ちょっと短め。
原作時間でのフラミンゴさんの動きを考えてたときに、IFでメランとバレットの遺児を育てるドフィの話しを考えて湿ってるなあと思いつつ、いつか番外編で書いてみたいなあと思ってます。
誰もが、自分に視線を向けていることを理解した。
それに、それだけで、ドンキホーテ・ホーミングの足はすくんだ。いいや、殺気混じりのそれの中で、本音を言えば漏らしてしまいそうだった。
場違いのように、ああ、トイレに行っておけてよかったなあ、なんて馬鹿のように考えた。
メランは目を見開いて、そうして、暴れた。
「ホーミング!お前、何故来た!?逃げろ!お前が来ていい場所じゃない!わかってるだろう!?」
メランは力の限り、シルバーズ・レイリーの腕の中で暴れた。
「ほら、暴れるな!」
レイリーはそう言いつつ、やってきた男を見た。ゴール・D・ロジャーと、負けているとはいえ、そこまで戦い続けられる少年との戦いに船員達が気を取られていたのだろう。
レイリーは見張り番を後で叱らねばと考える。
(・・・普通の、人間だな。)
レイリーはまじまじとその男を見た。なんといっても、今をときめくロジャー海賊団にどんな理由があるにせよ、飛び込んできたのだ。
どんな奴だと少しだけわくわくして観察したが、何だろうか、
正直、がっかりした。
体は震えている、体つきも鍛えたものではない。確かに、この場で気絶もせずに戦いに割って入ったのは感服すべきだろうが、それだけだ。
それは、何故、こんな所にいるのだろうか。
いいや、この少女は、何故、そんなにも男を庇うのだろうか?
「・・・・・てめえ、海賊同士の戦いに首を突っ込んでくるってことの意味、わかってるのか?」
ロジャーがそう言って軽く殺気を出した。それは、レイリーからすればそよ風の、からかいや、脅し程度の意味合いだ。けれど、男には相当の威圧感があったのか、がたがたと震え始める。
それにバレットは体に渇を入れるように立ち上がった。
「おい、さがってろ、おっさん・・・」
「バレット君、君、そんなに大けがで!」
「お前が前に出ても変わらねえだろうが!」
バレットはそう言って、ホーミングの前に出た。それにホーミングは体のことを気遣って止めるが、バレットは煩わしそうに押しのける。
それにロジャーは静かな目をしてバレットを見た。
それに、バレットは不思議な気分になる。
その男は、なんだか。出会っても間もないためにそんなに知っているわけではないけれど。
なんだか、荒ぶる海のような、気まぐれに吹く潮風のような男だった。
けれど、今、その時だけはしんと、静まりかえった目をしていた。
夏の、カラッと晴れて、騒がしくて、魚たちが踊るような海だったのに。
違ったなあと、暢気に考えてしまった。
凪いだ冬の海だと思った。
なんだか、冬の、どんよりした雲が少しだけ開けて、光が注がれるような、凪の海。
「・・・・おう、クソガキ、てめえそれを庇いながら俺とやり合えるなんて思ってねえだろうな?」
「やるしかねえだろうが。」
バレットは揺るがずにそう言った。出来ないだろうとは理解している。けれど、そうしなくてはいけないのならば、そうするだけだ。
それに何か、男はかすかな苛立ち混じりに言った。
「・・・・てめえはそいつが何なのか分かってるのか?」
「てめえは知ってるのか?」
バレットははてと思う。バレットは正直、今になってもホーミングという男の業を理解していない。
彼にとっては世界の構造というものへの実感がわかなかった。天竜人というそれが手ひどい蹂躙者であるとして、地獄と地続きの世界で生きていた彼にとって、あまりにも、当たり前の存在であったせいだろうか。
理不尽に搾取を行う存在がなんて当たり前のようにあるのだろう。
バレットは、理不尽を理不尽だと思っていない。
それが当然である彼には、マルコやメランの語る特権階級の悪徳さを理解していなかった。
不思議そうな、幼いそのバレットの様子にロジャーは珍しく笑みを消して、ちらりと赤い髪、そうして、青い髪の少年の方を視線だけを向けた。
「そいつ自身じゃ覚えはねえが。似たような顔を、見たことがあってな。」
「ああ、元、貴族だっけか?そんなのに会うことなんてあるんだな。」
バレットはなんだか意外そうにそう言った。
ホーミングもまた、それにロジャーの視線の先に目を向けた。そうして、ホーミングはひいと上げそうになった悲鳴を飲み込んだ。
わかった、理解した、恐れた。
だって、視線の先にいた、赤い髪の、少年。
その顔に、ホーミングは覚えがあった。それ故に、やはりと理解した。
目の前のそれが、自分のことを知っているのだと。
静かなその声。それに、近くにいたレイリーは何が言いたいのか察した。
シャンクスに向けた視線、そうして、その言葉、バレットの発言。
一つの可能性に行き着いた。
まさか?
