倫理観等はすでに消えかけていますが元気です。   作:藤猫

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幕間のような、バレットの贈り物の話。軽めです。


評価、感想、ありがとうございます。。
感想、いただけると嬉しいです。


女心と贈り物

 

 

 

「どうした、マルコ?」

 

そんなことを聞く前に、医師である男はふくれっ面の少年を見てため息をついていた。

 

 

ドクターは呆れた顔で目の前の弟子に当たる少年を見た。金の髪をした彼は、ふてくされたかのような顔で薬の整理をしていた。

 

(バレットとメランのことが落ち着いたかと思えばこれか。)

 

メランとバレットの冷戦が終わったとき、ドクターはほっとした。彼はなんだかんだでバレットという少年のことを気に入っていた。実直で素直で、荒々しいところもあるがかわいげはある。

そんな彼が寒々しく、柔らかな部分を削っている現状には思うところがあった。そうして、バレットと談笑しながら歩くメランの姿にどれだけほっとしたことだろうか。

荒れていたバレットも安定し、他の船員とも普通に話すことができるようになっていた。といっても、ホワイティベイから少々お小言はもらっていたようだが。

やれやれ末っ子どももなんとかなったかとほっとしたのつかの間、また問題が起こった。

それは、目の前の弟子のことだった。

 

「・・・・なんでもないよい。」

 

まるでなんでもないことなんて無いような顔でマルコはそう言った。今にも地団駄を踏みそうなほどにふてくされた顔をしていた。

ドクターはため息を吐きたくなる。

 

「・・・なんでもない、なんて顔はしていないぞ?」

 

大方、バレットかメランのことであろうことは予測できた。その末っ子は新しく出来た弟妹分たちに夢中でよくよく二人に構っていたし、気にかけていた。

そんなマルコのふてくされる理由なんてものは、それぐらいしか予想が出来なかった。

ドクターの言葉に、マルコはちらりと幼い表情で彼を見返した。

 

「何かあったのなら言ってみろ。そんなしけた顔を患者に見せるんじゃねえ。」

 

それにマルコは持っていた薬を棚に戻し、しょもしょもとした顔でドクターの前にやってきた。そうして、ぼそりと言った。

 

「・・・・バレットの奴が、なんでか口きいてくれねえんだよい。」

 

 

 

(・・・・・どうしたものか。)

 

その日、ビスタは困り切っていた。というのも、メランとの喧嘩が収まったと思ったバレットが、今度はマルコと諍いを起こしていると言うではないか。

放っておけばと思わなくはないのだが、そうはいっても古参のドクターから何かあったか軽くでいいから聞いて欲しいと頼まれれば嫌とは言えなかった。

丁度、バレットと戦う約束をしていたためさっさとするかと重い腰をあげたのだ。

待ち合わせをしているわけではないが、大抵甲板にいるバレットを探した。そうして、甲板の隅で何やら考え込んでいるバレットを見つけた。

 

「バレット。」

 

メランとの冷戦の間も、なんだかんだで鍛錬の約束はあった。そのため、無言のバレットとの稽古というそこそこキツい時間をビスタは過ごすことになった。

 

「ビスタか。」

「ああ、なんだ。遅れたか?」

「いや、ちげえよ。ただ。」

 

バレットは少しだけ気まずそうな表情をした後、小さな声を出した。

 

「・・・・・前は、礼儀のなってねえことした。時間を使わせてるのによ。」

 

声をかけた自分に振り返ったバレットに面を喰らった。もちろん、この船に来てからの彼もまた同じように挨拶はしていたが、メランと喧嘩をしているときなど声一つあげることもなかった。

わざわざ律儀にそう謝罪をした彼にビスタは、なんだか嬉しくなっていいやと言った。

 

「謝罪があるのならかまわんよ。」

「・・・・ん。」

 

こくりと頷いたその仕草に、バレットがなんだかんだで船の中でかわいがられている理由もわかる。

その、下手な年上よりも強い彼はなんだかんだで素直なのだ。自分よりも強いそれからの感じる奇妙な幼さを見ると構いたくなるのが心理だろう。

そうして、それにやはりビスタは少女の影を見る。その礼儀正しさだとか、幼さだとかに、己たちをけして受け入れない少女。

その少女の善良さと、いじらしさをその少年に見いだしてしまう。

 

(・・・・だからこそ、嫌えないのだろうな。)

 

