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エターナルポースについてはすみません。修正しておきます。
「おい、メランのやつ、見つかったかよい?」
「いや、だめだ。」
ダグラス・バレットとマルコはほとほと困り果てた顔をした。彼らはすでに日も落ちかけ、人通りも少なくなった町中を探し回っていた。
メランが買い物に行った後、待てど暮らせど帰ってこない。基本的に寄り道などしないメランがこんなにも遅いなんて普段ならばありえないことだ。
バレットは目立つため、マルコが探しに出かけたがまったくと言っていいほど見つからない。そのため、短時間だけと二人で探しに出かけたのだ。
メランが向かったはずの店に聞いてもすでに買い物を終えた後のことだった。
「・・・・ここ、確かにめちゃくちゃ治安が良い訳じゃねえけど。」
「いや、あいつの危機察知能力はたけえ。あいつが自分がやられるような存在と出会って逃げ切れねえはずがねえ。」
それにマルコも頷いた。メランは愛想は良くとも根っこの部分で警戒心も高い。相当の事が無い限り上手くやるはずだ。
けれど、今、メランの普段では考えられない状態にマルコは動揺していた。
当たりは暗くなり、飲み屋などのせいか、柄の悪い人間は見え始めた。それにバレットとマルコは焦り始める。
「どうするよい!」
「騒ぐな!」
マルコはどうしたものかとバレットの回りをぐるぐると回り始める。
元々は落ち着かないときのメランの癖であったが、この頃はマルコにまで移ってしまった。時折、仁王立ちするバレットの周りをマルコとメランがぐるぐると犬のように回っていることがあった。
「・・・何してるの。」
道の真ん中で騒いでいた二人はその声に顔を上げた。そこにいたのは、疲れ切った顔をしたメランだった。
それにマルコは顔を輝かせてメランに飛びついた。
「心配したよい!お前、どこに行ってたんだ!?」
ぐりぐりとメランの頬に幼子のように頬ずりをするマルコに彼女はあーとなんとも言えない声を上げた。
その後を追ってバレットが走り寄ってきた。マルコを首にぶら下げたメランの頬に手を添えた。
「どこに行ってたんだ。マルコが五月蠅かったんだぞ。」
「俺だけじゃねえだろ!?」
「・・・ああ、そうだね。遅くなったよ。」
メランは疲れたようにそう言って、視線を地面に向けた。マルコとバレットはそれに不信感を抱いた。メランの様子は気もそぞろで、何か、他に気になっているようにしか見えなかった。
「まあ、いいよい。それより、早く帰ろうぜ。あ、腹も減ったしなんか食ってくか?」
「旅費大丈夫なのか?」
「俺のへそくり使うよい。」
マルコはメランの首から手を離し、賑わっている店を指さした。バレットとマルコはそっと歩き出したがメランは何故かそこに立ち止まっていた。
ふと、バレットは気づいた。
出て行ったときにはきっちりと結い上げられていた髪が解けていた。長い髪が風に揺れていた。
もう、日が暮れてしまって夜が来ていた。近くの店から零れる光がメランのことを照らしていた。背中から光を受けて立つメランはバレットたちと歩いて行こうとしなかった。
「どうかしたのか?」
バレットがメランに声をかけた。メランは必死に笑おうとして口元を引きつらせた。けれど、バレットとマルコの顔を見て諦めたように顔を伏せた。
そうして、淡く笑みを浮かべた。
町々の店の光によって紺の髪は深みのある青色に輝いている。黄金の瞳を細めてメランは口を開いた。
「私は、船を下りるよ。」
それにバレットとマルコは固まった。それにマルコは食いつくようにメランの方を見た。
「どうしたんだよい!」
「・・・ごめん。」
「ごめんじゃねえ、何かあったのか?」
メランは黙り込んだ。マルコはどうしたんだと言葉を続けた。
マルコは慌てていた。だって、メランが今更船を下りる理由がない。元より、メランが船にいるのはバレットがいるからだ。けれど、今はメランも白ひげ海賊団での生活を居心地よさそうにしている。
思い出しても、今更居心地の良いモビー・ディック号を下りる理由がなかった。それにメランはいつもの困ったとき特有の愛想笑いを浮かべた。
楽しいだとか、そんなものではなくて、ただ、どういった表情を浮かべれば良いのかわからずに浮かべた仮面のような笑みだった。
マルコがどう声をかければ良いのかと悩んでいるとき、横にいたバレットが飛び出るようにメランに近づいた。そうして、ぎちりと、音がしそうな勢いでメランの腕を掴んだ。
