神の炎剣を拾った少年 ~精霊の少女は未来に降り立つ~ 作:ごぼう大臣
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「待て!」
「待て!」
「待て!!」
見かけるなり農具を振り上げ襲いかかる村人たちをかき分け、リオンたちは悲鳴のした場所へと一直線に走る。やはりそこに見られたくない秘密があるのだろう。もはや人間味のない村人たちは皆、攻撃的な目付きでリオンたちを追いかける。
「ったく、しつこい奴らだ!」
「リオン君、あなただけでも先に!」
息を切らしながらミィナが叫ぶ。リオンはそれを聞くと振り向いて一つうなずき、自分の胸に手を当てる。
「祝法・【俊敏】!!」
魔法を発動し、リオンは風のような速さで村を駆け抜ける。ほどなくして山沿いの切り立った崖と、その下に建つ収容所が見えてくる。
「は、放せ! いやだ、やめてくれよ!!」
崖がむき出しになっているある場所に、ちょうど収容所の裏口がつながっていたのだろう。そこからマルクと、村人数人に捕まえられた盗賊たちがもがきながら出てくる。
あの生き残りの三人全員が、みっともなく叫んで助けを求める姿には、あのリオンたちを襲撃した頃の威勢は微塵も感じられない。
村人は彼らの悲鳴を意にも介さず崖へと投げ捨て、そそくさと離れる。その直後に、マルクが盗賊たちを見下ろしながら両手を突きだし、茶色の魔法陣を出現させると、こう唱えだした。
「
その瞬間、盗賊たちが崖の断面に接している手足の先から、土がひとりでに伝い、体を徐々に侵食するように覆っていく。彼らは動けないのか、恐怖に目を見張ったまま身を凍らせている。
「やめろーーっ!!」
そこに、剣を抜いたリオンが叫びながらマルクに向けて躍り出る。リオンが剣を振り下ろすと、マルクは反射的に身をかわす。もとよりリオンは威嚇のつもりだったのか、かすりもしなかった。
ただし魔法が中断されたおかげで、盗賊たちにまとわりついた土がばらばらと崩れ落ちる。
「……お前、起きてたのか!?」
「マルク……一体、何を!?」
マルクは驚きつつも鋭く目を光らせ、敵意をむき出しにする。対してリオンは剣をかまえ、目にした魔法に動揺しつつもマルクをまっすぐに見据える。
『リオン、後ろ!』
「っ!!」
レヴィの声に後ろを振り向くと、盗賊を捕まえていた村人のうち二人が、背後から農具を振り上げ襲いかかってくる。リオンは振り向きざまに剣を振りかざした。
「うおぉっ!!」
剣を大振りに振り回し、村人の農具を同時に両断する。そして返す刀で村人の足元を切り裂いた。
村人たちはバランスを崩し、あっけなく倒れた。これで動けなくなる。そう思っていたが、リオンは次の瞬間、村人を見て目を見張った。
確かに切り傷が入った二人の
その崩れた傷口に、倒れた地面の土が少しずつ集まり、足が元通りに治っていく。それはまるで、さっき盗賊の手足を土が覆っていった様子にそっくりだった。
「人間じゃ……ない?」
『体まで変になってたの?』
足が治った村人はまるで傷を受けた事など忘れたかのように、そろって無言で上体を起こす。うろたえるリオンに、今度は別の村人が背後から襲いかかる。
「おおっと!」
そこに、追いついてきたニールが割って入る。リオンが振り返ると同時に村人は飛び退いた。その直後、遠くから青色の魔法陣の光がかすかに灯る。
「水法・【流波】!」
立ち上がった村人を、横殴りの水流が一気に呑み込む。すると、どういう訳か村人はまるで皮が一気に何重もむけるかのように痩せ細り、シルエットを一瞬で変化させる。
水が引いた時には、村人はむき出しの骨だけの……水浸しの骸骨と化していた。血肉を洗い流されたそれは、糸の切れた人形のようにガラガラとその場に崩れ落ちる。
「あ……あ……」
「……土属性には……水がよく効く……!」
愕然としているリオンのもとに、遅れて来たミィナが歩いてくる。息せき切らして駆けつけたせいか足元が少しふらついていたが、乱れた髪の下の瞳には、隙のない光が宿っている。
そしてミィナはマルクをキッとにらむと、静かに刺すような声で言った。
「やっぱりあなたが黒幕だったのね。マルク」
「……何の話さ?」
マルクは肩をすくめてしらばっくれたが、ミィナは淡々と続ける。
「……生きた人間を生け贄にして、極端に知能が落ちた言いなりのゾンビを作り出す、土属性の術……屍縛操傀。何十年も前に国が禁術にしたはずなんだけど……」
「…………」
「とにかく、生かしてしょっぴく理由が出来たわね。どんな理由があろうと、あなたはこの一点で罪人ってわけ」
