倫理観等はすでに消えかけていますが元気です。   作:藤猫

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久しぶりに。
日常の話について。


白ひげ海賊団での日々について

 

 

「ああ!誰だよ、ここ計算間違ってんだけど!?元のメモどこ!?」

 

メランは持っていた一枚の紙を持って怒鳴り声をあげる。

 

「は!?誰だよ、ここの計算した奴!?」

「おいいいいい!ここ、すげえ合計が違うんだけど!?」

 

そこまで狭いわけではないその部屋は船の中だがきわめて揺れが少ない場所だった。けれど、お世辞にも居心地がいいとは言えない状態だった。

というのも簡単な話。

メランは辺りを見回した。見回す先は、紙、紙、紙、紙の山だ。そこそこに広い部屋は紙で埋め尽くされた机と本棚で満たされている。

メランがいるのは、正確な名称は付いていないが、一応呼ぶならばこうだろう。

白ひげ海賊団、経理部と。

 

金銭面において、海賊というのは中々にルーズなイメージがあるだろう。

確かに、略奪など是とするならば基本的な、食料等は勘定に入れずともある程度賄える。それこそ、取引の必要がある武器などの設備面についてだけを考えればいいだろうが。

白ひげ海賊団はそうはいかない。

メンバーの殆どがそう言った一般人からの略奪を否とするものばかりだ。そのため、自分たちの資金の中からそこそこの人数の食料代など捻出しなくてはいけないわけだが。

海賊なんて職業でそこまで安定的な資金が入ってくるわけではない。それこそ、白ひげ海賊団はまだ縄張りなんてものを持っているわけでもない。

何とか他の海賊との抗争で得るものなどが殆どだ。

けれど、海賊と言うのはそれはそれは金がかかる。食事代や武器、そうして雑費など諸々だ。ただでさえ、肉体労働が多く食う奴が多いにも関わらず。

そこで出来るだけの出費などを削る為細かく金銭管理をすることにしたわけだ。

 

「なーんで、新入りの私が海賊団の帳簿なんてぎっりぎりにヤバめな面に手を出してんのかな!?」

「仕方がないだろ!?うちに帳簿の管理が出来るほどの計算能力持ってるのなんてあんましいねんだよ!」

 

その言葉が全てを物語っている。けれど、メランとしてはずっと納得も出来ていなかった。

 

元々、海賊が跋扈するこの世界では学力と言うのはそれこそ出身の島で振れ幅が大きい。きちんと、それこそ大学まで完備している様な島から、個人がしている塾があるところから、そう言った学ぶ場さえないようなキリまで様々だ。

それと同時に海賊になるもの自体が物好きか、それしか手段がなかったものが殆どであるため教養の有無などお察しだ。尚且つ、白ひげが好んで乗せるものは、社会の底でどうしようもなく足掻いていたものが殆どであるため教育を受けているか等絶望的だ。

もちろん、航海士や医者など基礎教育が出来ている者もそれ相応にいる。けれど、そう言った特殊な技術があるものは、別方面で仕事がある為帳簿の管理までさせていられない。

そのため、任せられるのは、特殊な技術を持っておらず、尚且つ計算能力を持っているものになる。

 

「だからってさー、だからってさあ!」

「無駄口叩くな。お前、前に軍にいて、書類仕事も慣れてるんなら適役だろうが。」

「嫌じゃないけど。こんなとこまで来てこれでいいのかって葛藤はあんだよ。」

 

ぼやく様にそう言いつつ、メランは目の前の食費代として使ったとして提出されたメモの代金に目を向ける。

 

「字がきったねえ!判別できるやつに書かせろや!」

「おい、最初にいった予算よりもオーバーしてるじゃねえか!この金額どっから出た!?」

「仕方ねえだろ、買い出しとか下っ端の役目なんだぞ!」

「ここの計算、全然あわねぇんだけど誰か確認してくれね!?」

「あ、当たり!マルコとバレットのメモ!」

 

メランは今日も悲喜こもごもと数字に視線を走らせた。

 

 

メランは漸く仕事が終わり船の中の廊下をふらふらと歩いていた。数時間、狭い部屋の中でなかなかの人数と共に作業をしていたせいか、気分が悪かった。

用意されていた食事もスープだけを貰い歩いていた。

 

(・・・今日はもう仕事がないし。どうしよう、自室に帰って寝ようか。)

 

そんなことを考えつつ、メランはどうしてこんなことになったのかと考える。

話は簡単で、バレットが船に残りたがったせいだ。

まあ、予想は出来ていた。バレットにとって全くと言っていいほど縁がなかった自分以上の強者の存在など絶対的に手放すはずがないと。

メランもまたバレットの願いに応じない理由も無い。元より、二人でいようと船に乗ろうと戦闘の多さが変わるわけでないのだから。

そうして、最大の難所である白ひげを親父として思うことに関しても、別にかまわないと言われた。

 

(まあ、今の所そこまで家族として扱うことへのこだわりはそこまで固まってないせいかな?)

