神の炎剣を拾った少年 ~精霊の少女は未来に降り立つ~ 作:ごぼう大臣
「……それにしても、チェインメイルってすぐダメになりますよね……。もう自分で作ろうかな……」
「なぁーに気にすんな。安物の防具なんざ消耗品さ」
「ニールはちゃっかり分厚い鎧着てるけどね」
「ボクから見ればみんなチャチな代物だけどねー。人間はもろいから心配だよ」
……数十分後、買い物を終えた一行はおしゃべりをしながら街をぶらついているところだった。真新しい防具の着心地をしきりに気にするリオン、備蓄のためにと買った黒パンをさっそく食べているニール、そんなニールを見てあきれつつ、自分の備品のチェックをしているミィナ……。そしてスキップしながら歩いていたレヴィが、ぴょんと飛んで三人の前に躍り出ると、くるくると回って身に付けていた自分の新しい衣服を見せつけた。
「ねぇねぇ! そんな事よりこれ似合ってる? このマントと靴!」
レヴィは、途中で買ってもらった子供用の黒いマントをはためかせ、満足そうに頬笑む。布もデザインも特に変わっている訳でもない安物だったが、右の肩口にある赤い蛇の刺繍が、彼女は気に入っているようだった。雪に配慮して買った革のブーツも、幸い履き心地は悪くないようだ。
「うん、よく似合ってる。カッコいいよ」
「……もっと可愛いのあったのに」
リオンは頬をゆるませ誉めていたが、ミィナは少々不満げだった。対してレヴィは刺繍を見てまた嬉しそうに跳ねてから、今度はニールに話しかける。
「けど、食べ物や薬ってずいぶん念入りに買うんだね。お金大丈夫だった?」
「ん? なーに気にすんな。なんせ銀貨一枚につき、銅貨百枚ぶんの価値があるんだからな。十分残しておけるぜ」
「さっそく食べてるニールはともかく……食糧や薬はケチれないわよ。前みたいな事になりかねないし」
「貧乏な時は本当に大変だぜ。『銅貨一枚の報酬でもいいので仕事をください! どうか、どうか!』って」
「……はぁ、言うと思った」
「あはは……」
脱力するミィナと、苦笑するリオン。そのうち彼らは建物の隙間を抜け、低いレンガの塀に囲まれた、円形の広場に出た。中央の花壇や塀沿いにいくつか並べられたベンチを見ると、寂しく雪に埋もれてはいるが、公園のように見える。
そのせいか、おしゃれをした若い男女のカップルが数組、辺りを歩いているのが目に入る。
「宿ってまだ歩くの? まさか泊まるってのはここで野宿を……」
「違う違う。
「ふーん、真ん中ね……」
レヴィは辺りの風景をしげしげ眺めながら呟く。春や夏にはもっと賑わうだろうになぁ、とリオンは少し惜しく思ったが、レヴィはそれでも興味深そうに公園を隅々まで見渡していた。
「それと、街の中心っていったら面白いものがあるよ」
「え? なになに?」
「それはね、ほら。あの丘の上……」
そう言って、リオンは数百メートル先の、公園を一望できるような小高い丘を指さした。レヴィはその方角に振り向き、
「よお! お前らいたのか!」
そのなれなれしい声に四人はそろって振り向き、嫌な顔をする。その男は他でもない、冒険者ギルドで言い争いになった男だったのだ。
大柄な体を鉄の鎧に包み、太い腕や足にまとったすね当てや腕鎧をガシャガシャ鳴らしている。武骨で大きな顔のてっぺんは綺麗に剃り上げられ、いかにも寒そうだ。その両隣には、一人は痩せぎすで長身、もう一人は背が低く太っちょという対照的な体つきの取り巻きがくっついていた。
「……なんか用か? ハゲ」
「そう邪険にするなよ。今はお互いプライベートじゃねえか」
食ってかかるニールにニタニタした笑みを返し、男は取り巻きとともにリオンたちの行く手をふさぐように詰め寄ってくる。リオンが間近に迫った男をいぶかしげに見上げていると、男は言った。