「・・・・なに考えてる。」
マルコは慌てた。メランがガラス細工のように脆くなどなく、荒くれ者の中でも平然と生きていけるほどに頑丈であることは知っている。けれど、バレットの強さを考えて、メランの棒きれのような腕を掴んでいるのを見ると心臓に悪い。
「おい、バレット、そんなに怒るなよい!」
「ただ、やることが出来たんだ。居候の分際で勝手なことをしようとしてる。けじめはつけないと。」
「なら、俺も下りるぞ。」
「バレット!?」
マルコの慌てた声がするのも気にならなかった。
それほどまでにバレットは怒っていた。
だって、バレットに相談もなく、メランはどこかに行こうとしている。バレットのことわりもなく、置いていこうとしている。バレットのことを、一人にしようとしている。
それは違う、それは間違いだ。
バレットは腹の中で膨らんだ熱のようにそれを吐き出すように息を吐いた。
「・・・だめだ。バレット、お前はこのまま船にいるんだ。」
「ふざけてるのか!?」
怒鳴り声を上げて、バレットはメランのことをにらみ付けた。メランは笑みを消して、気まずそうに顔をしかめた。
「俺はお前の特別なんだろう!?」
叫ぶような言葉が当たりに響いた。遠目に見える酒場の光がマルコにはまぶしく見えた。夜の賑わいの中、バレットの怒鳴り声も早い酔っ払いの喧噪と誰も見向きもしなかった。
「お前が言ったんだ。お前にとって、俺は誰よりも特別なんだって。なら、なんで俺とお前が別れなきゃいけねえんだ!」
バレットはメランのことを揺すぶった。メランはそれに凪いだ瞳でバレットを見返した。
「何とか言えよ、お前もか。あいつと同じなのか?もう、俺は用済みなのか?おい、なんとか言えよ!?」
バレットは腹の中でぐるぐると混乱と言えるものが荒ぶっていた
どうしよう?
まるで子供のように混乱の中に彼はいた。
これだけは信じて良いのだ。これだけは、何のためらいもなく、当たり前のように側にいてくれるはずだったのに。
もしも、これが裏切るとするのなら、自分は何を信じれば良いのだ?
これが信じられない存在ならば、マルコも、白ひげさえも、信じられなくなってしまう。
どこかで何かが崩れ落ちるような音がした。何かが、かちゃんと壊れてしまうような音。
淀んだ瞳でバレットは伏せられた金の瞳を見返した。
マルコも目の前で繰り広げられるそれに慌てた。メランの言葉にバレットがどれほど混乱しているのか理解して、どうしたのものかと悩む。
マルコはバレットをかわいがっているし、兄貴分としてそれ相応のことをしてきた自負はある。
けれど、マルコはバレットにとって一番でないことぐらいはわかっていた。
それは寂しいことだとか、悲しいことではなくて、しかたがないことだ。いつかは、その傷だらけの獣じみた少年が自分に懐いてくれることは願っていたけれど。
バレットの動揺や混乱を、マルコでは落ち着かせることは出来ない。
二人の間をマルコはうろうろさせていた。
その時だ、少女はやっと顔を上げてバレットの顔に手を添えた。
「まさか、お前は私にとって何よりも大事だよ。この世の中で、何よりも。」
ピカピカの、金の瞳は変わらなくて。小さな、白い手から伝わる温度にほっとした。それにバレットは少しだけ強ばった体を解いた。
ああ、そうだ、落ち着くんだ。
これが自分を裏切るはずがないのだ。
これは、これは、自分だけのものなのだ。自分が選んだ、ものなのだ。
バレットの怒気が収まるのを見て、マルコがおそるおそる問いかけた。
「なら、どうしたんだ?お前がそんな、親父に対して不義理をするなんてよい。」
不義理、という言葉にメランは気まずそうな顔をした。メランは礼儀というものをわきまえている。それは彼女にとって何よりも効く言葉だと理解していた。
それにマルコは重ねるように言った。
「親父だって、お前が船を下りようとしてるなんて聞いたら悲しむぞ。船の奴らもお前に構ってたろ?何かあったのなら聞かせてくれよい?」
それにメランは迷うような仕草をした後に、口を開いた。それにマルコは内心でガッツポーズをした。自分に説得は出来なくとも、理由さえ聞けば船の家族がなんとかしてくれる。
自分に出来ないことは出来る奴に任せるのが是だ。
「・・・・とびっきりの厄ネタを拾った。私は、彼らを安全だと思える人間に預けに行く。」
「厄ネタ?」
「ああ、とびっきりのさ。それこそ、そうだ。この世界の、そうだ、悉くの全ての人間に蔑まれるような、厄ネタだ。」
「なんでそんなもんを・・・・」
