倫理観等はすでに消えかけていますが元気です。   作:藤猫

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お久しぶりです。
前から書きたかった話しになります。


路地裏にて、竜と会う

 

「メラーン、これでいいのかよい?」

「だな、このままの方向でいいよ。」

 

そんなことを言いながらマルコとメランは顔を見合わせた。彼らの目の前には、とあるエターナルポースだ。それに側で聞いていたダグラス・バレットは帆の操作をするためにロープを掴んでいた。

 

「いいんだな!?」

「いいよーい!」

 

それにバレットはうなずき、ロープを引いた。

見習いだけの船旅は順調に進んでいた。

 

 

 

三人が船旅に出ているのは単純に白ひげ海賊団においてのおつかいを頼まれたためだ。

メランが知る限り、まだ、白ひげ海賊団は複数の船に分かれているわけではない。どこへのおつかいだと疑問に思っていたが、どうやら白ひげの故郷関係だった。指定された島まで行き、そこに小包を届けるというものだった。

数多くいる船員達の中で三人が選ばれたのはあまり顔が売れていないためだ。

メランとマルコは活躍はしているものの、海軍や海賊達への知名度はない。バレットもまた、暴れ回っているがまだ、顔が売れるほどではなかった。

加えて、メランとバレットについては少人数での船旅に慣れていることが上げられる。そうではないマルコが選ばれたのは、二人との関係が良好であり、医療の知識を買われてのことだった。

早々とおつかいを済ませ、三人は小型の船に揺られていた。

 

「メラン、船に帰れるのはいつになるんだよい?」

「電伝虫に聞いた通りだと、もう少しかかるかな。」

「なら、このまま進んで良いんだな?」

「そうだね。ただ、どこか島に寄りたいなあ。そろそろ食料が少なくなっちゃって。」

 

三人は食堂にて机を囲み、メランの作った食事を食べていた。この船旅では戦闘員はバレット、船医がマルコ、そうして食事と航海術についてはメランが担っていた。

ひとまず、船旅は順調であった。

 

 

マルコは、師匠から言い渡された課題のために甲板にて医療書を読んでいた。けれど、ふと、顔を上げた。そこには狭い甲板にて筋トレをしているバレットの姿が見えた。

バレットは基本的に暇さえ在れば筋トレばかりしている。ちなみに、覇気のコントロールを二人でしていたのだが、船がひっくり返るから止めろとメランに叱られてから控えている。

 

(・・・トラブルもなく終って良かったよい。)

 

マルコはほっとしながら胸をなで下ろした。マルコとしては三人での船旅に、少し不安を覚えていた。メランとバレットは元より二人で船に乗っていたのだからいいが、マルコは大所帯での経験しか無い。何よりも、見習いのみで船に乗るというのも不安だった。

マルコは白ひげが何を考えているのだろうかと疑問に思っている。

ただ、運悪く海軍に見つかったあげく、負傷者が多かったためすぐに動ける人間が少なかったのが大きいのだろうが。

幸いなことになんだかんだで三人での生活は上手く言っていた。バレットはあまり先頭に立つことに興味は無いため上下関係が生まれないのが幸いだろう。

戦闘こそが娯楽であると考えるバレットもメランからの誘いならばある程度の戯れにも入ってくる。

食事の後にトランプをして遊ぶ程度には三人とも仲良くやっている。

 

「バレット、マルコ、中に入りなよ。」

 

そんなとき、ひょっこりとメランが船内から顔を出した。それにバレットは動くのを止めてメランの方を見た。

 

「どうしたんだよい?」

「なんか、雨が来る、予感が・・・・」

「お前が言うならそうなんだろう。」

 

バレットはそれに対して納得したのか頷いた。そうして大きな体を起こして、もそもそと動き出す。マルコも本を閉じて立ち上がった。

 

「嵐じゃないのか?」

「嵐まで行かないんだけど。なんか、雨が来る予感はする・・・」

「にしても便利だよな、見聞色でもそこまでわかるんだなよい。」

「精度がなあ、サイクロンとかならほぼ百発なんだけど。」

 

マルコはそれに少しだけ悔しい思いがする。喧嘩の後、メランの見聞色の精度?が上がったのだ。

というのも、雨やら嵐やらが起こるのがわかるらしい。他の兄貴分曰く、精神的な圧力からの解放で神経が過敏になったことが理由らしい。

死への恐怖からの覚醒があるため、そんなこともあるのだろう。元々、危機察知に特化していたが天気についても発揮できるようになった。

そのため、航海士連中が嬉々として技術を叩き込んでいる。

 

(俺も頑張らねえと・・・)

 

 

(・・・・えーっと、食料についての追加はこれぐらいでいいかな?)