「誰だよ、その女の子は?」
「あ……この子はその、この街の知り合いですよ」
「ふーん、可愛い子じゃん」
男はレヴィを見下ろしてからかうように言う。その様子を見て、レヴィはなんとも気持ち悪そうな、不機嫌な表情を浮かべていた。
それをまるで気にせずに、男はリオンたちに向き直ってこう切り出した。
「なあお前ら、さっきはウヤムヤになっちまったが……そのリオンとやらは結局、役に立ってるのか?」
「お前に関係ねーだろ」
「いやいや、もしかしたらこれから先、オイラたちと組む事もあるかもしれないじゃないっスか」
「ぬへへ、そうなんだな。だからなるべくギルドメンバーの腕前はつかんでおきたいんだな」
ニールは相変わらず取り合おうとしなかったが、取り巻きがしつこく食い下がってくる。ニールは一つ舌打ちした
また言い争いになりそうな雰囲気を感じ取り、リオンがあわてて口を開く。
「あの、僕はまだ二人とやるつもりですから! 放っておいてください!」
そのセリフに男が振り向き、リオンを一瞥する。すると鼻で笑って、彼はこう言った。
「おいおい、そりゃないぜ。同じ奴といつまでもやれるほど、冒険者は甘くないぞ~?」
「そうそう。不慮の事故で死んじゃったりするかもしれないっス」
「ぬへへ、そうなんだな。使えるならその時組んでやってもいいと言ってるんだな」
「……っ」
軽々しく"死"の話を持ち出され、リオンは思わず唇を噛む。その時、黙っていたミィナが口を挟んだ。
「ちょっとあなた達」
「ん?」
「こんな場所までぞろぞろ来て、結局何がしたいのよ。こっちはもう帰るところなのに」
ミィナは連中を追い払うように手を縦に振り、つっけんどんに言い放つ。それに便乗して、レヴィも面倒そうな声を張り上げた。
「そーだよ。ボクなんてせっかく新しい服買って気分よかったのに。どっか行ってよ邪魔だから」
「……その声、聞き覚えが……。いや、それよりもだ」
邪険に扱われた男は何か思い出したように顎をさする。そして「まだ本題を言ってなかったなぁ」と前置きして、どす黒い笑みを浮かべた。
「なあリオン。実はお前を探してたんだ……。ちょっくら俺と勝負しないか?」
「……勝負?」
「おうよ。何も殺し合いをやろうってんじゃねえぞ。互いの武器で『参った』と言わせたら終了だ」
男はそう言って、背中に十字形に背負っていた二振りの斧を取る。持ち手が短く刃が両刃となった、取り回しの利くタイプだ。
鈍く光るその武器を見て、リオンは思わず尻込みする。ニールとミィナも飛び出すように抗議しだした。
「おいふざけんな! そんな危なっかしい真似ができるか!」
「そうよ、ケガしたらどうする気!?」
「おや~逃げちゃうのか? その様子じゃ相変わらず腑抜けのままかぁ? 俺にあんな恥をかかせといてよぉ。ムカつく野郎だぜ」
男は反発もどこ吹く風で、いやみったらしい口調でもってリオンをなじる。リオンもさすがにムッとするが、未だに勝負を受けるのはためらっていた。
しかし、そこでレヴィが一人で反感を丸出しにして、男を指さしこう言い出した。
「ふん! さっきからエラソーに! そんなに言うなら受けて立つ!!」
「えっ」
「リオンも! こんなに言われて黙ってる気? しっかりしてよ!」
レヴィは肩をいからせ、ぎょっとするリオンの背を叩いてけしかける。その言葉を聞いて男はニヤリと笑い、取り巻き二人に合図をする。
「さあさあ、勝負が始まるっスよ! 危ないから離れてるっス!」
「ぬへへ。本人が受けた以上、他人は手出し無用なんだな。黙って見てるんだな」
「なっ、こら離せ!」
