われてるから猫パンチされたんじゃないの?いやまぁ、飼い主さんの方がみーちゃんと過ごしてる時間長いから分かるのかも知れないけどさ?結構本気でパンチして来たよみーちゃん。
「気に入られておる。ミケ自身も、『面白い小僧が居た』と言っておったぞ?」
「……まるで言葉が分かっている様な言い方だな」
「こう見えて儂も隠居した身じゃが元武偵でのぅ。ネコ科動物限定というデメリットはあるが、動物と会話する事が出来る『
「……成る程、『
超偵とは、“超能力を持った武偵”の略称だ。超偵は武偵校にある超能力・超心理学による犯罪捜査を行っている学科、『
因みに俺の部屋の隣に住んでいる遠山くんの部屋にほぼ毎日通っている
「ところでお主、何か悩んでいる事がある様じゃな?」
「……よく分かったな」
「ミケが先程、『元気ないな?この前の威勢はどうした?』と言っておったのでな。何か悩みがあると思ってのう。どうじゃ?1つこの隠居爺に話してみんか?」
飼い主さんはそう言いながらちょうどみーちゃんを間に挟む感じでベンチに座って足を組んだ。やっぱりこの爺さんどっかで見た事ある気がするな。声も聞き覚えがある。しかもなんか証拠とかは全く無いが、この人は何故か信頼出来る気がするんだよな。
しばらく考え込んだ俺は、『少しぐらいならいいかな?』とあのクソ板やペナルティの事はぼかし、4対4戦の事、相手が鬼畜チームである事、そしてどうなるかはぼかしたが、負けたら酷い目に遭う事を話した。
そして俺の話を聞き終わると、飼い主さんは懐かしそうな表情を浮かべた。
「成る程、4対4戦か……懐かしいのぅ。もうそんな時期か。儂も武偵校に通っていた頃に仲間と共に全力を出し合ったものよ」
「……勝ったのか?」
「否、負けた」
彼は楽しそうにその時の事を話した。問題児だったが仲の良かった友人達とチームを組み、当時最強チームと呼ばれて居たチームと対戦し、全力で戦い、最後の最後で負けてしまったらしい。
「当時の儂等は負けた事は悔しかったが、試合自体には悔いは無かった。互いに全力を尽くしたのじゃからな」
「……俺の場合は、負ける訳には行かないがな」
「ならば、尚更今お主が持つ全てを持って全力で戦えば良い。儂等も勝つ為に少々やり過ぎた策を決行した。後に教務科の連中から『やり過ぎだ』と小言を貰ったがのぅ。お主も負けたくないのならば、悔いが残らぬよう、全力で挑むが良い。それが1番良い解決策じゃ」
悔いが残らないようにかぁ……確かになぁ。このまま何もせずに負けて世界を滅ぼした大魔王にされたらもう一生悔いしか残らなそうだしな。それにペナルティ執行されたら、俺多分生き残れないだろうし?どうせなら本当に派手にやるってのも良いな。うん、そう考えたらなんかやる気出て来た。
「……悩み事は解決したかの?」
「あぁ、貴方には礼を言わなければならないな。お陰でやる気が出た」
「ならばこんな所で油を売っている暇は無いぞ?4対4戦まで残り4日。これまでの時間を無駄にした分、残り時間を有効活用せねば、勝てるものも勝てん」
そう言うと彼はは立ち上がり、公園の出入り口の方へ歩き出した。今まで丸まって居たみーちゃんもベンチから飛び降り、彼の後を付いて行く。
「儂等はそろそろ帰らねばならん。迎えがすぐそこで待っておるのでな。ではな、綾辻の小僧。今日お主に会えて良かった。健闘を祈る!」
「にゃ〜ん!」
「感謝している。……あぁ、最後に1ついいか?」
「なんじゃ?」
俺は彼を呼び止めると、ベンチから立ち上がり、こちらを振り向いた飼い主さんに対して最後の問いを投げ掛けた。ぶっちゃけ今まで聞くのを忘れて居たのがちょっと恥ずかしい。ホントにすっごい今更感だけど、悩み事を解決してくれたし、ちゃんと聞いて置きたい。
「まだ、
「む?儂の名前か?……おぉ、そうか。儂は一方的にお主を知っておったが、まだお主には名乗って無かったのう。これは失礼した……、
儂の名は、
彼は……夏目漱石はそう言うと、みーちゃんと共に公園を出て行った。そうか、あの人は夏目漱石と言うのか。成る程、通りで見覚えがあった訳だ。今思い出した。あの声、あの顔、あの茶色と黒と白の3色の髪、あの茶色のトレンチコート、あの杖、あの山高帽……うん、間違いない。
(なんで夏目先生がこの世界に居るのぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!??)
夏目漱石ーーー能力名『吾輩は猫である』
彼は文豪ストレイドッグスに登場する、神出鬼没でどんな調査機関にも尻尾を摑ませず、更に政府と黒社会の両方に通じ、横浜を巡るありとあらゆる陰謀と作戦の近傍にいるとも言われている人物に、瓜二つだった。同姓同名同容姿の別人だとは思うが……連絡先ぐらい、貰ったけば良かったかもしれない。
★
夏目漱石side…
儂は綾辻の小僧と別れ、ミケと共に公園近くの駐車場に停められておった春野の小娘が運転する車の後部座席に乗り込んだ。春野の小娘は儂とミケが乗ったのを確認すると、すぐにエンジンを掛け、車を走らせた。
「どうでしたか?綾辻行人さんは?」
「うむ、なかなか面白い小僧じゃった。ミケが気に入るのも、良く分かる」
儂が綾辻の小僧の事を知ったのは、つい最近。儂の武偵犬ならぬ武偵猫のミケが、休暇で遊びに出て行き、誤って昼寝の最中にこの人工島行きのバスの上に落っこちて迷い猫になり、4日ばかり経って帰って来た時の事じゃった。
帰って来たミケは儂に謝罪をした後、不思議な力を持ち、凄まじい推理力を持った小僧の話をした。それを聞いて儂自身も興味が湧き、少しばかり昔の伝手を使って調べて辿り着いたのが、綾辻の小僧じゃった。
綾辻行人。幼少期に事故で両親を亡くし、自身は大した怪我は無かったが記憶喪失になってしまった。しかし両親と同じ武偵を目指して東京武偵校の試験を受ける。その試験の際、教務科の手違いで強襲科の試験を受け、更にはその試験で殺人を犯していた犯人を一瞬で見抜き、Sランクで合格。そして入学してから請けた全ての任務を完璧に完遂し、ミケの捜索任務の際はミケが面白半分で嗾けた違法密売組織を持ち前の銃の腕と推理力を使って1人でほぼ壊滅させる。
これだけ見れば優秀な武偵に過ぎん。警察もその推理力を頼って過去の未解決事件の解決を依頼している。じゃが儂が一段と興味を持ったのは、綾辻の小僧が解決した殺人事件の犯人が、全員
(その結果、綾辻の小僧は警察内で最近では『殺人探偵』などと呼ばれておる。綾辻の小僧が殺害しておるのか、偶然が重なり続けているのかは儂にも分からんが、儂の気配に気付くだけの実力はある様じゃ)
4対4戦は4日後の午後1時からじゃったな。その日は特に予定もない。少しばかり拝見させて貰うとするかのぅ。
「さて、どのような策を用いるのかのぅ?期待しておるぞ、綾辻の小僧」