 

メランは紙袋を抱えて中身を確認した。彼女はその時、とある島の道を歩いていた。それは見習い三人衆での船旅でのことだ。本来ならば、大物に関してはバレットとマルコが買いに行き、メランは船番をしていたのだが。帰ってきた二人に確認すればどうやら買い忘れがあるようだった。

入れ替わりでメランがそれを買いに来たのだ。男二人はメラン一人で行かせるのには渋ったが、戦える技術もしっかり心得ているのだからメランを見送った。

 

(にしても、あいつら小舟だからって襲ってきてくれてラッキー。)

 

メランは少し前に襲撃してきた海賊達のおかげでぬくぬくの懐にほくほくした。ただ、今回の島に関してはさほど治安が良いとは言えないのだ。さっさと準備を終らせて出発しなければ。そう思って、メランは道を歩く。

その時、がしゃんと、何かが倒れるような音がした。

メランはなんだとその方向に視線を向けた。そこには、二人の子供がいた。お世辞にも清潔とは言いがたい格好だ。

着ている服は黄ばみ、肌は黒ずみ、髪の毛はぼさぼさだ。島の治安からしておそらく浮浪児だろう。普段のメランならばそっと目をそらしていた。

それにまた、前世での良心だとか常識が騒ぐが、己に出来ることと出来ないことの境ぐらいは理解している。

そうだ、だから、その時だってそっと目をそらそうとした。けれど、メランにはその二人の様相が見えてしまう。

 

それは、きっと間違いだった。

 

金の髪をしていた。くすんだそれはざんばら髪で、脂ぎっていた。どうも残飯をあさっていたらしく、メランが聞いたのはそれが入っていたバケツが倒れた音のようだった。

ただ、おかしいのはその服だ。遠目だったせいで素材まではわからないが、デザインがあまりにも上品すぎる。どこかで拾ってきたにしては、二人の子供にあまりにもサイズが合いすぎている。

だから、そんな疑問が頭を擡げて、思わず立ち止まってしまった。

かつん。

靴の音が響いた。それに二人はメランを見た。

 

(あ。)

 

子供の一人は眼が前髪で隠れているせいでよく見えない。ただ、もう一人、その子供を守るように躍り出たそれ。

その子供には、見覚えがあった。何の変哲も無いかもしれなくて、それでも、一つだけやたらと目に着いた、サングラス。

 

(ああ、知っているよ。)

 

固まり、そうして、その二人の子供を凝視した。いつかに、白ひげ海賊団のように、紙の上で狂ったように笑った男。紙の上で、兄の業に苦しみ、正そうとして、そうして一人の少年への哀れみで全てを捨てて走った男。

殺そうとして、それも出来ず、結局殺された男。愛した少年のために笑って、お別れをした男。

この世に悉く、むごい仕打ち受け、それでも、父の願った人に寄り添いたいという思いを抱えた人。

 

正義も、悪も、違いは無く。ただのそれぞれの価値観でしかないと言った男。

この世界の頂上で人を見下し、己達だけを人と思った、肥え太り、腹を地面に擦るように飛んでいる竜の一族。

父の善良性により、全てを失い、破綻させ、最後には愛した者を悉く殺した、ひとりぼっちの夜叉。

 

だからこそ、喉の奥から吐き出した。

 

「・・・ドンキホーテ。」

 

その言葉に二人の子供は脱兎のごとく逃げ出した。

 

 

 

ドンキホーテ・ドフラミンゴは慌てていた。右手には弟のロシナンテの手を掴み、すっかり慣れてしまった路地裏を急いでいた。家の密集した地域であるそこは、地元民でも迷ってしまう。ドフラミンゴは密かに己しかわからない跡をつけ、まるで己の庭でも歩くかのようにすいすいと道を進んだ。

 

母の病気が酷くなり、せめて、何かを食べさせてやろうとゴミをあさっていた。その時だ、自分たちを凝視する存在がいた。

最初はゴミをあさる自分たちを叱責でもするのかと思った。けれど、その女は心底驚いたような顔で、そうして、自分たちの姓名を口にした。

ああ、ばれた!