いいや、ありえるのか?
ぐるぐると考えたその時、ロジャーは口を開いた。
「・・・そこまでする理由は何だ?」
ざわつきが聞こえる。何をそんなに、その、ひ弱な男にロジャーが関心を向けるのか。
元貴族、まあ、あり得ない話ではない。
政府への敵対存在がいないとして、貴族という特権階級が落ちぶれないわけではない。共食いというのはどこにだって存在する。
けれど、今まであまりな、冷ややかなその空気を向けるほどの理由は何だと船員達はざわつく。
「あ?理由?」
「お前がそこまでして、そいつを庇う理由だよ。どうも、うちの娘もなんでかご執心のようじゃあるが。お前がそこまでする理由は何だ?」
威圧感のある声音を聞いて、バレットは、それに素直に何故を考える。
改めてそう問われて、確かに、と頷いた。
何故、それを庇おうとする?
以前ならば、盾にするぐらいはしたというのに。
何故?何故?何故?
心の内で問いかけた。それに応える必要なんてないのだろう。けれど、男のその目。
冬の、冷たい空気の中でみた、凪の海。
なんだか、それには答えなければと思った。
何故?
メランがそう願っているから?船で一応は世話になったから?情が沸いたから?
答えならばいくらでもあって、けれど、口に出たのはまったく違った。
「こいつと俺は同じだからだ。」
それにロジャーは珍しく、心底驚いたような顔をした。
なんだか、バレットはそれに、ああこいつは多分こんな顔を滅多にしないのだろうなあと思った。
「同じ?同じ、だと?」
ホーミングでさえも驚いた顔をした。同じ?いいや、同じではない、けして、同じであるはずなんて。
メランでさえも驚いた顔をした。
(バレット、お前・・・・)
バレットは口にした言葉に驚きながら、すとんと己の中で納得という感覚が染み渡った。
「こいつも、俺も同じだ。せめえところで違うどっかにいきたがってた。いきかたなんて知りもしねえのに。それで、散々な目にもあった。おい、ゴールド・ロジャー。」
海賊ってのは、自由な生き物なんだろう?
バレットはロジャーを見た。
昔、メランに聞いた。
海賊ってのは、どんな存在だ、と。
秩序の外側の生き物、世界の庇護からの逸脱者。ああ、でも、そうだな。
メランは少しだけ笑って、懐かしむように言った。
「きっと、この世で最も自由な奴らが背負う肩書き、かな?」
それに、バレットは、いいなあと思った。
自由、それをバレットは知らないけれど。もう、父親のように慕った男に裏切られたとき、なんだかもういいかと目をそらしていたけれど。
少女の言った、自由という単語が溜まらなく清々しい音として聞こえた。
「生まれでも、生まれた場所でも、しがらみでも、なんでもねえ。人は平等だと、そんなことの証明に、天から飛び出した男なんざこの世でも最も自由じゃねえか!」
バレットは、絶望的な状況なのに、何故か愉快になって笑った。
バレットだって、ホーミングの願いが愚かなことはわかっている。
人は平等ではない、命には貴賤が存在する。それを、この世の頂点であるはずの座にありながらそれは飛び出したというのだ。
馬鹿だ、大馬鹿だ、最大の愚か者だ!
でも、バレットは思うのだ。それは、きっと、メランと同じ者なのだ。
何が、かはわからない。けれど、それはメランと似た生き物なのだ。
「そんな奴に肩入れしねえなんざ、海賊の名折れだろう!?」
笑って見せた。愉快で、軽やかで、バレットは改めてダンと足踏みをした。
そうだ、だから、守るのだ。
だから、こいつに生きて欲しいと思うのだ。
細くておもちゃみたいな指をした女の笑顔を思い出す。生意気な子どものことを思い出す。小さくて本当に人間か疑ってしまう末を思い出す、
そうして、自分をまるで、尊いもののように見つめる、メランと少しだけ似ている男を庇ってバレットは笑う。
「メランと、ホーミングのおっさんをつれて帰んだよ!理由なんざそれだけでいいはずだ!」
レイリーは茫然とする。だって、そうだろう?