 

周りも白ひげに戦いを挑むバレットにも、船長と他人行儀で呼ぶメランに比較的に優しい。

白ひげ海賊団での生活は別段問題はなかった。

二人とも良くも悪くも集団生活に慣れていることもある。

メランが心配していたバレットも今の所問題を起こさず過ごしている。元より、バレットは元々集団生活における分担された仕事と言うものに慣れている。且つ、仕事ぶりも真面目で、サボりも無く迅速に終わらせるため大抵の船員からは好感をもたれていたりする。

そうして、人とそこまで関わりを好まないため元よりトラブルが起こることも無い。

時折、バレットに絡んでくるものもいるが無視されれば相手も素直に引いてくれるため問題は起こっていない。

 

(まあ。海賊自体強けりゃある程度のことは赦されるし。愛想がないぐらい許容範囲内なのかなあ。)

 

メランは語らずとも馴染んでそのまま生活を続けている。彼女の印象としては意外だったのは、船に女性が乗っていることだった。男社会でさすがに目立つかと思ったが、そんな考えも杞憂だった。

そんなことを思いつつ一旦仮眠でもとろうかと振り分けられた部屋に戻ろうと思ったが、足は自然と甲板に向かう。

そう言えば今日は昔なじみに会っていなかったと、そんなことが頭に浮かんだためだ。

 

 

メランは甲板をぼやけた思考の中で彷徨う。

今日は確か、甲板の掃除以外は何もなかったはずだ。そうして、バレットのことだ。どうせ、何も無ければ甲板でトレーニングか、それともこの頃仲が良くなったらしいマルコとの組手でもしているだろうと思ったためだ。

 

「おい、メランじゃないか。」

「あ、こんちわ。」

 

声の方に目を向けると、これまた日焼けしたどう見てもその筋のおっちゃんといった二人がいた。

一人は金茶の髪をしており機嫌が良さそうににこにこと笑っている。そうして、もう一人の方が黒い髪でむすりと口を一文字に結んでいる。

 

「また相棒探してんのか?」

「そうっすよ。でも、よく分かりましたね、ユージーンさん。」

「お前さんが一人できょろきょろしてる時はたいていそうだろ?」

「まあ、そう言われるとそうなんですけど。」

 

二人は船の縁で釣りをしていたらしく、釣り竿を持っていた。

この二人はメランに船の雑用について教えてくれた教育係に当たる。金茶の髪をした方がユージーンであり、黒髪のほうがウィルという。

ユージーンは何くれとメランのことを気遣ってくれる。

その心境に関しては、メランも少々理解できる。彼女は、ユージーンの隣りにいたウィルの方を見た。

二人は幼なじみらしくずっと共に行動をしていたらしい。そのため、どうも所々で何かしらのことが被るメランとバレットのことを気遣ってくれているようだった。

 

「・・・バレットならマルコと共に居たぞ。」

「ああ、雑用が終わったから組み手でもするってさ。この頃仲良いよな、あいつら。」

(どっちかというとバレットにマルコが絡んでるだけの気も。まあ、自分と同じぐらいの友達なんてそうそう出来なかったし。いいことだよね?)