どんな人間だって、拒絶し続けられれば情などというものは消えてしまうものだ。けれど、その少女に関してはいじましいと思ってしまう。少女の、少年にだけ注がれる情に、いつかの振り払われ続けた手を見てしまう。

その、マルコへの微笑みはまるで、警戒心の強い獣の試す仕草に似ていて。

ビスタは改めてほっとした。その喧嘩がなんだかんだで終わったことを。

なんとなく、ロマンチストが過ぎると自分でもわかっているが、その少年少女の淡い、優しい何かが終わることがないことにほっとしてしまうのだ。

 

「・・・・ところでよ。」

「ああ、なんだ。」

「女に物を送る時ってよ、どうすりゃいいんだ?」

 

そう言って、手の中で小箱を転がすバレットにビスタは目を丸くした。

 

 

 

マルコはその時、怒っていた。怒りながら、彼は船の中を走っていた。なんだかんだと雑用も終わり、自由になった彼は己の医術の師匠から聞いた話にまた腹を立てた。

そうして、勢いよく甲板に飛び出した。甲板の端で物思いに耽るように握った拳を眺めているバレットを見つけた。

マルコはそんなバレットに体当たりするようにその体に抱きついた。

 

「バレット!」

 

そう叫んで張り付いてきたマルコにバレットは心底面倒くさそうな顔をした。無視するようにバレットはマルコから視線をそらす。が、今回についてはそれで折れるようなマルコではなかった。

 

「てめえ、やたらと俺のこと無視するとかと思ったら、なんつう理由だよい!!」

「・・・・ビスタか。」

「なんだい、その顔は!そんなの、俺だっていいてえよい!お前になんかしたのか不安だってえのに!」

「なんかしただろうが。」

「メランに先に俺がものやったからって、俺のこと無視するのはどうなんだよい!せめて、理由の一つでも言えよい!」

 

マルコの怒り狂った声が甲板に響く。皆はその喧嘩を気にするが、あえて表立って反応しないように努めた。

なんといっても、非常に気になった。

バレットはマルコのほうを湿り気を帯びた視線で見た。

 

「・・・・・俺が、先にやるはずだったんだ。」

「知らねえよ!大体、お前、散々メランにものをもらってたんだから、もっと前にやっとくもんだろうが。」

「知らん。」

 

ぷいっとバレットはマルコから視線をそらした。マルコはその態度が気に食わず、彼の肩に乗る形でその顔をのぞき込んだ。

そのあまりに幼い仕草にマルコはお手上げというように額に手を当てた。

 

「・・・・たく、お前って奴は。どうしたら赦してくれるんだよい?」

「お前が贈ったときより、メランが喜べば赦してやる。」

「あのな、メランならお前がくれるってだけで金塊もらうよりも喜ぶぞ?」

「そういうんじゃねえ。あいつが俺のやるもん喜ぶのは当たり前だ。一番だ、じゃなきゃ意味がねえ。」

「だだっこよい!」

 

その声音は、ひどく必死だった。二人からすれば、おそらくそれ相応に必死に喧嘩をしているのだろう。

が、周りの大人たちは末っ子たちのそれに対して、笑いをこらえるように振えていた。

かわいいなあと、大部分の人間が考えていた。

なんともまあ、愛らしいことだろうか!

片方は船でも随一の強さを誇る少年、もう片方は医者見習いで飄々とした態度の少年。

海賊船などに乗っている彼らは普段、下手な大人よりも成熟した精神をしている。けれど、この喧嘩は何なのだろうか。

特に、遠くでそれを聞いていたビスタはあーあと呆れたように笑ってしまった。

 

バレットに、女に何かを贈ると言われて驚いたが、彼にとってそんな存在は一人しか居ない。何を贈るのだと見せられた指輪はなかなかに良いもののようだった。

ビスタはそれに、訳もわからず浮き足立ってしまった。よくわからない、ウキウキとした感情に、ビスタはそわそわしながら答えた。

 

「普通に普段からの礼だと言えばいいんじゃないのか?」

「・・・・マルコが先になにかやってたから普通に渡しても、あれだ、だめだろう?」

 

何がダメなのかわからないが、先を越されたと言うことだろう理解した。ビスタは、そう言えばと思い出す。

マルコとメランが買い物に行った折、バレットとの喧嘩でうやむやになっていたが、そういえばと思い出す。

普段、縄で適当にまとめてあったメランの髪にいつの間にやらしゃれた組み紐がつけられていたことを。

てっきり、珍しく彼女が自らに買ったのかと思っていたのだが。

 

「あの組み紐のことか?」

「・・・・そうだ。」

 

むすりとした顔はすねきった子どもそのものだった。ビスタはそれに笑いをこらえるのに必死になりながら、なるほどと頷いた。

 

(なるほど、マルコもなかなかやるんじゃないのか?)

