倫理観等はすでに消えかけていますが元気です。   作:藤猫

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野良犬の庇い合い

 

 

その日、バレットとメランは海賊たちが多く集まる繁華街的な島に来ていた。

左を見ても、右を見ても、物の見事に海賊しかいない。

島の人間も、海賊が金を落とす存在と認識しており、一見して平和だ。

まあ、需要があるのなら供給が生まれるのは自然な事だろう。

海軍が見れば発狂しそうだが。

まあ、あちらも天竜人に納めるものを納めなければ守ってもくれないのだから言いっこなしかもしれない。

 

「所詮人間は資本主義の奴隷なのか。」

「お前、何言ってるんだ?」

 

雑踏の中を抜けながらバレットは胡乱な目で訳の分からないことを言う古なじみを見る

そんなことを気にした風も無くメランはくるりと振り返り、後ろにいた相棒を見た。

 

「気にしなくていいさ。それよりも、私との約束はおぼえてんの?」

「・・・戦闘は、ひとまず我慢。」

「よし。」

 

この島に来るときに、メランはなんとかバレットに一つの約束事をさせた。

食料やらの物資の調達が終わるまで他の海賊に喧嘩を売らないこと。

一度、とある島に同じように上陸していた海賊と交戦した後、物資を調達できずに散々な事になったことがあった。

その時のメランの烈火の怒り様とその後の生活について思うことがあったらしく素直に約束をした。

 

「食べ物とか手に入れた後なら喧嘩なりなんなりしていいからさ。」

「分かってる。そんなに何度も言わなくていいだろ。」

 

 

まあ、すぐに他の海賊船を襲って物資を奪ったことには目を逸らして。

メランはその言葉に満足してまた歩き出した。それにバレットはふんと息を吐き周りを見回した。

周りには、多くの海賊たちがたむろしている。そんな中、バレットは自分に幾つかの視線が向いていることに気づく。

年若い二人だけが、この島にいることに違和感を抱いているのだろう。

それと同時に鼻の利くものは、バレットの強さというものに気づいているらしく刺さる様な視線を感じる。そうして、メランにもまた視線が集まる。

それに、バレットは呆れたような目を向けた。

バレットとしても、メランに視線を向ける気持ちも分かる。

殺伐とした空気の中、メランの空気は少々平和過ぎるのだ。狼の中に羊が紛れ込んでいれば目立つのは必然だろう。

バレットはそっとメランに近づき、牽制する様に周りに視線を向ける。そうすれば、数人はそっとメランから視線をそらした。

 

「今日のご飯はどっかで食べようか。」

 

蒼い髪が揺れる。

ほんの一瞬で、殺し合いが始まるだろう喧噪の中で、聞こえて来る言葉がそれであることにバレットはふっと笑った。

 

 

その日は、本当にいい日だった。

何と言っても、バレットが大人しく荷物持ちに徹していたことだ。

おかげで何往復もせずに買い物を済ませた。そうして、強面のバレットのおかげかいつもより足元を見られなかったのは本当にありがたかった。

メランはご機嫌のまま、島に多くあるうちの酒場の一つにやって来ていた。

メランはご機嫌でジュースを頼む。別段咎めるものも法もないのだが、それでも昔の常識に引っ張られて酒というものを飲む気にはなれなかった。

バレットといえば、別段酒が好きなわけでなくメランが酒を忌避しているためか自らそれを求めることも無い。酒場の人間は、互いにジュースを頼んだ二人組に訝し気な表情をしたが料理もある程度頼んだおかげか何も言わずにその注文を受けた。

 

「いやー、今日はやることがすいすい片付いて嬉しいなあ。バレットのおかげで買い物が早くすんだよ、ありがとな。」

「俺の分もあるんだ。」

「まあ、そりゃあそうだけど。良い気分だから礼が言いたくなるのさ。」

 

何と言っても久方ぶりの平和な上陸だ。そう言いたくなるのも分かってほしいものだ。今の今まで、島への上陸と言えばバレットが暴れることがセットだ。今回のような穏やかな時間は久しぶりだ。

 

「まあ、勝負の相手は明日探そうか。聞いた話じゃあ、何人か二つ名持ちとかいるらしいし。」

「懸賞金は?」

「うん?五千万とか、ああ、億越えもいるよ。」

 

億越えという言葉にバレットはにやりと笑う。大方、手ごたえのあることを期待しているのだろう。

億越え程度ならバレットも幾度か戦っている。

 

(・・・・今回は私は参戦しなくていいよな?)