 

そう言ってウィルが指示した方向にメランは視線を向けてありがとうございますと言ってその場を後にした。

 

「・・・・ウィル、お前、バレットとマルコ、どっちにかける?」

 

走り去った後でユージーンは隣にいる幼なじみに声をかけた。釣り糸を垂らし、海面を見ていたウィルはなんの話題か分からずにユージーンの方を見た。

無口な昔なじみの言いたいことを察して男は口を開いた。

 

「いやな、他の奴らとメランがバレットとマルコのどっちとくっつくかって賭けてるんだよ。」

 

その言葉にウィルは下種を見る様な蔑みの目をユージーンに向ける。それに、ユージーンは慌てて取り繕うように言った。

 

「おいおい、俺が始めたわけじゃないからな?いいだろ、船の上じゃ娯楽も少ないしよ。」

「・・・・いいことじゃないだろ。」

「まあ、そうだけどなあ。」

 

そんな返答をしつつ、ユージーンはメランが歩いていった方向に目を向ける。

新しくやってきた二人組は、そんな話題が上がるほどに注目を浴びていた。

 

「にしても、船長があの子に帳簿を任せたのは意外だったな。」

「・・・実際、あの辺は人が足りていない。」

「つっても、武器の保有数だとか、帳簿みりゃあ一発だろう?そこら辺、警戒しないのかねえ?」

「だから、泳がせてるんじゃないのか?」

 

ユージーンはウィルの言葉に思わず彼の顔を見た。黒い髪の彼は、気だるそうに視線だけを向けていた。

 

「実際、何も無かったんだろう?」

「・・・そうだな。」

 

何もなかった、親父の勝ちだな。

 

そう言って、男はにやりと笑った。

 

 

「あれ、バレットは?」

「あいつなら便所に行ったぞ。」

「なら、帰って来るね。」

 

メランはそう言って、腕立て伏せをしているマルコを横目に見て船の縁の上に座る。

気分としてはすでに半分夢の中で、正直言ってすぐにでも寝てしまいたかったがそれよりも先に一度はバレットの顔を見ておきたかった。

 

(寝てる部屋も違うし。言われてる仕事が噛みあわないと午後まで会えないなんてざらだよなあ。)

 

何だかんだで白ひげ海賊団での生活はそこまで居心地が悪いわけではない。元より、中心人物が人徳者な為かあからさまに嫌がらせだとかそういったこともない。

襲撃の折、ひとしきり暴れるバレットに対して取り分を取られたとブーイングが入るものの、それさえも後輩へのからかいが混じっている。

以前のような、それこそ妬みのために陥れられるということも無く気楽だ。

バレットもむすりといつも不機嫌そうであったが、以前よりも、何と言うか、ずっと居心地が良さそうに思える。

昔と同じように、どこか輪の中から逸脱していても、それでも同じように日の下にいる様に見える。

 

(・・・あいつが居心地がいいなら、ここにいる価値も。)

 

うっつらうっつらと、メランが夢を見るようにどこか焦点の定まらない場所を見ていた。

それを見ていたマルコは腕立て伏せをしたまま口を開く。

 

「お前さん、本当にバレットのこと好きだな。」

「は?」

 

メランは夢現であった意識を少しだけ覚醒させて胡乱な目でマルコを見る。

それは何というか、明らかにこいつは何を言ってるんだという不躾な視線だった。それを察したマルコは腕立て伏せの体勢のまま勢いよく飛び上り、たんと地面に降り立った。

 

「・・・・なんで?」

 

メランは思わずそう言った。それにマルコは呆れたようにため息を吐いた。そうして、メランの隣に腰を下ろす。

 

「逆に聞くけどよ、嫌いだと思われるような態度じゃないよい?」

「まあ、そりゃあねえ。」

 

あーと言いながらメランは隣りの少年に体重をかけて凭れ掛かる。それにマルコはめんどくさそうな顔をしたが特別突き放すこともなくされるがままだ。

 

「・・・・何で急にそんなこと聞くのさ。」

 

眠たげな声の中、メランは唐突なその質問に対してそこそこ話をするようになった少年を見た。

 

 

マルコにとって、その二人組はまた変わっていた。

いや、訂正をするなら変わっているのは二人の関係性であって、二人が個として変わっているわけではない。

ダグラス・バレットのように戦闘狂の強さ主義ぐらいならばよくいたし、メランはメランで確かに海賊としては凡人で平和主義である感性も又見ないわけではない。

その少女に関しては、マルコもいい奴であるとしみじみと思うのだ。

けれど、二人でいる時だと、何ともまあこの二人は変わっている。

これといって、互いに特別な事を思っている風ではない。バレットは言われたことをこなすとさっさと鍛練をするか、それとも親父の元に行ってしまう。メランはバレットがトラブルを起こすことに関しては気にしているが基本的に放任している。