表情をけわしくしていくマルクに、ミィナが話しながら近づいていく。マルクは追い詰められたように後ずさったが、すぐにニヤリと笑みを浮かべた。
「ふ、ふふ……何言ってるんだ。たったの三人で勝ったつもり?」
「いきがるんじゃねぇ。ケガしたくなけりゃ降参しろ!」
ニールが剣を向けるが、マルクはバカにしたように鼻を鳴らすと、村の家々の方をアゴでしゃくる。見ると農具を持った男たちが、十人以上も群れをなして走ってきていた。続いて収容所の中からも、同じように生気のない顔をした村人、もといゾンビたちが何人も飛び出してくる。
「僕が念じれば、奴等はいくらでも集まってくるんだ! お前らもその仲間に入れてやる!」
「ちぃっ……」
ニールは舌打ちし、近くに来たゾンビに向き直ると、剣に黄色い魔法陣を浮かべ、こう唱えた。
「雷法武術・【迅雷斬】!」
二、三人を巻き込む勢いで、雷をまとった剣で薙ぎ払う。しかしゾンビたちは一瞬しびれるように動きを止めたものの、すぐに何事もなかったように襲いかかってくる。
「くそ、効いちゃいねえ!」
「土に雷は相性悪いわよ、忘れたの!?」
「んなこと気にしてられるか!」
人数が多いために、ニールやミィナの表情には焦りが浮かび始める。リオンも再生するゾンビ相手に囲まれながら、苦戦しているようだった。
「この……このっ!」
四方から肉薄してくるゾンビたちに、リオンは右へ左へ休む事なく剣を振るう。見た目が人間なせいか、この期に及んでもリオンは魔法を使えないでいた。次第に額に汗が浮かび、体が重くなってくる。
そんな時、彼はゾンビの群れの向こうに、マルクの背中を見つけた。収容所の裏口に向けて、この隙に逃げ出そうとしている。
「マルク!!」
リオンが叫ぶと、マルクは忌々しそうに振り返り、ふと崖の斜面へと手をつける。そしてリオンがゾンビを振り払うのを尻目に、また魔法を唱える。
「禁外土法・【
すると、マルクの手のひらに引っ張られるようにして、大きな土の塊がひとりでに盛り上がって崖から分離しはじめた。ほどなくして抉り出されたそれは、マルクの三倍ほどにも背の高い、大きな土の人形、もといゴーレムとなった。
リオンが驚く間もなく、そのゴーレムは一直線にリオンへと迫ると、拳を振り上げて思いっきりパンチを繰り出した。
「うわっ!?」
リオンは紙一重でかわしたが、ゴーレムの拳は風を切りながらゾンビどもを巻き込み、地面へと突き刺さった。ゾンビが土くれと骸骨もろともに砕け散り、地面は雪をはね飛ばして凍った土に拳がめり込む。
よほどの威力だったのか、ゴーレムの腕にピシリと亀裂が入ったかと思うと、肘から先が派手に崩れた。
「え……?」
リオンが戸惑ったのもつかの間。その崩れた腕に引き寄せられるように、ゾンビの残骸や地面の破片が集まっていく。そしてその腕は鉄屑を集めた磁石のように膨れ上がった。
「このゴーレムは壊れれば壊れるほど、大きくなってよみがえる……! せいぜい相手をしているがいいさ!」
「あ、待て!」
吐き捨てるように言って逃げ出したマルクを、リオンはすぐさま追おうとする。しかし、目の前のゴーレムが壁となり、なかなか思うように動けない。
「水法・【破流波】!」
その時、彼の背後から大きな水の塊が直撃し、ゴーレムがひっくり返る。リオンが振り返ると、魔法陣を出したミィナが張り裂けそうな声で叫んだ。
「リオン君、こっちはいいからマルクを追いかけて。逃がしちゃダメ!」
「で、でも……」
「ゾンビやゴーレムを止められるのは、どのみちマルクだけよ。早く!!」
リオンはためらっていたが、ミィナの真剣な表情に圧されて前へと向き直る。ひっくり返ったゴーレムは体の一部を溶かしながらも、地面の土を吸収して膨れ上がり立ち上がろうとしている。あまり時間はない。
リオンは意を決して駆け出し、最後に一度振り返って言った。
「すみません、ここは任せます!」
『気をつけてね、すぐ戻る!』
「祝法・【俊敏】!」
そして彼は収容所の中へと消えていった。それとほぼ同時にさらに巨大になったゴーレムが起き上がり、その周りにゾンビたちが結集する。まるでマルクのもとへは絶対行かせないと言いたげだった。
「……さぁてニール。しっかり守ってちょうだいね」
「たまーにお前が頼ってくる時って、大抵ろくなもんじゃねえよな」
「二人きりの時くらいカッコいいところ見せなさいよ」
「しょうがねえな……じゃ」
二人が軽口を言い合う間にも、ゴーレムとゾンビは容赦なく迫りくる。それらに改めて剣を構え、ニールは強気に言い放った。
「カッコよく盾になりますか!」
その一言を皮切りに、ゾンビたちとゴーレムが一斉に二人の方へと走り出した。