「ぎゃああああああああ!」
絶叫が響き渡る。
「なんだよ、あいつ!?」
「能力者だ!海に落とせ!」
「俺の武器が!」
「無理に決まってんだろ!?あんな巨体どうやって落とせっていうんだよ!」
「おい、銃撃たれてんぞ!?」
「どこだ!?」
海賊たちの慌てた声がこだまする。
メランはそれを淡々と打ち抜きながら青い空を現実逃避の様に見上げたくなる。もちろん、思っただけでそんなことはしない。
手に馴染んだライフル銃の引き金を引く。
それに被さる様に、バレットの苛立った声がした。
「弱い!」
それにメランの額に青筋が浮かんだ。
「だから言ったでしょうが!賞金も低いし、絶対弱いって!!」
バレットがガシャガシャの実の能力で作った巨大な手を振りかぶり、海賊たちを叩きつぶした。
ぐちゃりと何かが潰れる様な音がした後、辺りに血が広がる。そうして、ばきりという音と共に乗っていた船の甲板に亀裂が入る。
「こんのあほおおおおおおおお!?」
拝啓、父さん、母さん。
崩れ落ちていく床と共に味わう浮遊感に身を任せ見上げた空を美しく感じます。
これからのことを心配した後輩というか、保護者気分で一緒にいる後輩がバトルジャンキー過ぎてもう嫌になりそうです。
今日も後輩の作った食えないひき肉に惹き付けられた海王類たちからカナヅチの馬鹿を回収して頑張っています。
ところで、バレットの能力、ガシャガシャの実というのは戦争ではそれはそれは重宝した。
なんといっても武器やらなんやらを敵から奪えることに加え、対人で合体ロボをぶつけるようなものだ。威力は計り知れない。
「それでも、自分の力コントロール出来なくて船の床壊して溺れるってことを何回すれば学習するのかな!?」
びしょびしょのバレットの頬を抓りあげつつ、同じように濡れ鼠のメランが叫ぶ。
「仕方がないだろうが!船での戦闘なんざ慣れてねんだよ!」
「なれてないなら慣れるまで大人しくしとけや!」
勢いよくメランはそう言い捨てばちんとその額をひっぱたく。反抗の一つも期待したがさすがに海水につかった後で力が出ないのだろう。
拗ねる様に顔を背けたバレットにため息を吐きながら、メランは自分の銃に視線を向ける。
メランの基本的な戦闘スタイルというものはあまり定まっていない。
基本的に見聞色の覇気を使い狙撃手をしていたがやれと言われれば接近戦もこなしたりしていた。
今、持っているライフル銃も詳しい種類までは知らない。ただ単によく使っていたタイプと思わしきものを適当にかっぱらって来ただけだ。
(にしても、国滅ぼして結構経ったなあ。)
ガルツバーグを抜け出すために船を出し、メランが真っ先に行ったのはこれからどうするかについて決めることだった。
元々、メランは平和な島にでも引っ込むことが目的であった。けれど、国まで滅ぼしてしまったのだ。少なくとも、当分の間はバレットと行動することにしていた。
けして、やけくそとかではない。
バレットは、強くなることを望んだ。
それをメランは、そうだろうと受け入れた。
強いこと。それがバレットにとって絶対的なアイデンティティであることはメランにも理解できることだった。
「なら、海賊になるのが一番だろうなあ。」
「海賊か?」
「まあ、この海で強者に当たりたいっていうならそれが一番手っ取り早いだろうなあ。海軍になるって手もあったけど。まあ、手配書回される一歩手前なわけだから無理だけどな!」
はっはっはと飛び出た声音が空回りしていないといえば嘘になるだろうが。
そんなこんなで行き当たりばったり以外の何ものではなくとも海賊になることを取りあえず決め、そのまま旅を続けていた。
ざざーんと絶え間なく潮の音がする。
メランは今の所嵐の気配のない航海にて、船の甲板に座り込んでいた。
メランのかっぱらった船は、一応は数人が使うことを想定された小型と中型の間という微妙な大きさだ。
独りで使うには大きいかと思っていたが、バレットのおかげでちょうどよかったと今は思っている。
といっても誤算な所は幾つかあり、バレットが戦う上では少々手狭であるのだ。
バレットの戦い方は元々その大きさとパワーによるものであって手狭な船ではそれが生かしにくい。まあ、今では一部に武器を纏わせるという一点集中でやっているが。
幸いなことに癖なのか船には過剰な武器が積み込まれていた。
「ダグラス・バレットかあ。」
メランはそうぽつりと呟き、ちらりと船の後方に視線を向けた。