けれど、ふとした瞬間だ。

例えば、宴のさなかに誰もが酒に酔う時、何も起こらない午後の甲板、遅い夕食時、そんな時彼らはまるで臆病な獣のように近くにいる。

くっ付いているというわけでもなく、視線を交わすことも無く、隣り合って静かに何かを話している時がある。

その時だけ、まるで、二人の間の空気と言うのはまるで互いしか無いような静かなものになる。

その二人の関係性と言うのは、マルコ自身上手く表すことができない。

メランはバレットをそれはそれは気にしている。

宴の席でバレットに話しかける人間の動向と言うものを気にしているし、バレットの機嫌も心配している。だからといって、バレットへ何かしらの干渉をしたいわけではないようだった。

あまり派手な面倒事でなければ放置している。

バレットもバレットで、普段は人と口を利くことはないくせにメランが相手だとやけに饒舌になる。というよりも、派手に喧嘩をしていることはよく見ると言えば見た。

互いの垣根がやたらに低くはあるけれど、明確になんだと言われれば困る。

家族かと言われれば妙にドライだ。友人であるかと言うと近しく。恋人など論外だ。

元より、嫌な話ではあるがメランを抜けば恐らくマルコが一番にバレットと付き合いというか繋がりがあるだろう。

年が同じころであり、バレットと戦ってもそこそこ付き合えることに加え、メランが起きるまでに男の態度への苛立ちに執拗に絡んでいたせいもある。

今でも、正直言ってバレットの親父への態度は気に食わないことはそうなのだが、それでもメランへ向ける男の表情を思い出すとその気も少し収まっている。

少しだけ、少しだけ、己の親父がその男を船に乗せようと思った気持ちが分かる気がしたせいだ。

そうして、バレットに構えば必然としてメランとも話すようになった。

彼女はマルコがあまり関わったことない、温和な人間であった。

医者志望マルコと、そう言った面で知識があるメランとは共通の話題もあり、何だかんだで三人で一くくりにされていることが多くなったように思う。

けれど、時折、三人でいると時折、二人で何かを思う様な顔をするときがある。そんな時、マルコにとっては二人が変わっているなとしみじみ思うのだ。

海賊をやっているものと言うのはからっとした、単純な関係を望むものが多く、分かりやすい感情を持つ者が多いのだが。

二人の間にあるものは、他人のマルコから見ても面倒で複雑そうだった。

それ故にか、マルコは何ともなしに、メランに対してそんなことを言ったのだ。

メランはぼんやりとした目で宙を見つめていた。

 

「いや、嫌いじゃないんだけど。こう、好きっていうのも違うんだよなあ。」

 

眠そうな声でそんなことを言った。

 

「意味が分からん。」

「好意だけで成り立ってるわけじゃないんだよ。」

 

メランはそう言う。それに、マルコはしみじみとめんどくせーと思うのだ。けれど、それでも、その横顔を見ていると、その一言だけでは判断できないものがあるように見えた。

苦くて、どこかそれでも優しそうに緩んだ眼はマルコにとって理解が出来ないものだった。

まあ、面倒ならば無視してしまえばいいのだが。

それでも好奇心は煽られる。おまけに、それがマルコにとって実力は認めているもののいけ好かないバレットの弱みらしき存在だ。

揶揄いのネタになるならば是非とも知りたい。

マルコの脳裏にはいつだってむすりとしかめっ面をした同年の少年が慌てる様が浮かんだ。それを思うと、非常に愉快だった。

ぼんやりとメランの顔を見ていたマルコの耳に、声が響く。

 

「バレットー、こっちこいよお。」

 

眠いのか力のない声でメランがバレットの名前を呼んだ。メランの声を上げた方に視線を向けると、そこには物陰からこちらに歩いてくるバレットの姿があった。

のそりとした歩き方と、何故かやたら不機嫌そうな雰囲気のせいか、冬眠明けの熊の様だった。

 

「・・・・メラン、何の用だ?」

「そうだよい、お前、バレットになんか用があったのかい?」

「うん?マルコにはあるけど。」

「俺には?」

「そうそう、お前さん、医術の勉強終わったら経理部の手伝い決まったから。」

「は!?」

 

聞いていないとマルコが声をあげれば、メランの据わった目がにたりと意地悪そうに丸まった。

 

「はははははは!マルコ、君が帳簿を付けられるぐらいに計算が出来るのは割れているんだよ!すでに、ドクターと船長殿からの許可は下りている!」

「ふざけんなよ!おれあ、あの狭い部屋の中に閉じ込められて書き仕事なんてごめんだよい!大体、それならバレットだってできるだろ!?」

 