「ちょっと、触らないでよ!」
二人の取り巻きはそれぞれニールとミィナを捕まえ、公園の隅へと引っ張っていく。男は愉快そうに斧を軽く振り、残されたリオンは曇った表情で立ちすくんでいる。その隣で、対照的に勝ち気な笑顔をしたレヴィが、はやった様子でリオンに言う。
「よぉーし、さっさとやっちゃおうよあんな奴! ボクがいれば……」
「いや、待って」
意気揚々と跳ねるレヴィを、リオンは言葉少なに静止する。そして言葉を選ぶように一瞬宙をにらみ、レヴィへ少し沈んだ笑みをつくる。
「……神剣の力は使えないよ。ここでやったら大騒ぎになっちゃう」
「えぇー、つまんない。ってか一人で大丈夫?」
「心配しないで……死にはしないから」
レヴィの頭を撫で、ニールたちの方へ行かせる。そしてリオンは斧を構えた男に向き直った。
「もういいんだな?」
「ええ、どうぞ」
「リオンー! がんばれー!」
レヴィの応援を遠くから聞きながら、リオンは腰の剣を抜く。今は精霊の力が宿っていない普通の剣。リオンが構えるのを確認して、男は素早く前に突進した。
「そおらぁ!」
「っ!」
斧を勢いよく振りかぶり、リオンへと振り下ろす男。リオンはとっさに横へ飛んで避けたが、そこですぐさまもう一本の斧が横凪ぎに迫る。
リオンは剣でそれをさえぎる。ぶつかり合った瞬間に高い金属音が響き、リオンの腕に重い衝撃が伝わる。一瞬苦い表情をしてリオンはどうにか斧をはね除けたが、空いたもう一本の斧がまた迫る。
「そらそらそらぁ! どうしたぁ役立たず!!」
「くぅっ……!」
流石に冒険者のはしくれだからか、男の動きはなかなかのものだった。二本の斧をあらゆる軌道で振り回し、反撃の隙を与えない。はたから見れば、リオンはまるでつむじ風から逃げ惑っているように見えた。
「ハンゲルさーん! 右、右! 脇が甘いっスよー!」
「ぬへへ、相手は防戦一方なんだな。やっぱりアイツは半端者なんだな」
「…………」
リオンが押されている状況に、取り巻きたちが色めき立つ。最初は気楽に応援していたレヴィも、反撃できないリオンを見るうちに表情が曇っていく。
その時、隣に座っていたニールが舌打ちし、小さな声でこうつぶやいた。
「あの野郎……リオンが人を斬れないからって、好き勝手しやがって」
「え?」
その言葉に、レヴィは身を寄せて「どういう事?」と問いかける。ニールは戦いの様子を注視しつつ、苦い顔で言った。
「アイツは元々、人にケガさせるのは好きじゃねえんだよ。あのハゲ、それを分かってて勝負をふっかけやがった」
「そんな……なんの為に」
「単なる嫌がらせさ。ギルドでケンカしたのを根にもってやがる」
ニールは吐き捨てるように言った。レヴィが戦っている二人へ視線を戻すと、リオンは確かに押されてはいるものの、傷を負ってはいないようだった。足で器用に立ち回り、あるいは剣で斧を弾き、かわして受け流すだけの技量はある。反撃できないのではなく、していないのだ。
しかし、レヴィはそれを見て歯がゆく思った。
彼女とて、リオンの思考の見当くらいはつく。願いを尋ねられ、迷わず仲間の蘇生を願うくらいだ。つまらないいさかいで他人にケガをさせるなど、望むような人間ではないだろう。
だが、あのハゲ男がなんだというのだ。公衆の面前で人を罵倒し、いざ反発されて騒ぎになれば恥をかかされたと逆恨みし、優しさにつけこんで斧を振り回して脅かし、せせら笑う。
――彼女がそう考えている間にも、戦いは進んでいく。数十回目にもなる斧の一撃をリオンはまた剣で受け止める。が、その感触が妙に軽いことに、リオンは一瞬とまどう。肉薄した男がニヤリと笑った。
(……まさか!?)