もちろん、反応はない。
それに彼女は頬杖をついた。
名を付けようと言ったのは、メランの方だった。
軍では番号で呼ばれていたが、こうやって海賊になっていくというならば立派な名前が必要だろうと考えたのだ。メランにはすでに名前がある。
それ故に彼に自分の名前を考えることを提案したのだ。メランは、それにうきうきしていた。なんといっても、九番だとか、二番だとか、そういったもので名を呼ばれることはあまり好きではなかった。
彼を、彼だけの名で呼べることを純粋に喜んだ。もちろん、思いつかないというならば何かしら名前を考える気であった。
けれど、九番と呼ばれ続けた少年は、ダグラス・バレットと名乗ることを決めた。
何故、と思わなかったわけではない。
それはその少年にとってお世辞にも縁起のいいものではなかったはずだ。けれど、それを言うのはなんだか不躾すぎる気がした。
メランは、そうかいと一度だけ頷いた。
それは歪みに歪んだ愛着なのか、それとも呼ばれなれているからという怠惰さなのか。
メランには分からないけれど、
それでも、バレットと呼んだその瞬間、少年に苦しみがないのならそれでいいのだろう。
(・・・・もういっそこじれたファザコンも混じってるのか?)
自分を裏切り、そうして殺し返した男の苗字を名乗る気持ちはメランには推し量れなかった。
ただ、バレットが不安定であると感じている。
なんというか、戦い方が雑なのだ。
確かにバレットの戦い方は他人というものを気にしない、ワンマンなものだ。けれど、船を壊さないよう戦う技術は持っていたはずだ。
加えて、海賊の姿を見るたびに戦いを挑む様な短慮さはなかったと記憶している。
「それになあ。」
メランは早速寄った島にて手に入れた海賊の手配書に目を向ける。
そこには立派な髭の男が一人。
「ロジャーかよおおおおおお。」
悲しいことに、全くと言っていいほど知らない時代に自分は生きているようだった。
ばらりと広げた手配書には、白ひげ、シャーロット・リンリン、金獅子、そうしてゴールド・ロジャー。
今の所手に入れた有名どころの手配書だ。
(どうりで、ときどき聞こえる有名人の名前に聞き覚えがないわけだよ!)
そりゃあ知るわけないという話だ。
原作の知識がまったく、というわけではないだろうが役に立ちそうにない現在はいっそのこと放浪していた方が吉なのだろうか。
(・・・・ぜってえバレットの奴、ロジャーとかに会わせちゃだめだろうな。)
勝てる確率はゼロに近いことはメランも察せられることだ。
といっても、この広い海で彼らに会う確率など何百分の一だとも思うのだが。
メランは立ち上がり、船内に足を進めた。
バレットは狭い船でも鍛練をしていた。腕立て伏せをしながら、それでも考えることがあった。
ガルツバーグにて瀕死の傷を負ったバレットは当分の間休息を命じられた。バレットも瀕死の状態で無理に動くことが不毛であることを察して安静にしていた。
といっても、やることがなかったというのが一番の理由であったのだが。
軍隊で生活していたため、船での雑務は別段苦痛でもない。
バレット自身、実践したことはなくとも航海技術や船についての知識は基本部分は教育されていたため、二人でも十分であった。
つかの間の休息、と言っていいのだろうか。それでも腕立て伏せなどトレーニングは続けていた。
メランの言うことに従っていた。
何となく、何となく、疲れていたのだ。その、妙な無気力感が何なのか分からずとも。それでも、日々の雑務をこなすことで一応は落ち着いてた。
そんな時、メランが何気なく、こう言った。
「望んでた自由な生活の感想は?」
「は?」
それは丁度昼時で、雑務も粗方終わり昼食に用意されたサンドイッチを食べている時のことだった。
「自由?」
驚いているバレットに、メランは不思議そうな顔をする。
「ああ?別に特別な任務があるわけでもないし。食事の時間なんかが決まってるわけでもないし。」
それにバレットは固まってしまった。
彼があれほどまでに望んでいた自由というものが既に得られていることを改めて言われて戸惑ってしまったのだ。
それを察したメランは言いつくろうように口を開いた。
「まあ、自由って言ってもさほど豊かってわけじゃないのかな?」
(いって、まだ十、四だっけ?のバレットになに与える気だったんだろう。あの人。酒は、いや幼過ぎるだろうし。異性も、早いような気がするし。お金?)