 

また追われる。また、自分たちを追い立てる存在が現れた。ここまでようやく逃げたのに、自分たちの正体がばれてしまった。

 

(母上は病気で動かせない、どうする?)

 

ドフラミンゴは頭の中でそんなことをぐるぐると考える。その時だ、右手が急に引っ張れるような感覚がした。それにドフラミンゴの体は傾いだ。

尻餅をつき、後ろを見れば、自分についてこれなかったロシナンテが泣いていた。転んだせいか、泣き虫な弟はえんえんと泣いている。

それにドフラミンゴは後方を見た。そこには女の姿はない。

ドフラミンゴは今はとロシナンテの背を撫でた。

 

「大丈夫かえ?」

 

この頃、天龍人の特徴らしい語尾を抑えるようにしているが、咄嗟のことで出てしまった。

 

「あにうえ・・・・」

 

えーんと情けない弟の背中を撫でて、傷を見た。どうやらくじいたのか、足首が腫れている。

ドフラミンゴはそれに弟を背負って帰ることをすぐに判断した。さほど年の差が無いとはいえ、すぐにここから離れた方が良い。

自分が弟を守らなくてはいけない。強迫観念のようにそう思ってドフラミンゴはロシナンテに背を向けようとした。

 

「・・・くじいたのか。」

 

頭上から聞こえた声に、ドフラミンゴはとっさにナイフを突き出した。けれど、話しかけてきた存在はドフラミンゴの腕を掴み、あっさりとナイフを奪い取ってしまった。

 

ピカピカと光る、お月さんがドフラミンゴを見ていた。幼いとき、あれが欲しいと散々に駄々をこねた綺麗な、綺麗な、夜空にぽっかりと浮かんだお月様。

まるで夜のような深い色が帳のように下りていた。

そこには女がいた。まるで、夜がそこに立っているかのような印象を受ける。

 

「お、お前、なんだえ!?」

 

ドフラミンゴはナイフを奪われたことに動揺した。武器はない、自分一人ならば逃げられただろう。けれど、女の足下には弟がいる。

ドフラミンゴは咄嗟に体を屈めた。そうして、後ろ手で石を掴む。タイミングを見極めて女に殴りかかることを決意した。

女は、何を思ったのか、ロシナンテと目線を合わせるように膝を突いた。持っていた紙袋を置き、ロシナンテを足を取った。

 

「くじいたな。」

 

ぼやくようにそう言って、女は紙袋から包帯を取り出した。暴力を振うわけでも、罵倒をするわけでもなく、黙って怪我の手当を始めた。

女は強ばった顔でそのまま手を進めた。包帯を巻き、ロシナンテの足を固定した。そうして、彼女はそのままロシナンテを抱き上げた。ロシナンテは固まったまま、女を見上げた。

 

「ロ、ロシーになにするんだえ!?」

「・・・怪我をしたから送っていくよ。ほら、おうちはどこだい?」

 

それにドフラミンゴは固まった。家に連れて行けない。けれど、女の腕の中には弟がいる。どうする?

ぐるぐると考え込んでいると、ロシナンテの腹が盛大になった。それにロシナンテはびくりと体を震わせたが、女は少しだけ考え込んだ後、器用に紙袋からリンゴを取り出した。そうして、それをロシナンテに渡した。

そうして、ドフラミンゴにもまた、リンゴを一つ渡した。

 

「食べるといい。」

「え、な、なんだえ!?」

 

唐突に差し出されたそれにドフラミンゴは固まった。ロシナンテは空腹で我慢できなかったのかしゃくしゃくとすごい勢いでかぶり付いた。

 

「ロシー!」

 

ドフラミンゴは慌ててロシナンテに声をかけるが、弟は腹が満たされて満足そうな顔をしていた。それに女は微かに笑った。そのピカピカ光るお月さんはふっと緩んで三日月のようになった。

今までの、しんと静まった表情が柔らかくなっているのを見ると、ドフラミンゴは少しだけ目の前のそれへの警戒心が薄まってしまう。

 

「・・・それも食べながらでいいから、道案内を頼むよ。」

 

そう言って女はそのまますたすたと適当に歩き出す。このままではロシナンテを連れて行かれると慌てたドフラミンゴはその女を現在の住居に連れて行くことを決めた。

ドフラミンゴはちらりと、その女を見た。

 

何かが違った。

聖地で、自分に向けられていた、媚びだとか、恐れだとか、親愛だとか、そういったものでもなく。

聖地を出た後の、憎しみだとか、悲しみだとか、怒りだとかではない。

どれとも違う何かを女は持っていた。持って、ドフラミンゴを見ていた。

 

 

 

(・・・・どうしよおおおおおお!)

