神の炎剣を拾った少年 ~精霊の少女は未来に降り立つ~ 作:ごぼう大臣
――レヴィがテント内の二人を起こしにいく、少し前の事……――
寒々とした風が吹き、静けささえも耳を痛めてきそうな冬の夜更け。
藍色の人気のない景色の中に、ポツンと焚き火の明かりがともっている。その近くには一人の少年が座り、少し離れて四、五人入れそうなテントが張ってある。
温泉街ボルノダ、もとい神器の手がかりを求めて旅をしているリオンたち一行である。
その周囲は、彼らがキャンプをしている場所を挟むように鬱蒼と生い茂った森が細道の左右に分かれて広がっている。その木々がつくる暗闇の中に、茂みに隠れてリオンとその隣のレヴィの姿をうかがう、三人の男の影があった。
「か、
「やめようぜ……つい昨日、みんな奴らに殺されちまったじゃねえか」
三人のうちひょろ長の男二人が、真ん中の大柄な男に不安そうな声でささやく。その大柄は焚き火に照らされたリオンとレヴィを、眼帯をつけていない片目でギロリとにらんだまま、仲間の弱音を切り捨てた。
「バカ言ってんじゃねえ、殺られっぱなしで引き下がれるか。奴らの半分は寝てる、今がチャンスだ……!」
眼帯の男は忌々しげに言い放ち、眉間に深いシワを刻む。何を隠そう、彼らは昨日リオンたちを襲って返り討ちにあった盗賊たちである。首領の眼帯男は生き残った二人の仲間とともに、リオンたちに逆襲しようと機をうかがっていたのである。
「お前らも見たろ、あの剣から飛び出した魔法……ありゃ相当な値打ちモノだぜ」
相手を追いつめていたはずの仲間の過半数を一瞬で葬り去った火法。それを思い返した首領は恐怖と同時に欲望を沸き立たせ、背筋を震わせた。かつてあった天上の遺物、神々の使った神剣などとは夢にも思わなかったが、剣からかいま見えた力は、ありふれた無法者を魅了するには十分だった。
しかし、首領がそう語っても、横の手下二人は乗り気にならなかった。
「けど……万が一ってのがありますし……」
「金なら他の獲物を狙えばいいだろ。命には代えられねえよ……」
手下たちは尚もためらい、首領に抗弁する。しかし、当の首領はそんな彼らを一喝する。
「ダメだ! お前らも知ってるだろ。冬場は旅人も少なくなって、儲けが減っちまうんだよ!」
「しかし……」
「それとも、またあの村に戻りたいのか?」
「ぐっ……」
首領がなにやら脅迫めいた事を言うと、手下はあえなく押し黙る。するとその直後、弱って目を逸らした手下が、リオンのいる方角にある変化をとらえた。
「……? あれ……!」
「ん?」
手下の一人が小さく声をあげると、首領も同じ方角を凝視する。その向こうではちょうど、見張りをしていたリオンが隣にいたレヴィを「寝ている二人を起こしてきて」とテントに送り出していた。
「まさか勘づかれたんじゃ……」
「……あのガキンチョ、見覚えあるような、ないような……?」
手下の一人が焦りだすが、首領はむしろ好都合という風に口角を吊り上げると、二人の手下にこう命じた。
「慌てるな。一人きりになっているうちに、アイツを人質にとってやる。耳を貸せ……!」
「…………」
手下たちはいまだに諦め悪く顔を見合わせていたが、やがてしぶしぶ首領へと耳を傾けた。リオンたちに、いよいよ危機が迫りだしたのである。
――
一方その頃、レヴィをテントへ行かせたリオンは依然として座った姿勢でいながら、極力さとられないようにして神経を研ぎ澄ませていた。盗賊が襲ってきた時、すぐに対応し、最悪でも仲間たちが援護に来てくれるまでは時間をかせげるようにと、目、鼻、耳で刺激を取りこぼさないようにする。
そして間もなく、彼の視界の隅で自分に向けた黒い魔法陣が光るのを、彼はとらえた。
「呪法・【
首領が遠くでそう唱えると同時に、リオンの体がずしりと重たくなる。続けて、彼の向かいの森から、左右に挟むようにして手下の二人がリオンに襲いかかる。
恐らく、動きを鈍らせた隙に勝負を決めてしまうつもりだろう。しかし、すでに首領の魔法を見ていたリオンは、ある対抗策を考えていた。
「祝法・【俊敏】!」
紫の魔法陣を自身に向け、リオンが呪文を唱える。すると彼は素早く腰を上げて剣を抜き、手近な片方の手下を迎え撃つ。
「なっ!?」