そんなことを隣で考えているなど知らないバレットは自分の状態についてぼんやりと考える。
自由、今、これがそうだというのなら。
(・・・・なにが、変わった?)
確かに、任務も無い。決められた規則も無い。
けれど、それが幸福であるとはバレットには思えなかった。いや、それ以上に彼は今、ひどく落ち着かなかった。
バレットは、自分の中にあった焦燥感にようやく気付く。
ずっと、無意識に目を逸らした事実。戦うという、自分の生きがい。
胸の奥に残った、ひりつく傷跡を無視するよりもなお。
何かが足りない、そうだ、あの、あの。
自分が強者だと、示すときに感じる充実感。
生きていると、感じるそれ。
バレットはそれから今まで避けていた海賊船や海軍を襲うようになった。
戦うこと、殺し合うこと、勝利すること。
それに夢中になる。
強く、もっと、強く。
勝つことに安堵する。勝利することこそに、生きていることを確信する。
ただ、頭の奥に残る焦燥感はどこかに残り続けている。
そうして。
「バレット。」
声のする方に視線を向けると、呆れた様子のメランは皿を持って立っていた。
「お前さんも飽きないな。」
「何だ?」
「昼飯じゃ、昼飯。」
それにバレットは素直に起き上がり、皿を受け取る。温かいスープとパン。メランが軍からかっぱらったものを売った金で肉やらを買ったらしく食事はそこそこに豪華だ。
バレットはそれに口を付ける。メランはバレットの喰いっぷりににこにこと笑いながら同じように食べ始める。
それが、不幸であるとは思わない。
ただ、落ち着かない。
強くなければという在り方は彼が唯一持っていたものだ。
「バレット。」
女が名前を呼ぶ。自分を指す、彼だけを意味する音だ。
それを名乗ったのは、別段意味はない。ただ、それぐらいしか自分を呼ぶ名称が思いつかなかっただけだ。
それ以上の何かがあったのかは、彼にもよくわかっていなくても。
けれど、その名でさえも少年だけのものだった訳ではない。
強さだけが、彼だけのものだ。
それ故に、戦うことを求める。戦い続けることを、強さの証明を望まずにはいられなかった。
それを止めた瞬間、彼は彼であることを失うのだと、何となくわかっていたのだ。
海賊になろうという提案を受けいれたのは、それによってさらなる強者との戦いが出来ると分かったからだ。
隣りに座る女を見る。
今は、それでいい。
そうだ、自分は一人で戦える。
けれど、この女がいれば便利なのだ。
名を呼ばれれば、自分のいた場所を、生き方を忘れることはないから。
だから、そうだ、女と共に旅をしてもいい。
心が逸る。もっと、もっと、強い存在と戦いたいと。それだけを、考えていたいと。
もしも、そんな二人を見ていた人間がいたのなら呆れたように言っただろう。
海に落ちることも考えずに戦うそれは、引き揚げてくれる存在がいるという甘えであると。
拝啓、父さん、母さん。
何回も拝啓と言ってすいません。
というか、そうでもしないとパニックでおかしくなりそうです。
うちの後輩が、運の悪いことに同じ島に泊まっていた白ひげの船に特攻決めようとしていて今回こそ本当に死にそうですが今の所は元気です。
どうか、草葉の陰かは知りませんがあの馬鹿を無事に回収できるように見守っていてください。