マルコはメランがバレットと、それこそ彼女にとって全てのような少年をわざわざ切り捨ててまで関わるもの。
マルコはメランの過去にそれが関係があるのだろうかと踏んだ。
「ならよ、それこそ親父に頼めばいいよい!どんな奴か、わかんねえけど。それでも、大丈夫だよい!」
「ダメだ!」
マルコの言葉にメランは珍しく声を荒げた。マルコとバレットは驚いたように目を丸くした。メランは、己の片腕を締め上げるように握った。
「だめだ、違う。そうじゃないんだ。マルコ、君達だって、彼らのことを否定する。彼らを庇うこと自体が、彼らを救いたいと、救われて欲しいと思う心こそが、何よりもおぞましいまでにエドワード・ニューゲートへの裏切りになる。」
メランは顔を両手で覆い、懺悔するようにそう言った。そうして、そのまま首を振り、二人を見た。
「だから、バレット、マルコ、私はここで抜ける。巻き込むわけにはいかない。」
「・・・メラン、なら、お前は何でそこまでしようとするんだ?」
バレットの言葉にメランは視線を上げた。そうして、ぽつりぽつりと口を開いた。
「私は、昔、楽園みたいに優しい世界から転げ落ちたんだ。だから、今は不幸だとか、そんな話じゃなくて。ただ、彼らは、どこか私と同じで。」
メランは手を、血がにじむほどに握りしめた。
なあ、間違うことは悪なのか。とても愚かなことをしたんだ。でも、それでも、どれだけ間違っていても、その善性は否定されて欲しくないんだ。
バレットはメランの顔を凝視した。
メランは今まで、見たことの無いような顔をしていた。
まるで、いつかの島で見た、迷子の子供のような顔。
「だから、これは道理だとか、義理だとか、そういう話じゃなくて、私の矜恃の話なんだ。それに巻き込めないんだ。だから、ごめん、ここでお別れだ。」
「それは、俺よりも大事なことなのか。」
バレットは、その言葉がどれだけ傲慢に聞こえるかなんて察しもせずにそう言った。それにメランは苦笑した。
そんなことが言えるようになったのは、よいことなのだろうと。
だから、メランはためらいもなく、バレットに微笑んだ。
「いいや、この世の中で誰よりも、ダグラス・バレット、私はお前のことが大事だよ。でも、ここで、彼らを見捨ててしまったその瞬間、君を大事にしていたメランは死ぬんだ。メランはきっと、己の中に生まれた矛盾で壊れてしまうから。」
メランはそっと、バレットの頬に手を添えた。
「バレット、もう、わかるだろう。あの船の人たちは、お前を裏切ることはないよ。船長さんだって、そうだ。だから、もう、私がいなくたって大丈夫だ。」
メランはそう言ってバレットから手を離し、そうして、後ろに一歩下がった。
「だめだ。これからは全部私が勝手にすることだ。君を関わらせるわけにはいかない、船長さんたちや、マルコだって。これは私だけが背負わなくちゃいけない。」
「メラン、てめえ、そんなの!!」
バレットが激高して叫ぼうとしたとき、パアンと、盛大な音がした。その方向を見ると、そこにいたのは手を鳴らしたマルコ。
「よし!なら、俺たちは遭難したことにするよい!」
「え、何言ってるの?」
「だから、親父達にばれたくないんだろ?なら、航海に失敗したことにして、船が壊れたって言って時間を稼ぐ。」
「私は、君達に関わって欲しくないって!」
「メラン、俺の言ったこと、覚えてるか?」
それにメランは戸惑った顔をした。その顔をマルコはじっと見た。
「言ったぞ、お前は俺の妹だって。もしもの話、お前がその厄ネタで何かあったとき、あの船の人間がお前のことを無視すると思うのか?」
「それは・・・」
「お前がこれからどうするのか、俺は知らないよい。だけどよ、それを全部、お前が背負い込めるのか?」
それにメランは黙った。メランも、自分がある程度の事は出来るが、ドンキホーテ一家のことをどれだけ守れるかわからない。
航海をしたことがない彼らには過酷な旅になるのは想像できる。バレットの強さや、マルコの船医としての知識は欲しい。
けれど、全てがばれたとき、何が起こるのか、わからない。バレットはいい。彼は地獄で生まれたけれど、天竜人という存在の意味を本当の意味で理解していないからだ。
白ひげ海賊団には言えない。彼らの正体を明かさずに船に乗せるなんてリスキーなこともできない。
高々、一船員のためにそんな我が儘など言えるはずもない。
そうして、それがばれたとき、彼らにどれほど憎まれるのか。それを、メランは耐えられないだろう。
そうして、マルコは?