敵を前にした手下はたたらを踏み、あからさまに狼狽した。相手は【魯鈍】の効果ですぐに応戦できないとたかをくくったのだろうが、真逆の【俊敏】を使えば打ち消す事が可能なのだ。隙をつき、リオンは手下のナイフを勢いよく剣で弾き飛ばす。
「ぐわっ!」
手下の鈍い悲鳴と、鋭い金属音が鳴り響き、ナイフが森の向こうへと消えていった。
リオンはすかさず両腕を内側に組み、手下に渾身の体当たりをかまして地面に押し倒しす。
「ぐぐうっ!」
二度目の敵の悲鳴。しかしさすがにそれ以上の追撃をするヒマはなく、すぐに背後からもう一人の手下と首領が襲いかかる。
リオンは倒れている手下に膝を乗せたまま振り向くと、視線は盗賊に向けたまま、すぐ近くの焚き火へと手を伸ばしてこう唱えた。
「火法・【火種】!」
本来ならばほんの小さな火を起こすだけの初級魔法。しかし実物の炎越しに使うことで、その魔法は一瞬だけ火力を跳ね上げる効果を発揮する。
やにわに炎が大きく燃え上がり、襲いくる盗賊たちに肉薄する。
「うわっ!」
「があぁっ!?」
手下と首領ががとっさに顔をかばい、立ち止まって悶絶する。リオンはその隙に下敷きにしている手下の服ごと剣を地面に突き立て、身動きを取れなくする。続けて、自身にもう一つ魔法をかける。
「祝法・【剛力】!」
一定時間だけ腕力を増大させると、目の前の手下に向けて飛び出す。手下はナイフを振りかざして応戦してくるが、リオンはそれをギリギリでかわして握りこぶしをつくると、腰を落として手下の横腹を殴りつけた。
「ぐふ!?」
ミシリ……という嫌な音が鳴り、手下が横腹を押さえて後ずさり、へたり込んだ。魔法で強化した拳はそれだけで相手を戦意喪失させるのに十分だった。殺さずに済んで安堵したのか、リオンは険しい表情をわずかに緩めた。
が、まだ敵は残っている。一番大柄な首領が山刀を構え、猛然とリオンに突進する。
「調子に乗るなぁ!」
首領の振るった山刀がリオンの腕をかすめ、服の肩口に裂け目が走る。一瞬おくれたら食らっていただろう。冷や汗をかきながらも丸腰で身構えるリオンに、首領は容赦ない追撃を次々に見舞う。
「おら、おらぁ! 観念しやがれ!!」
「くっ……」
縦に横に、山刀の刃が音を立てて飛び交う。リオンは祝法の効果のおかげでどうにか避けていられたが、山刀と手足のリーチの差もあって有利とはいえなかった。懐に飛び込んで万が一かわされてしまえば、その隙に首を落とされかねない。
どうにかして祝法の効果が切れないうちにケリをつけたい……。彼が頭の隅でそう考えていた矢先。
「うわっ!?」
不意に、リオンの着ていたマントが後ろへグイと引っ張られ、彼はあお向けにひっくり返った。混乱する頭でリオンが後ろへ顔を傾けると、そこには最初に倒れた手下が、マントの裾を足蹴にしているのが目に入った。おそらく足でマントを踏みつけて引っ張ったのだろう。
「くっ……!」
リオンはジタバタともがいたが、手下はなかなかマントを放さない。そうこうしているうちに、首領がリオンを上から見下ろし、下向きに山刀を突きつける。しかもタイミング悪く祝法が切れたのか、リオンの体に少しずつ重みが広がりはじめた。
「手こずらせやがって……!」
焚き火に照らされ、つり上がった片目が鋭く光る。首領はもがくリオンの片腕を踏みつけると、一瞬がら空きになった腹へ山刀を突きつけ、鈍い音を立てて刃を沈めた。
「う……ぐ……っ!」
腹に刺すような痛みとえぐるような痛みが同時に広がり、リオンは思わず目を固くつぶる。額から汗がにじみ、反射的に唇を強く強くかむ。
「逃げ出されちゃ困るからな。念のためもう一発……!」
首領は苦しむリオンの顔を愉快そうに見下ろし、なおも追い撃ちを加えようとする。
しかし、首領が勢いよく山刀を引き抜いた時。その山刀の先が彼の目に止まると、首領はなぜか、ピタリと動きを止めた。
「んー……?」
「……?」
首領は
「
「……いや、血が出てないんだ」
「は?」
不審そうに答えた首領に、手下は間抜けな声を漏らす。すると寝ている格好のもう一人の手下が、
「何バカ言ってんだよ? さっさと……」
「いや、本当だ! よく見てみろ!」
首領は手下に向けてどなり返すと、山刀をリオンたちと手下のすぐ目の前で振り回す。確かに腹を突き刺したにも関わらず、山刀の刃はまるで血など欠片も吸っていないかのように、銀色に反射して光っている。