 

基本的にメランがこういった折に参戦するのは船上戦だけだ。逃げられる余裕があるのならメランは戦わない。

バレット自身がのびのびと戦いたいために邪魔になるメランが共に戦うことを良しとしない。ただ、海上にてバレットがけしかけた戦いに関しては問答無用で参戦するしかないため文句は言わないが。

というか、逃げ道がないのだから仕方がないのだが。

 

「にしても、家の船もう少し何とかしないとなあ。」

「あの船は元々漁だとかに使う奴だろう?」

「ん、まあねえ。そのせいで木造りの奴だからあんまり防御力ないしねえ。お金、貯まったら買い替えるとか、作り直してもらうのも考えないと。」

「・・・・襲うか。」

「うん!考えてることはわかるけど海の上でやるのは止めてね!?だいたい、君は襲っても船沈めるから略奪もクソも無いじゃん。」

 

それにバレットは少しだけ後味の悪い顔をして、ん、と一言だけ返事をした。拗ねた様な表情にメランはため息を吐く。

そうして、立ち上がる。

 

「まあ、今日はもう帰ろうか。行動は明日、明日な?分かったよね?」

「んな何回も言わなくても分かってる。」

 

素っ気ない返事にメランは頷きながら立ち上がる。

 

「そんじゃあ、勘定払う前にトイレに行ってくるから待っといて。」

 

バレットはそれにひらりと手を振ってこたえた。

 

 

 

「あれ?」

 

メランは用を足した後、自分たちが座っていた席に帰って来た。そうして、そこにはバレットの姿はなかった。

不思議に思っていると、店の主人が近寄って来る。

 

「連れなら出ていったぞ。」

「え、まじですか。先に帰ったのかなあ?」

 

メランはバレットの行動を不思議に思いながら店主に食事の代金を払う。首を傾げているメランに、バレットがいなくなったためか声を掛けて来る存在がいた。

 

「はっはっは!嬢ちゃん、あのガキなら今頃死んでると思うぜ?」

「は?」

 

声の主はとあるテーブルに座っている海賊の一団であった。記憶にないことからメランは自分がトイレに立っている間にやってきたらしい。

 

「ええっと、それはどういうことで?」

 

恐る恐るそう言えば、男たちはげらげらと下卑た笑い声をあげる。そうして、メランの手を掴む。

 

「そんなことより、こっちに来いよ!」

 

メランはそれに面倒事のにおいを察知し、無言で拳銃を手に取った。

 

 

 

そうして、メランは現在爆走している。

一人で白ひげの元に特攻したバトルジャンキーの後輩を助けるためだ。

 

(あああああああああ!あんの単細胞がああああああ!)

 

事の顛末は単純な話。どうも件の海賊たちは年若いというのに一人でテーブルについていたバレットに絡んだらしい。

別段、それについては構わない。というか、よくあることだ。

いつもならば、バレットも適当に伸すぐらいはしただろう。けれど、何故か、今回はその安い挑発に乗ってしまったらしい。

そんなに自分の強さに自信があるのなら、白ひげにも勝てるんだろうな、なんて。

 

「あんの馬鹿野郎が!!」

 

メランは足に力を入れて、さらに加速した。どうも、聞くところによると丁度白ひげの船がこの島に泊まっていたらしく生意気なルーキーを揶揄うタネにされたらしい。ああ、なんて運が悪いのだとメランは嘆きたくなる。そうして、そんな安い挑発に乗った馬鹿への嘆きも加えて。

 

(だいたい、あいつはこの頃焦ってる。)

 