バレットの口ぶりからして、ホーミングの正体に真の意味で気づいていないのだろう。
けれど、ありえないと思う。
そうであるとして、天竜人を、己と同じだと、そんなことを言える存在なんて今までいるはずがないだろう?
だんと、また音がした。それにレイリーは正気に戻る。
腕の中で、口をふさいだメランのことを伺った。メランは、ただ、茫然とバレットのことを見つめていた。
レイリーはともかく少女が大人しくしていたことを理解して、ロジャーの動きを伺った。
ロジャーはぎらぎらとした目でバレットを見た。
「・・・てめえで海賊名乗ったんだ。なら、海賊の流儀もわかってるだろう?望むものは奪ってなんぼだろ?」
その言葉に、ロジャーとバレットは改めて構えを取った。
それに船員達は二人の殺し合いが再開されるのだろうと思った。けれど、それには邪魔が入る。
たんと、軽い足音がした。それと同時に、バレットの目の前に一つの影が躍り出た。
「ホーミング!お前!」
「バレット君、これは、私のせいだ。」
震えているのに、何故か、ホーミングの声には妙な力があった。それに思わずバレットは黙り込む。
元々、誰かに従う人生だったバレットと、誰かに命じることが当たり前のホーミングとは、ある意味で相性が良すぎた。
その命令し慣れた声音に、バレットは黙り込む。
ホーミングは改めて目の前の男を見た。それにロジャーは静かに見下ろした。
「てめえ、何考えてやがる?」
それにホーミングの体が小刻みに震える。
ああ、恐ろしい。
恐ろしい、けれど、ホーミングはその威圧感と殺気に耐えた。
幸運だったのは、ロジャーが殺気を最低限に抑えていたこと、ホーミングというそれが案外殺気というものに慣れていたこと、そうして、ホーミングの覚悟が決まっていたことだろうか。
それは、腐っても、天夜叉などと謳われた男の父で、そうして、己の過ちで息子に殺されることを是とする程度の肝は据わっていた。
怖かった、恐ろしかった、気を手放して、倒れてしまいたかった。
けれど、それではダメだ。
ここに来た理由も、義理も、ホーミングにはあった。
だから、ホーミングはぐっと背筋を伸ばして、男を見た。
ゴールド・ロジャー。
世間知らずのホーミングでさえも知っている、この世で最も凶悪な男。
ああ、なんて、威圧感だろうか?
(私たちよりも、よほど、王という言葉がふさわしい。)
なんてことを思って、ああ、それを考えられるほどの余裕があることに安堵した。
ホーミングはそれに、その場に座り込み、そうして深々と頭を下げた。
それにロジャーの目が見開かれた。
ホーミングはそんなことはわからない。けれど、床に額を付けて、そうして、震える声で話し始めた。
「あ、あなたは、私がなんであるのか、わかってらっしゃるのだと思います。」
少しだけ、つっかえながらホーミングは続けた。
「私のことは、どうなさってくださっても、構いません。こ、殺して、くださっても、どうしても、構いません。ですので、お願いです。」
彼女と、バレット君のことを帰してあげてください。
それに船に確実に、さざ波のようにざわめきが広がる。
だって、そうだろう。
貴族とは、どれだけプライドが高いなんて有名で。海賊なんてものになった人間達の出身なんてろくでもない国が多い。
ならば、その上に立つ人間ももちろんろくでもない。
それ故に、だ。
それは元、貴族であるらしい。ロジャーの反応からして確かだろう。
けれど、そんな存在が、頭を下げて血が繋がっているわけでもないらしい子どもの命乞いをしている。
自分の命を引き換えにして!
レイリーは茫然とする。いいや、それが、予想通りであるはずならば、自分は夢を見ているのだろうか?
そんな、こと。
悪夢のような、いつかを思い出す。
赤い髪の少年を拾ったあの日のことを。
悪夢のような、人を人とは思わない、そんないつかの記憶を掘り起こす。
それは、本当に、天に座した竜だというのか?