手下たちはそれをしげしげと見つめ、首領と同じように眉をしかめた。そんな中でリオン一人が、以前レヴィが言ったある言葉を思い出した。
……昨日の昼間、盗賊たちを追い払った直後、魔力の枯渇で倒れて
"「どうして……? ボクと契約したら、大抵の傷や毒なんて何ともないハズなのに……」"
結局今まで特に気にしてはいなかったが、もしかするとあのセリフは本気だったのかもしれない、とリオンは思った。その証拠に、山刀が引き抜かれた部分から、だんだんと痛みが引いてゆく。
盗賊たちは出血ばかりに意識が向き、リオンを見ていない。彼は隙をみて反撃に移ろうと、こっそりと手足に力を入れる。
その直後。
「雷法武術・【
魔法を唱える声とほぼ同時に、首領の全身をまばゆい電流が走った。白色の蛇のような光が瞬き、首領が後ろから刺されたような格好で背をそらしてビクンと硬直し、バリバリという轟音が一瞬おくれて辺りに響き渡る。
「ぐああっ!?」
首領が絞り出すような悲鳴をあげる。リオンが目を見張って首を傾け、首領の背後を見ると、肌着で髪を下ろし、剣だけ持ったニールが、レヴィに引っ張られてテントから出てくるのが見えた。
「なっ……」
首領の隣にいた手下が、ニールと首領の両方を見て狼狽する。その隙に、茶色いローブがばさりと彼に被せられ、別の誰かがその上に飛びかかる。
「のわっ!?」
驚いてローブの中でもがく手下を、上に乗った誰かは平然と押さえ込み、首もとにナイフを突きつける。焚き火に照らされて見えたその少女は、ミィナだった。
続けて、いまだ痺れてよろめいている首領にニールが後ろからぶつかると、手から離れた山刀を素早く足で後ろに蹴りとばし、背中から押さえつけて剣を突きつける。大柄な首領を相手にしているにも関わらず、ニールの押さえ込みはろくに動く隙も与えなかった。
それを視界にとらえながら、リオンはふと、マントを押さえる手下の力がゆるんでいるのに気づいた。リオンは素早く横に転がって逃れると地面に刺さった剣を抜き、突然の事態に焦っていた手下に膝を落とすと、剣を首に突きつける。
「ぐっ……この!」
「……ふぅーっ……」
リオンの下で手下が憎々しげに睨んでくる。しかしリオンは気にしてはいられなかった。命拾いし、相手を無事に拘束できたという安堵と、抵抗されないようにという緊張であまり思考の余裕はない。が、その時。
「リオン、大丈夫?」
今まで気が気でなかったであろうレヴィが大慌てでリオンに駆け寄る。「契約者なら怪我は平気だ」と自分で言っておいて忘れているようで、リオンはついぎこちない笑みをこぼす。
「うん、なんとか平気……。お二人もありがとうございます。助かりました」
「いや、むしろ遅くなってすまん。それより……」
礼を言うリオンに、ニールは真面目な表情を崩さずに相づちを打ち、眼下の首領をにらみつける。首領は眼帯のない片目でにらみ返すが、その瞳には悔しさがにじんでいた。
これから先に何をされるか予想がついているのだろう。ニールは動じる様子も見せずに、剣を動かす。
しかし、刃が首に触れるその寸前。
「……待ってください」
ふと、リオンがそれを止める。ニールが戸惑ったように顔を上げ、ミィナは険しい目を向けた。
「何だよ?」
「あの……一度、この人たちから話を聞きませんか? せっかく捕まえたんですから」
リオンの言葉に、ニールは怪訝そうに眉を動かす。組み伏せた首領から目を離さないようにしつつ、彼はこう聞いた。
「話って……なんの話だよ」
「街から出る前に聞いたでしょう。『最近この辺りで盗賊が増えている』って。何か原因でもあるなら、今後のために聞いておいた方がいいでしょうし……」
リオンは淡々とした様子で語っていたが、その表情にはやや硬さがあった。大方、殺すのをためらっての口実が混じっているのだ、とニールたちには察しがついた。
とはいえ、情報を引き出すのも全くの無駄ではない。他の盗賊などの居場所を聞き出せたのなら、今後の道のりはいくらか楽になるだろう。
ニールとミィナは思案顔を見合わせると、しばらく無言で盗賊たちを窺いつつ視線を交わす。レヴィはその間に入れずにキョロキョロと周りを見回していた。