マルコは、事実を知った特、彼らを赦すのだろうか。メランのことを、赦すのだろうか?
もしも、自分を蔑んだとして、それはその時だ。
けれど、もしも、ドンキホーテ一家の誰かを傷つけたとき、きっと、メランはマルコを嫌ってしまうから。
それだけは、それは、嫌だった。
そうして、白ひげ海賊団の中に天竜人を庇った人間がいると知ったとき。海賊団などというものにいるもので、彼らへの怒りや憎しみを持たない者は少ないだろう。
黙ったメランに、マルコは続けた。
「大体、預けに行くっていっても、船はどうするんだよい?確かに、この島はそう小さくねえから調達は出来るだろうが、お前のへそくりだけで船を用意できないだろう?」
ぐうの音も出ないそれにメランは黙り込んだ、本音としてはすぐにもこの島は出たい。この島でのことがわからないが、漫画の中で彼らを火あぶりにしたことを考えれば早いことに越したことはない。
「でも。」
「メラン、なら、約束するよい。」
マルコはそれに小指を差し出した。その仕草に驚いた。それは、メランが以前に教えた、彼女の生きていた世界での約束の仕草だ。
「ほら、お前が言ってたろ。指切り。針千本飲むのは嫌だから、約束するよい。何があっても、お前の味方になってやるから。」
だから、そんな顔で、そんな死にそうな顔でさようならをしないで欲しい。
マルコは、知っているつもりだ。目の前の少女は、賢しいことぐらい。敵を作らず、距離を取って、ちゃんと生きていける程度の知恵だとか、賢しさを持っている。
けれど、どこかで、生きていきたいとなどと思っていないことぐらい。
わかっているのだ。どこか、生を繋いでいくためのことをふとした瞬間に放り出してしまいそうな危うさがある。
「お前、一人で生きていけねえだろう?」
言外に、バレットと離れられるのかと問えば、メランは目を丸くした。ああ、そうだろう。生きる理由を他人に委ねてしまっているお前が、一人でなんて生きていけないくせにと。
呆れたようにそう言えば、メランは目を伏せた。
ああ、面倒なことだ。そんなにも、それに執着することはないだろう。下りたいという人間に縋り付く理由なんて無い。
でも、やっぱり、マルコは目の前の少女が好きなのだ。
強かで、拒絶していた、それでも、少女の柔い心を知っている。
マルコはバレットとメランのことが好きだった、三人で騒ぐ日々を愛していた。
今、ここで、メランやバレットと分かれたとき、マルコはきっと後悔する。彼らと違えた選択を後悔する。
自分の提案がどれほどまでに自分を受け入れてくれた親父や、家族への不義理になるかわかっている。
けれど、その選択肢しかなかった。
メランに無理矢理に問い詰めて、そのまま姿をくらますようなことをされる方が恐ろしかった。
(旅の最中に事情を聞いて親父に報告する方がいい。今、離れて、俺たちの知らないところで何かが起こる方が不利益になる。)
差し出した指にメランが黙っていると、唐突にバレットがメランとマルコを抱き上げた。
「「うえ!?」
バレットは二人を肩に乗せた。未だ、体格ができあがっていない二人ならば、バレットの肩に十分座れた。
「なにすんだよい!?」
「マルコ、てめえ、何一人で背負い込もうとしてるんだ?共犯だってんなら、俺だってそうだ。」
メランとマルコはバランスを取るために、バレットの頭や首に抱きついた。そんな二人に、バレットはそっと指を指しだした。
「・・・・仲間はずれにするな。」
その言葉に二人はなんだか笑ってしまった。あまりにもらしくない仕草だったから。だから、メランは頷いた。
本当に、何もかもがばれたとき、全ては自分の責であると懺悔する覚悟はしている。
この海で、一人で何かをやり遂げられる何かなんて持っていないから。
だから、メランはそっとバレットの小指に自分の指を絡めた。マルコもそれに倣った。
「嘘をついたら、針千本飲ます、指切った!」
自分たちは悪い子だ。だって、これから、恩人である彼にひどい不義理をするのだ。それでも、メランは味方がいる今が、ひどく嬉しいと思ってしまっていた。