 

などと一瞬考えたが、どうしたものかと同時に頭を抱えた。確かに、少年少女の色恋沙汰のにおいのする喧嘩は悪くないと思ってしまった。そういう、純情な感情はなんだかんだでよい酒のつまみになる。

だが、この状態での三角関係、いや一方的なマルコの片思いはどうなのだろうか。

 

「・・・・あー、そうだな。まあ、確かに一番というのはインパクトがあるな。」

「あんたは女にものをやるときはどうしてるんだ?」

 

それにビスタは少し悩んだ。ビスタとて、そういった色恋沙汰にとんと縁が無いわけでは無い。それ相応に遊んではいる。だが、おそらくではあるが、バレットの要求するそれと、自分の思うそれは徹底的に乖離しているだろう。

 

(下手なことを言ってこじれてしまっても困る。)

 

散々に悩んだ末に、ビスタは非常に無難な返答をした。

 

「感謝の念を伝えた上で渡せばいいんじゃないのか?いたわりというのは、それだけ人にとって印象に残るだろうしな。」

「感謝、そうか、わかった。」

 

今だけはその素直な返答がひどく不安を煽っていた。

 

 

 

後ほど、マルコに聞いたところ、組み紐にそういった甘ったるい意図はない様子だった。曰く、彼女があまりにも自分のものを買おうとしないため、戒めの意味でやったのだという。

ビスタとしては内心でほっとした。どうやら、船の中でどろどろとした関係性はない様子だったためだ。

 

「バレット、バレットもいいけどよい。少しは自分のことも気にした方がいいはずだろ?」

 

むすくれたその顔に、ああ、大分ほだされた物だと呆れた。そんなこと、自分が言えた義理でもないだろうに。ビスタとしてはさすがにバレットのすねた理由について直接に言う気になれずそこで終わってしまったけれど。

そうは言っても、さすがに伝えてあったドクターから聞いたらしいマルコは相当にお怒りのようだった。

遠目に末っ子たちの大喧嘩を見ていると、そこにメランが近づいていくのが見えた。それに、皆が固まってしまった。

どきどきと、興奮か、あせりのせいかなのかわからない胸の高鳴りを感じつつ、それを見守った。

 

「二人とも、なに喧嘩してるんだ?」

 

不思議そうなそれに二人は一瞬だけ目配せをして、まるで最初から言い交わしていたかのように言った。

 

「こいつが親父に絡みすぎだって怒ってたんだよい。」

「仕方がねえだろ。あいつが一番つええんだから。」

「ああ、なるほど。」

 

見事な連携にメランは納得したのか、一言二言言葉を交わしてまた雑用に戻っていった。

 

(・・・・・すげえ連携。)

 

呆れていいのか、感心していいのかわからずに皆はマルコとバレットを見守った。

 

「このままじゃらちがあかねえ。つまりだ、バレット。お前はメランが最も喜ぶ、贈り方をしねえ限りは納得しねえわけだな?」

 

バレットが頷くのを見た後、マルコは宣言した。

 

「よし!親父に聞きに行くよい!」

(まてまてまてまてまてまて!!!!)

 

高鳴っていた胸は別の意味合いになり、船員たちは全員で心の内でそう叫んだ。

 

「親父なら、女にももてるし、そういったことも知ってるはずだよい!」

「そうなのか?」

「そうだよい!」

 

もちろん、強く、内面も良い白ひげは女からはモテる。ただ、なんとなく、そういったことに詳しいかと言われると違うだろう。

親父を巻き込むなと皆は止めたかったが、逆に止めてしまうと、白ひげがモテないような意味合いになる気がして止められない。

二人はそのまま意気揚々と白ひげの下に向かった。船員たちは思わず、それを引き留めようか、引き留めまいかを悩んだが、それで女の喜ぶ物の贈り方をレクチャーできるかと言えば別であって。

そのまま二人は見送られることとなった。

 

 