……一分ほど、二人の考える時間は続いた。取り押さえられた盗賊たちは気が気でないという風にそろって冷や汗をかき、ぶるぶると唇をかんでいる。かろうじて目に力が宿っているのは、首領だけだった。
やがて、その恐怖と焦りに耐えられなくなったのか、ミィナの下にいた手下が突然口を開いた。
「お、おっしゃる通り、他にも何人か同じような奴らはいるはずですっ! 確かこの先のボルノダの近くへ逃げるって……」
「っテメエ! むざむざ言いなりになる気か!?」
「命には代えられませんよぉ! お互い村を捨てたのに、俺らだけ義理立てして死にたくないですって!!」
首領が目をむいて怒鳴ったが、手下は早口に言い返す。そのところどころ裏返った声には、切羽詰まった恐怖がありありと浮かんでいた。
のしかかったまま聞いていたミィナは手下に改めてナイフを突きつけると、冷徹な声で質問を浴びせる。
「……少し詳しく聞かせてもらおうかしら。"俺らだけ"って、仲間はいるの? 例えば手分けしてお金を集めてるとか……」
「な、ないです。みんな散り散りで、偶然顔を合わせただけです」
「みんな……なら、元は知り合いなのね? あと村を捨てたっていうのは……」
ミィナがなおも質問しようとしたところで、リオンに捕まっていた手下が、ぼそりと言い放つ。
「……エルノア村のことさ」
「……!」
その言葉に、リオンたち三人の顔色が変わる。間近で聞いていたリオンは素早くニールへ顔を向けると、確認するように問う。
「エルノア村って、確か……」
「……ああ、俺らが今まさに向かってる村だ」
ニールも同じく覚えていたのか、神妙な顔でうなずく。エルノア村。リオンの地図にも載っていた、エノーラ街とボルノダ街の中間に位置し、そしてリオンたちが中継するつもりでいた村の一つである。唯一レヴィだけが、「そうだったっけ?」と呟きながら宙をにらんでいた。
「……村で、何かあったの?」
質問するミィナの声が鋭くなる。実際、貧しい村で食い詰める者が出るのは珍しくはない。しかし、盗賊に身を落とす者がそう何人も、みな同じ村から出るなどというのは現実味のない話である。ミィナは問い詰めるうちに、盗賊の答えから不吉なものを感じ取っていた。
ところが、肝心なところにきて、盗賊たちは口を閉ざしてしまった。手下たちも、首領も、ピッタリと唇を結んで目を伏せる。それは単なる意地や抵抗としては、不可解なしぐさだった。
ナイフを使っての詰問に怯えているのではないだろう。それならばさっさと情報を吐くはずだ。ましてや組織だった盗賊でもないとなれば、裏切る事へのリスクもない。
彼らが捨てたというエルノア村で、そこまで口にするのをためらうような出来事があったのだろうか。取り押さえている三人は曇った表情を見合せる。真ん中に立ったレヴィも、雰囲気を察してか首を縮めて視線をさまよわせた。
「くっ……くくく……」
「っ!?」
不意に、黙っていた首領が笑い出す。リオンたちが驚いて身構え、視線を向けると、首領は真っ青な顔にひきつった笑みを浮かべていた。
「……何がおかしい?」
不審に思ったニールが問うと、首領は目を伏せ、吐き捨てるようにこう言った。
「"村で何かあったの?"だって? ……くくく……軽々しく聞いてくれるじゃねえか」
そのセリフを聞いて、手下の二人もなにやらぎゅうっと目をつぶり、地面に額がつきそうな程にうなだれる。よほどの事情があるのだろうか。怪訝そうに盗賊たちを睨むミィナに代わって、今度はリオンがなおも質問する。
「……一体何があったんです? 話してください、こんな事する理由があるなら……」
「そうだよ、気になるじゃん! 男ならハッキリしてよ!」
レヴィも同調して首領のそばへと駆け寄る。首領はしばらく横からジッと憐れみをたたえた視線を注いでくるリオンと、憐れみともどかしさが半々といった目で見下ろすレヴィを代わる代わる見つめていたが、辛抱強く言葉を待つリオンたちに折れてか、ポツリとつぶやいた。
「……言えないんだよ」
「へ?」
「とても口で言えるようなものじゃない」
首領の言葉はほぼ内容を持たなかった。リオンが困惑していると、彼の下にいた手下が話し出す。
「……村の連中が、村全体が変なんです」
「なんですって?」
「そうとしか言えません……。何がなんだか分からなくて……逃げ出すしかできなくて……」