眠っていないためか妙なテンションのメランに対してマルコが抗議の声を上げた。バレットは心の底から面倒そうな顔で二人の会話を聞いていた。

 

「・・・鍛錬の時間が取れるならある程度はしてもかまわねえが。」

「バレットは駄目。」

「なんでだよい!」

「でかいから邪魔。」

 

ばっさりと切り捨てられ、マルコは思わず隣に立つ同年代の男を見た。年はさほど変わらないというのに、どう見ても自分よりも体格のいいそれを見た。

 

「あの部屋の中にバレットがいるのはさすがに窮屈だから対象から外してるんだよ。」

 

メランはにっこりと笑って、マルコの肩を叩いた。

 

「ちっこいもの同士、仲良くやろう!」

「でかいからっていいわけじゃねえ!!」

 

絶叫のうちにマルコが抗議の声をあげる中、バレットは心の底から不機嫌そうに二人のやり取りを見つめた。

 

「・・・・メラン。」

 

無口な、いつもなら動作で自分の意思を示すバレットにしては珍しく、彼はメランの名を呼んだ。マルコは、最初は口がきけない事さえ疑っていた男の声に思わず何だと視線を寄せた。と言っても、バレットの視線は言葉のままにメランに向かっている。

 

「ん?なんだい、バレット?」

 

その声は、先ほどまでの変に高揚したものではなく、どこかやっぱり眠たそうであった。

 

「俺に何か用があったんじゃねえのか?」

 

マルコは久方ぶりに聞いたバレットの言葉に、そうしてメランの用が気になって取っ組み合う形になっていた手を離して、そのまま声に耳を立てた。

メランは、あーと短く声を上げた。

 

「別に、用はないんだけどなあ。」

「は?」

「ただ、君の顔が見たかったんだよ。だから、眠かったんだけど探しててさあ。」

 

間延びした声に、マルコはなんだそれはと思う。なんだ、その、無意味で、何とも甘ったるい理由は。

マルコは次に心の底から不機嫌そうだったバレットの顔を見る。視線の先にあったバレットの、鳩が豆鉄砲を食らったような顔にふふふと笑ってしまった。

驚いて、無防備で、本当に間抜けな顔をしていた。

 

「うん、お前さん、今日も元気そうだし。満足したから、用は済んだよ。」

「・・・・くだらねえ。」

 

バレットはそう言った。その、間抜けそうな驚いた顔を消していつものしかめっ面に戻った。けれど、付き合いの短いマルコでさえも、その顔がどこか嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか。

バレットはそう言った後、その場に跪き腕立て伏せを始めた。

本当ならばマルコと組み手をするはずだったが、己自身もこの、なんとも生温い空気の中でする気もうせてそれをぼんやりと眺めていた。

メランはそのまま腕立て伏せを始めたバレットのことを見つめた。

そうして無言で船の縁から降り、そのままバレットの背中の上に横たわった。その突飛な行動のままマルコはもちろん、バレットさえも固まった。

 

「・・・・眠い、限界、ここで寝る。」

 

確かに華奢なメランならば、大柄なバレットの上で寝ても別段支障はないだろうが。

それでも、何故、そこで寝るのか。

 

「そんなに眠いなら部屋にかえりゃあよかっただろうが。」

「・・・・かえんの怠い。板は固い。それに、前も重しになったことあるしここでいいや。」

「てめえみたいなやせっぽち重しにならねえよ。」

 

バレットがそう言うが、メランはすでに夢の中らしく、すでに寝言半分に言葉を呟いた。

 

「いや、君の顔、みないと落ち着かなくってさ。ずっと、一緒だったのに、この頃、あんまり、顔も、見えなくて。」

 

そのままメランはすーすーと寝息を立て始める。

バレットはそれに少し黙った後、また腕立て伏せを続けた。マルコはそれに顔をしかめた。

 

「そのまますんのか?」

「重しぐらいにはなるだろ。」

先ほどまでとはだいぶ矛盾していたが、バレットはそのまま続けていた。そうして、らしくも無く、メランを起こさないためなのかその声は小さい。どうしてどこか、機嫌が良さそうに聞こえた。

それにマルコは、やっぱりこの二人の関係と言うのは欠片だって理解できないと思いつつも、別に嫌いではないのだとくああとあくびをしながら考えた。

 




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