白ひげは頭を抱えたくなった。

いや、実際に頭を抱えてしまった。目の前には、眼をきらきらさせたマルコと、そうしてどこか同じように期待をしているバレット。

 

「親父モテるから、いろんなことを知ってるだろ?」

 

そんな言葉と共にバレットとマルコが訪れたのは少し前。

全力で期待されているが、白ひげ自身、女を口説くことが得意かと言われれば違う。そう言った、女の色恋沙汰には縁があまりないたちだった。

元より、口説かずとも寄ってくることがほとんどだ。けれど、末っ子二人の、それもようやく喧嘩が終わりを告げたバレットからのその要望に関しては聞いてやりたいという親心はある。

だが、提供できる何かがあるかというと、微妙なラインである。

 

(あしらい方なら、まだ。)

 

内心で苦虫を噛みつぶすような顔をした後、白髭はおもむろに言った。

 

「・・・・バレット。いいか、女は誠実であることを求めるもんだ。」

「誠実?」

「そうだ。まあ、俺たちは男だからな。まあ、違う生き物だ。思ってもねえところで怒り狂うところもある。けどな、大抵の女は、そいつの言ったことが本当であるか、それとも嘘であるか。どれほどのことを言っているのかを求めるもんだ。」

 

お前があいつに何を思ってそれを贈るのか、素直に伝えるのが一番だ。

 

それにバレットは少しだけ何かを思うような仕草をした後にこくりと頷いた。マルコもさすがは親父だと眼をきらきらさせる。そうして、二人は連れだってばたばたと走り去っていく。

残された白ひげはほっと息をついた。

 

 

 

(・・・仲良くなったなあ。)

 

メランはそんなことを思いながら洗い立てのシーツを干していた。バレットとの喧嘩中に驚くほど不安定だった内心はだいぶ落ち着いた。

 

(もう少し、あの子離れをしないとなあ。)

 

そんなことをこの頃は思っている。この世に絶対がないことなんて、ずっと昔から知っていた。

あの子に最後まで着いている。それはきっと、メランの出来る、バレットを裏切らないと言うことだ。けれど、それを言えるほどにメランは強くもなければ、嘘つきにもなれなかった。

漠然と、さよならを言うことだって考えている。

バレットの側には、すっかりと、優しい人たちが溢れていた。

いつか、いつかでいいから、優しい人たちに会えればいい。戦場で、ぼろぼろになって願った夢はとっくに叶っていた。

フーシャ村で暮らす。そこで、静かに、ぼんやりと老いて死んでいく。死にたくない、死にたくない、あの恐怖を味わいたくない。

メランはぼんやりと青空を見た。

それでも、こんなところまで来てしまった。きっと、何よりも望んでいなかった、こんな場所まで。

 

(あの子は、もう、いいのだろうか。もう、居場所という。誰にも裏切られない約束を得たんだろうか。)

 

ならば、自分は、もういいのかもしれない。

いらないと言われることが怖い、あの子の側を離れることが怖い、一人で生きていけない自分がいる。

けれど、ずっと、闘争の中で生きていけるような覚悟が、自分にあるのだろうか。

戦わぬものに勝利はけして訪れない。けれど、元より勝利を求めぬものに、闘争は必要なのだろうか。

 

あの子、あの子、強くて、繊細で、素直なあの子。

 

メランは、バレットにいらないと言われることが怖い。

彼は自分にとって、まさしく世界そのもので、世界に捨てられることの怖さはあるだろうか。けれど、其れと同時に、自分は彼を裏切らずに最後まで側にいてやれるのだろうか、とも思う。

それならば、いっそ。いっそのこと、闘争を拒否して、お別れをしてもいいのだろうか。

 

(あの子は、優しい人に出会えたのなら。私は、どこに帰ればいいんだろうか。)

 

それはこの船なのだろうか?父などと、鼻で笑っている自分が、ここに、どこに、行くのだろうか。

ぼんやりと、そんなことを考える。

メランはぼんやりと、ずっとバレットと一緒にいることを考えていた。けれど、今回のことで考えることになった。

バレットが嫌がらない限り、ずっと一緒にいる。

それは本心だった。そうでなければ自分は生きていくことさえも放棄してしまいそうで。

けれど、この世界で、何も損なわれずにいることなんて出来るのだろうか。

いつか、自分は、あの子を置いていってしまうのだろうか。その時、あの子は、何を思うのだろうか。

 