 

メランは軍でだとか、白ひげ海賊団で鍛えられたポーカーフェイスを引っさげて子供を二人連れて歩いた。

淡々と勧めているようで、実際の所、頭の中は荒れ狂っていた。

 

(関わるべきじゃないんだよ!)

 

わかっている。この子供は天竜人で、きっと、白ひげ海賊団では受け入れられない。下手をすれば、ドフラミンゴたちによくすれば、ヘイトを買ってしまう可能性がある。彼の白ひげ海賊団と敵対関係を築くのは避けたい。

けれど、あのとき、彼らがそうであると理解した時、咄嗟に追いかけてしまったのだ。無視が出来なかったのだ。

脳裏では、彼らが行う非道を思い出す。ひどく、吐き気がするような、散々たる悲劇を思い出す。

ここで関わってどうするというのだ?

その悲劇を止めてやるのだという気概でもあるのか?

 

(笑えるな、そんな考え。)

 

自分に何が出来るのだろうか。ここで、何をして、ドフラミンゴの考えを止めるというのだろうか。

 

(いや、いっそのこと。)

 

ちらりと、小さな頭を見た。元々が大柄なせいか、幼くともがたいがいい。

けれど、簡単に殺せる。

頭をたたき付けてもいい、その柔い肉にナイフを突き立ててもいい、その細い首を絞め殺してもいい。

メランの脳裏には、二人の少年を殺す方法を思い浮かべる。ロシナンテのほうを殺す必要は無いだろうが、できるだけ懸念事項を消しておきたい。

いや、子供だけでなく、彼らの両親さえも殺しておいた方が簡単じゃないのか?

ああ、そうだ。

それが、最善だ。それこそが、何よりも楽な道だ。この場で簡単に全てが杞憂だと肩の力が抜けるだろう。ドフラミンゴのなしたことのせいで割を食うのはごめんだ。それで、バレットに何か被害が来る可能性もある。

だから、自分は。

 

「ねえ。」

 

幼い声に体が固まった。

 

「あ、ああ、なんだい?」

 

声の主は腕の中の幼い少年。それはもちもちとしたほっぺたを緩めてメランに話しかけた。

 

「お名前、なーに?」

「・・・・私は、メランという名前だよ。」

「メラン?」

「そうなの?ぼくはね、ろしーだよ。」

「ロシー!そいつに変なことを教えるな!」

「でも、あにうえ・・・・」

「ほら、怒るな。これは礼儀としてそう言っただけだ。」

 

そう言って、メランは二人を促した。そうして、腹の中で叫んでいた。

 

今、自分は何を思った?

今、自分は、この、何もなしていない。ただ、そう生まれただけの子供に、何を思った?

 

(吐き気がするじゃねえかよ!)

 

腹の中で膿んだ心が吐き気を及ぼす。己が感じた、心がわめき立てる。ああ、遠い昔の善性が、メランをメランたらしめる生き方が、己の中で自分を罵倒する。

ああ、だめだ。自分は、それでは、自分は。

あの日、己の保身のためだけに、自分たちを殺そうとしたダグラスとどれほど違うのか。

 

「あ、おうち。」

 

ロシナンテの声にメランは顔を上げた。周りは、この島のゴミ置き場になっているだろう、場所だった。周りにはゴミの山で、酷い匂いがした。そこに、隠れるようなあばら屋が建っていた。

メランはためらいもなく、その扉を開いた。

中には、汚れ、やつれ、それでもどこか所作に上品さを感じる男性と、顔色の悪い女がベッドに横たわっていた。

 

「・・・だ、誰だい?」

「落ちぶれたものですね、ホーミング聖。」

 

その言葉に男は顔を強ばらせた。

 

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