「てめえは、自分が何を言ってるのか、わかっているのか?」
ロジャーの声音に、怒りはない。けれど、男から聞いたことのない、寒々しい声音に船の人間は震える。それに、ホーミングは震えを大きくした。
けれど、己を奮い立たせて声を上げた。
「わかっています!わかっていなければ、ここに来ることなどないでしょう。」
ホーミングは喉の奥が塞がったかのような、何かが詰まったかのように、そんな、苦しい感覚に襲われた。
けれど、気絶などせずに、なんとか意識を保つ。
先ほどよりも、濃い、といえる殺気がロジャーからあふれ出した。
「何故だ?」
ロジャーはやはり、凪いだ海のような声で問うた。それに、ホーミングは、ああ、彼の顔を見なくてはと思った。
何故だろうか?
そんな風に、何故か思った。
きっと、それが誠実な、ことなのだと思った。
自分が身の程知らずの願いをするのなら、誠実でなければと思った。
ホーミングはゆっくりとではあるが、顔を上げた。
恐ろしかった。
ああ、鬼がいると思った。
黒い鬼が、自分を見ていた。
怖い、恐ろしい、逃げ出したい。
けれど、ダメだ、そうだ、決めただろう?
人として、生きて、死ぬのだと。
「わ、私は、愚かなことをしました。自分の立場に納得できず、人を、人として思わない周りを、嫌悪、しました。言葉で語ろうと、行動で示そうと、全てが無意味でした。ならば、と。ならば、私の全てを、かけて、証明を、しました。」
ホーミングは、ぼたぼたと涙が零れた。それは、恐怖のせいでもあった。それと同時に、彼は、己の同胞達への、恥の感情で涙が流れた。
「全てを、捨てて。けれど、私は愚かだった!私の、無知さで、私は私の最愛を危険にさらし、殺しかけてしまった!私は、私は、それに、同胞達の言葉が真実だと、命に貴賤はなく、人は誰しも平等だなんて、愚かなことだと、諦めかけてしまった!」
ぼたぼたと、ホーミングの瞳から、涙が零れた。
愚かだった、無知だった。
自分の願いが、敗北した瞬間、ホーミングは自分が間違いであったのだと、理解しようとして。
「けれど、あの子だけは、メラン君だけは、私の願いを間違いではないと、言ってくれた!」
涙が零れた、視界がかすんで、水面のようにゆらいでいた。
怖い、恐ろしい。けれどホーミングはその、黒い瞳を見上げた。黒い髪を、した、男を見た。
「助けてくれました!私に生きる術を教えてくれました!守ってくれました!彼女は、私に、私なんてものに、幸せになって欲しいと、言ってくれました!」
叫ぶ言葉が、船にこだまする。それに皆、何も言えない。
一人の男が、今、命をかけて、叫んでいる。だから、その言葉を、皆聞いた。
「私はとても罪深い、深い業を背負って、多くの義務を理解せず、放り出してしまった!私は、敗北したのでしょう!人とは誰しもが平等であると、それは、あまりにも弱者の願いでしかなかった!ですが、それを、正しいと、一人の少女が、命をかけて肯定をしてくれた!」
ホーミングは立ち上がった。
そうして、ロジャーに向かい合った。
ああ、恐ろしい。涙があふれる、体が震える。まるで子鹿のように情けなく、ホーミングは震えていた。
まるで、竜でも前にしたかのような心地だった。
けれど、ホーミングは、せめてと思った。
叫ばなければ、少女の価値を証明しなければと思った。
背筋を伸ばして、一人の男に向かい合う。
ああ、そうだ。
目の前にいるのは、己と同じ、人間だ。
「命をかけて、助けてくれた恩人のために、己の命をかけられもせずに、何を人と言えましょうか!」
それに、ロジャーが武器を振り上げた。
それに、ホーミングは叫んだ。
恐怖で、そうして、安堵で。
バレットの焦った声が聞こえる。視界の隅に、少女が目を見開いていた。
それでも、ホーミングは良かったと思った。
少なくとも、自分は、人間として死ぬのだと。
だーんと、床に、何かが突き立てられた。
その衝撃でホーミングはその場にへなへなと座り込んだ。
「ふ、ははははははははははははははははははははははははは!!」
高らかな、これ以上無いほどの、爽やかな笑い声が響いた。それに、今までのことなんて忘れて、皆がぽかーんと口を開く。
そうして、ロジャーはへたり込んだ、男ににかっと、笑った。
「気に入った!」
一緒に酒でも飲まねえか?
それにホーミングは馬鹿みたいに、ああ、太陽みたいに笑う男だとそんなことを考えた。
それを少女が見ていた。
ぼたぼたと、まるで、夢を見るような目で、涙を流しながら、ただ、見ていた。