(私は、まだ、故郷に帰りたいのだろうか。帰れるとしたら、私は。)

「メラン。」

 

唐突に名を呼ばれて驚きながら、彼女は後ろを振り返った。ふわりと、シーツが揺れていた。背後に立ったバレットは、どこか面はゆいというように落ち着きなく手を開いては握りと繰り返していた。

 

「どうしたの?」

 

バレットはどこか落ち着かないというように視線をうろうろさせた後、ぐいっとメランに近寄ってきた。

そうして、握りこんでいたらしいそれをメランに見せた。

 

「ん。」

 

それは小さな、手の大きいバレットからすれば、おもちゃのような大きさだった。メランはその動作にはてと首を傾げながら受け取った。

 

(・・・・なんだ、これ?)

 

メランとしては唐突なそれに意味がわからなかった。バレットはそんな自分をチラチラと見るものだからおそるおそる箱を空けた。

嫌がらせの類いではないという信頼の上で中を見ると、そこには可愛らしい指輪が一つ。

 

「どうしたんだい、これ?」

「・・・お前には、いつも世話になってるだろ?」

 

バレットは視線をうろうろさせながらメランに言った。そうして、どこか照れくさいというようにとつとつとしゃべり始めた。

 

「服だとか、ものだとか。買ってくるだろうが。お前は、いつも、俺を見てくれている。」

 

とつとつ、と彼はそういった後、ようやくメランを見た。

 

「お前が、喜んでくれれば、俺は多分だが。きっと、嬉しいと、思う。」

 

メランは、其れを聞いて。その言葉を聞いて、どうしようもなく、嬉しくなった。ぼたりと、いつの間にか涙がこぼれ落ちた。

その涙にバレットは目を見開いて、どうしたと慌てて聞いてくる。

 

「ちがうんだ、わたしはな、ただ。とても嬉しいんだ。」

 

メランはぼたぼたと泣きながら、それでも、嬉しいと笑った。

 

奪ってばかりの子どもだった。奪われたことしかない子どもで、いつだって、少ない自分の物を取られないように抱えていた。

メランはそれに泣きたくなった。どうにか、奪うのではなく、与えられるような人であって欲しかった。

略奪ではなく、脅しではなく、暴力ではなく。

ただ、この、広い海の中で誰かと与え、与えられて生きてくれと願って。

どこかすさんだ少年のことを思い出した。

礼を言うことを知らず、誰かから奪い、与えられることもなく、裏切られ、力を振ることしか出来ない少年。

 

(ああ、そうか。バレット。お前は、ちゃんと、誰かに何かを返せるようになったのか。)

 

与えられた何かを、返せるようになったのだ。己と他人は隔絶されていて、冷たい拒絶だけしかないような、そんな寂しいことなどはなくて。

誰かに、与えたいと思えるような人生を確かに歩んでこれたのだか。そんな人生に、自分は何かをしてやれたのか。

それが、どうしようもなく嬉しかった。

 

「バレット、ありがとうな。」

これは、私の宝物だ。

 

笑った、泣きながら、それでもメランは笑っていた。何かをしてやれた気がした。きっと、何かを渡せたのだと、そう思えた。

泣いたメランに、バレットは困惑しながら、ありがとうというそれにほっと息をついた。

 

 

「ベイさん。ドクターが呼んでましたよ。」

 

ひょっこりと自分に話しかけてきたメランにホワイティベイはああと頷いた。暗い船内の廊下で、小柄な彼女を見下ろすしたホワイティベイはふと、メランの胸元に見慣れないものを見た。

それは、銀色のチェーンでそんなものを持っていたのかと首を傾げた。

 

「あんた、そんなネックレスもってたかい?」

 

その言葉にメランはにこっと笑った。

 

「バレットがくれたんです!」

 

心の底から嬉しそうに、少女は笑った。本当に幸福そうに笑う彼女に、ホワイティベイは目を丸くしたがすぐにそうかいと頷いた。

 

「あんたも苦労させてるんだから、もうちっともらっときなよ。」

「いいえ、これだけで十分ですよ。」

 

まるで己の心臓でも撫でるようにメランがそう言った。それに、ホワイティベイはそうかいと頷いた。

 

(でも、メランを泣かせたあいつはやっぱり気にくわないね。)

 





ちなみに、バレットが贈り物をしてるとき、影で見ていたマルコは弟分の成長にちょっと泣いてた。
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