斧が
「ぐあっ!」
「これで決着だなぁリオン! さっさと参ったと言わなきゃァ……!」
男はリオンを見下ろし、高々と斧を振り上げる。まさか本気ではないだろうが、それだけに男のしぐさや言葉には、愉悦と侮蔑がふんだんに含まれていた。
――それを見た瞬間、レヴィの中で悶々としていた思いが消える。あんな奴に遠慮なんて無用だ。そう思った彼女はおもむろにリオンに向けて手をかざし、強く彼を凝視する。その瞬間レヴィの額の炎型の入れ墨が、かぁっと赤く光りだした。
「……っ!?」
ニールと逆隣にいたミィナがそれに気付き、険しい表情で振り向く。その直後に、リオンの方にも変化が表れた。
彼の額の入れ墨が同じように光ったかと思うと、倒れていたリオンが突如跳ね起き、ためらいなく剣を振りかざす。
刹那、掲げられていた男の斧が、長い金属音を響かせて空高く吹っ飛んだ。
「……あれ?」
男は間抜けな声をあげ、手ぶらになった方の手を見る。少し後に、宙を舞っていた斧が背後のベンチに突き刺さった。
驚いてリオンの方を見ると、彼自身も目をしばたかせて戸惑っているようだった。しかし、そんな表情とは裏腹にリオンは猛然と立ちあがり、猪のように飛びかかって剣を振り回す。
「う、うわわ! 待ってくれリオン! 待て、ストップ!!」
男は一転、後ずさりしながら必死に呼びかけるが、リオンは止まる様子がない。まるでさっきまでとは別人のように、斧を持つ手や足、鎧の隙間、首や頭を容赦なく狙ってくる。
それを見てただならぬ雰囲気を感じたミィナは、レヴィへと振り向いてこう問い詰めた。
「レヴィちゃん、何かした!?」
聞かれたレヴィは横目にミィナを見て、『よくぞ聞いてくれた』とでも言いたげに口角を上げると、小声で得意気に話し出した。
「体を操らせてもらってるのさ……。雪山でもやってたろ? 神様達ならいざ知らず、人間程度なら一方的に動かせる……!」
聞いているうちに、ミィナの顔がみるみる焦燥に染まっていく。セリフが漏れ聞こえたのかニールも素早く振り向き、眉をひそめる。
そうしている間にも、操られているリオンはみるみる男を追い詰めていた。残った斧も弾き飛ばし、雪で足を滑らせた隙を逃さず腹を踏みつけ、眼下の相手に高々と剣先を向ける。
「なっ……!?」
「ぬっ……?!」
ここに来て、取り巻きたちも危機を覚えたようだが、事態が呑み込めないのか言葉も発さずにうろたえていた。男は顔面蒼白となり、自身を踏みつけるリオンに必死に懇願しだした。
「な……なぁオイ、冗談だよな!? おいやめろよ、その剣下ろせって、なぁリオン!!」
ひきつった笑顔で叫ぶ男。しかし、リオンの体は意に介さず、剣先を静かに調整する。そしてちょうど鎧の襟からわずかに見える首めがけて、まっすぐに剣を振り下ろした。
「ヒッ……!」
「あぁーーっ!!」
「死ねぇーーっ! このハゲェーーーっ!!」
男はきつく目をつむり、涙をにじませて顔を歪めた。取り巻きたちがあんぐりと開けた口から、そしてレヴィが高揚していっぱいに開けた口から、それぞれ叫び声をあげる。その瞬間に、剣先は男の首もと数センチまで迫っていた。
……しかし。
「……くっ……」
剣は到達する寸前でピタリと止まる。根本からブルブルと震え、さっきまでの勢いを殺すかのようにその場所にジッと留まる。男がおそるおそる目を開けると、リオンは肩をこわばらせて歯を食い縛り、眉をしかめて目をつむっている。脂汗をにじませる額に、炎型の入れ墨だけが力を放つかのようにうるさく光る。
その姿は、まるで自分を縛りつける何かに抗っているように見えた。
「……あれ? 効かなくなった?」
その姿を見て、レヴィがポカンとしながら呟く。操り糸の感覚を確かめるがごとく、リオンへ向けた手を傾けたり、握ったりなどしている。
「……っコラ! やめなさい!」
「わっ?!」
その時、我に返ったミィナがあわてて押しのけるようにしてレヴィを止める。その瞬間、レヴィとリオンの入れ墨の光がふっと消えた。
「あ……あ……?」
男は目を見開いた状態で虚ろな声をあげる。リオンはゆっくりと目を開けて眼下の男をしばらく見つめると、かくん、と糸の切れた人形のように地面にへたり込んだ。
しばらく、誰もがあっけに取られたように言葉を発しなかった。リオンはうつむいてハァハァと荒い息を吐き、ミィナ、ニール、取り巻きは緊張が解けないのか身じろぎもせずに二人の方を見ている。
「ひ、ひいあぁーっ!!」
やがて、固まっていた男がようやく起き上がり、転がった武器もそのままに悲鳴をあげて逃げ出した。それを見た取り巻きたちはあわててその背中を追いかける。
「は、ハンゲルさん!」