バレットは確かにバトルジャンキーではあるが、それでも準備や仕込みをしないほど愚かではなかった。能力で船を叩き壊している時点で、そう感じることはあった。

けれど、国であったことがことだ。

気を紛らわせるために逸っているのかとも思った。けれど、何と言うのだろうか、だんだんひどくなっている気がする。

メランは背負った武器を入れた箱を背負いなおし、さらに足に力を入れた。

 

 

「くそったれ。」

 

酒場の店主は憎々しげに吐き捨てた。

彼の前には、ルーキーらしい二人組に絡んでいた海賊たちが転がっている。

 

「処理するこっちの身にもなれってんだよ。」

 

海賊たちは全員、十人弱ほどは眉間にぶち抜かれて絶命していた。

 

「おい、さっきのガキ、見たか?」

「ああ、すげえ早撃ちだったな。」

 

その場にいた海賊たちは、酒場でひと騒動起こして出て行った子どもの話を肴にしていた。

自分に絡んできた海賊たちを、少女は何の躊躇も無くまず、一人撃ち殺した。

額をぶち抜かれたのだから当たり前だ。

そうして、少女はそこから作業をするかのような気軽さで男たちの、急所を打ち抜いて行った。

 

「早業も早業だったがよ、まるで見えてるみてえに攻撃全部避けてたよな。」

「ああ、襲い掛かられてもまるで未来が見えてるみてえだったしよ。」

「最後に残った奴なんか、何吹き込んだか聞くためにわざわざ足やら腕やら打ち抜かれてたしなあ。」

「ま、そいつも結局額打ち抜かれて死んじまったがな。」

 

おお、怖い。

男たちは最後にふざけた様にそう言って、死体の転がる横でげらげらと笑い合っていた。

 

 

 

(わあーい。)

 

なんてはしゃいだ声を脳内で上げても目の前の光景は悲惨の一言に尽きる。

丁度、島の端に泊まっている巨船を見つけた。木々の間から身を潜めてそれを観察する。

そうして、その巨船の前の開けた場所にて戦っている馬鹿と、見上げる様な巨体の男。

ああ、逃げたい。

もう、何もかも見なかったことにして、船に乗って逃げたい。

 

「約束破ったの、あいつだし。」

 

そんなことを呟いてみる。けれど、どう見ても苦戦をしているだろう弟分のことを見ていればそんな感覚は薄れていく。

 

あいつは、死ぬんだろうか。

 

そんなことが頭をよぎる。

メランはそれに、首を振った。

嫌だ、ああ、嫌だ!

そんなことがあるのが、そんなことを考えた自分が、心底嫌だ。

逃げれば楽だ、無視した方が安全だ。けれど、それはメランにとって人間であることを放棄してしまうことと同義だ。

 

「もおおおおおおおおお。」

 

メランはため息を吐いて持って来た武器に手を駆けた。

 

 

 

エドワード・ニューゲートこと、白ひげと呼ばれる男は目の前のそれの攻撃を受け流す。

未だ、年若い青年と少年の間程の子どもはたった一人で白ひげに挑みがかって来た。

普段ならば、叩きだすなり、痛い目を見せるなり、殺すなり。

白ひげが何かをするほどのことはない。

けれど、その男は彼の家族を蹴散らして白ひげに戦うことを要求した。

それを彼は受けた。

そうでもしなければ止まらないと理解したためだ。

 

相手の少年は、確かに強かった。

能力者の様で持っていた武器を組み換え、時には銃撃を、時には斬撃を仕掛けて来る。それと同時に肉弾戦においても目を見張るものがある。

けれど、彼は白ひげを相手にするには力不足であった。

 

(・・・惜しいなあ。)

 

そう思ってしまうほどの実力だ。

少年、バレットと名乗ったそれは膝をつきぜーぜーと荒い息を吐いている。それを見つつ、白ひげは自分の刀を振るおうとした。

そうして、自分に向かって来る何かを認識する。白ひげはバレットに向けていたそれを振った。

眼で認識すれば、丸い砲弾のようなものを白ひげは切り裂く。それと同時に、辺りに煙が吐き出された。

 