ミィナに押さえられた手下が消え入りそうな声で話す。リオンたちは急いでその声に耳をすませたが、要領を得ないうちにまた口を閉ざしてしまう。ニールがやれやれと肩をすくめた。
「村が変に、ねぇ……」
「村が貧しいとかならまだしも、変ってのはよく分からないわね」
「けど、こんな時に冗談は言わないですよ……」
「本当の事ならくわしく話してくれたらいいのに」
リオンたちは懐疑的な顔を見合わせ、首をかしげた。盗賊たちは相変わらず貝のように口を閉じたまま、身じろぎ一つしなかった。ミィナがさらに質問しようとした時、首領がやけくそに怒鳴るようにして言った。
「もういい! さっさと殺せよ! どうせ行き場はねぇんだ、村の事なら自分で確かめてくりゃいいだろ!!」
「え、えぇ、頭ぁ!? そんな死に急がなくても……!」
「俺の兄貴や友達もおかしくなっちまった……お前らだって未練はねえだろ!」
「……っ」
「いやだぁ! 死にたくない! 死にたくないっ!!」
首領の声を皮切りに、手下たちまでにわかに騒ぎ出す。ニールはそれを聞きながら困り果てた様子でため息をつき、リオンはみるみる表情にためらいを浮かべ、思い詰めたような顔で盗賊たちの言い争いを見つめていた。
しばらく横目にそれを見つめていたミィナだったが、ふと、リオンの隣にいるレヴィの姿が目に入った。
自らの体をくるむかのようにマントの襟をかき寄せ、どこか心細そうな顔で盗賊たちを見つめている。見苦しく騒ぐ盗賊たちに、一言も口を挟まなかった。その姿が目立って見えたのは、焚き火で陰影が濃かっただけのせいではないだろう。
以前、例えばリオンを操って男を殺させようとした時とは大きく違っている。それを目にしたミィナの中で、果たしてこのまま殺してよいものか、という考えが膨らみだす。
やがて、彼女は一つ小さく息を吐くと、よく響く声でこう言った。
「……ならこういうのはどうかしら」
その声に、盗賊たちを含め全員がミィナに視線を向ける。彼女は顔を上げ、人差し指を立てて話しだした。
「この三人をエルノア村に送っていく……っていうのは」
「なっ!?」
盗賊たちの顔がとたんに絶望に染まる。リオンたちもその真意を掴みかねたのか、遠慮がちに問いかける。
「ミィナさん、一体なぜ……?」
「そうだぜ。生かすにしても、なんでわざわざ……」
戸惑う二人をミィナは冷静に見返すと、変わらない調子でこう続けた。
「まず、村の周りが盗賊だらけなのは、噂にもなっているし本当と見ていいでしょう。だとしたら安全のために、その"変"な村にも厄介にならざるを得ないわ」
「連れていって、取引でもしようというんですか?」
「そんな大げさなものじゃないわ。こいつらは被害者としてのカード、保険材料よ。その代わり私たちにまで危害が及ぶような事があれば、
「…………」
リオン、そしてレヴィの二人は釈然としない様子でミィナを見つめる。ニールもどこか気がとがめるのか、頬をかいて小さくうなる。
そこにミィナは、強い口調で言い添えた。
「……どの道こいつらを野放しにはできないし、場合によっては私たちで脅威を解決できる。それに肝心なのは自分たちの安全……。これがギリギリの譲歩よ。皆は?」
「む……」
ミィナが仲間の三人を見回して問いかけると、三人は恐る恐る顔を見合わせた。ニールはほどなくしてうなずいたが、リオンとレヴィは気重そうに渋っていた。
やがて、リオンたち二人も互いの目を見てようやく決意したのか、こくりとうなずく。ミィナはそれを確認すると、レヴィに言った。
「レヴィちゃん。悪いけど、私のザックからロープとってくれる? 長いのが一本あるはずだわ」
「え……何に使うの?」
「木に縛りつけとくのよ。逃げないようにね」
淡々と指示をするミィナに、レヴィはあっけに取られながらも従う。リオンとニールは気を取り直すように腰を上げ、改めて盗賊たちを拘束する。
ミィナは同じように手下を引っ張り起こすと、途中で気づいた肋骨の骨折(リオンが殴った場所)に祈法をかけてやりながら、その手下の表情を何気なく見た。
いまだに闇が広がる冬の夜長に、手下の顔はエルノア村への恐怖のためか、凍えるように血の気が失せている。
それを見ながら、ミィナはこれから降りかかる災難を予感していた。