「待ってくださいッスー!」
脱兎のごとく逃げる男と、それを追いかける取り巻きもろとも、三人はあっという間に街中へと消えていった。後には、リオン、ニール、ミィナ、そしてレヴィの四人が残される。
「…………」
しばらく四人とも無言の時間が続き、やがてレヴィが気まずそうに周りの顔をうかがう。張りつめた雰囲気を察してか、今までのふてぶてしさが影をひそめている。
「……レヴィ」
体の感覚を取り戻したリオンが、ふらつきながら歩み寄る。その神妙な表情に、レヴィは少し身構えた。
「な、なに?」
今になって後ろめたさを感じてか、レヴィの口調に虚勢がわずかに混じる。リオンはそんな彼女の前にかがみ、静かに問いかけた。
「さっきの……君がやったの?」
その声にレヴィが一瞬たじろぐ。しかし、視線を左右にさまよわせた後、小さくうなずいた。
「……うん」
両隣にいたミィナとニールが顔を見合わせる。子供の叱り方を考えるような、そんな目つきだった。リオンは一つ息を吸い、たしなめるように言う。
「驚いたんだよ。急に体が勝手に動いて……いつ剣が刺さるかと怖かった」
「…………」
聞いている間、レヴィは黙って目を伏せていた。リオンはもう一つ付け加える。
「さっき『死ね』なんて言ったけど……ああいう事を軽々しく言ったり、やったりしちゃダメ。あの男の人はちゃんと生きているんだよ?」
リオンはなるだけ慎重に、分かりやすい言葉を選んで言い聞かせる。しかし、レヴィは素早く顔を上げると、ムキになって反発しだした。
「だって……アイツは戦いの相手なんでしょ!? お互い本物の武器を使った! だったら遠慮することないじゃん!」
「ハンゲルに殺すつもりはなかったぜ。途中で言っただろ」
脇からニールも口を挟んでくる。レヴィは苦い顔で振り向き、今度はミィナの方を見る。釈然としない顔で見上げてくるレヴィに向けて、ミィナは冷静な口調で言った。
「……ムカつくのは分かるわ。私たちは皆そう。でもね、だからって気分しだいで殺してもいい訳ないの。ましてや他人を操ってやらせたりしたら、とんでもない罪を背負わせる事になるわ」
ミィナのにこりともしない表情に、レヴィは一瞬ひるんでしまう。再度リオンの方を見ると、彼も笑いはせず、うっすら悲しそうな目でまっすぐ見つめていた。
視線がぶち当たり、レヴィは口をきゅっと結ぶ。そしてますます意固地になり、周りに人がいるのも気にせず大声でわめき始めた。
「な、何さ何さ! せっかく助けてあげたのに! リオンなんてボクが手を貸すまでろくに戦えてなかったじゃないか!!」
周囲の何人かが驚いてレヴィの方を見るが、リオンたちは目を逸らさない。レヴィはまだ不満が治まらず、更に声を張り上げる。
「大体、せっかくボクの力があるのに、ろくに使わないで! 殺すなとか言って、本当は使うのが怖いだけなんじゃないの!?」
顔を真っ赤にして荒い息を吐くレヴィ。ニールとミィナはそれに驚いてか、わずかに体をのけ反らせた。しばらくしてレヴィが落ち着いた頃、ミィナが面食らいつつも口を開く。
「いや……あのね。人殺しって、そんな興味本位でするものじゃ……ん?」
「待って。ミィナさん」
ミィナの台詞を、リオンが手でさえぎる。そしてレヴィをジッと見据えると、少し軽い口ぶりになって、言った。
「……そうだよね。思えば、レヴィってまだまだ人間と付き合い浅いもんね」
「……へ?」
レヴィの表情がきょとんとしたものに変わる。そんな彼女に、リオンはこんな事を言った。
「そうだ! 良かったらさ、一回全員で依頼をこなしてみよう。みんなで!」
「……みんなで?」
「うん。そうしたらきっと人間の……僕らの見方がちょっと変わると思うんだ」
そう言って頬笑むリオン。すると横からニールが困ったように口を出す。
「……いいのかよ。そんなんで」
「うん。本当は色々分かってほしい事はありますけど……まずは仲間だって思ってもらわなきゃ」
そう言って、リオンはミィナの方を見る。急に視線が合ったミィナは「ん、」と言葉に詰まり、数秒考えて、一つうなずいた。
「……まあ、押し付けは良くないわよね」
「じゃ、決まりですね!」
リオンが元気よく手のひらを合わせる。その音にまぎれて、レヴィが言葉の意味を確かめるようにつぶやいた。
「……仲間……」
そんなレヴィに、リオンが立ちあがり、手を差しのべた。
「さあ、行こう。もう宿に戻らなきゃ」
その言葉に、レヴィは顔を上げ、ニールとミィナの表情を見上げる。先ほどまでの緊張はなく、二人とも気安い笑みを浮かべている。
「……うん」
どことなくぎこちない感覚を抱えながら、レヴィは目の前と同じような笑みを作ってリオンの手を取った。