「なんだ!?」

 

思わずそんな声が飛び出た。白ひげはとっさにグラグラの実の能力を使い、衝撃波で煙を霧散させる。

が、煙を少量は吸ったらしく、げほげほと咳がこみ上げ、ぼたぼたと涙が溢れて来る。

涙で揺らいだ視界の中で、バレットの隣に誰かが降り立つ。

 

「てめえ、余計なことしてんじゃねえよ!?」

「どの口が言ってんの!?ずたぼろの状態で完全に負けてんじゃん!バカなの!?あほじゃん、もう死にかけじゃん!」

「俺は負けてねえ!」

「すげえな、その様相で負けねえって喚く負けず嫌い嫌いじゃないけど今は殺したいほどめんどくさいな!?」

「めんどくさいならほっとけ!」

「あほか、ほっとけるならあの時、君の事なんて置いて逃げとったわ!というか、物量で押しつぶすのが得意戦法なのに、何を武器も持たずに挑んでるのかな!?」

 

現れたのは、一人の少女だ。黒にも青にも見える濃い紺の髪を揺らし、獣じみた金の瞳で白ひげを睨んでいる。

手には古いライフル銃を持っており、背に長方形の箱を背負っていた。そうして、それを乱雑な仕草でバレットの方に放り投げた。

バレットがそれを受け取り、にやりと笑って蹴り上げる様な仕草で蓋を開け、中に入っていた銃や剣を取り出す。

白ひげは涙で掠れた視界の中で、迷いなく武器を構えた。

 

「気が利くなあ、メラン!」

「うん、敵前逃亡って言葉を知らないんだね、君は!?というか、催涙弾あんまり効いてねえなあ!?」

 

せっかく軍からかっぱらったけど、目つぶしにもなんねえ!

 

無駄に威勢のいい声が辺りに響く。そんな声など聞こえていないというのにバレットは白ひげに飛びかかった。

 

戦に参戦した少女、メランは、そうはいってもあまり強いとは言えなかった。ただ、戦いにくい相手ではあった。武装色の覇気は使えないようで手に取った武器もさほど脅威ではない。ただ、まるで見えているように白ひげの攻撃を避ける。

本人の身体能力自体は、バレットに明らかに劣っていたがその動きによって能力以上の動きを見せている。

そうして、バレットへ回避のために指示を出すのだ。そのために、バレットの動きも相手するには面倒になっている。

バレットの方はメランの持って来た武器を能力で弄ったらしく、明らかに火力が増している。

白ひげは標的を変え、メランへ主な矛先を向けた。

メランは確かに優れた回避能力、おそらく見聞色の覇気使いとして高い資質を持っているのだろう。だが、その力に身体能力が追いついていないのだ。

フェイントを加えた攻撃にメランはあっさりと引っかかり、地面にそのまま叩きつけられ動かなくなる。

 

「メラン!?」

 

それにバレットが初めて動揺を見せる。微かに胸が上下しており、生きてはいるようだった。白ひげはそれに目を細めて、挑発する様に言い捨てた。

 

「どうした、俺にぐらい一人でも勝てるんだろう?」

 

それにバレットは歯を噛みしめた。

 

「くそが!」

 

バレットはそれからどんどん劣勢になっていく。それは、メランという援護役がいなくなったこともあるだろう。そうして、それと同時に、地面に倒れ伏した彼女を庇っているためだ。

動きがパターン化し、守りに徹している。

その様は、まるで野良犬同士の庇い合いに見えた。

一人でいいのだと、バレットが叫んだのは事実だろう。それは、確かに一人でいいのだと、勝てるのだと自身が思っていたようだった。

だが、今はどうだろう。

その少年は、今、勝つためにではなく、守るために足掻いている。

迷いがあるのは手に取るように分かった。

それを止めれば、もっと上手く戦える。けれど、どうしたってそれが出来なくて。

大切にしたいのかもわからない、仕方だって分からない、危うい戦い方だ。

何を急ぐのかと疑問はある。

バレットは強い、その資質は確かな経験などを積めば自分と遜色ないほどまでに強くなるだろう。

白ひげは、その子どもから自分と同じ何かを感じた。

ただ一人、味方も無く、己の為だけに力を振るうその様よ。

ああ、思い出す。多くのことを、その少年からは思い出す。

そんな風にしか、力を振るえなかった時のことを。自分が何を求めているのか、分かりもせずに暴れることしか出来なかったその時を。

 

(潮時だ。)

 

白ひげは畳みかける様にバレットに斬撃を与え、とうとうバレットも武器を消耗させられ肉薄されたあげくに吹っ飛ばされた。

そうして、今までに蓄積していたダメージのせいか、そのまま意識を失った。

白ひげはゆっくりと少年に近寄ろうとする。その時、動かなかったメランが意識を取り戻したらしく、はいずり始めた。彼女は、白ひげのことなど目に入っていない様に、バレットに近づく。

その姿は、ひどく惨めだった。白ひげはそれを無言で見つめた。

メランは、鬼気迫る様相で、バレットの元にたどり着くと彼の息を確かめた。ぜーぜーと息を荒げながら、彼女はバレットを庇うように覆いかぶさる。

その様は、ひどく、ひどく、痛ましかった。

 

「・・・・お願いです。」

 

目の前に歩いて来た白ひげを見つめて、彼女は掠れた声で言った。

 

私のことはどうしてもいいです、だから、この子だけは助けてください。

 

焦点の合っていない、今にも意識を手放しそうな目で、白ひげの方を見る。

白ひげは、似たような光景を幾度も見たと思った。

それは、弱者が弱者を庇う瞬間だ。強者に対して、無理かもしれないと思いながら、無視されると、蹂躙されると知りながら、それでも一抹の希望に縋った命乞いだ。

白ひげは、それが悉く踏みにじられる瞬間を見て来た。

白ひげの視界で、大柄な少年を庇う少女の姿が、幾重の何かに重なる。

子を庇う母のような、きょうだいを守る幼子のような、友を守る誰かのような、そんな、白ひげが幾度も見て来た蹂躙されてもなお、何かを守ろうとした誰かを重なる。

 

「・・・・それで落とし前が着くと思っているのか?」

 

普通ならば誰もがしり込みをする威圧感の混じった言葉に、メランはぐらりと揺れながら、それでもなお、必死に白ひげを見つめる。

彼女は、白ひげから目を離さなかった。

 

「おね、がいで、す・・・・・」

「なぜ、そこまでする。」

 

それは白ひげにとって純粋な疑問であった。

その二人は、そこまで庇い合うほどの何かがあるとは思えなかった。もちろん、白ひげは彼らにどんな旅があったのか知らない。けれど、そんな疑問が出てくるほどに二人はどこかちぐはぐであった。

家族と言うには親しみが足りず、友と言うには気遣いが無く、仲間と言うには好き勝手で、きょうだいというには遠く、恋人と言うには甘さが無く。

けれど、ひどく、どうしようもなくともにいるように見えた。

メランは、それに、反射的の様に、意識を手放す寸前の中、囁くように言った。

 

何も、知らないんだ、この子は。戦うことしか、知らないんだ。否定したくない、でも、もっと違うことだって世界にあって。

もっと、おいしい、ご飯を食べて。綺麗なものを見て。優しいものを、知って。

世界を、知って、ようやく自由になれた、から。

 

言葉はどんどん、掠れて、薄れていく。それでも、少女は言葉を続ける。

 

いつか、死んでしまうなら。助けて、上げられなかった、あの子たちの分も。

せめて、この子だけは。私には、この子、しか。

 

意識がとうとう飛んだのか、少女は少年の上に倒れ込む。

白ひげはそれをじっと見た。

危ういと、そう思う。そうして、惜しいとも思った。

今、殺すにはその少年は強く、そうして危うかった。自分の船にいる、遠い昔の自分の影を白ひげは見る。

白ひげは、その二人の子どもを拾い上げると無言で己の船に向かった。

 





戦闘シーンは苦手。

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